日本大腸肛門病学会雑誌
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62 巻, 3 号
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原著
  • 赤松 大樹, 上島 成幸, 仲原 正明, 阿部 孝, 打越 史洋
    2009 年 62 巻 3 号 p. 133-138
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    進行癌に対する腹腔鏡下大腸切除術の短期および遠隔期手術成績を検討した.対象:腹腔鏡下切除術を施行した深達度pMP以深の進行大腸癌313例.開腹症例180例を対照とした.結果:腹腔鏡下手術群(LAC)の手術時間は209±70分,術中出血量120±219mlで,開腹術群(OC)と手術時間に有意差を認めず,出血量ではOCよりも有意に少なかった.検索リンパ節数はLAC 18.8±9.8個,OC 15.8±11.2個と有意差なし.術後合併症ではLACで縫合不全が多い傾向を認めたが統計学的な有意差を認めなかった.治癒切除症例295例中46例に再発を認めた(再発率15.6%).再発型式は開腹例と有意差はなかった.LACの累積5年生存率は,Stage I 100%, Stage II 96.5%, Stage IIIa 85.1%, Stage IIIb 66.6%, Stage IV 49.3%(3年)でこれまでの当院の成績と同等と考えられた.まとめ:進行癌に対する腹腔鏡下手術の手術成績はこれまでの当院の成績と同等であり,腹腔鏡下手術導入による予後への悪影響は認められなかった.
  • 荒川 敏, 小澤 壯治, 梅本 俊治, 白石 天三, 永田 英俊
    2009 年 62 巻 3 号 p. 139-146
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    目的: 80歳以上高齢者の大腸手術における手術リスク評価としてPOSSUM(以下P),P-POSSUM(以下P-P),CR-POSSUM(以下CR-P)の有用性を検討した.対象: 2001年1月から2007年3月までに局麻手術を除く大腸手術を施行した高齢者60例.方法: P, P-P, CR-Pを術後合併症発生群と非発生群に分けて比較検討した.結果: 術後合併症発生群は非発生群に比べてPのすべての項目で高値であり,P-Pでは術後死亡率予測は高値であった.CR-PではOSのみ高値であった.術後合併症発生の高リスク群をPS27以上,OS14以上と設定すると,高リスク群で術後合併症発生は有意に高率となった.考察: 術後合併症予測にPは有用である.術後死亡率予測はP-Pの方が有用である.高齢者大腸手術における術後合併症発生と死亡率予測にはCR-PよりもP,P-Pの方が有用である.
  • 中房 祐司, 隅 健次, 矢ケ部 知美, 宮崎 耕治
    2009 年 62 巻 3 号 p. 147-153
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    本研究では転移性大腸癌に対するS-1/CPT-11併用療法における生命予後因子を検討した.治療スケジュールはCPT-11(60mg/m2)を第1, 15日に点滴静注,S-1(80mg/m2)を第1∼21日の連日経口投与,1コース28日とし,治療前後の臨床的因子と全生存期間の関係を解析した.登録33症例の全生存期間中央値は18.7カ月であった.多変量解析では全身状態(PS)(p=0.0027),治療コース数(p<0.0001),二次治療(p=0.0477)が全生存期間に関する有意な因子であった.各群間の全生存期間(中央値)の比較では,PS2群(11.5カ月)はPS0/1群(>19.4カ月)よりも有意に短く(p=0.0013),二次治療FOLFOX群(>22.2カ月)はUFT/LV群(13.0カ月)よりも有意に長かった(p=0.0027).本療法による長期生存には,治療継続とFOLFOXなどの二次治療が重要である.PS不良患者は他の化学療法や補助的治療の選択などの慎重な判断が必要である.
