青木湖は北アルプスの山麓,標高822mにある貧栄養湖である.表層堆積物の粒度分布を検討し,1954年以降の電源開発のための人為的水利用が堆積物の性質と堆積速度に大きな影響を与えていることを明らかにした.青木湖の北東部から採取した2.2m長のコア試料は,おもに粘土質シルトから構成されており,年代的には約1万年間をカバーしていた.この柱状試料中の有機炭素・窒素含有率と珪藻殻含有数の増減はよく一致しており,湖の生物生産性の増減が有機炭素・窒素含有率の増減に反映している.1954年以前の青木湖の生物生産性は,気温と連動した水温の変化に支配されていた可能性が高いので,有機炭素含有率の時代的変遷を基にして完新世の気候変動を復元することができた.完新世にはそれぞれ5つの温暖・冷涼期と1つの変動期が認められた.それらの多くは,小氷期,中世温暖期,完新世最温暖期などの汎世界的な寒暖変動とほぼ一致する.
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