症例:65 歳,女性
主訴:頚部の皮疹
現病歴:初診の 5 年前に両側頚部に褐色斑が出現したが,拡大はなかった。検診の胸部単純 X 線写真で両側肺門リンパ節腫脹を認め,霧視があり,サルコイドーシスが疑われた。頚部の皮疹について精査目的に当科に紹介された。
既往歴:高血圧
家族歴:なし
現症:両側頚部に黄白色丘疹が集簇し,上方には対称性に線状の褐色斑がみられた(図 1 )。
病理組織学的所見:黄白色丘疹(図 2 a,b)と褐色斑(図 2 c,d,e)の 2 カ所から生検した。真皮中層に限局して糸くず状の弾性線維の変性,および好塩基性の小塊状物質の沈着がみられ(図 2 a,b),Kossa 染色で黒褐色に染まった(図 3 )。真皮浅層から中層にかけて,異物型巨細胞を含む類上皮細胞,リンパ球浸潤による炎症性肉芽腫がみられ(図 2 c),表皮が変性した弾性線維を巻き込むように真皮内へ増殖していた(図 2 d,e)。
診断:弾性線維性仮性黄色腫(pseudoxanthoma elasticum;PXE)に合併した蛇行性穿孔性弾力線維症(elastosis perforans serpiginosa ; EPS)
経過:ランダム肺生検,肺胞洗浄,リンパ節穿刺を施行されるも肉芽腫の所見はなく,心電図,心エコー検査,眼も異常所見はなかった。呼吸器・心臓・眼いずれも臨床所見が乏しく,サルコイドーシスの診断には至らなかった。皮疹と病理組織像より PXE を疑い,長崎大学に ABCC6 遺伝子検査を依頼し,ABCC6 遺伝子の Exson9,19 に 1 つずつ heterozygous mutation を認め(図 4 ),PXE と診断した。
症例:74 歳,女性
主訴:口腔内・眼瞼周囲・陰部のびらん,体幹の弛緩性水疱
既往歴:びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL)
現病歴:初診約 6 年前に当院血液疾患センターで DLBCL Stage Ⅳ と診断され,以後化学療法や放射線療法で加療されていたが効果なく,9 カ月前に通院を自己中断していた。全身倦怠感を訴え救急搬送され,両側眼瞼,口腔内,陰部に皮膚症状を認め,当科に紹介となった。
初診時現症:両側眼瞼,口唇と口腔内粘膜にびらんを認め(図 1 a),体幹や陰部には紅斑と弛緩性水疱,びらんが散在していた(図 1 b)。右肘の弛緩性水疱から皮膚生検を施行した(図 1 c)。
血液検査所見:抗デスモグレイン 3 抗体 351 index(7 未満),抗 BP180 抗体 38.2 index(9 未満)
病理組織学的所見:表皮内水疱と棘融解を認めた(図 2 a,b)。
免疫組織化学的所見:蛍光抗体直接法:表皮真皮境界部に IgG と C3 の線状の沈着を認めた(図 3 a,b)。
蛍光抗体間接法:正常ヒト皮膚表皮細胞膜(図 4 a)およびラット膀胱上皮(図 4 b)に IgG の沈着を認めた。
正常ヒト表皮抽出蛋白を基質とした免疫ブロット法:210 kDa envoplakin と 190 kDa periplakin に反応する自己抗体を認めた(図 5 )。
治療および経過:腫瘍随伴性天疱瘡(paraneoplastic pemphigus:PNP)と診断,ステロイドパルス療法施行後,プレドニゾロン 50 mg/ 日(1 mg/kg/ 日),リツキシマブ 500 mg とベンダムスチン 300 mg(150 mg を 2 回)の投与を行ったが,皮膚症状は改善に乏しく,敗血症を併発し入院後 1 カ月で永眠した。
症例:74 歳,男性。
初診:昭和 56 年
家族歴・他:家族歴は不明。入所中の高齢者施設内に通常疥癬患者あり。
現病歴:介護人が両足の爪病変に気づき,爪白癬が疑われて受診。いつから爪病変が存在したかは不明。
現症:左第 1 趾爪甲下と爪甲周囲に黄白色の著明な角質肥厚を(図 1 ),右第 3,4,5 趾爪に角質が堆積したような爪甲肥厚を認めた(図 2 )。他に疥癬を疑う皮疹を認めず,瘙痒の訴えも無かった。
全身状態:るい痩あり。寝たきりに近い状態であるが,簡単な問診には応答可能な意識レベル。
検査:直接鏡検法により,肥厚した角質に無数の疥癬虫体と卵を認めた(図 3 )。真菌要素陰性。
診断:爪疥癬
治療および経過:肥厚した角質をニッパー型爪切り等で除去し,0.5% γBHC 軟膏と 10%サリチル酸ワセリン(以下 SV)を重層塗布して密封療法(以下 ODT)を行うとともに,週 1 回受診時に浸軟した角質をメス等で削り取る処置を繰り返した。約 1 カ月後には左 1 趾の角質塊は消失し(図 4 ),右足の爪甲肥厚もほぼ除去でき,直接鏡検法も陰性となった。
経過中の患者管理は,病変が爪に限局していたこと,病変部を ODT で被ってしまうことや行動制限があったことなどから,処置時の手袋操作,入浴を最後にする,洗濯物の熱湯処理等以外は通常疥癬に準じて行い,個室管理は行わなかった。
