日本公衆衛生雑誌
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51 巻, 7 号
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原著
  • 藺牟田 洋美, 安村 誠司, 阿彦 忠之
    2004 年 51 巻 7 号 p. 471-482
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 準寝たきり高齢者の自立度と心理的 QOL を向上させるために,Life Review を用いた介入プログラムを試行し,その評価を行うことである。
    対象と方法 対象は,山形県内 2 市で,1998年に実施した虚弱高齢者に関する調査でランク A に該当した63人,(男性24人,女性39人)である。1999年 6 月に63人全員の転帰を確認後,生存者に対して同年 7 月に介入のための事前評価を行った。事前評価の完了者は52人で,うつ症状で通院中などを除外した46人(男性18人,女性28人)を介入群23人と対照群23人に分けた。介入は月平均 2 回の計 6 回とした。1 回の介入は身体面の健康情報の提供と心理面の Life Review の60分に設定した。Life Review 終了後,対象者の意欲や態度など 7 項目を評価した。介入の効果判定のため,同年11月~12月に事前評価と同一項目で事後評価を行った。身体的項目は視力・聴力,ADL 等,心理的項目は主観的健康感,生活満足度等,社会的項目は老研式活動能力指標,外出の程度で評価した。なお,介入継続者は12人(男性 3 人,女性 9 人)で,事後評価は介入群11人に,対照群は21人に実施できた。
    成績 1) 事前評価時の介入群と対照群の比較:身体・心理・社会的変数の全項目で有意差はみられなかった。
     2) 介入の効果:身体・心理・社会的変数について,事前評価時と比較して事後評価時に状態が改善・維持した者の割合を比較した。介入群と対照群において,いずれも統計学的な有意差はみられなかったが,介入群は対照群に比べて,聴力,ADL の食事と着脱衣,物忘れ,主観的健康感,生きがいで改善・維持が若干高率であった。
     3) 介入群における継続群と脱落群の比較:脱落群が半数以上を占めたので比較したところ,身体・心理・社会的変数の全項目で有意差は認められなかった。
    結論 準寝たきり高齢者の自立度向上を目指し,心理面に重点をおいた介入プログラムを試行した。自立度の向上という点では有意な効果はみられなかった。しかし,介入が人生満足度などでマイナスの影響をもたらさないことが明らかになり,介入の実行可能性が示唆された。また,認知的問題や自立度などを含めた対象者の選定や実施期間・方法などの課題も明らかとなった。
  • 佐久間 章子, 前大道 教子, 小田 光子, 岸田 典子
    2004 年 51 巻 7 号 p. 483-495
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 健康状態,体型,生活・食生活状況を学童の学年・性別,母親の年齢・就業・家族形態別に捉え,母子の関連を検討し,それぞれへの有効な健康教育の指標を明らかにする。
    方法 小学校の 1 年生(6~7 歳)と 6 年生(11~12歳)の保護者2,162人を対象に調査を行い,母子の関連の解析対象は回答者が母親だった1,993組とした。子どもの学年・性別,母親の年齢・就業・家族形態別にそれらの状況を比較した。また,子どもの健康状態と母子の生活・食生活状況,母親の健康状態との関連について多重ロジスティック回帰分析を行った。
    結果 1. 体型では,6 年生女子および母親にはやせの者の割合が高かったが,子どもの健康状態との関連は認められなかった。子どもの健康状態の主訴には学年・性別で差があり,6 年生女子に頭痛・腹痛がよくおこるなどの特徴がみられた。
     2. 母親が40歳未満で有職・核家族の子どもに朝食を欠食する,母親が40歳以上では就業の有無にかかわらず三世代の子どもに健康状態が不調,テレビ時間が 3 時間以上の者の割合が高かった。
     3. 多重ロジスティック回帰分析により,子どもの健康状態不調と関連が認められたのは子どもでは生活リズムが不規則,好き嫌いがある,食事中楽しい会話をしない,食事時間を楽しまない,噛まない,朝食欠食する,また,母親では母親の健康状態不調,睡眠が不十分,食品の組み合わせを考えない,食事時間を楽しまないであった。
    結論 子どもの健康づくりには,母子の属性よりも子どもの規則正しい生活リズム,母親の健康が重要な関連を持つことを明らかにした。
