人体の環境からの化学物質摂取量を推定するには,その環境中での人体に至る経路をモデル化し,代表的な人間集団について,人体の吸収率も考慮した曝露量評価が必要である.このようなモデルは,様々な時間スケール・空間スケールで評価されるが,流域というのは対応する大気や土壌も含めその代表的空間スケールとして妥当である.さらに,使用目的などを考慮して,モデルの最適な精密さを選択するとともに,その推定結果が持つ不確定性も評価する必要がある.また,簡単な多媒体モデルを通常のコンパートメントによるシステム解析モデルとフガシティモデルで表現することで,フガシティモデルは,通常のシステム解析モデルと本質的には同じであること,平衡状態からのズレがわかりやすい,といったメリットがあることなどを示した.
「2020 年までに化学物質による悪影響を最小化する」という国際的な合意(WSSD2020 目標)に触発され,近年,世界中の化学物質関連法規制(化審法やREACH 等)が整備・強化されつつある.しかし,膨大な数にのぼる化学物質のリスクを1 つずつ適切かつ効率的に評価して管理するには,2 つの要素技術研究,すなわち,化学物質による影響を「リスク」として適切に評価できる手法の確立と,適切なリスク評価手法による評価を加速化させる技術の開発が不可欠ある.本報文では,日本社会におけるWSSD 2020 年目標の達成を見据えて,筆者がこれまで取り組んできた「個体群レベル生態リスク評価手法の開発」と「生態リスク評価の効率化・定型化・標準化を支援するツール開発」について紹介する.
21 世紀の新たな社会構築のためには,安全を支える学問もその仕組みを再構築する必要がある.安全・安心という二つの概念を明確にしてそのあるべき姿を実現できる安全工学であるためには,これまでの個々の研究に加え,社会が要求する状況を創造するために,必要な研究・開発事項を明らかにして,学際的な取り組みにおいて,既存の枠組みを超えた対応が求められている.
「南海トラフ巨大地震」や「首都直下地震」の経済被害額が次々に公表されている.政府は被害想定に基づき各種の対策を講じることとなるが,経済被害額が意味することは広く社会で共有されているとは言いがたい.経済被害額そのものに目を奪われるのではなく,その推計方法の背後にある考え方や仮定もしくは限界を知ることが,経済被害を正しく解釈する上で重要であり,これにより政府の経済被害対策等を適切に評価することができる.本稿では被害想定における経済被害額をいかに解釈すべきかについて,東日本大震災で生じた経済被害を事例に挙げつつ論じる.その過程で災害の経済被害をストックとフローの概念を用いて整理し,経済被害は,災害の影響をより包括的に捉えるフローの価値で評価すべき事を説明 する.最後に経済被害の定義と推計手法に関わる今後の研究課題について説明する.
本稿は,子供たちの未来に残せる安全社会実現を目指すことを目的としている.国際安全規格に基づいた安全の考え方を用いて,本質的に安全化された家をどのように考えるべきかのプロセス全体を示す.
本研究では,一般的なリスクの概念を考察するとともに,リスクの発生要因であるハザードに焦点を当て,視覚障害者が抱えているリスクを分析することによって,それらを防ぐ改善案を検討するためのハザード改善マトリクスを提案する.視覚障害者には全盲,弱視など様々なカテゴリーがあるが,該当者が有するリスクは,盲導犬や白杖などの介助・補助によってある程度は回避することができる.しかし,視覚障害者本人が改善できるハザードは比較的少なく,他者や社会の努力によって改善されるべきハザードが多くあると考えられる.本稿ではこのことに着目し,提案するマトリクス書式を活用することによって,ハザードの分類とそれに伴うリスクの削減策検討に資することを目的とする.
最近,化学産業の重大事故が続いており,業界をあげてその対策に取り組んでいるが,これらの事故の調査報告書には,直接原因に対する再発防止対策のみならず,その背景にある安全文化面の原因を追究し,安全文化醸成のための対策まで検討されている.これらの原因を安全工学会の保安力向上センターが進める安全文化診断の各要素に分類したところ,「積極関与」と「学習伝承」に分類されるものが多く見られたが,一方で,要素間にまたがるものも多く,要素間に重なりがあるためと考えられた.そこで,新たにシステムシンキングの考え方を導入し,各要素間の因果関係を考慮した因果ループを提案した.安全文化面の原因がどの要素と関連しているかを因果関係に基づくループとして認識でき,上流の要素に遡って原因検討を深めるとともに,ループ間の関係をもとに安全文化全体を視野に入れた検討が可能となる.