材料・機器の破壊は人問とともに歩み,工学・技術を支えてきた.また,破壊と安全は表裏一体の関係にあり,破壊事故がもたらす社会的影響は大きい.破壊と人間,社会,安全の関連を論じ,絶えない破壊事故から教訓を引き出す.破壊防止設計から破壊制御設計への発想の転換がこれに対処する道であり,さらに高齢化設備時代への保守管理の新しい展開を提言する、形あるものは必ず壊れる(寿命).人は死ぬ.生物(なまもの)は腐る.材料は劣化する.機器は壊れる.この認識が最も重要である.
実機の破面には破壊の履歴を示す幾何学模様が残されている場合が多く,この模様を解読することにより起点やき裂伝ぱ経路を推定する方法にっいて示した.また,電子顕微鏡で得られる代表的な破面形態を示すと同時に,ストライエーションを中心としたいくつかの疲労破面形態の定量結果と破壊力学パラメータを組み合わせた手法を破損実機に適用して,破損以前の稼動応力や破損までの寿命を推定する方法について述べた.さらに,この手法を破損したトラッククレーンのボルトに適用して稼動応力を推 定した例を示した.
機械設備の保全活動は,事後保全や時間計画保全から,状態監視保全を主体としたものへと変化してきており,今後は設備の劣化や寿命を予知し,破壊を合理的に予防していく予知保全の実現が期待され ている。 保全技術の新しい展開には,機械の構成部材の内部状態を正確に把握することが必要であり,このため,計測された物理信号から有用な情報を抽出する処理の高度化が課題となる. ここでは,物理信号のセンシング原理や信号解析法,対象の物理モデル,人間の情報処理様式などに新たな手法をとりいれ,計測対象から従来にない有用な情報を抽出している先端的な研究例を紹介して いる.
材料の経年劣化・損傷の検出・評価手法と,割れ,腐食減肉や孔食などの“きず”の検出・計測を主目的とする非破壊検査技術の現状と問題点ならびにその活用例などにつき述べた。特に,検査の自動化ときずの定量的検査と評価の可能な技法という観点から,いくっかの具体的な非破壊検査技術の概要を紹介した.
破壊の予知,地震の予知は大変困難な問題であるが,まったく不可能というわけではない.昔から多くの破壊予知の試みがなされてきた,鉱山では山鳴,炭鳴といった現象が早くから知られており,器機を用いて計測し始めたときは破壊音などと呼ばれていた.その後,技術の進歩により,多くの分野で使われ,材料変形・破壊の研究にも応用されAEと呼ばれるようになった.AEの発生のし方により,破壊真近か否かなど,またAEトモグラフィー技術による劣化の度合などが明らかになってきた.
今日まで橋梁に関連した技術が進歩し,現在では,スパン長が2000mクラスの橋梁を設計・施工できるようになってきた。しかし,過去においては種々の破壊が発生しており,橋梁技術の発展は破壊原因の調査・解明による面も多い.本報文では,橋梁の分野における代表的な破壊事例を紹介するとともに,破壊の代表的な要因である地震と風に対して,現在これによる破壊を防ぎ安全性を確保するために,どのような考え方に基づきどのような対策を行っているのかを述べる、また,最近の設計事例として明石海峡大橋と青森ベイブリッジの二つを紹介する.
AE法は,機体全体の検査が一度に行えること,欠陥の存在位置が同定できること,変動荷重下で進展する欠陥を検出できること,データベースを作成すれば試験結果の自動判定が容易に行えるようになること,などの特徴をもつ.それゆえ,飛行中における欠陥の進展モニタリング手法として,また加齢化した航空機の健全性診断法として,さらに新型機開発の基礎技術として広く用いられている.本稿では,非破壊検査法の一っであるAE法の,航空機に対する適用の現状についてまとめてある.
半永久的に使用できると考えられてきたコンクリート構造物が,実際には塩害やアルカリ骨材反応などによる劣化で耐久性に問題のあることが認められるようになった.また,岩盤構造物も地下応力や地下水などの要因により破壊が発生する.これらの構造物はその規模の大きさと建設後の供用期間の長さから,その破壊検知・予知に関する技術の研究・開発は社会的に重要な課題といえる.
現代の石油化学工業における生産システムは,高性能大規模化の進展するなかで,っねに破裂の危機を内包しているといってよい.この危険を防ぐ目的で従来から安全弁が使われてきたが,それでは不十分な場合が増えてきたため,破裂板やそれから発展した爆発放散口が使われることが多くなった. 本報では,この破裂板や爆発放散口による破壊防止の概要を紹介する.
化学工業の研究開発部門では,同種の製品を大量に生産する工場に比較して,研究者は少量ではあるが多種類の爆発性化合物や高圧ガスを長時間取り扱うのが一般的である.このため,爆発や火災事故が発生すると,その被害規模は小さいが災害の発生する確率は工場の場合よりも高くなることが考えられる.研究開発部門では,工場従業員と同程度以上の災害の危険性があることを認識し,工場とは異なった独自の安全管理のもとで安心して研究に打ち込める環境の整備が重要である.本報告では,研究所内で発生する爆発災害を対象とし,その安全対策の基本的な考え方を明らかにする.つぎに,実際に高圧ガスを扱う実験棟(高圧実験棟)の建設計画を進めるにあたり,研究所に特有な安全対策を盛り込んだ 具体的な設計例を示す.
石油タンクにおける貯油の漏洩・流出事故原因のうち,破損によるものは大量流出事故に至る危険性があるので,安全管理には取り分け注意が必要である. 本報は,はじめに石油タンクの腐食環境,荷重環境および部材の強度劣化について概説し,つぎにわが国で発生した特徴的な破損事故事例を紹介し,最後に破損事故原因の考察に基づき防止対策の要点に ついて検討したものである.
石油・化学プラント機器の疲労損傷・事故にっいて,文献の事例および著者が経験した解析例を紹介し,安全性向上を計る際の参考に供した.すなわち,まず米国で起きた常圧アンモニア貯蔵タンクの屋根側壁間溶接部の破壊事例を紹介した.っぎに,リサィクルガス洗浄塔のアンカーボルトが地震により変形した事例にっき,その残存強度を評価した結果を述べた.さらに,アミンリボイラー中のベローの熱疲労による破損例および避雷針ポールの強風による疲労破壊例を紹介した.