自己炎症性疾患とは,自己免疫応答や感染症を伴わないにもかかわらず炎症病態が反復持続する疾患であり,病態として自然免疫の制御異常が関わる。インフラマソーム異常症がその代表であるが,自己免疫疾患との境界に位置する I 型インターフェロン異常症の存在が近年注目を集めている。本稿では精神発達遅滞と凍瘡様皮疹を呈した兄弟例を紹介し,鑑別すべき疾患として I 型インターフェロン異常を伴う自己炎症性疾患である中條-西村症候群とその類縁疾患を挙げ,解説した。中條-西村症候群ではプロテアソームの誘導型サブユニットである PSMB8 遺伝子に,エカルディ・グティエール症候群では TREX1 遺伝子など核酸の処理や認識に関わる遺伝子に,スタンキーヴィッツ・イジドール症候群ではプロテアソーム調節因子の構成成分である PSMD12 遺伝子に変異を認める。プロテアソームはユビキチンにより標識された蛋白質を分解する巨大な酵素複合体であり,細胞周期制御,免疫応答,シグナル伝達といった様々な細胞機能にかかわる。その機能不全により,メカニズムは不明であるが,核酸応答シグナルが異常活性化した場合と同様に I 型インターフェロン異常を来し,2-5AS 活性を上昇させる。凍瘡様皮疹という特徴的な臨床症状からインターフェロン制御異常を想起し,有効な遺伝子解析によって患者の病因を明らかにすることにより,重要な創薬ターゲットとなる分子を発掘することが期待される。
13 歳,女児。3 カ月前より眉間部に線状の紅斑が出現し,次第に拡大した。臨床症状と病理所見より剣創状強皮症と診断した。ステロイド外用と紫外線療法を開始したが改善せず,ステロイドとメソトレキセート内服併用療法を行い,4 週間後に紅斑が改善し,2 年後には略治した。治療中,明らかな副作用はなかった。本邦において,剣創状強皮症に対するステロイドとメソトレキセート併用療法の報告例は少ないが,有効かつ比較的安全であり,治療選択の一つとして考慮すべきであると考えた。
47 歳,オーストラリア人(白人)の男性。顔面の日光角化症,頭部と背部の基底細胞癌の治療歴あり。 家族歴に母斑様基底細胞癌症候群はない。2016年 7 月頃より右耳介後部に瘙痒を伴う結節を自覚し,当科を再診した際の臨床像は,瘻孔を伴う紅色局面であった。皮膚生検を施行し,基底細胞癌,浸潤型と診断した。画像上,腫瘍細胞は耳介軟骨まで浸潤していると考えられたが,本人の希望により耳介を温存できる範囲で拡大切除術を行った。術後の病理組織標本にて,水平方向,中央部の垂直断端の一部に腫瘍細胞があり,追加で電子線治療 60 Gy/30 fr を行った。照射終了 1 ヵ 月後に再度皮膚生検を行い,組織学的に腫瘍細胞がないことを確認した。術後 1 年が経過するが局所再発はない。本邦の〈皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第 2 版〉では,基底細胞癌に対する治療は外科的切除が第 1 選択とされるが,何らかの理由で手術が施行できない症例に対しては放射線療法も有効な治療選択肢であると考えた。
74 歳,女性。初診半年前に後頭部右側に結節病変が出現した。生検組織では,異型の強い好酸性の細胞質を有する腫瘍細胞が充実性に増殖し,HE 染色所見,免疫組織化学染色では診断がつかなかった。全切除した際に,対側の後頭部左側にも類似した小結節が 2 カ所あった。病理所見はいずれも真皮全層にわたり腫瘍細胞が充実性に増殖し,異型のある内皮細胞様細胞が不規則な形状の間隙,管腔構造を形成していた。免疫組織化学染色では CD31,D2-40,ビメンチン陽性であった。以上より血管肉腫と診断した。PET-CT で転移病変はなく,家族の希望より後療法は行わなかった。術後 10 カ月で肺・肝臓へ転移し,weekly docetaxel 療法を 2 クール行ったが,間質性肺炎を合併した。ステロイドパルスを行ったが改善せず永眠した。自験例は,血管肉腫に特徴的な紫斑は伴わず,当初,鑑別診断として血管肉腫を挙げることができないまま,全切除に至った。タキサン系抗腫瘍薬は,頭部血管肉腫に対する第一選択薬とされ,今後も使用が増加すると考えられるが,間質性肺炎の合併に留意する必要がある。
75 歳,女性。2009 年に左乳癌に対し乳房部分切除術と術後放射線療法を受け,その後ホルモン療法を開始され再発は認めていなかった。2016 年 3 月に左乳房に紅色局面と紫斑が出現し,病歴と病理所見から放射線誘発性血管肉腫と診断した。左乳房全切除と分層植皮術を施行後,weekly パクリタキセル療法を 6 コース施行し,現在も再発なく経過している。近年,乳癌検診の普及により乳癌の早期発見例が増加し,乳房温存術と術後放射線療法が施行される機会が増加している。それに伴い,放射線誘発性血管肉腫が増加すると思われる。乳癌の術後放射線療法の既往のある患者の皮膚に紫斑や結節などの症状を認めた場合には,放射線誘発性血管肉腫を念頭に置き早期診断・治療を行うことが重要である。
33 歳,女性。全身性エリテマトーデス (以下 SLE) と抗リン脂質抗体症候群に対して膠原病内科に通院中で,プレドニゾロン 25 mg/日,ミコフェノール酸モフェチル 1500 mg/日,タクロリムス 1.5 mg/日を内服中。初診の 1 週前より全身に紫斑と水疱が出現し,増数した。病理組織学的に検討し,ヘルペスウイルス感染症が示唆されたが,初診時のウイルス抗体価は単純ヘルペス (以下 HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス (以下 VZV) ともに既感染パターンであった。帯状疱疹に準じてバラシクロビル内服で加療し水疱はすべて痂皮化した。初診から 3 週後,11 週後時点でウイルス抗体価を測定したが,VZV-IgG・IgM ともに変化はみられなかった。抗 VZV 抗体を用いた免疫組織化学染色で陽性所見を得て再発性水痘と診断した。VZV が再活性化すると通常,皮疹は神経の支配領域に一致した分布を示す帯状疱疹として発症するが,時に原発疹がはっきりせず水痘様の症状を呈することがあり再発性水痘とよばれる。再発性水痘はその発症に高度の免疫抑制状態が関わっており,高齢者や免疫不全患者における発症が多く報告されているが,非典型的な臨床像をとることもあり注意が必要である。
