技術伝承の問題はさまざまな産業の現場で,業務の安全確保に脅威を与える現場の組織的要因として顕在化しつつある.本稿は,この問題に取り組んでいくために,まず作業者から中間管理職,経営陣まで組織全体が自社の持つ技術や知識・経験を評価し,これを失うことのリスクを認識しなければならないこと,また技術伝承の方法として,既存の教育訓練の仕組みと知識科学等の最新の知見を,現場の状況に応じて組み合わせる工夫が必要であること,これらを先進事例を通じて述べた.
本年は例年を大幅に上回る量のスギ花粉が飛散し,多くの国民が花粉症に悩まされた.花粉症を始めとするアレルギー疾患の罹患者数は増加の傾向にあり,その対策が重要かつ,急務とされている.アレルギーを引き起こす要因としては,花粉のほか,ダニ,カビ,食物など多岐にわたっている.特にさまざまな食物によって誘発される食物アレルギーは,死亡例も報告されていて,軽視できない問題となっている.そこで,本稿では,食物アレルギーについて,現状,背景,要因,対応などを食の安全・安心の視点に立って整理し,概説した.
破壊事故の検査では破断面の微視的な様相の検査とともに,マクロ的な破断面の検査が重要となる例が多い.しかし,一部の構造部材では重要な強度部材として使用される球状黒鉛鋳鉄の場合,破壊挙動の変化に伴う破断面のマクロ的な様相の変化について,必ずしも系統的に検討されていない点が多い.したがって,破断面のマクロ的な様相の観察から,部材の破断状況,あるいは破壊形態を推定することが困難な例が多い.このため,本報では,代表的な球状黒鉛鋳鉄について,応力集中係数の変化に伴う破壊挙動の変化とともに,破断面上のディンプル破面率はどのように変化しているか,静的な引張荷重下における破断面のマクロ的な様相の変化特性を,一般的な構造用鋼材の場合と対比して検討を行った.
嫌気性海水中における鋼の腐食に関して,30 m3 鋼製水槽を用い実験を行った.水槽内の海水温度は,自然海水の季節変化を模擬することができた.硫化物濃度は,季節で変動し最大値が1.38 mg・L─1 であった.季節ごとに試験片の浸漬実験(10 日間)を行ったところ,腐食速度は硫化物濃度1 mg・L─1 までは濃度とともに増加したが,それ以上の濃度では急に減少した.また,その関係は,硫化鉄皮膜の形成状態に対応していることがわかった.一方,連続浸漬実験では,平均腐食速度は時間とともに低下した.しかし,211 日間で深さ0.034 mm の孔食が生じ,その進展速度は0.058 mm・y─1 であった.これは,嫌気性環境でも腐食速度が大きいことを示している.本実験より長期的な腐食挙動は,短期的な実験からは判断できないことがわかった.
来年度に5 回「化学関連事故のさまざま」と題して連載する.最初に総論として,私が常日頃事故について感じていること,考えていることの一端を述べる.今回は具体的な事故例は記述しない.連載で取り上げる事例は失敗知識データベース整備事業の化学物質・プロセス分野でデータベース化した333 件の事故を中心に,筆者が直接経験した,あるいは身近に見聞きした失敗事例を例にして記述する.なぜ事故に至ったかを直接原因,間接要因をできるだけパターン化し,事故防止のヒントになるよう記述する.従来の教科書によくある爆発,火災といった事故種類,あるいは反応・分離といった単位工程に分けることはしない.同じ事故でも違った切り口で取り上げることがある.
2004 年12 月26 日にスマトラ島沖で発生した巨大地震津波は,甚大な人的,物的被害を生じた.この地震では,被害推定や初動対策において津波の数値シミュレーションや人工衛星画像が活用された.本稿では,モデルおよび数値シミュレーションにかかわる基礎的事項と現状についてレビューするとともに,今後津波防災の分野においても活用が期待される地球観測技術,特に衛星リモートセンシングの現状と展望について述べた.
今回は,金属等の導体の帯電機構として特に重要な静電誘導現象に関する実験を取り上げる.静電誘導は,空間を介した電荷間の相互作用により生じる現象であるので摩擦や破壊等の目に見える力学的作用を伴わない.それゆえに,直感的には理解しにくい現象である.しかし,安全上は極めて重要なものであるので詳細に解説している.また,静電気対策の一つである接地(アース)の効果を理解するため,抵抗と電荷の漏洩速度の関係を示す実験を紹介する.