人為起源の温室効果ガスの増加に伴い地球温暖化が進行している.地球温暖化は全球気候モデルに温室効果ガス排出シナリオを与えた大規模数値シミュレーションで予測されているが,高解像度の地域スケールの気候変化予測は,全球気候予測のダウンスケーリングで推定されている.これらの予測研究によって,地球温暖化によって豪雨頻度が増加することが予測された.一方で,地域スケールでの降水量予測の不確実性が非常に大きいことが示された.猛暑頻度の増加などの高温リスク,積雪水量の減少と関連する水不足のリスクも合わせて指摘される.豪雨災害に対しては,降水予測の難しさがあるものの,防災上重要な2 ~3 時間程度先の降水予測技術の開発などが精力的に進められている.
近年,気候変動に関連し世界中で猛暑が頻発しており,これらの猛暑の発生頻度は今後ますます増加すると予測されている.猛暑は人間健康や電力需要,農業等へ悪影響をもたらすため,これらの具体的な対策を立てる必要がある.そのためには猛暑の特徴を理解することが望ましい.そこで本稿では近年国内で発生した地域スケールの猛暑の特徴について解説する.
近年,豪雨による災害が各地で頻発しており,今後もこの傾向がより激化することが予想されている.堤防は,河川と住民が住むエリアの境界に位置しており,洪水氾濫に対する最後の砦という重要な役割を担うが,毎年各地で決壊事例が報告されている.本報では,河川堤防の概要や設計上の考え方,堤防決壊メカニズムについて取りまとめる.また,最近の決壊事例としては,2015 年関東・東北豪雨による鬼怒川の堤防決壊を紹介する.最後に,堤防強化技術の現状について説明する.
平成26 年8 月20 日,広島県で発生した豪雨により死者77 名(災害関連死含む),物的被害5 237 棟と甚大な被害がもたらされた.特に被害が大きかったのは166 箇所で土砂災害が発生した広島県広島市安佐南区・安佐北区であり,人的被害の多くは土砂災害によるものであった.安佐北区可部東六丁目で発生した崩壊現場では,住民の救助活動中に土砂が再崩壊し,消防職員と住民1 名が巻き込まれ死亡する事故も発生した.本論では,2014 年広島豪雨災害で発生した土砂災害現象についてその特徴を紹介すると共に,被害が拡大した原因および今後の対策についての考察を行った.
各企業では行動標準書や手順書を作成し,様々な安全活動が行われているのに,現場の管理者はなぜ現場の安全確保に疑心暗鬼になっているのか?歴史を振り返ると,現場一線から作業長,中間管理者,経営層すべての階層で『質』が変化していることがわかる.そこで,現状の状況を前提に,如何にしたら安全職場を築けるか,中間管理職,現場リーダ,現場中堅者の3 階層を鍛える人材育成方法を述べる.安全は一朝一夕で築けるものではなく,連続した一連の育成を継続することが不可欠であることを理解してほしい.
近年,抗菌薬や抗ウイルス薬(抗菌薬等)の不適切な使用等により,抗菌薬等に耐性を持つ(抗菌薬等が効かない)菌やウイルスの発生が問題になっている.薬剤耐性菌等が発生・増加することで,従来,薬の投与で治癒していた患者が治癒しにくくなり,結果的に感染症が拡大することや,死亡率が上昇することが懸念されている. 本稿では,国を挙げて実施している「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」等や世界保健機構(WHO)を中心に実施されている対策について,現状と課題を俯瞰するとともに,今後の課題を整理した.
市街地火災の延焼状況を予測する手法は従来から盛んに研究が行われてきたが,近年,計算機技術の進展によって複雑な計算を高速に行うことが可能となったため,古くから用いられてきたマクロな計算手法に加えて,燃焼現象や輻射伝熱など高度な計算を盛り込み,個々の建物の燃え広がりを計算する方式の市街地火災延焼シミュレーションが開発されている. これらの市街地火災延焼シミュレーションは,地震時の同時多発火災による市街地火災の被害予測や,消防活動計画の事前策定,都市計画の策定などに用いられている. 本稿では,市街地火災延焼シミュレーションについて幾つかの例を紹介するとともに,平成28 年12 月 22 日に糸魚川市で発生した火災1)に対し消防研究センターが開発を行ってきた市街地火災延焼シミュレーションソフトウェアを適用した結果について紹介する.
消防活動は,嫌気性代謝が卓越するほどの負荷のかかった状態で活動を継続する高負荷活動の一つである.このため活動時の隊員の労働安全の確保は非常に重要である.血中乳酸値は侵襲的に,呼気情報は非侵襲的に計測できる身体状態を評価するための指標であるが現場適用が難しい.本研究では,リアルタイムで非侵襲的に計測できる心電情報に注目し,時間的に負荷のかかり方が異なる3 種類の嫌気性代謝が卓越した負荷試験を行った.心拍変動の周波数解析と実測結果を基に,心肺機能への負荷状態を客観的に推測できる呼吸反射指標(RiR)を提案した.RiR の時間的な急上昇は,従来の血中乳酸蓄積開始点あるいは呼気情報から判断される嫌気性代謝が卓越しだす時間と良く一致することが判った.提案指標によりさらなる現場活動の安全化・効率化が期待される.
船舶海難防止を検討する上では,人的過誤の背後要因の分析,それら事故の共通特徴や事故に関わった乗組員の挙動を知ることが必要となる.過去の海難から傾向を得るには,海難審判所より公表されている海難審判裁決録の参照が可能である. 本研究は裁決録の分析により,海難事故における共通した特徴の抽出に取り組んだものである.人的要因の抽出と事故傾向の分析には,航空輸送分野でノンテクニカルスキルの訓練ツールとして使用されているTEM モデル(スレット&エラーマネジメントモデル)を適用した.分析の結果,TEM モデルにおける船舶の状態である「スレット」「エラー」「望ましくない状態」の認識傾向が小・中・大の各船型で異なることが示唆された.また各船型における「スレット」「エラー」「望ましくない状態」とその対処失敗原因の関係性から対策を考察した.
近年の製品の多様化により,機械や生産システムもそれへの対応を余儀なくされている.例えば,車はこれまでの内燃機関から電気自動車への転換が見込まれ,これまで主要機能として,機械要素がほとんどを占めていたものが電気設計の要素が格段に増えていく.この様に新たな機能や商品が新たな機械や機械機能を求めるようになっていくことは容易に想像がつく.ここで取り上げるシステムインテグレータは,まさに多様化する社会の求めに応じ,社会の要求にこたえていく存在であり,安全も含めたシステム設計には,経験で培われた膨大なノウハウが必要となる.この研究はシステムインテグレーションのうち,インテグレータが担う役割や,安全関連設計のノウハウの一端を明らかにすることを試みたものであり,少しでも多くのインテグレータにとって有用であることを願っている.