日本公衆衛生雑誌
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72 巻, 1 号
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総説
  • 安岡 実佳子, 中潟 崇, 山田 陽介, 岡 浩一朗, 井上 茂, 小野 玲
    2025 年72 巻1 号 p. 3-11
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/30
    [早期公開] 公開日: 2024/11/08
    ジャーナル フリー

    座位行動は座位および臥位におけるエネルギー消費量が1.5 METs以下の覚醒行動であり,近年,座位行動とがん,循環器疾患,死亡といった健康アウトカムの関連が数多く報告されている。本総説は,日本人を対象とした座位行動の評価方法を概説するとともに,これまでに報告されている座位行動と健康アウトカムとの関連について整理することを目的としたナラティブレビューである。加えて,ガイドラインを踏まえて座位行動研究の今後を展望する。

    座位行動の評価では,質問紙を用いる方法と加速度計等の機器を用いる方法に大別される。主観的な評価方法である質問紙法は妥当性が高くないといった限界がある一方で,低コストで利用でき,身体活動の目的や場面といった内容について情報収集できる利点がある。一方,客観的な評価方法として用いられる加速度計法は,機器が高価であるものの,座位の継続時間や中断(Break)回数等の詳細な情報が得られる利点がある。座位行動が死亡,循環器疾患,がんのリスク因子であることや,がん種ごとに座位行動との関連についても報告されるようになった。さらに,座位時間と一部の健康アウトカムとの間には用量反応関係があることが明らかにされた。一方で,座位行動と病型別の脳卒中,心血管疾患,整形外科疾患との関連についての報告は十分ではなく,今後の研究が期待される。近年,座位行動に関する研究の増加により,各国のガイドラインで座位行動について言及されるようになった。また,座位行動への介入として,Breakや中高強度の身体活動と置き換えた場合の健康アウトカムとの関連についても報告されつつある。今後は,各疾患の罹患リスクを低減する座位時間のカットオフ値の検討や,座位行動の短縮に対する介入が健康アウトカムへ与える効果を明らかにすることが期待される。

原著
  • 大山 博史, 播摩 優子, 坂下 智恵, 佐々木 久長, 小山 陽香, 眞口 良美
    2025 年72 巻1 号 p. 12-21
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/30
    [早期公開] 公開日: 2024/10/23
    ジャーナル フリー

    目的 自殺に対する見方や自殺観等の態度は,その予防行動を左右するが,一方,ゲートキーパー(gatekeeper:GK)に関する知識普及の影響を受ける可能性がある。今回,保健師の家庭訪問の下,GKに関する対面式簡易教育プログラムを一般住民に実施し,自殺に対する態度と抑うつへの影響を反復横断デザインにより評価した。

    方法 本邦郡部の自治体(人口3,500人)では2013年より行政区域別に順次,全戸訪問を実施した。2015年から2年間実施した区域(介入地区)では全169世帯のうち123世帯に保健師が訪問し,GKの役割やうつ・自殺のサイン,相談方法等を記載したリーフレットを用いて対面で説明した。世帯の応対者の94.5%は40歳以上であった。2021年まで訪問の未実施だった対照地区(158世帯)ではリーフレット配布のみが行われた。介入/対照地区の40~79歳住民を対象とし,本分析では2015年と2021年に施行された悉皆横断調査から得た連結のないデータを用いた。調査項目のうち,自殺に対して「仕方のないこと」,「悲しいこと」等,7つの見方(複数選択法)の選択率,知覚的・個人的スティグマ,抑うつ症状の有症率について,一般化線形混合モデルを用いて介入前後の率比を求め,地区間で比較した。GKに関する知識量を評価するため,プログラム内容に沿って作成した選択式問題の正答数を求め,前後差を認めた自殺への見方との関連性を検討した。

    結果 2回の調査の有効回答率(数)は61.8%(介入地区192,対照地区165)と52.8%(同137,120)であった。介入地区では,介入4年後の調査で「(自殺は)仕方のないこと」の選択率が低く(調整率比0.508,P=0.026),また,地区間で変化の大きさに差がある傾向も認めた。介入地区では2種類のスティグマの有症率も低下する傾向を認めたが,対照地区では前後差はなかった。両地区とも抑うつの有症率に前後差はなかった。介入後調査では,GK知識水準の高い群ほど自殺容認態度の選択割合が低い傾向を介入地区のみに認めた。

    結論 訪問下対面によるGKに関する知識提供の実施と,自殺容認の態度を示す中高年者の割合の低下が関連していた。本デザイン故に因果関係の検証はできないものの,今回の取組みは住民の自殺に対する態度を変化させる可能性がある。

  • 五味 達之祐, 本川 佳子, 白部 麻樹, 岩埼 正則, 枝広 あや子, 大渕 修一, 藤原 佳典, 荒井 秀典, 粟田 主一, 平野 浩彦
    2025 年72 巻1 号 p. 22-31
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/30
    [早期公開] 公開日: 2024/10/23
    ジャーナル フリー