  • 蓮尾 聖子, 田中 英夫, 脇坂 幸子, 湯浅 美保子, 友成 久美子, 大島 明
    2004 年 51 巻 7 号 p. 496-506
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 病棟単位で行った看護師に対する禁煙指導強化のための取り組みを紹介し,その効果を,禁煙指導を行うことに対する自信の変化,および日常診療における禁煙指導行動の変化を指標として評価する。
    方法 当施設の全13病棟のうち,2 つの病棟(強化病棟)に勤務する看護師約40人を対象に,禁煙指導に関するオンザジョブトレーニングを柱とした,動機,知識,体験,技術を強化するための直接的・間接的な支援を約 4 年間実施した。その前後(1997年および2002年)で当施設の看護師を対象に行った無記名自記式の調査票から禁煙指導を行うことに対する自信と禁煙指導行動に関する項目を集計し,その変化を求めた。この変化を強化病棟以外の11の病棟(対照病棟)に勤務する看護師約200人の成績と比較した。
    成績 ①取り組み前では強化病棟に勤務する看護師と対照病棟に勤務する看護師の間に,年齢分布,喫煙率ともに差を認めず,取り組み後での禁煙のメリットに関する疫学的知識のレベルにも両病棟間で差を認めなかった。
     ②強化病棟に勤務する看護師の禁煙指導を行うことに対する自信は,取り組みの前後で有意に上昇した(P=0.02)。一方,対照病棟に勤務する看護師ではこの間に有意な上昇を認めなかった(P=0.14)。
     ③日常診療の中で患者の禁煙準備性に応じた具体的な禁煙の方法を示す行為を「必ず・たいてい行う」と答えた者の割合は,取り組み前には両病棟間で有意差を認めなかったが(調整オッズ比1.42, 95%信頼区間(CI):0.68-2.94),取り組み後には強化病棟では対照病棟に比べて有意に高くなった(同2.93, 95%Ci:1.27-6.74)。指導をした後にその効果を確認するために喫煙状況を尋ねる行為を「必ず・たいてい行う」と答えた者の割合も,同様の結果であった(取り組み前の調整オッズ比1.43, 95%CI:0.74-2.78→取り組み後3.71, 95%CI:1.70-8.10)。
    結論 看護師の日常診療における禁煙指導の強化を目指したオンザジョブトレーニングを柱とする病棟単位での取り組みを概説した。この取り組みは,看護師の禁煙指導を行うことに対する自信を高め,日常診療における適切な禁煙指導行動の習慣化に寄与した可能性が示唆された。
  • 九津見 雅美, 伊藤 美樹子, 三上 洋
    2004 年 51 巻 7 号 p. 507-521
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 介護保険サービス利用者のサービス決定における主体性とその関連要因を明らかにし,サービス提供者へのサポートのあり方に示唆を得ることを目的とした。
    方法 大阪府東大阪市にて介護保険サービスの利用経験がある1,760件のサービス利用者(要介護者と家族)に無記名自記式質問紙を郵送した。調査期間は2001年10月で1,178件(66.9%)回収した。従来日本では,要介護者と家族を同一視して論じられることが多かったが,本研究ではサービス利用の現状を考慮し,要介護者と家族を別々に捉えサービス決定における主体とした。分析対象は要介護者による回答146件と家族による回答577件とし別々のモデルを作成した。調査項目は基本属性,サービス利用期間,情報収集,理解度,要望伝達度,サービス提供者の態度,家族の関係(家族内での支え合い・対話の有無),サービス決定における主体性である。分析は主体性を従属変数とした重回帰分析を用い各要因の単独効果を明らかにしたあと,利用者の属性と各要因との交互作用効果を検討した。
    成績 1)サービス決定における主体性の得点は要介護者では3.1±0.8(範囲 1-4)点で,家族の2.8±0.8点より高かった。2)主体性は,単独効果では,要介護者において情報収集と理解度の 2 つ,家族において情報収集,理解度,要望伝達度,サービス利用期間,家族内の対話の 5 つに認められた。3)交互作用効果では,要介護者において「理解度×年齢」「サービス提供者の態度×年齢」「サービス提供者の態度×性」「要望伝達度×性」,家族において「サービス提供者の態度×家族年齢」「認知機能障害×サービス利用期間」が,主体性に対し有意であった。
    結論 主体性の得点は家族が要介護者より低く,関連要因は要介護者と家族では異なっており,サービス利用者の属性により主体性を高めるサポートのあり方が異なることが明らかになった。利用者の属性を考慮したサポートが,利用者の主体性を向上させるために必要であることが示唆された。
