化学プラント等の海外プロジェクトにおいては,プラントシステムに潜在するハザードシナリオごとに,整合性のとれた安全対策があることを担保するリスクベースの安全設計が求められる.今日,欧米プラント・オーナー,およびその影響を受けている新興国におけるプラント・オーナーの安全指針,欧米規格の潮流,およびプラントの安全に関る行政・研究機関・学会の動向は,リスクベースによるより合理的な安全管理に向かっている. このことは,従来の規範的(prescriptive)基準が無くなることを意図しているのではなく,規範的基準では予め規定し得ないシステムに固有に潜在するリスクを同定し,許容可能なリスク水準までリスクを低減する対策の妥当性を合理的に判断することが求められていることを示している. 本稿では,海外プロジェクトで実施されているリスクベースによるHSE スタディの概要を解説する.
パフォーマンススタンダードは,安全システムの目的や,必要な性能とその設定根拠などを記した文書である.また,その作成過程で設計根拠を含めた詳細内容が再確認され,安全システムの問題点が発見されることから,有効な設計レビューの一つとなっている. イギリスやオーストラリアでは,プラント設計時からパフォーマンススタンダードの作成を始めて,安全システムの設計を管理することが法規で義務付けられている.一方で,パフォーマンススタンダードは,HAZOP(Hazardous and Operability Study)と同様,プラント設計時だけでなく稼働中のプラントにも適用可能である.適用すれば既存の安全システムの問題点を発見できると考えられ,このような導入・活用により,より安全なプラントへと改善が期待できる.
海外プラント建設プロジェクト(以後,海外プロジェクト)において,安全設計の検証がいろいろな手法で行われている.そのうち,新たな設計検証手法として,最近,実施要求が増えているFire Risk Assessment(FRA)及びFire and gas detection(F&G)mapping study について,その内容と具体例も含めて紹介する.FRA はリスクという観点からプラントの防消火設備設計の妥当性を検証するもので,F&G mapping study は,今日まで経験等に依存して決定していた火災及びガス検知器の個数とその設置位置を数値的に検証する手法である.最後には,プラントオーナーである顧客主導の第三者による安全設計レビューを紹介する.プロジェクトに関わらない第三者による設計レビューとは,そのプロジェクトの図面,図書に対する通常の顧客承認行為とは別に行われるもので,様々な顧客が違った名称及び手法でレビューを行っている.
住友化学は,サウジアラビアの国営石油会社サウジ・アラムコ社(SA 社)と現地で共同出資会社(JV)を設立し,サウジアラビアのラービグで大規模プロジェクトを実施した.このプロジェクトの特徴は,既存製油所を高度化したのと同時に石油化学プラントを付加して大規模な石油精製・石油化学統合コンプレックスを構築したこと,さらには,プロジェクト・ファイナンス(PF)を受けて実施されたことである. プロジェクトの環境安全(HSE)管理の業務はプロジェクトの進展とともに重点が変わっていく.FEED(Front-end Engineering Design)の段階では環境アセスメントやHSE 関係の基本設計が行われた.EPC 段階へ移行するまでに銀行団が世界銀行の環境ガイドライン等に基づき環境設計基準を含む基本設計の確認を行った後,PF 契約が締結された.EPC 段階の前半ではHSE 関係の詳細設計のレビューを行い,建設が最盛期になると工事現場のHSE 管理に業務の重点が移行していった.銀行団やその他のステークホルダーは,プロジェクトの実施期間の全体を通してHSE 関係を含む技術的レビューを実施したので,コーディネーション業務もかなりの割合を占めた.本稿では,このような大型プロジェクトにおける環境安全(HSE)管理の概要を紹介する.
近年深刻化している地球温暖化や石油枯渇などの環境・資源エネルギー問題に対応しつつ,持続的な発展を可能にするためには,石油に依存した現在の社会構造を転換し,再生可能なバイオマス資源からエネルギーやプラスチック,繊維などの化学品を生み出すバイオリファイナリー社会を構築することが必要である.バイオエタノールやバイオディーゼルについてはすでに有名であるが,近年の代謝工学の発達により,トウモロコシなどのバイオマスを原料としてプラスチック原料などを製造できる発酵プロセスも現実のものとして実用化されてきている.本稿では,これらバイオマスからのモノづくりの現状を紹介するとともに,微生物を利用した燃料・化学品生産の研究例について,バルクケミカル(基礎化学品)等の製造プロセスに適していると目される酵母を題材として解説する.
ここ1,2 年の間にコンビナートで起きた大きな事故.それも大企業の,いわば業界トップメーカーの長い安全成績を誇る工場や,高い保安レベルが期待されていた認定事業所で起きた事故だけに,関係業界,関係者の驚き,戸惑いは大きかった. 起きてしまった保安管理システムの破綻.一連の事故の本質的原因には,リスクを先取りする現場力の低下という驚くほど共通する点が認められた.本稿では事故の背景にある人間の知恵,意識に視点を当て,保安管理システムが陥りがちな盲点をカバーするのは,そこで働く一人一人の現場力すなわち知識と感性,そして知恵であることを論じ,それを担保するものこそが安全文化であることを述べる.
ISO(国際標準化機構)は,ISO 4126 シリーズとして,超過圧力に対する保護用安全機器の規格を提供しており,順次JIS 規格化されつつある.このうち,ISO 4126 Part 10 は,気液二相流に対する安全弁の包括的なサイジング方法を初めて提案したものである.本稿では,5 回に分けて,暴走反応に伴って発生する気液二相流に対する圧力逃し装置(安全弁および破裂板)の実務的なサイジング方法を紹介する.本号では,HNE-DS 法および直接積分法による吹出し可能な質量流束計算方法,二相流の安全弁吹出し係数について計算例とともに記載する.また,連載で使用する記号をまとめた.