これまで展示会社の企画担当者(プランナー)という立場から,企業の安全体験研修施設の業務を多く担当してきた.その中で培った経験から,実際に企画を行いより良い施設づくりを目指すためには,何が大切かを実体験に基づきながら紹介を試みる.その際重視するのは,基本計画・基本設計・実施設計という段階的な内容構築の流れと各段階における留意点である.合わせて外部からの参画がどのような効用を生み出すかという視点についても言及を行う.
産業遺産体験研究会(以下,「産業遺産研」)は,事故や失敗からの学びを風化させないように原因物の保存活動を促進すること,安全体験・体感教育施設(以下,「体験教育施設」)の拡充を「見学記」発信を通じて促進することを目的に発足し,リスクセンス研究会(以下,「RS 研」)と緊密に連携して活動している.体験教育施設の見学記は,RS 研ホームページ「リスク体感・体験」コーナーで紹介している.産業遺産研は,GSEF 体験ネットワークの活動(GSEF 顕彰やGSEF フォーラムなど)に際し,①体験教育施設数の拡充,②体験教育施設の教育内容の高度化に向け,RS 研と協働している.これまでの活動を通じて得た体験教育施設の普及の過程を振り返り,今後に向けた提案を行う.
事故などが目標通り減少しない要因の一つとして,事故などの再発防止施策の多くが自社の「経験智」に基づいた,エンドレスに続けざるをえない“モグラたたき”的要素の強い施策に在る,と考え,その改善策として日本学術会議・人間と工学連絡委員会安全工学専門委員会が提唱した「安全工学」の体系に則った安全教育の手法を提案する.新しい「安全工学」は3 つの基本の要素,「人」「技術」「組織」からなる7 つの領域の研究成果を体系化し,3 つの要素が一体化した七番目の「人・技術・組織」の領域の教育まで目指すとしていて,“モグラ”の接近に科学的に対応することと現在実施している教育をその内容の位置を確認しながら推進することができる.本稿で「人・技術・組織」領域の安全体感教育手法として開発した「現場RS ケースメソッド®法」を紹介する.
火災や事故等のリスクに対して正当にこわがるためには,どのようなことが起きており,どのような対策が有効かということを,豊富な知見とデータに基づき整理・分析した上でしっかりと考察することが重要だと思う.本稿では住宅火災について,電気に起因する火災が案外多く発生している点に触れた上で,住宅火災による被害を軽減するためには連動型住宅用火災警報器の活用等による迅速な初動対応が極めて重要であることについてデータも示しつつ紹介したい.また,大量の可燃物が存在する建築物等で火災が発生した場合の延焼拡大危険性について具体的な事例を示すとともに,講ずべき対策についても紹介したい.さらに危険物施設における事故の発生状況を俯瞰した上で,産学官連携して事故防止対策を進めていく際に取り組んでいただきたいと私が考えている点についても述べたい.
山梨県は自立分散型のエネルギー社会を目指して,米倉山にて電力貯蔵技術研究サイトを運営している.その取り組みの一環として官民共同でPower to Gas システムの技術開発に取り組んでおり,1.5 MW の大型スタックや独自のEMS を新たに開発し,これらを活用した水素の製造,貯蔵,輸送,利用までの 一貫した実証をNEDO の支援のもと推進してきた.さらに,2022 年2 月にはこれまでの研究成果を事業化するために日本初となるP2G 専業企業である「やまなしハイドロジェンカンパニー」を官民共同出資で設立した.電化が難しい熱供給領域における化石燃料から転換を進めることで持続可能なエネルギー社会の構築に挑戦していく.
今般,新型コロナウイルス禍において落ち込んでいた観光・旅行事業も回復の兆しを見せ始めてきたなかで,北海道知床半島沿岸において小型旅客船が沈没し,多くの観光客が犠牲となる海難事故が発生した.観光事業におけるツアー商品に内在するリスクが顕在化した際に,非日常の時空間に遊びながらも生還するためには,組織,組織成員,そして客個人が危機に臨んでレジリエントに対処できなければ叶わない.当該事故を切り口に他の2 件のツアー商品の事故事例と比較しながら共通する要因を明らかにし,技術にも焦点を当て,ソフトとハードの両面から観光産業に内在する安全性に関する問題点を検討する.
機械設備によるはさまれ・引き込まれ・巻き込まれといった災害を防止るため,新規設備では,設計時点で安全確認に基づく安全制御による保護方策を行うことが有効である.しかし,既存の設備の場合は潤沢な費用をかけることが難しいという経済上の問題や,設備内に安全制御回路を組み込むスペースが無い等の制約があることなど工学上の点からも実行できないことがある.そこで,比較的安価で,安全制御回路の設計・増設も不要な方法で,安全性は同等な“しくみ”を用いた安全確認型の起動許可システムを考案し,実施した事例を紹介する.