63 歳男性。初診の 3 カ月前に背部,前胸部の紅斑に気付いた。症状の改善がないため,当科を受診した。初診時,頰部の紅斑とゴットロン徴候,ゴットロン丘疹に加え,V ネックサイン,ショールサイン,爪上皮の出血点を認めた。筋痛や筋力低下は認めなかった。血液検査では CK やアルドラーゼの上昇なく,腫瘍マーカーや抗 Jo-1 抗体は陰性であった。病理組織検査では,表皮・真皮境界部に液状変性とリンパ球の浸潤を認めた。皮膚所見・病理組織学的所見より,無筋症性皮膚筋炎(amyopathic dermatomyositis : ADM)と診断した。間質性肺炎の所見や KL-6 の上昇はなかった。抗 TIF1-γ 抗体と抗 Mi-2 抗体を追加検索し,抗 TIF1-γ 抗体は 69 倍と陽性であった。初診日よりプレドニゾロン(PSL) 30 mg/日の内服を開始した。悪性腫瘍の全身検索を行ったところ,上部消化管内視鏡検査で胃体部小弯前壁に皺集中を伴う不整な陥凹性病変がみつかり,早期胃癌の診断となった。胃癌に対し切除術が行われ, PSL を漸減した。PSL 漸減中止後も皮疹の再燃はなく,初診 7 カ月後には抗 TIF1-γ 抗体は陰転化した。
症例 1 : 5 歳,女児。長時間野外で過ごした後から両頰に紅斑が出現し,手指 PIP,DIP 関節背面の紅斑と爪囲紅斑および爪上皮出血点が出現した。四肢近位筋優位の筋力低下もあり,血中 CK,アルドラーゼは上昇していた。症例 2 : 4 歳,女児。両頰,後頚部の紅斑と,手指 PIP,DIP 関節背面の紅斑と爪囲紅斑および爪上皮出血点が出現した。血中 CK,アルドラーゼは上昇していた。2 症例ともにプレドニゾロン(PSL)投与にて症状が改善し治療反応性は良好であった。過去の報告と自験例をあわせて小児皮膚筋炎85例を検討した結果,頰部紅斑 89.0%(73/82 例)と Gottron 徴候 85.2%(69/81 例)は高い出現頻度を示した。初発時に筋症状のみられる例は 78.6%(66/84 例)であった。血清 CK 値は自験例の 2 例では上昇がみられたが,過去の報告では 54.3%(44/81 例)と約半数で上昇がみられた。一方でアルドラーゼは 94.6%(70/74 例)で上昇がみられ診断に有用であると考えられた。
症例は 69 歳,女性。10 年前から両頰部に瘙痒を伴う皮疹が出現し,次第に頚部まで拡大してきたため当科を受診した。初診時両眼瞼から連続して,こめかみ,頰部,前頚部に米粒大までの扁平隆起する黄色局面がび漫性にみられ,大部分は融合していた。病理組織学的に真皮上中層に泡沫細胞の浸潤がみられ,血管周囲にはリンパ球浸潤も認められた。血液検査では高中性脂肪血症,高コレステロール血症は認めず,以上より限局性の正脂血性扁平黄色腫と診断した。プロブコール内服 16 カ月後,皮疹は著明に改善した。扁平黄色腫の本邦報告例の総括と併せて報告する。
79 歳,男性。数十年前から体幹・四肢の角化性紅斑を尋常性乾癬と診断され,ステロイド外用薬で加療されていた。2015 年 7 月から体幹・四肢の皮疹が急激に増悪したため,エトレチナート内服を開始した。当時リンパ腫などの他疾患を疑う所見は認めなかった。その後 narrow band ultraviolet B(NB-UVB) の全身照射を併用したところ,紅斑は消退した。2017 年 1 月より食欲不振が生じ,2 カ月間で体重が 15 kg 減少した。全身単純 CT で頚部,腋窩,肺門,縦隔,鼠径に多数のリンパ節腫脹を認めた。採血では,高カルシウム血症を認めたが,human T-cell leukemia virus type 1(HTLV-1)抗体は陰性であった。左鼠径リンパ節の病理組織では,リンパ節内に大型の異型リンパ球が増殖し,一部に肉芽腫様細胞も認めた。 非特定型末梢性 T 細胞リンパ腫と診断し,CHOP(cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, prednisolone)療法を 8 クール施行後,全身のリンパ節腫脹は消退し完全寛解と判定した。その後,乾癬の皮疹の再燃はみられていない。乾癬の罹患は,末梢性 T 細胞リンパ腫のリスク因子であるとの報告もあり,発症頻度は稀であるものの末梢性 T 細胞リンパ腫の合併に注意が必要である。
