弟42 回安全工学研究発表会で韓国安全工学会長の申昌燮教授に韓国の産業安全関連の現況とその論点,そして,安全関連機関の役割についての講演をお願いした.申教授は,忠北大学安全工学科に在職されており,長い間,化学プロセス安全に関わる研究に携わっている.当日の講演内容の要点をまとめたので,以下に紹介する.
近年,世界各地においてテロの危険性が増している.テロの標的となりやすい大規模集客施設において,爆発物や危険物を発見することは,人々の安全・安心を確保する上で重要であるが,満足する成果をあげているとは言い難い.その一因として,一つの検出器での精度向上の限界が挙げられる.また,実用的な観点から見ると,検出精度を高めつつも,検出時に人の流れを妨げないようにする必要がある.そこで本論文では,爆発物検出における統合モデルの構築を提案する.これにより,検出精度が高く,実用的な爆発物検出システムの実現が可能になると期待される.ケーススタディとして,ミリ波を用いた検出器,VUV-SPI-TOFMS を用いた検出器,中性子スペクトルを用いた検出器に関する統合モデルの構築を行い,検出精度が向上することを確認した.
タンク全面火災時における避難・誘導・消火活動や警防計画立案を支援するため,有風時の地上におけるふく射熱の計算ならびに熱影響範囲の表示を行うシミュレーションシステムをモンテカルロ法を用いて開発した.ふく射熱の評価には,タンク径,高さ,風速,タンク中心からの受熱地点までの距離等の種々のパラメータが挙げられる.これらのパラメータについて,「風速」,「タンク高さ/タンク径」,「火炎中心からの距離/タンク径」の3 つのパラメータに整理しデータベース化を施した.さらに,GUI( Graphic User Interface)を用いて,無風状態のみならず,風上斜め方向でのふく射熱や,任意地点でのふく射熱の定量的評価を可能とするシステムとした.過去のタンク火災でのふく射熱評価の適用例を示し,本提案手法が警防活動計画への使用に有効であることを示した.
一般に製品設計の欠陥防止の観点から,FMEA,FMECA,FTA 等は,故障とその影響の解析に広く用いられてきている.本報告は,まず安全設計の立場から,新たに事象の発生順序を考慮した非コヒーレントFTA(S-N-FTA)手法を提案している.次に,S-N-FTA 手法を強制給排気式石油温風暖房機の事故解析に適用し,本手法により事故原因が合理的に解析できることを例証している.
化学プラントやガス業界などでは,可燃性ガスなどを輸送するための大規模な埋設配管を保有している.これらの安全管理は,配管材料の長期信頼性の評価だけでなく,万一のガス漏出時の地中での拡散範囲など,拡散挙動に関する知見が極めて重要で,安全な設備の設計や維持管理を行う上で基盤となる.これらのことから様々な埋設条件下で,漏出ガスの拡散挙動を効率的に確認できる数値シミュレーションツールのニーズは非常に高い.これまで室内や屋外など大気中のガス拡散については数多く紹介されているが,それに比べ地中については少なかった.今回初めて,実際の埋設配管を想定した実大規模ガス漏出実験の結果を基に,数値シミュレーションモデルの適用性を確認した.この実証を行った成果を報告する.実用的な解析ツールの確立により,業界の更なる保安向上に貢献するものである.
2003 年11 月5 日(水)午前5 時9 分頃,神奈川県内にあるショッピングセンターの生ごみ処理施設において爆発が発生し,警備員1 名,消防署員9 名,警察署員1 名が負傷する災害が発生した.2003 年は産業界で爆発・火災災害が頻発したとされる年で,予想もしなかった装置が爆発したことで報道機関に大きく取り上げられた.本稿では,災害の概要と被害状況を述べた.