臨床研究
  • 木村 聖路, 田中 正則, 工藤 敏啓, 相沢 弘, 福田 真作
    2009 年 62 巻 3 号 p. 154-159
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    大腸腺腫が同時併存する大腸癌患者は併存しない患者より,異時性大腸癌のリスクが高い.そこで大腸癌に併存する腺腫と併存しない腺腫を臨床病理学的に比較した.大腸癌患者に同時併存した腺腫198病変(A群)と,大腸腺腫患者の腺腫927病変(B群)の局在部位,大きさ,形状,組織型,異型度の統計学的比較を行った.A群とB群の局在部位は各々直腸15.2%,19.0%,左側大腸43.9%,42.8%,右側大腸40.9%,38.2%で有意差はなかった.大きさは各々5mm以下53.6%,63.2%,6∼9mm 24.2%,23.5%,10mm以上22.2%,13.3%でA群が有意に大きかった(p<0.005).形状は各々広基性隆起型71.2%,71.8%,有茎性隆起型20.2%,18.6%,表面型7.1%,5.7%,側方発育型1.5%,3.9%で有意差はなかった.組織型は各々管状腺腫92.4%,91.3%,絨毛状腺腫7.1%,7.3%,serrated adenoma 0.5%,1.4%で有意差はなかった.異型度は各々mild 19.7%,32.3%,moderate 67.2%,60.2%,severe 13.1%,7.5%と,A群は有意に異型度が高かった(p<0.001).大腸癌患者に同時併存する腺腫は腺腫患者の通常の腺腫よりサイズが大きく,組織学的異型度も高いことから,異時性大腸癌の発生に関連性が高いと考えられた.
  • 渡邉 賢治, 渡邉 元治, 増田 英樹
    2009 年 62 巻 3 号 p. 160-164
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    正常成人では年齢とともに肛門内圧が低下するとされている.今回,内痔核患者の最大肛門静止圧(以下MARP)を年齢,性別,切除個数などで比較検討した.対象はH10年8月∼H17年3月までに,術前にMARPを測定した内痔核1,601例(男816例,女785例).年齢を30歳未満A群,30歳代B群,40歳代C群,50歳代D群,60歳代E群,70歳以上F群に分類,内痔核の切除個数を1カ所,2カ所,3カ所以上に分け,術前のMARPを比較した.また,治癒時のMARPを測定できた症例とも比較した.年齢別患者数も比較検討した.結果は男女とも1カ所の場合は年齢によるMARPの差は認めず,2カ所と3カ所では加齢により圧の低下を認め,治癒時のMARPは加齢とともに術前より高い傾向にあった.また,年代別患者数はMARPが低下してくる50歳代∼60歳代にかけてピークを認めた.加齢と内痔核自体による二次的な内肛門括約筋の弛緩が,MARPの低下に影響をあたえると考える.
症例報告
  • 川村 武史, 森田 高行, 山口 晃司, 岡村 圭祐, 堀田 彰一
    2009 年 62 巻 3 号 p. 165-168
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は69歳女性で横行結腸癌,腸閉塞の診断で当院に入院となった.腹部CT検査で肝S7に境界明瞭な低吸収域を認め,その末梢の胆管拡張を認めた.腸閉塞解除を目的に横行結腸切除,D3郭清を施行し,術後に精査を行い肝切除の予定となった.術前の画像診断で腫瘍の中枢側および末梢側の胆管拡張を示し,肝内胆管癌との鑑別を要した.3カ月後,肝後区域切除術を施行した.術後病理所見では,胆管内に膨張性に発育する腫瘍が認められたが,切除された横行結腸癌と同様の病理組織像であった.免疫染色でもCK20陽性,CK7陰性と腸型の特徴を示し大腸癌の肝転移と診断した.転移性肝癌が限局性の胆管拡張を示す例はまれであり,大腸癌に併存する肝病変の診断には注意を要すると考えられたため,文献的考察を加え報告する.
  • 齋藤 徹, 清家 和裕, 幸田 圭史, 小田 健司, 宮崎 勝
    2009 年 62 巻 3 号 p. 169-175
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎の手術症例54例中,大腸癌を合併した4例を報告する.症例1: 25歳女性.発症8年目にSD移行部のIspポリープに対し内視鏡的粘膜切除術を施行し,病理診断が腺癌のため手術を施行した.症例2: 36歳男性.発症17年目にdysplasiaを2病変認め手術を施行した.病理診断は高分化型腺癌であった.症例3: 48歳女性.発症16年目の大腸内視鏡検査で穿孔し緊急手術を施行した.上行結腸に3型の中分化型腺癌,多発するIIa+IIc病変を認めた.症例4: 48歳女性.発症24年目に巨大結腸症の診断で紹介受診した.大腸亜全摘術を施行したが直腸は切除不能であった.術後の直腸生検で印環細胞癌の診断であった.これらの症例のように炎症の活動性が低い場合でも,罹病期間が長い潰瘍性大腸炎では発癌リスクが高く,効率的なサーベイランスが望まれる.