    目的 会食を行う「通いの場」は共食の場として高齢者の健康増進において重要だが,その運営維持に資する検討は行われていない。戦略的な公衆衛生プログラムの実施方法として,ソーシャルマーケティングを用いた成功事例がある。本研究では,ソーシャルマーケティングの要素であるマーケティング・ミックスによる戦略的なプログラム作成のフレームワークを用いて,会食を行う通いの場における参加者減少の要因を明らかにすることを目的とした。

    方法 本研究は,全国の会食を行う通いの場を対象に,郵送調査にて2019年11月時点の回答を得た横断研究である。各通いの場の主催者が調査票に回答し,調査項目に欠損のない通いの場580か所を解析対象とした。参加者の変化について,開設以来減少しているかを質問紙で把握した。マーケティング・ミックスに基づく整理として,4P(Product, Promotion, Place, Price)のフレームワークに調査項目を分類し,独立変数として扱った。参加者減少を従属変数とした多変量ポアソン回帰分析を行い,prevalence ratio(PR)を算出した。開設期間および調査時点の参加者数を共変量として投入した。

    結果 参加者が減少している通いの場は154か所(26.6%)だった。多変量解析の結果,Productに分類される変数では,一か月当たりの開催回数が多いことにおいて,参加者減少のPRが有意に低かった(PR=0.92)。Promotionの変数では,参加者が登録制である通いの場は参加者減少のPRが有意に高かった(PR=1.49)。Placeの変数では,地域の人口密度が高いことにおいてPRが有意に低く(PR=0.90),地域の65歳以上人口比率が高いことにおいて有意に高かった(PR=1.05)。Priceの変数は,参加者減少と有意な関連はなかった。

    結論 会食を行う通いの場において,マーケティング・ミックスにおける4Pのうち,Product,Promotion,Placeに含まれる要因が参加者減少と有意に関連し,Priceには有意な関連はみられなかった。今後,多くの会食を行う通いの場が地域に在り続けるために,通いの場の参加者減少の抑制に向けた具体的な展開および評価について検討し,共食による高齢者の健康づくりを推進する必要がある。

公衆衛生活動報告
  • 中川 拓也, 成田 太一, 勝又 陽太郎
    2025 年72 巻1 号 p. 32-41
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/30
    [早期公開] 公開日: 2024/11/08
    ジャーナル フリー

    目的 自殺総合対策事業の一環として実施した「対話を取り入れた自殺予防ゲートキーパー養成研修」の実践とその評価について検討する。

    方法 自殺予防のための個別支援においては,支援者の柔軟な対応力の向上が必要であると考えられる。そこで新潟市こころの健康センターでは,従来の専門職による講演を中心とした人材育成方法を発展させることとした。具体的には,2017年度,対話を取り入れたプログラムを中心に「自殺予防のためのゲートキーパー養成テキスト」を作成し,研修会を2018年度から継続して実施している。

    2018年度から2022年度に実施した研修会に参加した975人を対象に,研修会終了後に自記式質問紙調査を行った。調査内容は,所属機関の種別,自殺リスクへの対応に関する理解の深まり,自殺リスクへの対応に関する困難度(以下,困難度)低下の有無,研修に関する意見・感想であった。分析は,数量データは記述統計を算出したのち,困難度の低下の有無について機関別に割合の差を検討した。自由記述の研修参加による学びや気づきについては質的に分析した。

    活動内容 アンケートの回収数(率)は761件(78.1%)であった。自殺リスクへの対応に関する理解の深まりは,全体では95.9%が「理解が深まった」と回答した。機関別の自殺リスクへの対応に関する困難度低下では,「2.自傷している人にその傷について尋ねる」「4.自殺リスクの切迫度を適切に評価する」「6.死にたい気持ちについて尋ねる」「7.自殺を実行する計画について尋ねる」において,若者・子育て関連等の支援機関が他機関に比べ困難度が低下したと回答した者の割合が高く,学校関係は他機関に比べ困難度が低下したと回答した者の割合が低い状況がみられた。研修内容に関する感想や意見は,4つのカテゴリに分類された。

    結論 対話を取り入れた自殺予防ゲートキーパー養成研修の方法論を新たに開発し,地域の様々な支援者を対象に研修を継続してきた。研修参加により,受容的な対応や他機関との連携の困難度が低下したと回答した者が増加したとともに,自由記述でも対応や連携に関する理解が挙げられた。ただし,所属機関の違いにより困難度低下の傾向に違いがみられたため,関係機関の特徴に合わせた研修内容の検討や評価方法の検討が必要である。

  • 野藤 悠, 新開 省二, 大須賀 洋祐, 清野 諭, 成田 美紀, 野中 久美子, 横山 友里, 萩原 静江, 藤倉 とし枝, 藤原 佳典, ...
    2025 年72 巻1 号 p. 42-51
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/30
    [早期公開] 公開日: 2024/11/08
    ジャーナル フリー