症例① 64 歳,男性。肺扁平上皮癌でカルボプラチン+パクリタキセル+ペムブロリズマブを投与した。ペムブロリズマブを 5 回投与後,落屑とびらんや紅斑を伴う皮膚の硬化をみとめた。発熱や血圧低下も伴った。併用した化学療法によって生じた強皮症様変化が抗 PD-1 抗体であるペムブロリズマブにより増悪し全身症状を伴ったと考えた。症例② 66 歳,女性。肺腺癌でアテゾリズマブ 11 回投与後,手足の水疱や腰部と両下腿に扁平苔癬様皮疹が出現した。発熱や酸素飽和度の低下も伴った。抗 PD-L1 抗体であるアテゾリズマブによる皮疹と考え,これまで報告のある抗 PD-1 抗体による皮膚障害と類似したものであったが比較的重篤であった。
65 歳,男性。X 年 5 月に左大腿伸側に皮膚硬化が出現し拡大してきた。同 6 月の同部からの皮膚生検では真皮内の膠原線維の増生があり,組織学的に限局性強皮症が疑われた。手指の浮腫や皮膚硬化,Raynaud 症状はなかったが,両肘関節内側,右大腿伸側と外側,右臀部に皮下硬結を触知した。抗核抗体,抗 Scl-70 抗体,抗セントロメア抗体,抗 RNA ポリメラーゼⅢ抗体はいずれも陰性で,抗 ss-DNA IgG 抗体のみ高値であり,一旦限局性強皮症と診断した。限局性強皮症としては非典型的な右大腿外側皮下硬結部を同 6 月に生検したところ真皮深層から脂肪織にかけての高度な線維増生と多核巨細胞を含む非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が確認されサルコイドーシスが考えられた。同 7 月に左大腿伸側の皮膚硬化部を皮下組織まで十分に含めて再生検したところ,真皮深層から皮下脂肪織にかけて多核巨細胞を含む非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,morpheaform サルコイドーシスと診断した。サルコイドーシスの皮膚病変は特異疹,瘢痕浸潤,非特異疹に分類され,特異疹の稀なタイプとして morpheaform の報告がある。 Morpheaform サルコイドーシスは線維化を伴うことから,限局性強皮症との鑑別が困難な場合がある。サルコイドーシスの皮膚病変は多彩な病状を示すことから,十分な深さの皮膚生検による鑑別診断が重要と考えられた。
68 歳,女性。半年前に舌痛および口腔内違和感が生じ,口腔外科にて口腔扁平苔癬と診断され,その後下腿に暗紅色の紅斑が出現した。金属パッチテストで,亜鉛陽性となり,該当歯科金属を除去したところ,数日後より頭皮に瘙痒を伴う脱毛が多発した。初診時,頭部に淡紅色の紅斑を伴う脱毛斑が 9 カ所みられ,病理組織学的に毛包漏斗部および峡部上皮のリンパ球浸潤と周囲間質の線維化および正常毛球の残存を認めた。下腿紅斑は表皮真皮境界部の空胞変性と真皮の帯状リンパ球浸潤の像であった。脱毛斑に対しステロイド局注を開始し,約 2 カ月後に瘙痒と紅斑は改善し,約 8 カ月後に,小型の脱毛斑 2 カ所は治癒した。その後脱毛瘢痕部にエキシマライトを約 1.5 年間照射し脱毛斑はさらに 3 カ所治癒した。口腔粘膜部のびらんや下腿紅斑は出没を繰り返し,初診より 1.5 年後,膣周囲にびらんおよび白色局面が出現し,いずれもステロイド外用を継続中である。自験例は歯科金属除去後に扁平苔癬の一部として毛包性扁平苔癬が生じ,既存の口腔や下腿病変の増悪と膣周囲にも病変が生じた経過が特徴的であった。当院で過去 2 年間のうち金属パッチテスト陽性の扁平苔癬は 15 例あり,年齢は 39 歳から 84 歳までの男性 4 名,女性 11 名で,粘膜型 13 例,皮膚型 1 例,皮膚粘膜毛孔性扁平苔癬型 1 例(自験例)であった。該当金属を除去したのは 4 例で,経過不明の 2 例をのぞき,自験例を含めいずれも症状は改善しなかった。
71 歳,男性。10 年ほど前から左下眼瞼に黒色斑を認めていたが,4~5 年ほど前から左目の視力低下が出現し,同時期から黒色斑の急速な増大と一部の潰瘍化を認め受診した。皮膚生検にて基底細胞癌と診断された。造影 CT で左下眼瞼と眼角部に軟部濃度病変を認め,さらに左眼球は眼窩内で尾側より圧排されていた。根治を目的に左眼周囲皮膚悪性腫瘍切除術,左眼窩内容除去術,動脈皮弁作成術および左頚部リンパ節摘出術を施行した。術後 3 年 6 カ月の経過で再発所見は認めておらず,現在も経過観察中である。基底細胞癌の局所浸潤で眼窩内までおよぶ症例は稀であるため,文献的考察を含め報告する。
