症例:81 歳,男性
既往歴:糖尿病,大動脈弁狭窄症,心不全,胃癌,脳梗塞
現病歴:約 30 年前から背部に黒褐色の角化を伴う紅斑があったが,増大してきたため当科を紹介され受診した。
現症:背部に 16.2×13.2 cm の表面に黒褐色の角化を伴う局面を認めた(図 1 )。
ダーモスコピー所見:Brain-like appearance の所見を認めた(図 2 )。
病理組織学的所見:高度な角質増生と主に有棘細胞様細胞からなる表皮の乳頭状増殖を示していた。異型細胞は認めなかった(図 3 )。
診断:脂漏性角化症
症例:79 歳,男性
主訴:頭頂部の痂皮を付着する結節
現病歴:加齢に伴い毛髪は白毛になっていた。約 2 年前から右頭頂部の毛髪が茶褐色調に変化してきたが放置していた。2 カ月前から同部位に痂皮を付着する結節が生じ,徐々に増大傾向のため当科を受診した。
現症:頭頂部右寄りの部位に限局して,毛髪は茶褐色調を呈していた(図 1 a)。同部位には境界不明瞭な不整形の黒褐色斑があり,内部には 11×11 mm の表面に潰瘍を伴う黒色結節を認めた(図 1 b)。
病理組織学的所見:表皮から真皮深層にかけて好塩基性に染まる腫瘍胞巣が密に増殖していた(図 2 a)。腫瘍細胞は核の大小不同や核分裂像を伴っており,一部ではメラニン色素を含んでいた(図 2 b)。腫瘍近傍には,メラニン色素を含む毛包を認めた(図 2 c)。免疫組織化学染色では,腫瘍細胞は S-100,HMB-45(図 2 d),Melan-A のいずれも陽性であった。Tumor thickness は 5 mm であった。摘出した右耳後部のセンチネルリンパ節に転移は認めなかった。
画像検査所見:PET-CT で転移を疑う所見はなかった。
診断:毛髪の色素再沈着を伴った悪性黒色腫(pT4bN0M0,stage Ⅱc)
治療および経過:2 cm マージンをとり,骨膜上で切除した。断端陰性を確認後に,分層植皮術を行った。現在,術後 2 年以上経過しているが再発や転移を認めていない。
亜鉛はすべての生物の生存維持に不可欠な必須微量元素であり,継続的な亜鉛欠乏は死に至る。それにも関わらず,全世界人口の 17%(13 億人)が亜鉛欠乏(60 μg/dl 未満),あるいは潜在的亜鉛欠乏(60∼80 μg/dl 未満)状態であるとされる。亜鉛は生体内で鉄に次いで 2 番目に含有量が多く,ヒトは 2∼3 g の亜鉛を含有する。亜鉛は 1000 以上の酵素反応,20,000 以上の転写調節因子発現やその機能に関与する。さらにヒト蛋白の約 10%が亜鉛と結合しうる。したがって,亜鉛は細胞の発生・分化・増殖といった非常に幅広い生体活動に関与する。皮膚は生体内で 3 番目に亜鉛含有量の多い臓器であり,約 5%の亜鉛を含有する(骨格筋 60%,骨 30%,肝臓 5%)。そのため,亜鉛は皮膚の恒常性維持に必須であり,亜鉛欠乏は多岐にわたる皮膚障害を引き起こす。このような観点から本稿では亜鉛と皮膚の関わりについて概説する。
71 歳,男性。初診の 3 カ月前に特発性血小板減少性紫斑病と診断され,プレドニゾロン内服(15 mg/日)を開始された。初診の 1 カ月前に右外踝骨折の手術を受けた。術後にニューモシスチス肺炎を発症し,ステロイドパルス療法,抗生剤と抗真菌薬の投与が行われた。体幹部を中心にびまん性の紅斑が出現したため当科を受診し,薬疹の診断で被疑薬の中止で経過をみた。しかし,翌日に全身に水疱とびらん,粘膜病変が出現し,Stevens-Johnson 症候群の診断となった。プレドニゾロン内服(15 mg/日)を継続し,免疫グロブリン大量静注療法(γ-グロブリン 400 mg/kg/日 ×5 日間)を行った。徐々に皮疹は改善したが,初診の 1 週間後に突然呼吸苦が出現し,循環器内科にて肺血栓塞栓症と診断された。緊急で血管内治療が行われ,人工呼吸器管理と経皮的心肺補助装置導入を行われたが,2 日後に死亡した。免疫ブログリン大量静注療法は重篤な血栓症を誘発し,時に致死的となる可能性があり,その施行には注意が必要である。
