患者:70 歳台,女性
主訴:顔面の丘疹
現病歴:10 年以上前に下顎右側の白色丘疹を自覚した。大きさに著変はない。精査を希望し,近医を受診した。
現症:中央が陥凹した 10×8 mm の白色の結節で,辺縁が堤防状に隆起していた(図 1 )。
病理組織学的所見(HE 染色):基底細胞癌,脂腺癌,稗粒腫を考え,辺縁より皮膚生検を施行した。 真皮上層から中層にかけて線維性の間質を背景に腫瘍細胞が索状胞巣を形成して増殖し,角質囊腫を伴っていた(図 2 )。角質囊腫や索状胞巣の周囲には膠原線維束がみられた。胞巣を形成する腫瘍細胞は,基底細胞様細胞で核異型や核分裂像は目立たなかった(図 3 )。
治療および経過:切除希望なく経過観察中である。
小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis:WDEIA)の原因抗原は,約 8 割を ω-5 グリアジンが,残りの約 2 割を高分子量グルテニンが占める。前者の血中抗原特異的 IgE 検査は保険適用であるが,後者は保険適用ではない。症例 1 は 16 歳,男性。食後の運動時に眼瞼浮腫や蕁麻疹を繰り返していた。ω-5 グリアジン特異的 IgE が陰性で,負荷試験(アスピリン内服+うどん摂取+運動負荷)を行ったところ,膨疹の誘発を認めた。症例 2 は 15 歳,男性。小麦製品摂取後に運動すると蕁麻疹が出現していた。ω-5 グリアジン特異的 IgE が陰性で,負荷試験(食パン摂取+運動負荷)を行ったところ,体幹や四肢に膨疹が出現した。症例 3 は 14 歳,男性。小麦製品摂取後に運動して眼瞼浮腫や蕁麻疹が生じていた。ω-5 グリアジン特異的 IgE が陰性で,負荷試験(アスピリン内服+うどん摂取)では症状は誘発されなかった。ところがその後,昼食にカレーライスを摂取して走ったところ,眼瞼浮腫や呼吸困難が出現した。3 症例ともにドットブロット法で高分子量グルテニン特異的 IgE が検出された。10 代の WDEIA では高分子量グルテニンが原因抗原であることが多く,通常の保険適用の血液検査では見逃される可能性があり,注意を要する。
69 歳,女性。10 年前の僧房弁機械弁置換術後よりワルファリン内服を継続中だが,PT-INR は一定せずコントロール不良であった。左乳癌術後皮膚転移,骨転移に対して 4 年前より抗 RANKL 抗体製剤とカルシウム製剤,関節リウマチに対して 3 年前よりプレドニゾロン 10 mg/日,2 型糖尿病に対してインスリンで加療中だが,腎機能低下は認めず。1 週間前から左下腿の発赤,腫脹,疼痛が出現し,左下腿蜂窩織炎の診断で入院し抗生剤治療を開始した。入院 3 日目に口腔粘膜出血があり,PT-INR 7.7 に延長あり,ワルファリンを休薬した。同日,左下腿後面に皮膚潰瘍を生じ,急速に拡大してアキレス腱が露出し,左下腿潰瘍周囲,右下腿に有痛性紫斑が多発した。潰瘍辺縁と紫斑から皮膚生検を施行し,病理所見ではいずれも脂肪織内の小血管にフィブリン血栓,小血管壁内に石灰化を認め,ワルファリン誘発性の非尿毒症性カルシフィラキシスと診断した。ワルファリンを中止しヘパリンナトリウムに置換後,潰瘍の拡大や紫斑の新生は認めず。また,下肢皮膚組織潅流圧(Skin Perfusion Pressure:SPP)検査は両下肢ともに 30 mmHg 以下と低値,下肢動脈造影検査で両下肢の後脛骨動脈の狭窄と腓骨動脈の完全閉塞を認め,重症下肢虚血と診断した。左下腿血管内治療後に,潰瘍のデブリードマン,局所陰圧療法,分層植皮術を行い,潰瘍は治癒した。その後,ワルファリンを再開したが,再開1 年後の現在まで潰瘍の再燃は認めていない。
71 歳,女性。既往に 2 型糖尿病がある。初診の半年前に,右下腿に局所熱感と圧痛を伴う板状の皮下硬結が出現し,同様の病変が左下腿と両手背~前腕に拡大してきたために当科を紹介され受診した。前腕の病変の皮膚生検にて真皮深層に類上皮細胞肉芽腫を認めた。さらに,血清アンジオテンシン変換酵素(以下,ACE)活性と血清リゾチーム値が上昇しており,ツベルクリン反応は陰性であったことから,皮下型サルコイドーシスの亜型である extensive subcutaneous sarcoidosis と診断した。皮膚病変が広範囲に及んでおり,腫脹と疼痛により関節可動域制限を呈していたため,ステロイド内服の適応があると判断し,プレドニゾロン 20 mg(0.5 mg/Kg)/日の内服を開始した。治療開始 2 週間後に,皮下の病変部は著明に縮小し,血清 ACE とリゾチーム値が正常化した。