85 歳,男性。明らかな外傷歴や,免疫抑制状態となる基礎疾患はない。初診の約 2 カ月前より手背に紅色結節が出現した。皮膚生検組織の培養では小川培地に発育はなかったが,サブロー培地に白色コロニーを形成し,DNA-DNA hybridization 法で Mycobacterium chelonae (M. chelonae) と同定した。M. chelonae 皮膚感染症と診断し,クラリスロマイシンとレボフロキサシンの内服を開始した。投与 4 週間で紅斑・結節は改善し,16 週間で内服を終了した。M. chelonae は迅速発育菌に分類される稀な非結核性抗酸菌である。免疫抑制状態となる基礎疾患や,外傷が発症の誘因となることが多いが,健常人に生じる例も報告されている。培養陽性率は 50%程度と低いため診断が難しい場合も多い。サブロー培地や血液培地などに発育する場合があることも知られており,診断には様々な培地で繰り返しての培養検査を行うことが重要である。治療法は,抗菌薬内服や温熱療法,外科的切除があるが,確立された指針はない。今回 M. chelonae 皮膚感染症の抗菌薬による治療について本邦報告例をまとめ,考察した。
2014 年度に岡山医療センターを受診したマダニ刺咬症 30 例 (男性 15 例,女性 15 例,1~88 歳) について検討した。当院で虫体を除去した症例が 17 例,残りの 13 例は患者自身が虫体を除去していた。原則として市販の tick remover を用いて虫体除去を試みたが,除去不能な症例では切除により皮膚ごと虫体を除去した。Tick remover を用いた 14 例中 12 例で虫体の除去が可能で,いずれも口器の破損はなかった。 除去できなかったのは,ヤマトマダニによる刺咬例と刺咬から受診までに 3 日以上経過している症例であった。種の同定に提出した全 21 個体で同定が可能であり,タカサゴキララマダニ 13 個体,フタトゲチマダニ 7 個体,ヤマトマダニ 1 個体であった。刺咬部に硬結や遊走性紅斑 (tick-associated rash illness) を生じた症例はあったが,全身的合併症やマダニ媒介感染症は認めなかった。Tick remover を用いることにより,重大な合併症なく簡便かつ安全な虫体除去が行え,治療上有益であると考えられた。
2016 年 11 月~2017 年 3 月の 5 カ月間に東京医科大学病院,上尾中央総合病院,戸田中央総合病院,新座志木中央総合病院の皮膚科を定期的に受診したアトピー性皮膚炎,皮脂欠乏性湿疹,乾皮症,老人性皮膚瘙痒症の乾燥性皮膚疾患患者 46 例に対しツバキ油配合乳液を使用し,その安全性と有用性についてオープン試験を実施した。ツバキ油配合乳液を 4 週間にわたり使用した結果,全症例において副作用は認められず,安全に使用できることを確認した。医師の観察による皮膚症状の評価では,試験前後で乾燥と搔破痕に有意な改善が認められた (p<0.01)。また,肌状態 (うるおい感,かゆみの程度) について VAS (Visual Analogue Scale) を用いて評価したところ,肌のうるおい感は試験前後で有意なスコアの増加が認められ (p<0.01),かゆみの程度は試験前後で有意なスコアの減少が認められた (p<0.01)。製剤の使用感については,のびがよく,べたつき感のない,使い心地のよい製剤であるとの回答が得られた。これらの結果から,ツバキ油配合乳液は乾燥性皮膚疾患患者の日常のスキンケアにおいて安全に使用でき,乾燥やかゆみの軽減効果が期待できる保湿製剤であると考えた。
Andrew Blauvelt, M.D., M.B.A., is President and Owner of Oregon Medical Research Center, a private business dedicated to performing high quality clinical research studies in dermatology. Dr. Blauvelt received his undergraduate degree in electrical engineering at Purdue University in 1984 and his medical degree at Michigan State University in 1988. He then completed his dermatology training at the University of Miami and basic immunology training at the National Institutes of Health (NIH) in the laboratory of Dr. Steve Katz. In 2010, he returned to the classroom and received a Healthcare M.B.A. from a joint program at Oregon Health & Science University (OHSU) and Portland State University.