中部地区13施設による共同研究班を組織して, 慢性痒疹とくに多形慢性痒疹に対するMS-アンチゲンの臨床効果とその安全性について検討を行つた。対象となつたのは, 本研究参加施設の皮膚科を受診した慢性痒疹患者計71例であり, そのうちの35例が多形慢性痒疹であつた。MS-アンチゲンは原則として, 週2回筋注, 計15回注射を1クールとした。対象症例のこれまでの経過, 治験開始時の臨床症状の程度, 治療効果, 副作用などの点から総合的に判定された本剤の有用度は, 慢性痒疹全体では, きわめて有用が65例中18例(28%), 有用以上が65例中39例(60%)であつたが, 多形慢性痒疹に限ると, 前者が34例中14例(41%)で, 後者が34例中26例(76%)ときわめて高かつた。多形慢性痒疹31例において, 本剤の投与により30例(97%)で止痒効果が認められ, 28例(90%)で皮疹の存在範囲が50%またはそれ以下となり, 21例(68%)では皮疹が消失し, 18例(58%)でほとんど痒みが消失した。また, 本剤による治療にて, その2/3の症例で投与されていた抗ヒスタミン剤の中止または減量が可能となつた。副作用としては, 本剤によることを疑わせる症状が6例(8.5%)で認められたが, 重篤なものは認められなかつた。また, 治療前後に臨床検査が施行された38例でも, 明らかに本剤によると思われる異常は認められなかつた。本剤による治療と患者の末梢血中の好酸球百分率やIgE値の変動との間には一定の関係はみられなかつた。以上より, 現時点ではとくに有効な治療法がなく, 長期にわたる治療が必要なことが多い多形慢性痒疹に対して, 副作用の少ない本剤はきわめて有用な治療剤と思われた。しかし今回の治療方法では, 効果発現までに3∼4週を要することが問題であり, 今後, 本剤の投与方法, 投与量, 併用療法などを考えてみる必要があろう。
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