日本公衆衛生雑誌
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71 巻, 6 号
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原著
  • 齋藤 尚子, 高瀬 麻以, 田口 敦子, 村山 洋史
    2024 年71 巻6 号 p. 297-306
    発行日: 2024/06/15
    公開日: 2024/06/27
    [早期公開] 公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    目的 近年,互助を活用した生活支援体制の構築が重視されている。本研究では,地方において生活支援を利用していない高齢者を対象に,生活支援の必要性と住民との関係性との関連を検討することを目的とした。なお,本研究では生活支援を,「高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるように,日常生活を送る上での困りごとを支援すること」と操作的に定義した。

    方法 新潟県十日町市下条地区に居住する65歳以上の者のうち,要介護3以上の要介護認定を受けている者を除いた1,033人全員を対象に,2018年10月に自記式質問紙調査を実施した。調査項目は,基本属性,健康状態,住民との関係性,生活支援33項目に対して高齢者自身が感じる必要性とした。

    結果 802人(回収率77.6%)から回答が得られ,このうち生活支援をすでに利用している者や長期入院中の者を除いた653人を分析した。因子分析の結果,生活支援33項目は4因子に分かれ,支援の必要性を感じる者の割合が多い順に「一時的な課題やトラブル」53.4%,「イベントや集まりへの参加」38.0%,「日常的な家事」31.7%,「日常生活の些細なこと」27.7%となった。生活支援の必要性に関連する住民との関係性を明らかにするためにロジスティック回帰分析を行ったところ,「一時的な課題やトラブル」の必要性には,住民への信頼感が低いこと,生活支援意向があるが支援を実施していないこと,生活支援意向があり支援を実施していることが関連していた。「イベントや集まりへの参加」の必要性には,生活支援意向があるが支援を実施していないこと,生活支援意向があり生活支援を実施していること,世間体を気にすることが関連していた。「日常的な家事」の必要性には,住民への信頼感が低いこと,生活支援意向があり支援を実施していることが関連していた。「日常生活の些細なこと」の必要性には,生活支援意向があり支援を実施していることが関連していた。

    結論 生活支援の必要性には,住民との関係性が関連していた。地域における生活支援体制の推進には,高齢者と住民との関係性を視野に入れた検討が必要である。

  • 爾見 まさ子, 加藤 康幸, 池田 俊也
    2024 年71 巻6 号 p. 307-313
    発行日: 2024/06/15
    公開日: 2024/06/27
    [早期公開] 公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    目的 新型コロナウイルスワクチンによる入院および重症化予防に関する実社会での有効性についてはエビデンスが不足している。国内の公的なデータベースであるHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)を用いて,mRNAワクチンの入院予防効果を明らかにすることを目的とした。

    方法 2021年5月17日から同年9月30日に,SARS-CoV-2陽性と確定診断された東京都港区在住の50歳以上を対象としたケースコントロール研究である。ケース群は発症または診断後10日までに入院した者(192例),コントロール群は発症または診断後10日まで自宅療養完了した者(366例)とした。mRNAワクチン未接種者を参照とし,1回目接種後14日以内および15日以降の発症者,2回目接種後14日以内および15日以降の発症者に層別化し,調整オッズ比を算出した。主な入院・重症化リスク因子とされる年齢,性別,基礎疾患の有無についてワクチン接種歴の調整オッズ比を算出した。

    結果 ケース群,コントロール群における平均年齢はそれぞれが61.1歳,57.6歳であり,男性の割合は,それぞれ66.7%,54.4%であった。また,ケース群で71.3%の者,コントロール群で70.2%の者がワクチン未接種であった。ワクチン未接種者を参照とした調整オッズ比は1回目接種後14日以内が1.48(95%信頼区間[CI]0.88–2.50),1回目接種後15日以降が0.71(95% CI 0.27–1.80),2回目接種後14日以内が0.58(95% CI 0.20–1.66),2回目接種後15日以降が0.30(95% CI 0.13–0.67)であった。対象者の属性における調整オッズ比は,年齢の1歳増加が1.05(95% CI 1.03–1.07),男性が1.69(95% CI 1.15–2.48),基礎疾患の存在が1.57(95% CI 1.07–2.29)であった。

    結論 mRNAワクチンの2回目接種後15日以降にCOVID-19を発症した者は入院するリスクが有意に低かった。また,高齢,男性,基礎疾患の存在は入院のリスク因子であった。

  • 鈴木 良美, 石田 千絵, 澤井 美奈子, 山口 拓允
    2024 年71 巻6 号 p. 314-322
    発行日: 2024/06/15
    公開日: 2024/06/27
    [早期公開] 公開日: 2024/02/21
    ジャーナル フリー

    目的 Bioterrorism(以下,バイオテロ)は攻撃が秘匿的で潜伏期もあり顕在化するまでに時間がかかり,発見された時には大規模なアウトブレイクとなる場合がある。そのため被害軽減のための早期の検知と対処には,準備態勢の構築が重要である。保健所保健師は,バイオテロの探知と対処の責務を担うものの,準備の状況は明らかになっていない。そこで本研究の目的を,首都圏で保健所の感染症対策部門に勤務する保健師のバイオテロに対する研修経験や知識と,準備の有効性や障壁等の認識の現状を明らかにすることとした。

    方法 研究デザインは横断的,記述的研究である。対象は,大都市圏で人口が密集し大規模イベントも多くバイオテロの蓋然性の高い東京都とその近県3県88か所の保健所感染症対策部門の保健師である。郵送法による無記名自記式質問紙調査を2019年に実施し,1か所につき2人の保健師に属性,研修等の経験,知識,認識について質問した。

    結果 71人から回答を得た(回収率40.3%)。職場でのバイオテロ研修経験者は10人(14.1%)であった。バイオテロの蓋然性の高い4種の感染症の知識に関して,「聞いたことあり」は95%以上であったが,「症状がわかる」は33.8–53.5%,「治療がわかる」は5.6–16.9%,「テロ対応がわかる」は1.4–5.6%と少なかった。調査の回答者は,バイオテロ発生時の重大性や準備の有効性は認識しているものの,研修を受ける機会や時間は十分とは言えず,対応に自信がなく,研修希望者が多い傾向にあった。

    結論 調査に回答した保健所保健師はバイオテロの研修経験や知識,研修の機会や時間が十分とは言えず,バイオテロの準備態勢強化のための研修体制の構築が課題である。今後は保健師基礎教育でバイオテロの存在を知り,現任教育で保健所保健師はオンラインなども活用して一度は研修を受けるとともに,随時情報をブラッシュアップする必要があると考える。保健所ではコロナ禍の教訓を踏まえ,各保健所が「健康危機対処計画」を策定し,2024年度からの運用を始める予定であり,その一環としてバイオテロに対する備えも必須であると考える。

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