71 歳,女性。1 年前に右膝と両側前腕に皮下硬結を自覚し,その後左臀部にも皮下硬結が出現した。右膝に 20×10 cm,左臀部に 10×7 cm,右前腕に 10×7 cm,左前腕に 2 個の 7×5 cm の板状皮下硬結がみられた。皮膚生検では皮下脂肪組織に非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫を認め,sIL-2R は 1697.0 U/ml と高値であった。胸部 CT では縦隔リンパ節の軽度腫大があり,Ga シンチグラフィーでは四肢と左臀部の皮下硬結部に高度な集積を認め,extensive subcutaneous sarcoidosis と診断した。膝関節屈曲制限が生じる懸念があったためプレドニゾロン 25 mg/day 内服を開始したところ,皮下病変は速やかに縮小し,sIL-2R は 418.3 U/ml まで低下した。皮下型サルコイドーシスではトラニラストやミノサイクリン内服で軽快する症例や,無治療で軽快する症例もあるが,本症例では,右膝部皮下病変の拡大による歩行障害が懸念されたため,ステロイド内服による治療を選択した。広範な皮下型病変を呈するサルコイドーシスでは,sIL-2R や皮膚病変のサイズなどを総合的に評価し,病勢を検討することが必要である。
劣性栄養障害型表皮水疱症はⅦ型コラーゲンの遺伝子変異により発症し,生後から四肢体幹に水疱やびらんが出現し,瘢痕形成を繰り返す。予後因子として青年期以降から出現する有棘細胞癌や,慢性炎症による腎不全,食道びらんや狭窄による摂食障害,びらん部からの二次感染などが問題となり,全身状態の悪化を起こしやすい。症例は 82 歳,女性。幼少期より四肢のびらんを繰り返し,摂食障害が起こることも度々みられたが現在まで通院加療を行っている,当院最高齢の患者である。本症例は表皮水疱症の診断基準が確立する前から当院への通院を開始したが,現在までに良好な経過を維持できている理由として毎日の自己処置が行えていたこと,摂食不良時には経腸栄養剤を積極的に用いていたことや,小児期から体への負担の少ない生活スタイルだったことが挙げられた。しかし長年経過良好に過ごしていたが,歩行時痛から ADL が低下した際には急激な潰瘍の悪化,蜂窩織炎を引き起こしたことから,今後は高齢になっていく患者の生活状態に合わせ,早期に介護や訪問看護を導入するなどの対応も重要とされた。
79 歳,女性。初診 3 年前に背部にそう痒を伴う紅褐色斑が出現し,精査加療目的に当科を紹介され受診した。左側中背部に約 35×36 mm の境界明瞭な紅褐色斑を認め,病理組織では表皮内に胞体の明るい腫瘍細胞が増殖し,腺管構造やアポクリン分泌像を認めた。免疫組織化学染色では CK7,GCDFP-15,GATA3,mammaglobin が陽性で,CK20 は陰性だった。異所性乳房外パジェット病と診断し,10 mm マージンで摘出し全層植皮術を施行した。術後 19 カ月が経過し,現在再発なく経過している。
38 歳,女性。妊娠 26 週,初産婦。3 カ月前より右大陰唇の皮下硬結を自覚し,増大傾向を認めたため,前医を受診した。右大陰唇に約 2 cm の弾性硬で圧痛を伴う皮下硬結を認め,超音波では血流豊富な囊腫様病変であった。生検で類上皮肉腫を疑われ,精査加療目的に当院を紹介され受診した。初診時,右大陰唇に半小指頭大の皮下硬結の残存を認めた。産婦人科と相談し検査を進めた。MRI では右大陰唇に T2WI・STIR・DWI で高信号,T1WI で低信号の皮下病変を認めた。深部への浸潤は認めなかった。単純 CT でリンパ節転移,遠隔転移は認めなかった。腰椎麻酔下に 2 cm マージンで残存病変の拡大切除術を施行した。センチネルリンパ節生検は施行しなかった。病理組織学的には真皮から皮下組織にかけての豊富な細胞質をもつ大型の類円形異型細胞の密な増殖を認めた。免疫組織化学染色にて INI1/BAF47 陰性であり,類上皮肉腫と診断した。遺伝子検査では SMARCB1 の欠失を認めた。切除断端は陰性であった。術後 3 カ月で経腟分娩にて出産し,術後補助療法は施行せず経過観察しているが,術後 19 カ月間再発は認めていない。