  • 藍澤 哲也, 内田 雄三, 森山 初男, 野口 剛
    2009 年 62 巻 3 号 p. 176-179
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.食欲不振および全身倦怠感を主訴に当院内科に入院し治療していたが,下血を認めたため外科に紹介となった.直腸内視鏡検査および腹部CT検査で直腸癌を先進部とする腸重積症と診断した.イレウス症状は軽く待機的に低位前方切除術を予定していたが,転科後3日目に施行した直腸内視鏡検査で血流障害を認めたため,同日緊急開腹手術を行った.手術はHutchinson法で容易に重積が解除されたため,その後は通常の低位前方切除術を施行した.切除標本で,直腸S状部(RS)に直径3.3×2.5cmの2型腫瘍を認め,この腫瘍を先進部として腸重積をきたしていた.直腸癌とくに2型直腸癌を先進部とする成人直腸腸重積症は極めてまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 山口 晃司, 森田 高行, 岡村 圭祐, 川村 武史, 堀田 彰一
    2009 年 62 巻 3 号 p. 180-184
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は44歳男性.排便時の違和感を主訴に近医を受診した.大腸内視鏡検査で直腸Rbに表面に陥凹を有する粘膜下腫瘍を認め,生検で直腸カルチノイド腫瘍と診断され当科紹介となった.全身精査で,カルチノイドは直径16mmでRb-Pの粘膜下層に位置し,内括約筋への浸潤は認めなかった.遠隔転移は認めなかったが,側方リンパ節263D-rtに石灰化をともなうリンパ節腫大を認めた.手術は内肛門括約筋合併直腸切除術,経肛門的J型結腸パウチ肛門吻合,回腸人工肛門造設術を行った.263D-rtは迅速病理組織検査でリンパ節転移と診断し,右骨盤神経叢切除をともなう側方郭清を施行した.最終病理組織診断はRb-P, 16×15mm, rt, 1型,sm, med, ly1, v0, n3(263D-rt-1/2), H0, P0, M0, Stage IIIbであった.術後3年3カ月の現在再発兆候はなく,側方郭清を含めた外科的治療は有用であった.
  • 楠部 潤子, 豊田 和広, 徳本 憲昭, 池田 昌博, 高橋 忠照
    2009 年 62 巻 3 号 p. 185-189
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    Ripstein術後の糞便閉塞に対しmesh除去を要した1例を経験した.症例は84歳,女性.18年前に直腸脱に対してRipstein法を施行され,術後10年を過ぎた頃より便秘にともなう腸閉塞症状で入退院を繰り返していた.注腸検査およびCT検査より仙骨に固定されていたmeshの部位で直腸が狭窄しており,同部位で過長S状結腸が屈曲して骨盤内に落ち込むことで糞便閉塞が生じていると判断し,外科的治療を施行した.手術はmesh除去を含め,過長S状結腸から狭窄部直腸までを切除した.初回手術時に使用された4cm×14cm大のmeshは摘出時には1cm×10cm大となっており,病理組織学的検査にて固定部位に一致した直腸の筋層が断裂していたことから,収縮したmeshが直腸狭窄の原因であったことが示唆された.術後は定期的な排便を認め,現在術後24カ月で直腸脱の再発を認めておらず,本術式は有効であった.
  • 小川 久貴, 池永 雅一, 安井 昌義, 宮崎 道彦, 三嶋 秀行, 中森 正二, 辻仲 利政
    2009 年 62 巻 3 号 p. 190-193
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は55歳男性.5日前からの腹部膨満,腹痛を主訴として近医を受診した.腹部単純X線検査にて回盲部が内径約7cmと拡張し,右結腸から横行結腸,脾彎曲部にかけて著明な拡張が認められた.腹膜刺激症状をともなっていたため急性腹症の診断で,当院を紹介受診した.大腸癌による器質的腸閉塞との診断で入院当日に緊急手術を施行した.術中所見では腸管穿孔を認めず,また明らかな閉塞機転はなかったが,右側結腸の著明な拡張と腸管壁の非薄化を認めた.以上より急性結腸偽性閉塞症(Acute Colonic Pseudo-Obstruction: 以下ACPOと略す)と診断し,減圧目的で横行結腸に人工肛門を造設した.術後の全身検索で無治療の糖尿病を有することが判明し,糖尿病を基礎疾患とする続発性のACPOと診断した.本症例は緊急の外科的減圧処置により腸管穿孔を防止できたと考えられた.
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