目的 地球温暖化による気温上昇,さらに最近国際的に頻発している熱波等に関連して,夏期高温日の健康リスクのモニタリングと適応策の検討が急務とされている。これまでの研究では,高温日の過剰死亡は高齢の循環器や呼吸器疾患患者を主体とする“脆弱集団”に由来し,気象庁発表の日最高気温(T
max)が東京では33℃以上,北海道では28℃以上で増加すること,また,東京の熱中症発生に関して,T
max が30℃以上で増加する傾向や,年齢を問わず屋内より屋外の発生が多い傾向などが示されている。本研究では,わが国についての基礎的研究として,上記のように従来曝露温度の指標とされてきた T
max と,実際に各人が曝露する温度(T
p)との関連を検討することを目的とした。
対象と方法 個人の曝露温度は,札幌市,東京都,那覇市の居住者計194人(男子101人,女子93人,21才~82才)を対象に,小型携帯用モニター計(Onset Computer Corporation 製,HOBO H8)を用いて 7 月13日~9 月23日(73日間)の任意の 1 週間測定し,同測定期間について自記式の生活時間調査を行った。
結果と考察 東京と那覇で T
max が30℃~35℃であった日の昼間(7 時~19時)と(13時~15時)あるいは夕方(19時-24時)の T
p の平均はいずれも,東京で約30℃,那覇で約31℃でほぼ一定となる傾向を示し,T
p と T
max との相関係数は0.35と低かった。つまり,T
p はこれらレベル以上に上昇しないよう調節されている傾向が明らかであり,同温度近辺に暑熱ストレス耐性の閾値のあることが示唆される。一方,夜間(0 時~7 時)の T
p の平均も東京で約29℃,那覇で約30℃でほぼ一定となる傾向を示したが,これらの温度レベルは比較的高く,とくに夏期に訴えの多い睡眠への影響の原因となっていることが示唆された。両市で T
max が30℃以上の日の日最低気温(T
min)は最高でも26℃であり,T
p の日平均値と日最低値の平均はそれぞれ28℃,27℃と,T
p の方が高かった。T
max との相関係数は,T
min で0.42,T
p の平均値と最低値のそれぞれの平均値で0.27と0.19と低く,夜間についても,T
max は T
p と乖離しており,十分な温度調節が行われていないことが示された。
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