日本臨床細胞学会雑誌
Online ISSN : 1882-7233
Print ISSN : 0387-1193
ISSN-L : 0387-1193
61 巻, 5 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
依頼原稿
  • 松浦 祐介
    2022 年 61 巻 5 号 p. 307-313
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    日本の子宮頸がん検診受診率は他の先進諸国と比較して格段に低く,なかでも働く世代の若年女性を中心に子宮頸がんの発生率が増加している.子宮頸がん検診には市町村が実施する住民検診,保険者や事業主が実施する職域検診,個人で受診する任意型のがん検診がある.国民が受けているがん検診の約 3~6 割は職域で施行されており,職域におけるがん検診はがん予防において非常に重要な役割を担っている.しかしながら,職域におけるがん検診は労働安全衛生法で規定される定期健康診断と異なり,強制力のない任意型検診として今日まで取り扱われ,健康増進法に基づいて実施される住民検診のような精度管理(プロセス指標評価など)について考慮されていない状況である.平成 30 年(2018 年)3 月に厚生労働省から「職域におけるがん検診に関するマニュアル」が公開され,そのなかには住民検診と同様の検査項目,対象年齢,受診間隔で施行し,精度管理も同様に行うことが望ましいと記載された.

    わが国の子宮頸がんの現状を理解し,個人情報の保護に留意しつつ受診率を上昇させ,精度管理を効果的に行うためには,産業医や産業保健スタッフの個別指導を中心とした積極的関与が必要であろう.

原著
  • 濱川 真治, 近藤 洋一, 倉品 賢治, 小坂 美絵, 若林 良, 柏崎 好美, 櫻井 勉, 田頭 周, 吉本 多一郎, 亀井 敏昭, 瀧本 ...
    2022 年 61 巻 5 号 p. 314-320
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    目的:分子病理学的検査においてセルブロック(CB)内の腫瘍細胞(TC)含有率は,重要因子の一つである.その算出には TC 分布や TC 量の評価が課題であり,試験管を用いた CB 作製法(試験管法)を用いて,垂直割断面(VSS)観察による TC 分布と細胞量について,水平断面(HCS)観察との比較を行った.

    方法:2016 年 1 月から 2021 年 3 月までに提出された胸水材料 87 検体を対象とした.VSS では,TC 分布を評価するため 3 層(A,B,C 層)に分けた.また,VSS 3 層と HCS の各層の TC をカウントし,100 個以上(TC-H)と 100 個未満(TC-L)の2 群に分類し比較した.

    成績:VSS・TC-H 群 57 検体,VSS・TC-L 群 30 検体,HCS・TC-H 群 47 検体,HCS・TC-L 群 40 検体であった.VSS・TC-H 群 57 検体中 15 検体に TC 分布に偏りがみられた.一方,HCS・TC-H 群 47 検体中 6 検体,HCS・TC-L 群 40 検体中 9 検体に TC 分布に偏りがみられ,HCS・TC-L 群においては B 層および C 層にその傾向がみられた.

    結論:試験管法による CB の VSS 観察は TC 分布と TC 量の評価に有用であり,TC 含有率評価への応用が期待される.

  • ―AB(pH2.5)染色/D-PAS 反応の有用性―
    石井 恵子, 宮坂 真木, 浦野 豊明, 上條 朋美, 横山 彩子, 北村 孝子, 中嶋 純美
    2022 年 61 巻 5 号 p. 321-324
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    目的:子宮頸部および内膜 liquid-based cytology 標本(LBC)において粘液の色調異常を認めた症例で lobular endocervical glandular hyperplasia(LEGH)を確認する方法を検討した.

    方法:子宮頸部・内膜 LBC で,LEGH 疑いおよび two-color pattern あるいは黄色粘液を認めた 20 例に AB(pH2.5)染色/D-PAS 反応(AB/PAS)を追加し,LEGH のスクリーニングが可能か検討した.胃型粘液の確認には HIK1083 標識ラテックス凝集反応(HIK ラ反)を用いた.

    成績:20 例中 3 例は頸部・内膜の両方,8 例は内膜のみに黄色粘液細胞が認められ,全例で AB/PAS にて PAS のみに反応する中性粘液細胞が確認された.18 例で HIK ラ反陽性であった.

    結論:LBC は背景粘液が消失し,細胞質粘液は組織診と同様,その細胞自体の粘液の色を反映するため,背景粘液の重なりによりスメアでは使用できなかった AB/PAS が可能となった.これにより胃型の中性ムチンの同定が可能となり,LEGH のスクリーニングに寄与することが証明された.

症例
  • 内田 浩紀, 花見 恭太, 安達 純世, 石田 康生, 山﨑 一人
    2022 年 61 巻 5 号 p. 325-332
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    背景:甲状腺乳頭癌のまれな亜型である篩型乳頭癌の散発例について,細胞所見と生物学的特徴との間に興味深い関連性がみられたので報告する.

    症例:20 歳代,女性.甲状腺右葉に約 5 cm 大の腫瘤を認め,穿刺細胞診では乳頭状,濾胞状,篩状,シート状など多彩な構造を示す上皮集塊を認めた.核に核溝や核内細胞質封入体を認めたため乳頭癌を推定したが,摘出された腫瘍の病理組織診断は篩型乳頭癌であった.細胞像を詳細に観察すると,集塊の結合の緩い部位では高円柱状,紡錐形の細胞が目立ち,辺縁においてはしばしばほつれがみられ,周囲にはこれらの細胞が多数孤在性に分布していた.免疫染色にてβ-カテニンの発現を検索したところ,腫瘍細胞は核と細胞質が強陽性を示し,膜性の発現は低下・消失していた.