資料
  • 吉江 悟, 高橋 都, 齋藤 民, 甲斐 一郎
    2004 年 51 巻 7 号 p. 522-529
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 行政保健師は,介護保険が実施される以前から高齢者介護サービス提供に携わるなかで,高齢者ケアマネジメントの経験・知識を蓄積してきた。原則としてその役割が介護支援専門員へ移管された介護保険施行後も,様々な対象からの相談対応を行っている。本研究では,高齢者在宅介護における対応困難事例のうち,これまであまり焦点の当てられなかった同居家族が問題の主体となるものに焦点を絞り,行政保健師の視点からみてどのような状況が対応困難と認識されているか明らかにし,具体的内容の類型化を行うことを目的とした。
    方法 人口67,000人,高齢化率約19%の長野県 A 市の平均経験年数10年の行政保健師に対し,同居家族が問題の主体となる対応困難事例の具体的内容を探る目的で,約90分のフォーカスグループインタビューと,1 人平均約60分の個別インタビューを実施し,インタビュー内容を質的に分析した。フォーカスグループインタビューには 6 人の保健師が参加し,個別インタビューはフォーカスグループインタビューの参加者 4 人を含む計 5 人に対して実施した。
    結果 同居家族が問題の主体となる対応困難事例について,「生じている介護の問題」と,その背景要因としての「同居家族の背景」の 2 つの大カテゴリーに関して,その具体的内容が分類された。
     「同居家族の背景」に含まれるカテゴリーとして「1)精神・知的障害がある」,「2)介護意欲が低い」,「3)人間関係が悪い」,「4)他人が家に入ることに抵抗がある」,「5)金銭面の問題がある」が抽出され,「生じている介護の問題」に含まれるカテゴリーには「a)家族による介護量の不足」,「b)サービスの受け入れ拒否」,「c)介護における逸脱行動」が抽出された。
    結論 同居家族が問題の主体となる高齢者在宅介護の対応困難事例について具体的内容の類型化を行った。今回挙げられたような背景を同居家族がもつ場合には,将来対応困難となる可能性を考慮することが重要である。
  • 中谷 直樹, 大森 芳, 鈴木 寿則, 寳澤 篤, 栗山 進一, 坪野 吉孝, 辻 一郎
    2004 年 51 巻 7 号 p. 530-539
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 血清ペプシノゲン(PG 法)による胃がん検診,卵巣がん検診,らせん CT(ヘリカル CT)による肺がん検診,マンモグラフィによる乳がん検診,30歳未満に対する子宮頸がん検診,前立腺がん検診の全国市区町村における実施状況を明らかにすること。
    方法 全国のすべての市町村と東京都特別区(3,242市区町村)に対して,上記のがん検診の平成14年度実施状況に関して,郵送法による調査を平成15年 2 月に実施した。
    成績 2,342市区町村(72.2%)から有効回答を得た。平成14年度における各がん検診の実施(実施予定を含む)割合は,マンモグラフィによる乳がん検診49.4%,前立腺がん検診33.7%, 30歳未満に対する子宮頸がん検診20.3%,ヘリカル CT による肺がん検診5.7%, PG 法による胃がん検診5.0%,卵巣がん検診4.8%であった。各検診の実施割合は地方により大きく異なった。
    結論 老人保健事業第 4 次計画で実施が勧奨されているマンモグラフィ検診を実施している市区町村は半数に過ぎなかった。検診の実施状況には地域格差があった。さらに,対象年齢,対象集団の設定方法,具体的な検査内容などにばらつきが存在し,検診方式の標準化を推進すべきであることが明らかになった。
  • 今井 必生, 紺野 圭太, 武蔵 学, 玉城 英彦
    2004 年 51 巻 7 号 p. 540-551
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 北海道大学医学部での喫煙対策を進めるにあたり,医学部構成員を対象とする喫煙に関する実態調査を行った。
    方法 2003年 2 月,北海道大学医学部に所属する全教員,職員,学生(1,612人)を対象にアンケート調査を実施した。回収数は1,037人であった。各研究室,事務室,各学年に対してアンケート用紙を配布した。研究室・事務室に対しては,秘書または回収ボックスを通じ,学部生に対してはその場で,もしくは,回収ボックスを通じ回収した。質問項目は全員を対象としたものの他に喫煙状況に応じたものを設け,現在喫煙している者(喫煙者),かつて喫煙していたが現在はしていない者(禁煙者),喫煙していないもの(非喫煙者)の 3 者について,喫煙に関する意識の相違についても検討した。