88 歳,男性。2 カ月前から上肢,腋窩に弛緩性水疱や膿疱が出現し,拡大するため当科を紹介され受診した。水疱部の病理組織は顆粒層で裂隙形成を認め,落葉状天疱瘡が疑われたが,蛍光抗体直接法は陰性であった。細菌培養で exfoliative toxin(ET) A 産生性黄色ブドウ球菌が分離され,水疱性膿痂疹と診断した。病変部の表皮細胞間接着分子を免疫組織化学染色にて検討した。水疱部,水疱の辺縁部の顆粒層ではデスモグレイン(Dsg)1 の細胞外ドメイン(extracellular domain : EC),細胞内ドメインは消失していたが,Dsg3 は発現が低いが辺縁と水疱直下の細胞間に残存していた。EC1-3 は水疱辺縁の全層で細胞間から消失していたが,EC4-細胞内ドメインは有棘層の細胞間にわずかにドット状に残存し,細胞内ドメインはほぼ細胞内に局在していたことから,病変部周囲では ETA により Dsg1 の shedding が生じ,速やかに Dsg1 が細胞間から消失し,Dsg3 の発現の少ない顆粒層において細胞間の離解が生じ,水疱形成に至ると考えられた。一方無疹部には Dsg1 は正常に細胞間に発現していたことより,水疱性膿痂疹の水疱形成には ETA による細胞外ドメインの shedding が関与していることを確認した。
36 歳,女性。自宅の冷蔵庫で右足を打撲した後,同部の疼痛が次第に増強し発熱もみられた。翌日の当科初診時には右足全体に著しい疼痛を訴え,外果には発赤,腫脹,熱感を認めた。高熱と炎症反応の高値を伴っており,LRINEC(laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis)score は 4 点で,入院の上,蜂窩織炎として抗生剤加療を開始した。しかし,半日後にはショック状態となり,炎症反応の更なる上昇と腎機能の悪化,凝固系の延長を来たし,LRINEC score は 8 点に上昇した。患部には水疱が出現,試験切開所見から壊死性筋膜炎と診断し,緊急デブリードマンを施行した。起因菌は Streptococcus pyogenes であり,アンピシリン,クリンダマイシンの全身投与を 2 週間継続し,免疫グロブリン療法を併用した。 その後は感染の拡大を起こすことなく,第 47 病日に植皮術を施行,患肢は大きな後遺症を残すことなく,温存できた。A 群 β 溶血性連鎖球菌は,基礎疾患を持たない健常人に単独で壊死性筋膜炎をおこし得る。 また一部の症例では致死率の高い劇症型溶血性連鎖球菌感染症(STSS)へと発展する。自験例は,A 群 β 溶血性連鎖球菌による壊死性筋膜炎からショック状態に至ったものの,早期診断と治療開始により,患肢の温存と救命に成功した。本疾患は迅速かつ注意深い対応を要するため,経験症例を共有する必要があると考え報告する。
77 歳,女性。2015 年 10 月に右下腿蜂窩織炎を初めて発症し,その後 1 年間で 7 回もの再発を繰り返していた。血糖コントロール不良の糖尿病と足爪白癬,右大腿頚部骨折術後の既往があった。慢性静脈不全やリンパ浮腫は認めなかった。下腿蜂窩織炎は軟部組織感染症として頻度が高い疾患であり,慢性静脈不全やリンパ浮腫,足白癬などの合併例では再発を繰り返すことが多い。再発性蜂窩織炎に対し,ペニシリン低用量内服を継続することにより再発予防が可能という報告が最近各国からされている。自験例でも 2017 年 2 月より開始したペニシリン低用量(500 mg 分 2/日)予防内服が著効し,開始 3 カ月後に一度再発し入院したが,その後約 1 年間再発を認めていない。ペニシリン低用量予防内服は再発性蜂窩織炎の再発率を減少させるが予防効果は内服中にしかみられず,長期的な投与に伴う耐性菌の出現について未だ不明な点もあり,症例を選んで検討するべきである。
蕁麻疹,および皮膚疾患に伴う瘙痒に対して通常量のヒスタミン H1 受容体拮抗薬(以下,抗ヒ薬)で効果不十分な場合の増量と他の抗ヒ薬追加は,蕁麻疹診療ガイドラインにおいて推奨されているがエビデンスは乏しい。そこで瘙痒性皮膚疾患に対する非鎮静性抗ヒ薬の増量および鎮静性抗ヒ薬の追加の有効性・安全性を比較検討した。対象患者 70 例にベポタスチンベシル酸塩(以下,ベポタスチン)20 mg/日を投与し,投与 2 週後に十分な効果が認められた症例ではベポタスチンを継続投与(通常量群)した。一方,効果不十分例ではベポタスチンを倍量投与(増量群),またはベポタスチンにヒドロキシジンパモ酸塩 25 mg/日を追加投与(上乗せ群)の 2 群に無作為に割り付けて 4 週間投与し,診察医により皮疹の程度を,患者アンケートによりかゆみや眠気の程度を評価した。その結果,増量群と上乗せ群のいずれも最終評価時には搔破痕スコアとかゆみスコアが有意に改善し,通常量群と明らかな差のない程度の全般改善度が得られた。一方,日中の眠気,夜間の睡眠については上乗せ群において悪化する傾向があった。以上より,通常量のベポタスチンで十分なコントロールができない瘙痒性皮膚疾患患者に対し,同薬を増量することの有用性が示唆された。