65 歳,男性。Fontain 分類Ⅳ度の閉塞性動脈硬化症であり,右大腿動脈人工血管置換術ならびに血管内治療を施行されるも,右第 2∼5 趾の骨髄炎から黒色壊死に至り,切断術を受けた。その後,左大腿動脈狭窄による左足全体の色調不良を認め,当院心臓血管外科で左外腸骨動脈-左浅大腿動脈バイパス術が施行された。しかし,バイパス術後間もなく左第 1,3,4 趾の黒色壊死を認めたため,当科に再入院となった。血行再建術実施後であり,通常の治療では改善は見込めないと考え,自家末梢血単核球移植を実施することにした。自動血液成分分離装置で単核球を採取後,濃縮し,手術室にて局所麻酔下に患肢に少量ずつ筋注した。術後,患肢の皮膚組織灌流圧は著明に改善し,維持された。また,左母趾の難治性皮膚潰瘍は投与後 16 週で上皮化に至り,その後も再発を認めていない。自家末梢血単核球移植は,今回のような既存治療抵抗性の難治性皮膚潰瘍の症例に対して高い有効性を示すことが報告されている。本治療は,これまで循環器内科および心臓血管外科においてのみ実施されてきたが,日常的に難治性皮膚潰瘍を診療する皮膚科医にとっても新たな治療法の選択肢となりうる。当科における取り組みについて文献的考察を加えて紹介する。
17 歳,男性。右頰部の腫瘤を主訴に当科を受診した。切除標本は病理組織学的に粘液腫と診断した。 口唇には多数の黒褐色斑がみられた。経食道心臓超音波検査にて左房内に粘液腫を認め,以上より Carney 複合と診断した。その他自覚症状はないものの精査にて精巣内微小石灰化,成長ホルモン産生性下垂体腺腫の合併がみられた。遺伝子検索では PRKAR1A(protein kinase A regulatory subunit 1-α)のフレームシフト変異を認めた。Carney 複合は,皮膚や心臓の粘液腫,皮膚色素斑,数々の内分泌機能亢進状態等を呈する稀な疾患である。約半数は常染色体優性遺伝を示し,原因遺伝子として PRKAR1A が報告されている。自験例では家族に遺伝子異常を認めず,孤発例であると考えられた。Carney 複合は稀な疾患であるが心臓粘液腫を合併すると突然死することがあり,皮膚症状から本疾患を疑い精査を行う必要がある。
34 歳,女性。3 年前に左乳房下方の褐色斑に気付き,徐々に増大してきたため当科を受診した。左乳房下に径 7 mm の左右非対称で辺縁が不整な褐色斑があり,ダーモスコピー所見は,規則的な pigment network が一様にみられ,中心に白色調変化を伴っていた。病変中央部より部分生検を行った。病理組織学的には,左右対称性に延長する表皮稜の先端を中心に小型の色素細胞様細胞が胞巣を形成し,標本中央の一部に大型で細胞質が豊富な核異型を伴う腫瘍細胞もみられた。真皮にも少数であるが色素細胞様細胞がみられ,表皮内の腫瘍細胞に比べて小型であった。以上の所見より milk line に生じた部位特異的母斑と診断した。Milk line に生じる部位特異的母斑は,通常の後天性色素性母斑と同様に生物学的性質は良性であるが,組織学的には悪性黒色腫でみられる様な所見を示すことがあり十分に認知しておくべき概念と考えた。
