地震時の火災による被害を軽減するためには,地域ごとにどの程度の出火が見込まれるか,また,出火した場合,延焼面積はどの程度になるか,その危険性を予測し,それぞれの危険性に応じた対策を効率的に立てていくことが重要である.本稿では,震災対策の一環として,地震時の出火および延焼拡大の危険性を地域別に評価する地域別出火・延焼危険度測定について紹介する.
本稿は,阪神・淡路大震災以降に注目されている木造密集市街地の市街地防火対策の基礎的情報とするために,建築物を中心とした市街地の構成状況が延焼性状に及ぽす影響について,シミュレーションにより明らかにしようとしたものである。 隣棟への延焼確率と延焼性状の関係を分析した結果では,延焼を爆発的に拡大させる延焼確率に関する臨界点があること,準耐火建築物の立地の影響評価分析では,準耐火建築物は耐火建築物並の延焼遅延効果があることが明らかになった.
火災の数学モデルは,利用目的に応じて多種多様に開発され・数多くのモデルが存在し稼動している.ところが・この火災シミュレーションプログラムがブラックボックス化されて実行されており,火災の非線形性のため,同じモデノレのプログラムを実行しても,入力データ,特に境界条件の取扱いによって,計算結果が異なるという不思議な現象が起こっている.本稿では,火災の数学モデルについての予備知 識を紹介する.
高速・大量輸送を可能にする社会基盤の整備に伴い,長大あるいは地下トンネルが徐々に増えてきて いる.これらのトンネル空問での火災時の安全性を確保する上で合理的な設計法および対策の確立が必要であり,そのための火災現象のシミュレーション技術が重要となる.本稿ではトンネル火災時の避難や消防活動に大きな影響を及ぼす煙の挙動を対象にしたシミュレーション手法を1)経験的実験式モデル,2)CFDモデル,3)その他現象論的モデルの三つに大きく分け,それぞれ、の文献レビューと今後の 課題について概説する.
気体や火薬類の爆発現象の解析手法にっいて,爆発特性,着火機構,燃焼火炎の伝播,爆轟への転移および爆風の発生と被害について解説し,それらの現象を流体力学的に解析する手法について概説した.
LPGタンク等からの漏出プロパンのフラッシュ現象,蒸発,温度と熱物性値の過渡変化,濃度分布等を正確にモデル化することは,従来の保安距離の値とその規制緩和への動きに対し科学的根拠を与える上で重要である.本稿では,従来行われているLPGの蒸発,拡散挙動に対するモデル化,計算式などの概要を紹介するとともに,数値流体力学を用いて筆者らがこれまで行ってきたプロパンガスの拡散計算 の成果を報告する.
大都市周辺地域では,光化学オキシダント,二酸化窒素,浮遊粒子状物質等のメソスケール大気汚染が問題となっている.これらの汚染現象は,いずれも光化学反応と局地気象に大きく影響されることで共通しており,また,個々の現象は相互に関連しあっている.このような現象をシミュレートするためには,メソスケール気象モデルと光化学反応を含む物質輸送モデルを組み合わせた数値モデルが有効である。本稿では,この種のシミュレーションモデルの現状とシミュレーション事例について概説した.
東アジア地域は近年の経済発展が著しく,今後,地球環境への負荷が増大する地域と懸念されているため,この地域の大気環境問題への取組みは,地球環境,地域環境保全のいずれの観点からも非常に重要性が高いと考えられる.欧米の例をみるまでもなく,東アジア地域における酸1生雨などの広域的な大気環境問題を把握し対策を考える上で,その基礎となる大気汚染物質の排出実態の調査や分析,排出と沈着の関係を明らかにする輸送モデルの開発は,ともに必要不可欠である.しかしながら,これらの研究例が多く見られる欧米や北米と比較すると,当地域に関する研究は,質,量ともに十分とは言えない.特に,中国は近年の発展状況やその規模から考えて最も重要性の高い地域であるが,その汚染状況や排出実態にっいては,十分な調査研究がなされて来なかった.輸送現象の解析についても,窒素酸化物の反応を含んだシミュレーション,年間沈着量や地域間収支を示した例はきわめて少ない. 本稿では,東アジアにおける大気汚染物質排出量推計と輸送モデルを用いた沈着量推定に関する研究の動向について,著者らが行った研究結果を交えて紹介する.
