日本公衆衛生雑誌
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最新号
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総説
  • 渡部 明人, 齋藤 英子
    2024 年 71 巻 4 号 p. 203-208
    発行日: 2024/04/15
    公開日: 2024/04/25
    [早期公開] 公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー

    目的 UHC2030は,2019年のUHC政治宣言のフォローアップのため,2020年から国連加盟国のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)達成に向けた公約の進捗レビュー事業を実施し,UHC推進がとくに望まれる国の特定や,ステークホルダーへの働きかけ等の活動にも取り組んできた。本稿では,筆頭著者がUHC2030として取り組んできたUHC達成に向けた各国の現状と課題を特定するための公約の進捗レビュー事業を,日本の公衆衛生専門家に広く紹介するための総括として作成し,とくにその中から自発的国家レビューに関する本事業の調査結果を抜粋して解説した。

    方法 UHC達成に向けた各国政府のエビデンスに基づく説明責任に関する行動を把握するため,国連ハイレベル政治会合(HLPF: High-level Political Forum)における,初期5年間の自発的国家レビュー(VNR: Voluntary National Review)報告書(2016年から2020年,187報告書)における,UHCや保健システムに関するすべての記載(量的および質的情報)を包括的にレビューした。さらに,2021年7月時点で入手可能だった最新のVNR報告書(40報告書)における記載と比較し,各国政府のエビデンスに基づく説明責任に改善がみられたかを評価した。

    結果 2021年と初期5年間のVNR報告書を比較したところ,UHCや保健システムに関する各国のエビデンスに基づく説明責任の取り組みが拡充されていることがわかった。他方,国連統計として公表されているUHCや保健システムに関するデータ量と比べ,説明責任の場で指標が十分利用されていない。

    結論 2023年9月にはUHC政治宣言フォローアップ会合およびSDGs中間レビューが国連総会で開催されたが,一部のUHC達成目標が2025年に延期され,2030年の目標達成も困難な状況となってきている。既存の国連統計を用いた政府のエビデンスに基づく説明責任の強化と,すでに合意された政治宣言の実施によるUHC推進のさらなる強化が喫緊の課題である。

原著
  • 堀江 早喜, 石川 みどり, 森永 裕美子, 横山 徹爾
    2024 年 71 巻 4 号 p. 209-219
    発行日: 2024/04/15
    公開日: 2024/04/25
    [早期公開] 公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー

    目的 乳幼児期の食生活は将来の健康状態に与える影響が大きい。わが国では乳幼児栄養調査の結果,約80%の保護者は子どもの食事の心配事を抱えており,本研究は離乳期以降の食に焦点を当て,乳幼児健康診査(1歳6か月児・3歳児対象,以下幼児健診とする)における保護者の心配事に影響する児の食事や家庭環境要因について検討した。

    方法 対象は2019年3月~2020年1月に東北・中部・中国地方の幼児健診において,調査協力の得られた対象者のうち無効回答を除く646人を解析対象とした。調査項目は児の食事内容・生活習慣・健康の心配事56項目(はい・いいえで回答),児の属性,食品の摂取頻度(6選択肢18種)等を尋ねた。心配事の因子分析により抽出された各因子について,「はい」と回答した項目数を心配事得点とし,食品摂取頻度および属性との関連を解析した。

    結果 心配事30項目4因子が抽出された。第1因子は「おやつの摂取回数,時間のこと」等の【健康意識・生活習慣】,第2因子は食品・食材の組合せ等の【食事の雰囲気・内容】,第3因子は遊び食べ等の【食事への関心・意欲】,第4因子は料理作り体験等の【食経験・行動】であった。因子と要因の関連は,1.6歳は【健康意識・生活習慣】「はい」の回答が多い高得点と卵,果物の低摂取,甘い菓子,塩味菓子の高摂取,経済的ゆとりなし,時間的ゆとりなし,【食事の雰囲気・内容】高得点と緑黄色野菜,その他の野菜,海藻,果物の低摂取,経済的ゆとりなし,【食事への関心・意欲】高得点と魚,卵,緑黄色野菜の低摂取,甘味飲料・甘い菓子の高摂取,経済的ゆとりなし,【食経験・行動】高得点と穀類(パン)の高摂取,経済的ゆとりなしが関連した。3歳は,【健康意識・生活習慣】高得点と大豆・大豆製品,緑黄色野菜,果物の低摂取,塩味菓子,ファーストフードの高摂取,経済的ゆとりなし,【食事の雰囲気・内容】高得点と魚,大豆・大豆製品,緑黄色野菜,その他の野菜,海藻,果物の低摂取,男児,時間的ゆとりなし,【食事への関心・意欲】高得点と穀類(ごはん),大豆・大豆製品,緑黄色野菜,その他の野菜,海藻,果物の低摂取,塩味菓子の高摂取,出生順位1位,【食経験・行動】高得点と男児であった。

