地質学雑誌
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118 巻, 7 号
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特集 東北地方太平洋沖地震:統合的理解に向けて(その2)
論説
  • 遠地実体波インバージョン解析と動的摩擦弱化
    深畑 幸俊, 八木 勇治, 三井 雄太
    2012 年 118 巻 7 号 p. 396-409
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震では,海溝寄りの非常に大きな滑りに加え,宮城〜茨城県沖の陸側に近い領域でも比較的大きな滑りがあったと考えられる.特に,地震開始後20−35秒くらいには,1978年宮城県沖地震の震源域付近で顕著なモーメント解放を生じた.地震の主破壊は,長大な滑り(最大50 m),長い滑り時間(最大90秒),比較的大きな応力降下(約10 MPa)で特徴付けられ,thermal pressurizationなどの効果により断層面の摩擦強度が極端に低下したことが強く示唆される.余震のメカニズム解が地震前と大きく変化したことも,沈み込むプレート境界面でほぼ全ての歪みが解放されたことを意味し,摩擦強度の極端な低下を裏付ける.地震前の絶対応力レベルは,震源付近から海溝にかけて約10 MPaと推定された.大地震時の破壊伝播は,thermal pressurizationなど非線形性の強い効果に支配されていると考えられ,海溝型大地震の擬周期的発生と調和的である.
  • 浦安市舞浜3丁目コア試料の例
    平 朝彦, 飯島 耕一, 五十嵐 智秋, 坂井 三郎, 阪口 秀, 坂口 有人, 木川 栄一, 金松 敏也, 山本 由弦, 東 垣, 田中 ...
    2012 年 118 巻 7 号 p. 410-418
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    東北地方太平洋沖地震において関東地方を中心に前例のない広域的な液状化被害が報告されている.都市地盤における液状化現象を理解し,その対策を立てるには,液状化が地下のどこで起ったのかを同定することが極めて重要である.本報告では,千葉県浦安市舞浜3丁目のボーリングコア試料に対して,X線CTスキャン解析を実施し,非常に鮮明な地層のイメージの取得に成功した.この結果,地面下13 mまでの地層を5つのユニットに区分することができ,その中で6.15 mから8.85 mまでの間で地層のオリジナルな構造が破壊されており,液状化した層であると判定した.この手法は,今後の液状化研究に関して,大きな貢献が期待できる.
  • 土屋 範芳, 井上 千弘, 山田 亮一, 山崎 慎一, 平野 伸夫, 岡本 敦, 小川 泰正, 渡邊 隆広, 奈良 郁子, 渡邉 則昭, 東 ...
    2012 年 118 巻 7 号 p. 419-430
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により,岩手・宮城・福島県沿岸部を中心に甚大な津波被害が発生し,震災域は津波堆積物により広く被覆された.ヒ素のリスクを評価するために,岩手県久慈市から福島県南相馬市にかけて137個の津波堆積物を採取し,全堆積物化学組成の分析,水および海水溶出試験を行った.また,水溶出液に対して3 kDa以下,3 kDa−0.2 μm,0.2 μm−0.45 μm,および0.45 μm以上の4つに分液し,ヒ素の化学形態について評価した.45試料においてヒ素の水溶出量は土壌環境基準値(10 μg/l)を超過した.特に,気仙沼市大谷地域においては,水溶出量が土壌環境基準値の39倍と極めて高く,ここに分布する金鉱山の影響を強く受けていると考えられる.溶出液中のヒ素の約70%は3 kDa以下であり,溶出液中のヒ素は微細なコロイドおよび溶存態として含まれていることを示している.
ノート
  • 後藤 和久, 西村 裕一, 菅原 大助, 藤野 滋弘
    2012 年 118 巻 7 号 p. 431-436
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    Geological investigations of tsunami deposits have proliferated since the 2011 Tohoku-oki tsunami in Japan, and are important in developing tsunami disaster prevention plans. However, studies of tsunami deposits in Japan are localized and do not cover the entire coastal zone. In light of these gaps in knowledge, further detailed studies of tsunami deposits should be encouraged. Most of the existing research needs to be reevaluated and integrated before incorporating the results of these studies into disaster prevention plans. Currently, there is no comprehensive summary of previous research on tsunami deposits and this hinders identification of the best sites to focus new investigations of such deposits in Japan. Here, we summarize previously published papers, books, and reports describing tsunami deposits in Japan, and identify sites that need further geological study. Our review of this literature indicates that existing research has mainly been conducted along the Pacific coast, where the risk of large tsunamis is high. A small number of studies have been carried out in parts of Hokkaido, north of Tohoku, the east coast of Kanto, and Kyushu. Very few studies of tsunami deposits have been carried out along the Japan Sea coast.
通常論文
論説
  • 山田 国見, 安江 健一, 岩野 英樹, 山田 隆二, 梅田 浩司, 小村 健太朗
    2012 年 118 巻 7 号 p. 437-448
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    垂直変位を伴うA級の左横ずれ活断層である阿寺断層の周辺から採取された地表・ボーリングコア試料に対してフィッション・トラック法による解析を行い,垂直変位量と活動開始時期を推定した.その結果,熱年代学に基づく約70 Ma以降の阿寺断層の垂直変位量は約1 kmであり,断層を挟んだ基盤岩や地形の高度差に基づいて推定された阿寺断層の垂直変位量と変わらないこと,また現在の破砕帯内で現在の断層に沿って20 Ma頃ないしそれ以降でおそらく第四紀以前に広い範囲で加熱があったことが明らかになった.前者は阿寺断層の約70 Ma以降の総垂直変位量が現在の活動様式による垂直変位量で説明できることを意味し,現在の変位様式の活動が第四紀初頭以降に開始したという従来の見解と整合的である.後者はこの時期には既に破砕帯が存在し,おそらく断層運動が始まっていたことを示す.したがって阿寺断層の現在の活動は,かつて存在した古阿寺断層の再活動に当たると考えられる.
  • −LA-ICP-MSによるジルコンのU-Pb年代測定法の適用−
    伊藤 久敏, 田村 明弘, 森下 知晃, 荒井 章司
    2012 年 118 巻 7 号 p. 449-456
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/12/04
    ジャーナル フリー
    飛騨山脈のいくつかの深成岩に対し,LA-ICP-MSによるジルコンのU-Pb年代測定を行った.対象とした試料はIto and Tanaka(1999)により,高瀬川断層を挟んで冷却年代に顕著な差が見られた試料である.U-Pb年代測定の結果,高瀬川断層の西側に分布する奥黒部花崗岩で65.1 ± 1.6 Ma,同断層の東側に分布する大白沢花崗岩で64.7 ± 2.3 Maが得られたことから,両者は約65 Maのほぼ同時期に貫入したことが分った.大白沢花崗岩にはマイロナイト構造が認められ,2 Ma以降の急激な断層運動による隆起・削剥を反映したものと推定した.高瀬川断層の東側に分布する金沢花崗閃緑岩のU-Pb年代として2.15 ± 0.15 Maが得られ,同花崗閃緑岩は第四紀に貫入した深成岩であることが分った.飛騨山脈において,放射年代測定により確認された,地表に露出する第四紀の深成岩は,滝谷花崗閃緑岩についで二例目となる.
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