化学的廃棄物質による公害病の原因調査においては,安全工学の立場から病因物質の生成,排出及び拡散に関する汚染経過の調査を行ない,別に疫学の立場から病因物質の摂取(またはそれに対する暴露)とその影響についての発症原因の調査を行ない,両者の調査結果を総合的に判断して,初めて正しい公害原 因を解明得るものであるが,従来のNOx,SOxまたはメチル水銀問題における疫学調査においては,重 要な前者の汚染経過についての安全工学的調査を省略したために,その原因に対する結論に誤りを生じる 恐れがあった.
PC一メンブレン式低濫貯槽の安全性を検討する目的で,56.5cm3の半地下式貯槽を用いてプレストレストコンクリート躯体面への低温熱衝撃実験を行ない,次の結果を得た. 熱衝撃を受けたPC躯体の熱応力は,コンクリート許容引張応力の17倍もの値であったが,表面近傍だけのものであった.応力は,コーナ部のように拘束された部分に大きくあらわれた.また,躯体の破壊1こつながる現象はみられなかった.さらに,有限要素解析結果より定常熱弾性解析でこの現象を推測でき た.
たばこ火によるガス爆発の危険性がしばしば問題となる.そこで,まずたばこの種類や喫煙方法によるたばこ火の燃焼温度の差異を調べた.次にこの結果を基に着火する危険性の高い喫煙状態を想定し,種々の濃度の水素-空気あるいはプロパン-空気混合気中で喫煙を行なった.その結果,全般的には着火しにくかったが,水素では着火が認められた.また,着火しにくい理由に関して若干の検討を試みた.
活性な金属と強酸が異常接触をした場合の潜在危険性を熱力学的および速度論的に考察した.速度論的な知見を得るために各種の条件を有する硫酸溶液と,アルミニウム,亜鉛および銅を反応させた.いずれの場合にも金属は活性溶解した.各々の反応は硫酸濃度の変化に対して極大と極小を有した.これらの反応は表面中間体M(OH)adaの上でカソ一ド反応が起こるとするとよく説明できる.潜在危険性のある反応とその対策について安全工学の立場から検討した.この研究で得られた知見は類似の系に拡張できるで あろう.
両振り曲げによる繰返し疲労損傷を付与した切欠きを有する高張力鋼試験片に,定温及び一定付加応力状態下において陰極電気分解法により人工的に水索吸蔵処理を施こし,切欠き底における水素による遅れ破壊き裂発生時間が,疲労の累積損傷率の大小によってどのように変化するかを実験的に調べた. 曲げによる疲労の累積損傷が増加すると,水素によるき裂発生は早められる傾向があり,また,そのき裂発生時間短縮効果は損傷率が少ない範囲で著しいことが判った.さらに,損傷率増加に伴うき裂発生短縮の機構について若干の検討を行なった.
地盤上に,外径60m,幅1m,深さ1mのリング状の燃焼槽を掘り込み,これに灯油9klを使用して,6万トンのフロ一ティングルーフタンクのリング火災を想定した火災実験を行なった. その結果,火炎のみかけ平均高さを用いて,計算によって求めた輻射熱は実測値とかなり合うことが分った. またこの規模のリング火災では,2.6m/sの風速において,風下側でもタンクの中心より1D(タンクの直径)以上の距離があれば,そこで観測される輻射照度は2000kcal/m2・hr以下であることを確認した.
トラックにガソリンを給油中,ノズルの先から出火する火災が発生した.この出火原因を種々検討した.ガソリンタンクの給油口付近のガソリンベーバー濃度は,50mlこぼした場合,1m以内で着火下限値に達した.静電気による出火に関して,ガソリンの流動帯電および作業員の人体帯電について測定した.その結果,流動帯電はこの系において非常に少なく,人体帯電においても作業員の履物の絶縁抵抗が109Ω以上の場合のみ着火の危険性が生じた.トラックのバッテリとスタートモータ間の配線の短絡火花による 着火も検討した.