    目的 埼玉県シルバー人材センター(以降,シルバー)連合本部と東京都健康長寿医療センター研究所は,2018年より,「シルバー会員が仕事として対価を得ながらフレイル予防教室の運営を担う」という事業モデルの普及活動を行ってきた。本活動報告では,その取組内容を報告するとともに,各シルバーの事業実施状況から同モデルの普及可能性を検討し,課題を整理する。

    方法 教室の事業化を促すため,埼玉県内全58のシルバーに対し次の取組を行った:①運動・栄養・社会面に働きかける教室プログラム・教材の提供,②フレイル予防サポーター養成研修(3日間×4ブロック/年)の開催,③事業に関する情報交換会の開催(1回/年),④事業実施に関する相談支援。シルバー職員を対象に事業実施状況に関するアンケート調査を行い,普及可能性について,採用,実施,継続の視点で評価した。また,事業実施にあたっての課題・疑問点について,自由記述をコードとして内容の類似性からサブカテゴリーを,サブカテゴリーの類似性からカテゴリーを作成し,課題を類型化した。

    活動内容 採用については,全58のシルバーのうち,2018年から5年間で43のシルバー(74.1%)がフレイル予防サポーター養成研修に参加し,34のシルバー(58.6%)が事業実施に至った。実施については,23のシルバー(39.7%)がフレイル予防サポーターへ対価が支払われる形で事業を実施した(事業を実施したシルバーの67.6%)。継続については,2021年までに事業を開始した28のシルバーのうち,21のシルバー(75.0%)が2年以上事業を継続した。実施にあたっての課題は,【事業の始め方に関する課題】【サポーターに関する課題】【新規参入に関する課題】【教室運営に関する課題】に類型化された。

    結論 半数以上のシルバーが事業を実施したこと,40%のシルバーが対価を伴う形で実施したこと,事業を実施したシルバーの75%が事業を継続したことから,同モデルの他地域への普及可能性が示された。一方で,実施にあたっては,前述の4つの課題も浮き彫りとなった。同モデルは,地域におけるフレイル予防の担い手が増える,高齢者にとって魅力のある就業機会の創出につながる等の波及効果が期待できる。今後は,浮き彫りとなった課題への対策を検討し,更なる普及を目指す。

資料
  • 杉原 麻理恵, 戸矢崎 悦子, 岩田 眞美
    2025 年72 巻1 号 p. 52-60
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/30
    [早期公開] 公開日: 2024/11/08
    ジャーナル フリー

    目的 言語発達に課題のある児を早期に把握し支援を行うため,乳幼児健康診査にて児の発達の状態の確認を行っている。今回,1歳6か月児および3歳児の乳幼児健康診査を受診した児の言語発達の状態と関連のある因子を把握し,支援に役立てることを目的として検討を行った。

    方法 2019年4月1日から2020年3月31日に横浜市民として出生した児の中で,2023年3月31日までに1歳6か月児健診と3歳児健診の両方を市内で受診した児のうち,1歳6か月および3歳0か月時点で健診を受診した児12,710人を対象とした。まず,1歳6か月児の言語発達と関連する因子を検証するため,1歳6か月時点の有意語3語以上の発語の有無を目的変数とし,妊娠から出産までの状況に関する変数(出生順位,分娩時の妊娠週数,母親の出産年齢)および1歳6か月時点の指差しの有無を説明変数として,強制投入法による単変量解析および多変量ロジスティック回帰を実施しオッズ比を算出した。次に,3歳児の言語発達と関連する因子を検証するため,3歳時に3語を繋げて話す言語発達の有無を目的変数とし,妊娠から出産までの状況に関する変数および1歳6か月時点の発語の有無と指差しの有無を説明変数として同様の解析を行った。

    結果 1歳6か月時点では,17.5%の児が有意語3語を話さなかった。3歳児時点では,6.7%の児が3語を繋げて話さなかった。多変量ロジスティック回帰において,1歳6か月時点の言語発達の遅れと,出生順位が第1子であること(オッズ比 1.39[95%信頼区間 1.25–1.53]),分娩時の妊娠週数が36週以前であること(オッズ比 1.80[95%信頼区間 1.46–2.21]),母親の出産年齢が35歳以上であること(オッズ比 1.24[95%信頼区間 1.12–1.37])はそれぞれ有意な関連を認めたが,3歳時の言語発達とこれらの変数とは有意な関連は認めなかった。また,3歳時に3語を繋げて話さないことは,1歳6か月時点に有意語3語以上を話さないことと有意な関連を認めた(オッズ比 6.81[95%信頼区間 5.79–8.00])。

    結論 1歳6か月児健診の言語発達の把握において児の出生時からの情報を確認することは有用である。また,1歳6か月児健診において言語発達の課題のある児を把握し,その後の支援に繋げることが重要である。

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