症例:生後 3 カ月,女児
主訴:生下時より左足内側に認めていた紅斑が増大・隆起するようになり近医皮膚科を受診した。エキザルベ® 軟膏やパルデス® 軟膏を 2 ~3 週間外用するも皮疹が残存するため当科を受診した。経過中,紅色局面上に小水疱を形成したことがあり,その際はエキザルベ® 軟膏外用で改善していた。
既往歴:なし
家族歴:肥満細胞症の家族歴なし
生下時現症:左足内側に約 1.0 × 1.0 cm の浸潤をふれない紅斑を認めた。
初診時現症:左足内側に約 2.5 × 1.5 cm の扁平に隆起する紅色局面を認めた(図1 )。診察時の擦過では明らかなダリエ徴候はなかった。
病理組織学的所見:HE 染色では表皮は過角化と顆粒層の肥厚を認め,真皮上層に胞体が類円形で中心にやや大型の核を有する細胞が島嶼状に密に増殖していた(図2 a,b)。トルイジンブルー染色では増殖している細胞の胞体内の顆粒に異染性を示した(図2 c)。
診断:単発性皮膚肥満細胞腫(Unna 型)と診断した。
症例:86 歳,女性
主訴:下腹部の腫瘤
現病歴:初診の 1 週間前に家族が悪臭を伴う,下腹部の腫瘤に気付いた。
既往歴:認知症,2 型糖尿病,高血圧症,くも膜下出血, 子宮筋腫
初診時現症:下腹部の皺に沿って,25 × 4 × 2.5 cm のカリフラワー状紅褐色腫瘤を認めた。腫瘤の周囲や臍部にも複数の腫瘤を認めた(図1 )。陰部や肛囲,鼠径部には皮疹はみられなかった。
臨床検査所見:TPHA(-),RPR(-),HIV 抗体(-),HBs 抗原(-),HCV 抗体(-)
病理組織学的所見:局所麻酔下に, 臍部に多発する腫瘤を含め切除した。切除標本では不全角化を伴う過角化がみられ, 表皮は乳頭腫状に肥厚していた(図2 a)。顆粒層は肥厚し,表皮には多数の空胞細胞がみられたが,明らかな細胞異型は認めなかった(図2 b)。真皮では毛細血管が増生し,間質の浮腫,線維化がみられ,炎症性細胞が浸潤していた。
免疫組織化学的所見(図3 ):一部の空胞細胞の核は抗ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)抗体(BPV-1/1H8+CAMVIR,ab2417, abcam)で染色された。
PCR 法によるHPV タイピング:切除標本から DNA を抽出し,HPV コンセンサスプライマー(CP65/70,MY09/11)による PCR を行った。ダイレクトシーケンスの結果,いずれのプライマーセットでもHPV-6 (GenBank : KX514427.1)が検出された。
診断:尖圭コンジローマ
12 歳,男児。既往にアトピー性皮膚炎あり。漏斗胸に対して全身麻酔下に 3 回の手術歴がある。3 回目の手術中,執刀から 3 時間半後(胸腔内癒着剥離中)に全身の膨疹と血圧低下が出現しアナフィラキシーショックとなったため,今回,4 回目の再手術を前にアナフィラキシーショックの原因検索を行った。血液検査で,ラテックスと主要ラテックスアレルゲンの Hev b 6.02 に対する特異 IgE 抗体が陽性であった。皮膚テストで術中使用薬剤は全て陰性,ラテックス抽出液(10 倍希釈・原液)とアボカドが陽性であった。以上よりラテックスによるアナフィラキシーショックと診断した。周術期のアナフィラキシーは筋弛緩薬や抗菌薬が原因として多く,ほとんどが執刀開始前や開始直後に起きる。一方ラテックスによる場合は,手術内容によって差はあるが,執刀から一定の時間が経過してから発症することが多い点に留意する必要がある。
52 歳,女性。初診の 7 カ月前に潰瘍性大腸炎と診断され,5-ASA 製剤の内服を開始した。2 カ月前より眼瞼周囲の瘙痒と紅斑が出現した。薬疹を疑われ,5-ASA 製剤を中止したが改善なく当科を受診した。 病理組織学的に表皮の不規則な肥厚と角層内の好中球浸潤と不全角化があり,表皮内に好中球浸潤を伴う海綿状膿疱を認めた。潰瘍性大腸炎に合併した好中球性皮膚症と診断し,5-ASA 製剤の内服を再開し,ステロイド内服を行ったところ症状は改善したが,その後も腹痛に伴い皮疹は再燃を繰り返した。Sweet 症候群と壊疽性膿皮症を含む好中球性皮膚症には同様の発症基盤があると考えられ,非感染性・好中球機能亢進・組織への好中球の浸潤を特徴とし,個々の疾患の典型像を示さない例や診断基準を満たさない症例を全て包括し,好中球性皮膚症と総称する。自験例は,病理組織学的に角層下膿疱形成を伴う表皮内の好中球浸潤が主体で,Sweet 症候群や壊疽性膿皮症などの既存の疾患概念に合致せず,炎症性腸疾患に伴う好中球性皮膚症と診断した。
52 歳,女性。初診の半年程前に右肩関節痛が出現した。その後,顔面,頚部,胸部を中心に紅斑,紅色丘疹が出現し,関節痛も増悪した。皮膚生検にて,すりガラス状の好酸性細胞質を有する単核から多核の組織球様細胞が増殖していた。自験例を multicentric reticulohistiocytosis(以下MR)と診断し,その後の全身検索にて左卵巣癌を認めた。MR に対してプレドニゾロンとメトトレキサートにて治療を行い,左卵巣癌に対して外科的切除および化学療法を施行したところ,MR の症状は消失した。約 8 ヵ月後,転移巣が発見された際に MR も再燃したが,化学療法施行後に MR の症状は消失した。MR は,高率に内臓悪性腫瘍や自己免疫疾患を合併するため,診断した際には全身検索が必要である。