68 歳,男性。初診の 10 年前に徐々に拡大する後頭部の皮下腫瘤を自覚していた。部分生検の結果,隆起性皮膚線維肉腫(dematofibrosarcoma protuberans:DFSP)の疑いで当科を紹介され受診した。当科初診時,後頭部皮下に 4.5×1.5 cm の皮下腫瘤を触知した。可動性は不良で,表面皮膚の色調変化や萎縮はなかった。頭部造影 MRI で腫瘍は後頭部皮下に境界明瞭に描出され,STIR 像で高信号を示した。病理組織学的には,紡錘形の腫瘍細胞が皮下組織において比較的均一に増殖し,花むしろ構造を呈しており,腫瘍細胞は核異型に乏しく,核分裂像はほとんど存在しなかった。免疫組織化学的には腫瘍細胞はCD34 がびまん性に陽性であった。腫瘍の凍結組織から抽出した RNA を用いて RT-PCR を行い,COL1A1-PDGFB の融合遺伝子を検出した。以上より皮下型 DFSP と診断した。皮下型 DFSP の報告は稀であるが,COL1A1-PDGFB 融合遺伝子を検出したことから,皮膚に発生した DFSP と腫瘍発生学的に同じ発癌機序によることが示唆された。
70 歳,女性。2013 年に下口唇悪性黒色腫および頚部リンパ節転移に対して,皮膚腫瘍切除術および頚部リンパ節郭清術,DAV-feron 療法を施行した。初診から 3 年後に小腸転移による腸重積症を発症し,小腸部分切除を施行の上,ニボルマブ投与を開始するも 3 カ月経過した時点で肝転移・腹腔内転移を来したため,PD と判断し中止とした。BRAFV600E 変異が陽性であったことから,ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法を開始した。開始から 2 週間後に悪寒戦慄を伴う発熱があり,精査加療目的に入院とした。血液検査にて著明なクレアチンキナーゼの上昇,尿検査にてミオグロビン尿を認めたため,横紋筋融解症と診断した。ダブラフェニブ・トラメチニブ中止の上,輸液を行い症状は治癒した。その後,ダブラフェニブのみ減量して再開するも症状の再燃はなく,今回の横紋筋融解症はトラメチニブによる副作用と考えた。
奄美大島には Leptoconops nipponensis Tokunaga(トクナガクロヌカカ)の亜種である Leptoconops nipponensis oshimaensis が生息しており,毎年春には吸血被害に遭い強い痒みを訴える患者の受診が増える。2011 年 4 月 18 日から 2018 年 5 月 31 日までの 8 年間に当科を受診し,医療記録をもとにヌカカ刺症と診断した患者 64 例について,①年齢,②性別,③受診した月,④被害にあった場所,⑤受傷部位,⑥治療内容,⑦各年毎の患者数,⑧加害昆虫の同定,の 8 項目について検討した。結果として,①患者の年齢は 50∼79 歳が 73%を占めた,②患者の性別は男性 14 例,女性 50 例で,男女比は 1:3.6 で女性の方が多かった,③患者が受診した月は 4 月から 5 月前半に集中していた,④場所はほとんどが海岸で刺されていた,⑤受傷部位は頚部,衣類で覆われた前胸部や上背部が多くを占めていた,⑥治療を行った 42 例(66%)の症例でステロイド内服薬を処方した,⑦各年毎の受診者は 2011 年から 2016 年までは 7 例以下であったが,2017 年に 15 例,2018 年に 21 例で,この 2 年間で半数以上を占めていた,⑧加害昆虫は,その形態的特徴からクロヌカカと同定した,などの特徴がみられた。