ヒューマンエラーに関する検討では,その原因を明確にすることが重要である.ヒューマンファクターズの分野では,これをPSF(Performance Shaping Factors)とも呼ぶ.本論文では,このPSF についての紹介と,PSF を未来のヒューマンエラーの要因,すなわちヒューマンエラー・シーズとして分析する方法,さらにヒューマンエラー・シーズをもとにヒューマンエラーの発生可能性を評価する方法について論じる.また,このヒューマンエラー・シーズ分析を病院の看護業務に適用した例を紹介する.
産業安全に関する視点や実際の活動は産業社会の動きと連動しながら,その底流において長足の進歩を示したが,一方で重大災害が続発している.こうした産業現場における安全の状況を読み解くために,産業構造全体の枠組変化,産業現場のリストラと構造変化,働き方の変化などをとりあげた.これらの状況変化に対応した新しい安全戦略(視点)の提案とともに,ヒューマンエラーと災害の関連を重視した対策,現場参加による戦略的なリスクアセスメント,予防対策と事後措置対策の同時実現が重要であると述べた.
近年の科学技術の発展はめざましく,現代社会は科学技術の恩恵を享受している.一般市民から見ても携帯電話,パソコンやインターネットの普及,電化製品のIT 化などが生活を大きく変え始めていることを実感できる.グリッド・コンピューティングが実現されれば,ビジネス分野の情報サービスも劇的に変化する.ユビキタス・ネットワークや超小型IC チップ(無線タグ)も社会生活やビジネスを大きく変える可能性がある.このような現代社会や近未来の社会では,科学技術の恩恵とは裏腹にいままでにない新たな脅威が発生する可能性がある.本稿では,現代社会が直面している科学技術の脅威に対してどのように対処すべきか,危機管理の観点から検討する.
本論では,技術の実践において「安全」という価値(およびその反価値である「リスク」)の持つ意味について考察する.まず,「技術者倫理」とはなにかという問題について議論し,高度技術社会において技術者が特別な倫理的責任を持つ理由を,「社会契約」および「相互依存性」モデルを使って論ずる.つぎに,ワインバーグの「トランス・サイエンス」という考え方を参照しながら,リスクの客観的評価には限界があり,その受容可能性の決定には,科学技術の枠をこえた要素が働くことを明確にするために,原子力発電と遺伝子組替え作物を特殊なリスクを持つ技術の具体例として検討する.最後に,市民参加型のテクノロジー・アセスメントとして注目されるコンセンサス会議の結論に言及し,技術に関する社会的合意形成に参画することは,技術者の倫理的責任であることを主張する.
これまでの廃棄物処理およびリサイクルに関する施策では,依然として高止まりの廃棄物発生,廃棄物の質の多様化,最終処分場の逼迫等の問題を解決できなかった.そこで国は,「循環型社会形成推進法」を制定し,廃棄物の資源化を推進するため各種リサイクル法の整備を図るとともに,「循環型社会形成推進基本計画」を策定することにより,循環型社会の形成に関する施策を総合的かつ計画的に推進している. ここでは,これら法制度の整備状況と関連する施策の展開について紹介する.
地球の長い進化の歴史の中で,厳しい環境に適応してきたものが現在まで生き残っており,その数は200 万種を超えるといわれている.その中のたった一つの種であるわれわれ人間も,かつては厳しい自然と対峙することによって自らを環境に適応させる能力を身につけてきた.しかし現在,われわれはその適応能力をほとんど使うことなく,技術によって厳しい自然から隔絶した快適な人工環境を作るという生き方を選んでいる.一方,昆虫は地球上のさまざまな環境の変化にそれぞれ巧みに適応した結果,100 万種以上もの種類に分かれて進化の一方の頂点に立っている.3 億5 千万年もの昔から厳しい自然環境の中を生き抜いてきたコオロギの生き方を通して,身の丈をはるかに超えてしまった私たち人間の生き残り戦略について考えてみたい.
近年,環境有害物質である塩化メチレンを用いないプロセスを開発することの重要性が高まっている.写真用素材,特に2 当量カプラー製造に欠かせないハロゲン化工程において,種々のハロゲン化剤と反応しない塩化メチレンが従来より多用されてきた.今回,クーリングタワーの洗浄等に大量に用いられ,そのため安価に入手可能な1,3─ジハロージメチルヒダントインに着目し,それらの塩化メチレン以外の有機溶媒中での安全性を評価し,安全に使用できる溶媒を選別し,環境にやさしいプロセスとして実用化した.本稿では,2 当量カプラー製造の概要,該ハロゲン化剤と種々の溶媒との混合熱測定結果,溶液のDSC 測定結果について紹介する.
最近,米国を中心に,反応性化学物質に関係する事故を防止するために,化学反応危険性を特定し,安全管理する必要性が指摘されている.本稿では,4 回に分けて,反応性化学物質の安全管理と危険性評価手法について概要を紹介する. 本号では,米国における化学反応危険性に関する出版物の内容紹介と,規制当局や業界団体の動向を紹介する.