    結果および考察 今回の調査で本学医学部の喫煙状況が把握できた。1)本学医学部構成員の喫煙率は一般住民および医師一般よりも低い。2)喫煙者の多くはタバコへの依存度は低いと想像される。3)禁煙者については維持期に入っている者が 8 割,行動期の者が 2 割であった。一般化の可能性のあるデータおよび今後の喫煙対策のヒントとなる事実は以下のよう得られた。喫煙に関する意識については 1)喫煙者も非喫煙者も,能動喫煙よりも受動喫煙の健康影響を深刻に考える傾向がある。2)喫煙者は非喫煙者,禁煙者にくらべ,タバコのにおいの不快感を軽視する傾向にある。3) 3 者のいずれもが健康被害を認識しながら実際の喫煙対策推進には積極的ではない。4) 3 者のいずれもが一般的なものとしてのタバコのにおいを重く考えるものの,具体的な医学部内のタバコのにおいは軽視しがちであった。
    結論 関心期にある喫煙者をどのように禁煙行動期に移行させるか,行動期の者をいかに多く維持期に移行させるかが課題である。われわれは本調査の結果に基づき,禁煙イベントや広報を実施した。今後はさらにこれらの情報を活用し,活動結果の評価や,現状の改善に向けた具体的な活動に結びつけていきたい。
公衆衛生活動報告
  • 奥田 奈賀子, 岡村 智教, 門脇 崇, 田中 太一郎, 上島 弘嗣
    2004 年 51 巻 7 号 p. 552-560
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 公衆衛生実習の一環として医学部学生が企画したハイリスク者に対する減量指導を実行し,職域における循環器疾患危険因子の改善を試みた。
    方法 京都府の A 事業所において,前年(2001年11月)の定期健康診断結果で肥満(BMI≧24.0 kg/m2)と判定された者のうち,高血圧(収縮期血圧≧140 mmHg または拡張期血圧≧90 mmHg)または高コレステロール血症(血清総コレステロール値≧220 mg/dl)を有する45人より減量プログラムへの参加を希望した 8 人を指導群とした。希望しなかった者から指導群と性・年齢をマッチさせた16人を抽出して対照群を設定した。減量プログラムの実施は2002年 7 月から10月にかけての 3 か月間とし,期間中に 2 kg 減量することを目標とした。食生活状況調査,健康に関するクイズによるベースライン調査の後,2 回の面接指導と 4 回の通信指導を行った。食事調査は半定量的量頻度法,カメラ付き携帯情報端末による写真法(ウェルナビ,松下電工(株))および食事記録法を併用した。指導前年(2001年11月)と指導終了後(2002年11月)の定期健康診断結果より,指導群と対照群の体重,BMI,血圧値,血清総コレステロール値の変化を比較した。さらに指導群のうち減量目標達成者と非達成者について食品群別摂取量,栄養素摂取量を検討した。また指導前の健康クイズの正答率と体重変化量の関連も検討した。
    成績 指導前年と指導終了後の定期健康診断結果より求めた体重の変化は指導群で−2.3 kg(標準偏差3.3 kg),対照群で+0.3 kg(標準偏差1.5 kg)であり,指導群と対照群で体重の変化量に有意差を認めた(P=0.013)。3 か月の指導プログラム前後の指導群の体重変化量は平均で−1.5 kg(標準偏差2.4 kg)であった。指導前年と指導終了後の定期健康診断結果より,血清総コレステロール値(指導群−32.1 mg/dl,対照群+0.5 mg/dl, P=0.005),収縮期血圧(指導群−9.5 mmHg,対照群+4.7 mmHg, P=0.083),拡張期血圧(指導群−2.8 mmHg,対照群+1.4 mmHg, P=0.438)の変化量も指導群で減少傾向を示し,血清総コレステロール値では有意差を示した。食事調査結果からは,減量目標達成群において魚類摂取量が増加し,油脂類,菓子類の摂取量が減少していた。また減量指導前の健康クイズの正答率が高い者ほど体重減少割合が高い傾向を認めた。
    結論 勤務者のうち減量プログラム参加希望者を対象として医学生が主体となって減量指導を行い,対象者の循環器疾患危険因子を改善させることができた。様々な手法を通じた頻度の高い食事調査が肥満の改善に有用である事が示唆され,また集団全体に対して健康に関する知識を普及させることが指導の前提として必要であると考えられた。
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