安全工学
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62 巻, 6 号
安全工学_2023_6
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
会告
巻頭言
人間工学と安全工学 特集
  • 鳥居塚 崇
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 361-366
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    本稿では人間工学について概説し安全と人間工学との関係について述べた.人間工学とはシステムにおける人間と他の要素とのインタラクションを理解するための科学的学問であり,ウェルビーイングとシステム全体のパフォーマンスとの最適化を図ることを目的とする専門分野である.また人間工学はシステムズアプローチを取り,人間と他の要素の相互作用だけでなくさまざまな要素の相互作用を包括的に捉えることを必要とする.そしてその応用領域は多岐にわたる.このような人間工学は,安全,とくにヒューマンエラーや不安全行動の背後要因を探るためには非常に有益となる.後半は「安全状態の維持」に焦点を当て,レジリエンスエンジニアリングやノンテクニカルスキルの重要性について述べるとともに,安全分野でのこのような考え方の潜在性について述べた.

  • 榎原 毅
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 367-372
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,様々な分野で用いられるシステム概念について,ひとつの解釈としてルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィの提唱した一般システム理論をベースにその概念を論述・整理する.科学的手法では複雑な事象はそれを構成する要素に分解する還元主義をとるが,その限界が顕在化してきた中で一般システム理論は提唱された.システムには1)組織的な構造,2)複雑性,3)相互依存性と相互作用,4)恒常性とダイナミクスの4 側面が内包されているものと解釈できる.このようなスキームはシステム安全・組織安全分野のみならず多くの学術分野に応用され,人間工学分野においても踏襲されてきた.システム要件の理解と洞察は,より複雑化・高度化が進む現代社会における全体最適化を図る解決志向型の枠組みとして重要になる.

  • ヒューマンエラー防止対策の検討
    島田 行恭
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 373-379
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    人間工学の分野において,ヒューマンエラーは「効率や安全,システムパフォーマンスを阻害する,または,阻害する可能性のある不適切な,または,望ましくない人間の決定や行動」と定義されている.ヒューマンエラーによる事故発生を防止するためには,予期せぬヒューマンエラーを事前に想定し,対策を検討・実施しておく必要がある.労働現場においては,ヒューマンエラーを発生させる要因は作業者による「うっかりミス」と「意図的なルール違反」に分けることができ,それぞれへの対策の検討方法は異なる.本稿では,労働安全衛生総合研究所が提案しているヒューマンエラー防止対策の検討方法の紹介を通して,事故発生シナリオにおける人間の関与とその対策の検討・実施について述べる.

  • 中西 美和
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 380-383
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    安全致命性の高いシステムにおいて,人間は,リスクの一要因であると同時に,あらゆるリスクを特定し管理する上で不可欠な存在でもある.人間工学/ ヒューマンファクターズの担う大きな役割の一つは,このようにシステムの運用を良くも悪くも左右する人間の特性を適切に理解し,システムが安全と生産とをより高いレベルで実現できるよう種々の条件をデザインすることである.そして,今日,このデザインの対象は,技術変革,人材育成,規程類,組織理念等まで広範な組織マネジメント要素に及ぶ.本稿では,このように広範な組織マネジメント要素をスコープにいれて議論すべき今日の安全管理において,特に考慮すべき人間特性について解説する.

  • 菅間 敦
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 384-389
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    労働安全衛生においては,高所からの墜落・転落や転倒による事故の防止は重要な課題となっている.これらの事故は,人の姿勢のバランスが崩れることが関係しているため,事故の防止には人の運動特性に対する理解が必要となる.また,作業環境において,人の運動機能を低下させ,バランスの崩れを引き起こす要因は多数存在しているため,これらの要因の影響を理解し,コントロールすることも必要となる.本稿では,静的なバランス制御問題として墜落・転落事象に,動的なバランス制御問題として転倒事象に着目し,運動特性と,人間工学的観点から災害防止策について言及する.

  • 梶原 祐輔
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 390-395
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    人工知能(AI)は産業,交通,医療などの様々な分野で利用され始めている.一方,AI と人間のインタラクションにおいてヒューマンエラーも発生している.AI は予測困難な状況に弱く,敵対的攻撃に脆弱である.ゆえに予期せぬ状況が発生した場合,人間のオペレータが状況を認識し,意思決定する必要がある.動的な状況認識モデルや意思決定モデルは多数提案されているが,現在のAI と人間のインタラクションにおける実証実験の結果とこれらのモデルを結び付けている研究は少ない.そこで本稿では産業,交通,医療におけるAI と人間のインタラクションにおける最新動向と課題を紹介し,今後の安全管理の展望を述べる.

  • 労働安全衛生との関わり
    北條 理恵子, 清水 尚憲, 向殿 政男
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 396-403
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    持続可能な開発目標(SDGs)は,「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」に記載されている国際目標である.国内外でSDGs への概念が広まり,参画を表明する企業が増えるにつれ,「ウェルビーイング」についても注目が集まっている.本稿では,ウェルビーイングの概念を概説し,労働現場での働く人のためのウェルビーイングの在り方及び評価法を提案する.だれもが働きがいのある人間らしい仕事ができること,すべての人が働く権利のもと安心・安全に仕事ができる環境を構築することなどを,これからの労働安全衛生のターゲットとして働きかけを行う.具体例を挙げながら今後の労働安全衛生の進む方向性を考察する.

  • 安全文化を礎とした絶えざる営み
    長谷川 尚子
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 404-410
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,不測の事態に数多く接しながらも惨事に発展させない高信頼性組織を取り上げ,システムと人間の良好なインタラクションについて論じる.高信頼性組織は,問題の発生を継続的に警戒し,問題に対処するための心理的なレディネスの高さ(マインドフルな状態)を維持している組織である.このマインドフルな状態を維持するための特徴的な5 つの組織行動について,初めに概説する.また,これらの組織行動の礎となるのが安全文化であることから,本稿後半ではReason およびSchein の安全文化の考え方を紹介し,組織文化(安全文化)の成り立ちについて議論する.

