症例は 82 歳,女性。初診 8 カ月前より右前腕に紅斑が出現した。近医にてステロイド剤による外用療法を受けていたが,皮疹は拡大し小潰瘍も生じた。病理組織学的所見は真皮から脂肪織にかけて好中球,リンパ球,組織球を主とする高度な炎症細胞浸潤を認め,多数の多核巨細胞も混在し膿瘍と肉芽腫像を示した。巨細胞内に PAS 染色陽性の桑実状・車軸状の胞子囊を認めた。皮膚組織片の培養では黄白色クリーム状の酵母様集落が形成され,ラクトフェノールコットンブルー染色では内部に車軸状の内生胞子を含む胞子囊が確認できた。分離株の糖利用試験と,プロトテカの 18S rRNA 領域のプライマーによる PCR でも,増幅された DNA 断片の塩基配列は
Prototheca wickerhamii に一致した。以上の臨床症状および検査所見より本症例を
Prototheca wickerhamii による皮膚・皮下型のプロトテコーシスと診断した。 イトラコナゾールの内服治療後約 8 カ月で紅斑は色素沈着を残して消失し,皮膚生検で病原菌培養,PCR 検査ともに陰性を確認して治癒と判断した。1983 年から 2014 年までの本邦におけるプロトテコーシスは 42 症例,皮膚・皮下型プロトテコーシスとしては本症例を含め 35 例が報告されている。本症例は皮膚・皮下型プロトテコーシスの典型的症例であり,ステロイド外用が症状を増悪させた一因と考えた。
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