アトピー性皮膚炎(AD)の治療は,これまで主として副腎皮質ステロイドホルモン(ステロイド)軟膏の外用が行われてきた。しかし,近年免疫抑制剤であるタクロリムス(プロトピック
®)軟膏が,主として顔面のADの治療に効果をあげている。 ADに対するタクロリムス軟膏の効果は,主にマウスなどの実験動物によって証明されており,ヒトに対する効果は臨床所見によって確認されているが,組織学的検討はされていない。われわれは,重症AD患者の両前腕に,それぞれタクロリムス軟膏とステロイド軟膏の外用を行い,治療前後の皮膚を採取して,臨床所見およびHE染色,肥満細胞phenotypeなどを含めた組織学的検討を加えた。その結果,1週間の外用によって,臨床的にタクロリムス軟膏は,マイザー
®軟膏と10%サリチル酸ワセリン等量混合軟膏とほぼ同様の改善を示したが,皮膚肥厚の改善はタクロリムス軟膏でやや遷延した。組織学的には,HE染色において,炎症細胞の消退の程度はほぼ同様であったが,タクロリムス軟膏の方がステロイド軟膏に比べて,表皮肥厚,乳頭腫症が改善してはいたがまだ残されていた。肥満細胞数は,治療前に比べてタクロリムス軟膏とステロイド軟膏とも著減し,特に粘膜型の減少を認めたが,両者間に差は見られなかった。タクロリムス軟膏は,今回使用したステロイド軟膏と同程度の抗炎症作用を持っていることが,組織学的にも確認された。
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