61 歳,女性。明らかな外傷歴はなかったが,初診の約 4 年前に右足底に褐色斑が出現した。褐色斑は徐々に増大したため,前医を受診し,生検で Bowen 病と診断された。切除を勧められたが放置していた。当院を紹介され受診した時,右足底の土踏まず部に 7×6 mm の褐色結節を認めた。前医での生検標本では,表皮全層に異型ケラチノサイトが増殖しており,個細胞角化や clumping cell を認めた。3 mm マージンで全切除し,全層植皮術を行った。パラフィン包埋切片より DNA を抽出し,ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus:HPV)の検索を行ったところ,粘膜 / 粘膜・皮膚型,ハイリスク型である HPV31 型の DNA が検出された。足底発症の Bowen 病は極めて稀であるが,しばしば粘膜 / 粘膜・皮膚型の HPV が検出された症例が報告されている。しかし,HPV31 型が検出された足底 Bowen 病は,調べ得た限り国内外での報告はこれまでになく,自験例が第 1 例目となる。足底の黒褐色病変を認めたときは,Bowen 病も鑑別の一つとして考慮し対応すべきであり,外陰部・手指だけでなく,足底の Bowen 病も HPV が発症に関与している可能性の高い病変であると考えられる。
17 歳,女性。コロナウイルス mRNA ワクチン 2 回目接種後に全身に瘙痒を伴う紅斑,丘疹を生じた。下腹部の紅色丘疹より皮膚生検を施行し,基底層のわずかな空胞変性,真皮乳頭層の浮腫,真皮浅層のリンパ球浸潤を認めた。27 歳男性,コロナウイルス mRNA ワクチン 2 回目接種後に全身に瘙痒を伴うびまん性の潮紅,局所的な膨疹を生じた。下腿の紅色丘疹より皮膚生検を施行し,真皮浅層の血管周囲から付属器周囲,立毛筋の近傍にかけて好中球を主体とした炎症細胞浸潤を認めた。いずれもコロナワクチンによる皮膚副反応と考え,中等量以上のステロイド内服にて加療を行った。治癒後に SARS-CoV2 に対する IgG-S 抗体を測定したところ,コロナワクチン 2 回目接種後の健常人と同程度かそれ以上の抗体産生を確認した。
Dr. Junichi Hachisuka is a Senior Lecturer at the University of Glasgow, School of Psychology and Neuroscience in Scotland. After he graduated from Nagoya University, School of Medicine, he started his career as a dermatologist at Kyushu University in 2002. Then, he was interested in the neural mechanism of itch and began his research in 2005 as a graduate student at Kyushu University. In 2012, he became a postdoc at the University of Pittsburgh, where he developed a new preparation that allows recording the spinal sensory neuron's activity in response to natural stimulation to the skin. Now he has his own lab at the University of Glasgow.