69 歳,男性。初診の 20 年以上前に,陰囊に生じた有棘細胞癌に対して切除・左リンパ節郭清術後,放射線治療,化学療法が行われた。初診の 3 年前から陰囊に小結節や潰瘍を繰り返し,その都度切除され有棘細胞癌の診断であった。その後,前医で撮影された MRI 検査で左外腸骨リンパ節腫大の疑いがあり,当院へ紹介となった。当院にて行った PET-CT 検査で,左尿管と右鼠径リンパ節に集積を認めた。当院でリンパ節生検を行ったところ,有棘細胞癌の転移の所見を認め,右鼠径~外腸骨リンパ節郭清を行った。今後も有棘細胞癌の再発の可能性が高いと考え,陰囊皮膚の全切除および分層植皮術を行った。また,同時期に左尿管癌と膀胱癌を指摘され,当院泌尿器科にて治療された。自験例は,陰囊有棘細胞癌と尿路系悪性腫瘍という重複癌を発症した稀な症例である。両者の危険因子には共通するものが多く,何らかの発癌因子が関係している可能性が考えられた。
80 歳,女性。混合性結合組織病,シェーグレン症候群で治療をされていた。初診の 4 日前より,左頚部,左上背部,左前胸部に水疱が出現し,当院を受診した。当院を受診後,帯状疱疹と診断し,入院にてアシクロビル静脈投与を開始した。入院 3 日目より発熱,頭痛を認め,血液検査や CT 検査を施行するも,明らかな感染源は認めなかった。髄膜刺激徴候を認めなかったが,頭痛と発熱から髄膜炎を疑った。髄液検査で蛋白上昇,単核球優位の細胞数上昇を認め,PCR 法による髄液中の水痘・帯状疱疹ウイルス DNA が陽性であり,帯状疱疹性髄膜炎と診断した。帯状疱疹性髄膜炎は髄膜刺激徴候がみられない場合もあり,早期診断や加療のために,頭痛や発熱などの自覚症状のみでも髄膜炎を疑うことが重要であると考えた。
82 歳,女性。初診約 6 カ月前に右側前額部から頭部に帯状疱疹を罹患し,近医皮膚科にてバラシクロビル塩酸塩錠を処方され略治した。罹患 4 カ月後より瘢痕部位に一致して自覚症状のない紅色丘疹が出現した。ビダラビン軟膏を塗布するも丘疹が増数したため,精査加療目的に当科紹介受診となった。初診時,帯状疱疹罹患部位に一致して複数個の紅色丘疹が集簇していた。皮膚病理組織検査では,真皮内に変性した膠原線維とムチンの沈着があり,周囲には組織球・リンパ球・多核巨細胞が取り囲む像を認め,epithelioid cell type の環状肉芽腫を形成していた。以上より Wolf’s isotopic response(post herpes zoster granuloma annulare)と診断した。治療はヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏を塗布したところ,加療開始 4 カ月後には略治した。Wolf's isotopic response はある 1 つの皮膚疾患が治癒した同一部位に,全く別の皮膚症状が出現する現象である。帯状疱疹罹患後に環状肉芽腫を生じた報告(37 症例)の検討では,41.7%に帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia:PHN)を合併していた。これは,一般の帯状疱疹患者の PHN の合併率よりも高値であり,強い神経変性がその後の環状肉芽腫形成と関連している可能性があると考えられた。また,自験例で組織に浸潤するマクロファージは CD163 陽性細胞が主体であり,isotopic response の二次病変としての環状肉芽腫の形成過程において M2 型マクロファージの関与が考えられた。
22 歳,男性。シイタケ栽培の作業に従事した後より,下肢を主として強い瘙痒を伴う皮疹が出現した。患者が作業した現場にて黒布見取り法を施行したところ多数のタテツツガムシが確認され,瘙痒性皮疹の原因虫体と考えられた。九州では秋季に多くツツガムシ病が報告され,その媒介者としてタテツツガムシ,フトゲツツガムシが知られている。しかし虫刺症としてのタテツツガムシ刺症についてはあまり周知されておらず,秋季の虫刺症の原因の一つとして留意する必要があると思われた。
Chairman and Professor of the Department of Dermatology and Allergology,
Ludwig-Maximilians University Hospital, Munich
Prof. Dr. med. Lars E French MD is a clinician-scientist and the current Professor and Chairman of the Department of Dermatology and Allergology at the Ludwig Maximilian University of Munich. Between October 2006 and 2018 he was Professor and Chairman of the Department of Dermatology at the Zurich University Hospital in Switzerland.