63 歳,女性。2 年前に腹部に瘙痒を伴う紅斑が生じ,1 年前より上肢,特に手掌に顕著に,左右対称性に多数の紅色丘疹が出現した。採血,造影 CT では明らかな異常所見はなく,手掌からの皮膚生検にて真皮浅層から中層にかけて組織球様細胞の増殖がみられた。増殖細胞は CD1a 陽性,S-100 蛋白陽性,CD68 陽性,CD163 陽性であり,電子顕微鏡学的に Birbeck 顆粒を認めず,indeterminate cell histiocytosis (ICH)と診断した。自験例は,四肢に多発性 ICH の典型疹である癒合傾向のない紅色丘疹が多数ある一方で,腹部に広く浸潤を触れる紅斑を認め,瘙痒を伴った点は非典型的であった。narrow band-UVB 療法は無効であり,PUVA 療法にて症状が改善した。半年後の皮膚生検では CD1a,S-100 蛋白の陽性率が低下しており,generalized eruptive histiocytoma との鑑別が困難であった。ICH は時間経過とともに CD1a,S-100 蛋白の染まり方が変化する可能性があるという報告があり,それを支持する結果と考えられた。また,これらの経時的な変化に,細胞老化を誘導させることで知られる p16INK4a の関与は否定的であった。
RAS/MAPK 経路は,細胞増殖,分化,生存に関与する細胞内シグナル伝達経路である。経路関連遺伝子の生殖細胞系列の遺伝子変異により生じる先天異常症候群を RAS/MAPK 異常症と呼び,頭蓋顔面・心血管・筋骨格・皮膚の形成異常や知的発達障害を特徴とする。RAS/MAPK 異常症には,Noonan 症候群,Costello 症候群,CFC 症候群,神経線維腫症 1 型などがあり,それぞれの表現型は類似している。 Noonan syndrome-like disorder with loose anagen hair 1(NSLH1,MIM#607721)は,Noonan 症候群の徴候に加えて,易脱毛性のある細くて脆い発育の遅い毛髪,皮膚の乾燥や湿疹を特徴とし,SHOC2 遺伝子変異が原因である。今回我々は,疎毛,アトピー性皮膚炎,特徴的顔貌,肥大型心筋症,知的発達障害の症状から,RAS/MAPK 異常症を鑑別疾患に挙げた18 歳の男性例を経験した。遺伝子検査で SHOC2 遺伝子のミスセンス変異(c.4A>G ; p.S2G)がヘテロ接合性に同定され,既報の病的変異であることからNSLH1 と診断した。光学顕微鏡による毛根の観察にて,loose anagen hair(LAH)に特徴的所見である,毛球が毛幹に対して鋭角にねじれる所見「マウステール変形」を確認した。
78 歳,男性。以前より左背部に皮内結節を認めていた。初診の 7 年前と 3 年前に同部位に感染を生じ,炎症性表皮囊腫と診断され近医にて切開排膿された。初診の 2 カ月前より,左背部の同部位に,中央に黒褐色結節を伴う皮内腫瘤を認め,黒褐色結節部分の皮膚生検の結果,基底細胞癌の所見であり,精査加療目的に当院を紹介され受診した。皮内腫瘤を含め全摘切除した病理組織検査では,真皮内には重層扁平上皮で構成された単房性囊胞を認め,囊胞上皮に一部連続して基底細胞様細胞が柵状,網目状に増殖していたことから infundibulocystic basal cell carcinoma と診断した。
Toe web infection はグラム陰性菌の,とくに緑膿菌感染によって趾間のびらんや潰瘍を生じるのが特徴で,再発を繰り返す疾患である。日常診療でしばしば遭遇する疾患であるが本邦での報告数は少ない。 症例 1 は 66 歳,男性。受診の 2 週間前から右足の趾間に亀裂とびらんが出現し,近医で抗菌薬と抗真菌薬の外用を開始したが改善に乏しく,疼痛が増悪したため当科を受診した。右足の全趾間に悪臭と緑色の膿を伴うびらんがあり,辺縁に浸軟した角質を認めた。症例 2 は 42 歳,男性。受診の 2 週間前から左足の趾間にびらんと発赤が出現し近医で抗菌薬の外用と内服をするも改善なく当科に紹介された。左足の趾間に悪臭を伴うびらんがあり,びらんの辺縁に浸軟した角質があった。どちらの症例も細菌培養検査で Pseudomonas aeruginosa が検出された。抗菌薬の全身投与とスルファジアジン銀クリームの外用,デブリードマンを行い改善した。治療後に再度真菌検査を行ったが陰性であった。自験例は早期の真菌検査,細菌培養検査を行い抗菌薬治療とデブリードマンが効果的であったと考えた。
Prof. Dr. med. Dr. h.c. mult. Thomas Ruzicka, MD, is a clinician scientist and past chairman of the Department of Dermatology and Allergy at the Ludwig-Maximilians-University Munich, Germany. This department is the largest in Germany and Europe and one of the largest Dermatology Departments in the world.
Prof. Ruzicka was born in Prague, Czechoslovakia and emigrated to Germany in 1965. He graduated from the Heinrich-Heine-University in Düsseldorf, where he continued residency in Dermatology under Prof. Greither. With a stipend of the Deutsche Forschungsgemeinschaft he continued his research activities at the Division of Dermatology, University of California in San Diego, USA in the field of eicosanoids and their role in inflammatory skin diseases. He returned to Germany to continue his clinical training under Prof. Otto Braun-Falco as Associate Professor. He built up his own research group supported by the Deutsche Forschungsgemeinschaft.