本稿の課題は,食品安全にかかわるリスクの高まりの背景と要因を明らかにするとともに,わが国の食品安全政策の特徴およびリスク管理上の基本的な課題について検討することである.いうまでもなく,リスクとは危険をともなう既知の確率変動のことである.一定の確率分布にしたがって望ましくないことが起きるという不確実変動である.いつ,どこで,どのくらいの大きさで起きるかはわからないが,いつか必ず,どこかでその現象は起きるという特徴をもつ. そういう意味では,食品安全についても,ゼロリスクはありえない.だが,これを理解するのはなかなか難しく,特に日本人には「食は絶対に安全であるべき」という思いが強い.リスク管理のポイントは二つある.① 食品事故が発生したときに,原因の早期発見につとめ,いかに迅速に事故の被害拡大を最小限にくいとめるか,風評被害をなくすか,② 日常的にリスクコミュニケーションを行うことによって予想されるリスクを未然に低めておく,という二点である.以下,本稿では現代日本が直面する食のリスクの特徴と要因を明らかにし,リスク管理面での政策的課題について整理する*.
本論文では,すべてのエネルギーがゼロである状態(ゼロ・メカニカル・ステート:ZMS)をあらかじめ定め,異常時に受動的操作によりZMS に移行して安全を確保する,新しい安全システムを提案する.また,この安全システムをエレベータに適用する.ここでは,人の乗るかごが上端にある状態をZMS と定める.これは,かごが上昇して上端で停止するときに与える人体への影響が,下降して下端で停止するときに比べて小さいからである.そして,停電やバネの破断などの異常時に受動操作によりZMSに移行し,かごから脱出できる構造やシステムにすることによって,閉じ込めを防ぎ,かつ安全を確保する.さらに本エレベータシステムは,定荷重バランサでかごとカウンタウェイトとのアンバランスを小さくするので,小型モータによる操作を可能にする.これによりモータの暴走による危険性を小さくすることができる.
死者2 名を出した破砕剤製造工場における爆発事故の着火源の調査を行った.破砕剤は,低電圧では高い絶縁性(抵抗率1010 X m 超)を示すが,高電圧では絶縁破壊を起こし,自ら着火性放電の発生源または導電路となる.また,静置状態で5 mJ 以下の静電気放電エネルギーで着火する.本研究では,破砕剤を充填する工程において,充填機の金属製ホッパが不導体部材で絶縁されていたため,これに破砕剤を移し替えまたは薬筒への充填の際に発生した摩擦静電気が蓄積し,作業員が金属棒で破砕剤を突いた際に放電して着火した可能性が高いことを明らかとした.
ライト兄弟による人類初飛行から約一世紀の間に,航空機のハードウェアに関する技術は飛躍的に進化し,航空機を安全な乗り物にすることに大きな貢献をしている.一方,航空機の整備作業は,ライト兄弟の時代から変わらず大半を人間が手作業で行っていることから,整備作業におけるヒューマンエラーをいかに減らすかが,航空機の安全向上の重要な課題の一つになっている. 全日空では,過去の経験から編み出してきた各種のヒューマンエラー防止手法と,ICAO(国際民間航空機関),IATA(国際航空運送協会),外国航空当局,航空機メーカー等による研究成果(ヒューマンファクターズ理論/方法論)を活用し,1995 年頃から現業部門のみならずスタッフ部門も含めた組織全体で,整備作業におけるヒューマンエラー防止のための実践的な取組みを展開してきた.
わが国における労働災害による死亡者数は,昭和36 年の6 712 名をピークに,その後は行政,事業主等による労働災害防止の取組みにより平成19 年には1 357 名と,ピーク時の約20%となる大幅な減少をみた. しかしながら,より一層の労働災害防止を図るためには,事業者による防止対策の徹底実施とともに,従業者も安全知識・技術等を自ら研鑽し習得していくことが重要である.しかしながら,現状ではこれら自己研鑽努力を促す効果を持ち,かつ到達目標となるような安全管理の技能に係る評価制度はない. このような状況を踏まえた新しい安全専門性の評価制度について,(財)安全衛生技術試験協会が設置した委員会から基本報告がなされたので,その概要について紹介する.
2008 年1 月7 日に韓国の冷凍倉庫で40 名が死亡するという大規模な火災が発生した.日本においても類似の火災が発生しており,この事故は冷凍倉庫火災の様相を知るための貴重な事例である.本報では火災発生直後の状況から鎮火後の調査まで詳細に記述されている.この報告が冷凍倉庫の防災対策の立案の参考になれば幸いである.