地球環境問題に対する社会的な関心が高まるなか,環境への負荷を軽減するため,企業における環境保全に関する国際規格ISO14001が発効し,さまぎまな業種において認証の取得活動が展開されている.この認証取得と維持をサポートする環境認証支援システムにおける環境影響評価ツールの一つとして大気拡散シミュレーションプログラムを開発した。このシミュレーションにより,さまざまな気象・地形条件下における放出物質の大気中への拡散状況を予測し,環境への影響を評価することが可能となった.
炭酸ガスを海洋固定する際には,固定後の炭酸ガスの深海での挙動を明らかにすることが重要である.そこで,深海乱流中での輸送現象の数値シミュレーションを行い,乱流輸送現象のモデリングのための基礎的研究を試みた.その結果,海洋乱流の構造と,深海乱流輸送現象との問には,その輸送特性に関して類似した特徴をもつことが明らかとなった.
土壌,岩盤などの地盤環境における有害化学物質の挙動を解析・評価することは,事業所や特定サイトにおける化学物質の環境安全管理をはじめ,より広範な化学物質の運命予測やリスク評価を行うために不可欠である.本稿では,汎用性の高い三次元の浸透流解析手法を中心として,地下水中の化学物質の分配平衡,吸着・脱離,反応性などを考慮した新しい解析手法の開発について紹介するとともに,これを用いた有害化学物質の移流分散シミュレーションの結果について述べる,さらに,本手法を環境修復技術の評価に応用した事例として,汚染された土壌と地下水からの有害化学物質の浄化過程に関する 解析結果にっいて述べる.
地下水汚染対策に当たっては,あらかじめ,効果の高い浄化地点や浄化能力を予測評価しておくことが必要である.筆者は,代表的な汚染地下水の浄化方法である揚水処理を取り上げ,自然状態の汚染濃度や浄化効果を定量化する方法として,シミュレーションの種類,作業手順,数学的表現,そして,適用事例について説明した.多くの課題はあるものの,今後の汚染浄化推進に当たって,シミュレーシヨン手法は有効かつ重要な技術と考える.
高レベル放射性廃棄物は放射性が強く半減期も長いため,半永久的な隔離が必要となる.本稿では処分方法中,一番現実的である地層処分について,概要/方法/安全評価に関するシミュレーションを,諸外国の例を交え紹介する.地層処分は,放射性物質が漏えいしにくい多重バリアシステムをとることにより,人間環境への影響を最小限度に抑えるよう考慮されている.シミュレーションでは,核種が埋設放射性廃棄物から人間環境へ浸出するまでのシナリオを作成,それに基づいた性能計算により安全性を 検討する.
屋外を伝搬する騒音の減衰量を予測する方法として二つの規格が制定されている.ISO9613-1は,大気中を音が伝搬する間に大気自身によって音が吸収され,減衰する値を広範な気象条件に対応して計算できるようになっている規格である.一方,ISO9613-2は屋外を音が伝搬する場合,その減衰を左右する各種要因(幾何拡散,大気吸収,地表面の影響,障壁,その他[建物,樹林,工場施設])ごとに減衰量を計算し,それらをまとめて全減衰量を計算するための一般的な計算方法である.
分子動力学シミュレーション法を用いて,氷の結晶成長機構とメタンハイドレ!一トの核生成機構を調 べた.その結果,氷の成長やハイドレートの生成が分子レベルで再現され,それらの機構が分子レベルで議論された。これらの構造相転移の際,水分子の重心配列の秩序化が方向配列のそれより先に起こるという結果は,氷とハイドレートの両方に共通している.本シミュレーション結果は,水分子の回転運動が氷やハイドレートの成長を律速する重要な要因である可能性を指摘している.