2011 年3 月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震による深刻な津波災害および原子力事故は,我が国の防災・減災・国土政策に大きな課題をつきつけた.国民の生命と財産に重大な影響を与えることなく,国土・環境・国民生活を護り,社会・経済・文化活動の著しい停滞を防ぐことを目標に,日本学術会議土木工学・建築学委員会の呼びかけで2011 年5 月に集まった24 学協会による「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」とこの活動を引き継いだ「防災学術連携体」(現在57 学会)の活動を中心に,学術連携によって,何を情報発信したか,どのような方々と情報共有を図ったかを具体的に紹介する.さらに,安全・安心・快適な社会生活を護るためには,学術連携のみならず,府省庁,自治体,市民を交えたさらなる情報発信・情報共有が不可欠であることを述べる.
新エネルギーガスとしての活用が期待されているLPG について,インフラや各種機器への適用を想定したリスクアセスメントに活用できるデータの整備を目指し,LPG の火炎伝播速度に及ぼす初期環境湿度の影響を実験的に調べた.実験には容積1.36 L の円筒形燃焼容器を用い,LPG/Air 混合気及びLPG/O2/N2 混合気を対象として,LPG 濃度及び初期環境湿度をパラメータとした.火炎伝播速度はシュリーレン撮影画像より読み取った.その結果,LPG/Air 混合気では燃料希薄領域では絶乾時のほうが湿潤時よりも大きな火炎伝播速度を示すが,燃料濃度の増大に伴って両者の差が小さくなった.LPG/O2/N2 混合気の場合は,燃料希薄組成では両者の差はほとんどなく,燃料過濃組成では逆に湿潤時のほうが絶乾時よりも大きな火炎伝播速度を示した.また,火炎伝播速度が最大値を示す初期環境湿度は,LPG 濃度の増大に伴って大きくなった. これらの結果をもとに,初期環境中の水分がLPG の火炎伝播速度に及ぼす影響について考察した.LPG の燃焼に対する初期環境中の水分は,未燃のLPG が水分中の酸素由来のラジカルと反応することによる燃焼促進効果と,水分の存在により相対的に容器内の酸素濃度が低下することによる燃焼抑制効果の 2 つが同時に発現し,その発現比率がLPG 濃度及び酸素濃度によって変化すると考えれば実験結果を明確に説明できることがわかった.
2020 年までに化学物質による健康と環境への悪影響を最小化することを目標に掲げた,「化学物質管理に関する長期目標(WSSD2020 年目標)」を達成するため,各国の化学品に関する法規制が整備,施行されてきた.2007 年に欧州で施行されたREACH は世界的に影響を与え,その法体系を取り入れる動きが広まるなど,国際標準的な存在となっている.欧州,米国,日本などの主要な国々の化学品規制動向を通じて,化学産業界が直近で対応しなければならない課題を整理するとともに,持続可能な社会を実現するための長期課題を展望する.
我が国では,明治時代に入り殖産興業政策とともに各地で鉱業も盛んになりその産出量が急増した.当初は原因や治療のなかった病的骨折の多発によるイタイイタイ病(イ病)もこの時代に発生した.鉱業による煙害・水害へ対策が功を奏さないために農林漁業や人体被害は量質の両面から著しくなった.鉱毒による煙害・水害への対策が整うまでに数十年を要した.それには科学・技術的な進歩も大きく貢献した.これに比べて法的整備など行政面での対策ははかどらなかったが,昭和43(1968)年6 月のイ病鉱害裁判での被害者団体の勝訴はその促進に大きく作用した. 本報では,我が国の主要な鉱毒による被害そしてその対策の歴史も振り返りながら,イ病のそれを主軸にそれぞれについて今日的意義を含めて論じた.
自動車の自動運転が社会における重要なトピックとなってもはや5 年以上が経過している.それにもかかわらず,「自動運転」の実現はまだ遠いように見える.果たして自動運転は本当に実現可能なのか?本稿では,この問いを立てること自体が必ずしも適切ではないという立場をとる.そのうえで,どのような自動運転を実現していくか,自動運転技術をどう社会に活用するかについて考えることの重要性を改めて指摘するとともに,筆者が重要と考える論点をいくつか紹介したい.
産業界の労働災害とプロセス事故を予防するため,様々な安全活動が展開されている.災害情報センターによる事故情報データベースを活用することで,類似事故防止の手がかりが掴めると共に,市販ソフトウェアでの構築によって検索操作が比較的容易なことから現場安全人材の育成に役立つものと期待できる.保安力向上センターによる保安力評価では,国内外の主要事故と関連性の高い原因の一つである保全規定基準類の順守状況が点検できること,従業員へのインタビューを通じて安全文化を醸成する価値観を探ろうとすることなどに特徴が見出された.また,国の官民協議会では,これまで以上に安全投資への関係者の理解を求めるべく,その経済的評価手法の標準化を検討中である. 本稿では,こうした様々な安全活動の概況と効用について紹介する.
システム開発の要件定義工程において,STAMP/STPA の適用により得られる損失シナリオから導出したコンポーネント安全制約を,開発へ直ちにフィードバックすることは,開発早期でより安全性の高いシステムを構築する上で重要である.本論文では,STAMP/STPA での解析対象となるコントロールアクションから抽出した非安全なコントロールアクションに優先順位をつけて解析を実施する手法を示した.非安全なコントロールアクションは,システムハザードに至り,そのハザードは損失を引き起こす.そのトレーサビリティを利用して,非安全なコントロールアクションに関連づくハザードの影響度から,安全解析の優先順位をつける.システム全体を構成する各要素に対して,本論文で提案する手法でSTAMP/STPA を適用し,優先順位の高い非安全なコントロールアクションから順次,解析する.その結果として得られた,損失シナリオから導出したコンポーネント安全制約を要件定義工程へ逐次的にフィードバックする.それにより,開発早期でのより安全性の高いシステム開発を目指した.そして,放射線治療装置へ適用することで,STAMP/STPA の実施における非安全なコントロールアクションへの安全解析の優先順位づけに対する課題の解決手法を提示することができた.