著者らが作製した血管内皮細胞(endothelial cell, EC)特異的単クローン抗体MEC-1を認識するエピトープの局在を, 培養微小血管EC(5歳ヒト包皮由来)を材料に, 螢光抗体法と免疫電顕法により解析し, 従来よりEC特異的マーカーとして知られる第VIII因子関連抗原(factor VIII related antigen, FVIII-RAg), von Willebrand factor(VWF)の局在と比較した。螢光抗体法では, MEC-1陽性構造は主として核に隣接する一部の細胞質に偏在して観察されたが, FVIII-RAgとVWFは細胞質全体に分散しており, MEC-1抗原とFVIII-RAg, VWFとの間に, 明らかな細胞内発現のパターンの差を認めた。しかし, 免疫電顕法では, 陽性反応はいずれの三者に対しても主にWeibel-Palade体(W-P体), 粗面小胞体(RER), ライソゾーム, ゴルジ装置に認められ, 反応陽性を示すオルガネラに質的な差異は認められなかつた。ただしRER陽性率がMEC-1抗原では低かつたのに対し, FVIII-RAgやVWFで高く, これがMEC-1抗原の細胞内発現パターンに差が生じた理由と考えられた。一方, ゴルジ装置では三者とも同じような染色パターンを示したが, いずれも免疫反応はゴルジ装置全体に出現したわけではなく, その一部, とくにbuddingしてW-P体やライソゾームを形成すると思われる部位にのみ認められる傾向があつた。W-P体は一般に反応陽性であつたが, 一部のW-P体には反応の弱いものがあり, W-P体に存在する各種抗原の含有量が個々のW-P体で異なる可能性が考えられた。以上の結果から, 1)MEC-1の合成, 貯蔵, 分解がFVIII-RAgやVWFと同様にECで行われること, 2)ただしその代謝パターンには若干の違いが存在することが示唆された。また, 本研究により, FVIII-RAg, VWFがゴルジ装置の一部に集積し, それがbuddingしてW-P体に輸送される可能性が示唆され, 従来の生化学的, 形態学的推定が裏付けられた。
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