    結論 離乳期以降の児を持つ保護者が抱える4つの心配事因子を抽出し各因子と集団特性との関連要因が明らかとなった。

  • 酒井 亜月, 由田 克士, 高橋 孝子, 岡部 哲子, 佐々木 ルリ子, 石田 裕美, 緒方 裕光, 原 光彦, 吉岡 有紀子, 野末 みほ ...
    2024 年 71 巻 4 号 p. 220-230
    発行日: 2024/04/15
    公開日: 2024/04/25
    [早期公開] 公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー

    目的 近年,世帯収入と食事摂取状況との関連について研究が進んでいるが,成人や児童を対象としたものが多く,幼児をターゲットとした研究はほとんど認められない。収入による食生活への影響に起因した健康格差を是正するためには,学童期や成人期以降のみならず,幼児期からの対策が講じられる必要があると考える。本研究では,児童福祉施設(以下保育所)に通う3~6歳の幼児を対象に,等価所得と食品群別摂取量および食事バランスガイドの指標との関連を明らかにし,より望ましい対策を講ずるための根拠を得ることを目的とした。

    方法 2019年あるいは2020年の10~12月の連続しない平日2日と休日2日の計4日間について秤量記録法または目安量記録法による食事調査と,食生活状況に関する自記式質問紙調査を実施した。対象者は全国の7都市の保育所に通う幼児761人(男児423人,女児338人)である。食生活状況調査で得られた1年間の世帯収入と家族人数から等価所得を求め,5分位で5群に分けて食品群別摂取量を比較し,東京都が作成した幼児向け食事バランスガイドの指標を用いて各群のサービング数未満の幼児の割合を比較した。

    結果 等価所得群間に身長,体重,肥満度の差はみられなかった。等価所得が高い群ほど穀類の摂取量は減少傾向にあり,砂糖・甘味料類,緑黄色野菜,乳類の摂取量は増加傾向にあった。料理区分でみると,平日では等価所得が高い群ほど主食のサービング数は減少傾向に,副菜,牛乳・乳製品,果物は増加傾向にあった。また,牛乳・乳製品では,食事バランスガイドの目安量未満の児の割合が5群間で有意差が認められ,Q1で最も多かった。

    結論 等価所得が低い群ほど穀類の摂取量が多く,野菜,果物の摂取量が少なかったことは,成人や児童を対象とした研究とほぼ同様の結果を示した。保育所に通う幼児において,世帯の経済状況と食品群別摂取量が関連することが示唆された。幼児期の所得による格差を是正する対策と幼児をもつ世帯全体に向けた対策など多角的な支援が求められる。

資料
  • 杉田 由加里, 鈴木 悟子, 齋藤 良行, 赤松 利恵, 田原 康玄, 中山 健夫
    2024 年 71 巻 4 号 p. 231-239
    発行日: 2024/04/15
    公開日: 2024/04/25
    [早期公開] 公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

    目的 特定健康診査(以下,特定健診)の問診において利用者に保健行動を尋ねることは,日頃の保健行動への気づきを促し,改善意欲を惹起する第一歩となる。特定健診の標準的な質問票は22項目からなり,特定保健指導の階層化に必要な項目以外を問診票に用いるかは任意となっている。標準的な質問票の活用の実態を明らかにすることは,2024年度から始まる第4期特定健診・保健指導の運用方法に資する資料を提示できると考えた。

     本研究の目的は,標準的な質問票を,①特定健診の問診票に用いているか,②特定保健指導や生活習慣病予防を目的とした保健事業に活用しているか,③データヘルス計画の立案・実施・評価において利用しているかを明らかにすることである。

    方法 全国の全市区町村の国民健康保険担当部署(以下,市町村国保)1,741か所,全国健康保険協会(以下,協会けんぽ)支部47か所,健康保険組合(以下,組合健保)1,391か所の特定健診・保健指導業務の主担当者1人,合計3,179人に対して,特定健診,特定保健指導の実施状況に関する自記式の調査を実施した(2022年2月)。調査の実施にあたり筆頭著者の所属機関の倫理審査委員会の承認を受けた。

    結果 有効回答数は1,221件(38.4%)であり,内訳は市町村国保が816件(46.9%),協会けんぽが47件(100%),組合健保が358件(25.7%)であった。特定健診の問診票に標準的な質問票の全項目を用いていたのは,集団方式では96%以上,個別方式では93%以上の保険者であった。しかし,『生活習慣の改善について保健指導を受ける機会があれば,利用しますか』については,187件(18.2%)が活用しづらいという回答であり,特定保健指導の利用が希望制であると誤解されるという理由であった。また,データヘルス計画における標準的な質問票の利用状況については,5割にとどまっていた。

    結論 実態から,標準的な質問票の全項目を必須な項目としても運用に差し支えない状況と考える。しかし,『生活習慣の改善について保健指導を受ける機会があれば,利用しますか』については改変の必要性がある。標準的な質問票の活用には地域の健康状態の比較に資することが意図されている。データヘルス計画における標準的な質問票の利用について,保険者および支援する者はさらに積極的な利用となる工夫が必要である。

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