  • 社会技術システムのレジリエンス向上への取り組み
    北村 正晴
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 411-418
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    様々な社会技術システムを対象として,実務現場で実践されている良好実践事例を収集し,それらの良好実践事例をより適用性の高い教訓へ転化する方策について説明する.通常の安全探求の方法論においては,事故やトラブルが生じた際に,その原因となった装置や部品を探り当てて,それらを修繕または交換するという方策を通じて安全が探求されてきた.この伝統的な方策を良好実践ベースの安全探求方策で補完する本稿のアプローチは,今後ますます複雑化する社会技術システムの安全を守るための重要な挑戦である.ただこの良好実践ベースの安全探求方策を現実の業務場に実装するに際しては,いくつかの困難が伴うが,その困難の由来と解消方策についても解説する.また,国内外で着手されている有力な実践研究例についても紹介して安全を担う皆様方の参考に供したい.

  • 「うまくいくための工夫・コツ」への着目
    楠神 健
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 419-427
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    鉄道の仕事をKahneman のシステム2 やHollnagel のSafety-II の概念を用いて考察するとともに,JR 東日本で実施している「『うまくいっていること』にも着目する取組み」の展開を紹介した.具体的には,(1)安全に作業するためにマニュアルが活用されることが多いが,人間の作業のかなりの部分をシステム 1 が占めることを考えると,マニュアル順守のみではエラー防止は難しく,システム2 が適宜介入しリスクを回避できる力が重要であること,(2)実際の鉄道従事員の「うまくいくための工夫・コツ」を調査すると,それに類する構造(リスクを察知しひと手間かける)がみて取れ,すでにパフォーマンス調整が行われていること,(3)そういったことを考慮しながら,現場における「うまくいくための工夫・コツ」の抽出・共有化を支援するツールを開発し,取組みを展開していることなどを述べた.

  • 医療での事例を交えて
    前田 佳孝
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 428-434
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    事故の再発防止にあたって,現場からのインシデントレポートは重要な情報源である.しかし,その報告制度においては,(1)報復への恐れ,(2)不適切な報告フォーム,(3)報告基準の曖昧さ,(4)レポートの質より量を優先する考え方,(5)レポートからの不十分な学習,(6)レポートに関する教育不足といった課題が指摘されている.これらによって生じる現場の問題は複雑に絡み合っており,関係するエンドユーザーも多い.そこで本稿では,こうした課題の解決アプローチとして,人間工学が重視するシステムズアプローチ(システム全体の最適化を目指し,複雑な問題を包括的に解決する方法)や,幅広いエンドユーザーの関与の重要性について解説する.その事例として,医療でのインシデントレポートの質向上に関する訓練設計とその効果の検証について紹介する.

  • 日々変化する現場の安全確保には,人そのものに着目した対策を
    細谷 浩昭
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 435-441
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    建設業における労働災害とりわけ死亡災害は,ピークであった昭和36 年に比べ10 分の1 程度まで減少してきてはいますが,減少率は鈍化しており,災害発生状況の内容も墜落・転落災害,建設機械・クレーン等災害及び倒壊・崩壊災害という三大災害が大半を占める構図は半世紀以上変わっていません.こういった状況を打開するためにも,物的・管理的対策に加え,人そのものに着目した対策が必要と考えます.

  • 狩川 大輔
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 442-447
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    航空管制業務は,「二度と同じ状況はない」と言われるぐらい多様で変化に飛んだ航空交通流を扱う業務であり,多数の航空機の安全かつ効率的な運航を支えている.本稿では,航空管制業務の一つである航空路管制業務の概要について述べると共に,航空路管制業務を対象とした人間工学的研究の一例を紹介することを通じて,変化する条件下で高い安全性を実現する上での航空管制官の持つ適応能力と状況に応じた動的な調整が果たす役割について概観する.それに基づき,人間の弱点の補完や失敗を防ぐための従来型の方法論に加えて,人間の適応能力を支援し,積極的に活用することにより,想定内外の変化に対するシステムの安定性・安全性を高めるという方向での安全アプローチの必要性について議論する.

  • 小松原 明哲
    原稿種別: 総説
    2023 年 62 巻 6 号 p. 448-454
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル 認証あり

    安全及び安全工学における人間工学の役割・課題・展望について検討する.まず,本稿においての安全の意味を確認する.その上で,生産と安全,安全活動との関係は,太古の昔から変わっていないとの小文を提示し,人間工学の役割とアプローチを確認する.最後に,安全における現状の人間工学の課題を述べ,安全におけるこれからの人間工学について展望する.

論文
  • 加藤 勝美, 羽場 彩音, 東 英子, 佐分利 禎, 岡田 賢
    2023 年 62 巻 6 号 p. 455-464
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,硝酸エステル類の安定度試験であるメチルバイオレット紙試験(MV 試験)を標準化・規格化するための基礎的研究として,MV 試験を様々な実験条件にて実施し,各種条件の違いがMV 試験結果に及ぼす影響に関して検討した.試料の加熱温度,加熱方法,および試験紙(MTC /NDS)の違いにより安定度の評価結果が変わることなど,MV 試験の実験条件および実施方法に関する知見を得た.また,より安全な試験方法を提案することを目的として,検知管を使用した小スケールNOx 測定試験を実施し,安定度試験としての適用可能性を検討した.その結果,NOx 測定結果からMV 試験結果を予想することができ,実験結果に基づいて安定度評価フローを提案した.

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