    結論:篩型乳頭癌細胞の集塊辺縁における細胞結合は緩く,孤在性の細胞が目立つ.これは Wnt シグナル経路の異常な活性化が引き起こすβ-カテニンの核内集積に伴う細胞接着性の低下が,篩型乳頭癌の特徴的な組織形態・細胞像にも影響を及ぼしていると考えられた.

  • 吉田 玲佳, 佐野 孝昭, 星川 里美, 栗原 康哲, 伊古田 勇人
    2022 年 61 巻 5 号 p. 333-338
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    背景:卵巣の明細胞癌は,細胞質が淡明かつ豊富で,グリコーゲンを多く含み,hobnail パターンが特徴的である.今回,核内封入体を多数認め,封入体がグリコーゲンであると考えられる明細胞癌の症例を経験したので報告する.

    症例:60 歳代の女性.左下腹部痛で近医を受診し,CT にて卵巣腫瘍の診断で当院紹介となった.CT では骨盤内に長径 20 cm ほどの多房性腫瘤を認め,内部に造影される充実性成分を伴い,左卵巣由来の悪性腫瘍が疑われた.術中迅速診断時の腫瘍新鮮割面を捺印し,細胞診標本を作製した.細胞診標本では,核腫大,核小体肥大を示す異型細胞が疎な結合を示し出現していた.細胞質はライトグリーン淡染性で,核内は白く明るい封入体様の所見が目立った.核内封入体は PAS 反応陽性を示し,ジアスターゼ消化後陰性化したことから,グリコーゲンと考えられた.組織標本においてもグリコーゲンの核内封入体が目立つ領域が認められた.最終的な病理組織診断は卵巣明細胞癌であった.

    結論:卵巣明細胞癌におけるグリコーゲンの核内封入体所見はこれまでに報告はなく,貴重な症例と考えられた.

  • 小島 竜司, 下境 博文, 沖野 由子, 森山 愛未, 菅野 勇, 石田 康生, 太枝 良夫, 山崎 一人
    2022 年 61 巻 5 号 p. 339-347
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    背景:乳腺に発症する癌を伴う腺筋上皮腫はまれな腫瘍で,その細胞像に関する報告は少ない.われわれが経験した 1 例の細胞像を供覧し,その推定診断に有用と思われる細胞学的特徴を考察する.

    症例:70 歳代,女性.右乳房 D 区域の 22 mm 径腫瘤に穿刺吸引細胞診が行われ,二相細胞性の中型から大型の重積細胞集塊を認めた.細胞は乳頭管状構造を含む三次元的配列を示し,辺縁にはメタクロマジーを示す基質が観察された.背景には裸核状や淡い細胞質を有する筋上皮様細胞が密に分布し,筋上皮様細胞の核は卵円形から双極状で核形不整を伴い,Cyto-Quick 染色では細胞質が多空胞状を示した.また,メタクロマジーを示す滴状の基質も認めた.右乳房切除術が施行され,おおよそは腺筋上皮腫として矛盾しない形態を示したが,一部に増殖能の高い紡錐形の筋上皮様細胞が間質浸潤を示し,癌を伴う腺筋上皮腫と診断した.

    結論:三次元的配列を示す二相細胞性重積集塊と,背景に筋上皮様細胞が密に分布する細胞像は,腺筋上皮腫として定型的であった.筋上皮様細胞の細胞質が多空胞状であることやメタクロマジーを示す基質の存在は,推定診断に有用となる可能性が示唆された.

  • 神月 梓, 森本 優生, 津崎 沙世子, 龍 あゆみ, 棚田 諭, 久保 千明, 本間 圭一郎
    2022 年 61 巻 5 号 p. 348-352
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    背景:リンパ脈管筋腫症(LAM)は,平滑筋様の腫瘍細胞が肺や体軸リンパ節などで緩徐に増殖する全身性疾患である.非常にまれな疾患であり,根本的な治療方法が確立されていない.今回,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を契機に診断された LAM の 1 例を経験したので報告する.

    症例:50 歳代,女性,CA19-9 高値と腹部大動脈周囲のリンパ節腫大を複数認めたため EUS-FNA が施行された.採取された細胞診材料では硝子様間質や軸状の間質を巻き込んだ結合性の強い細胞集塊を認めた.淡明で泡沫状の細胞質に,短紡錘~紡錘形核や微細顆粒状クロマチン,くびれた核,核内空胞,核小体などを認めた.組織診材料も類似した所見であり,免疫組織化学染色と合わせて LAM を推定した.その後,胸部 CT 検査で両肺多発囊胞を認め LAM と診断された.

    結論:乳び胸腹水中の LAM 細胞クラスター以外の LAM 細胞所見の確立には,さらなる症例の蓄積が必要であり,その診断には臨床所見の確認や細胞形態の詳細な観察,鑑別疾患との対比,免疫細胞化学染色などが重要であると考える.将来的にさまざまな細胞診材料による報告が,細胞診断例の一助になることが望まれる.

  • 安部 拓也, 岩崎 健, 井手 圭一郎, 立岩 友美, 奥薗 学, 豊嶋 憲子, 笹栗 毅和, 木下 伊寿美, 本下 潤一
    2022 年 61 巻 5 号 p. 353-360
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    背景:血管周囲類上皮細胞腫瘍(perivascular epithelioid cell tumor:PEComa)はまれな間葉系腫瘍である.婦人科領域に発生し,異なる臨床経過をとった PEComa の 2 例の経験を報告する.

    症例:症例 1,10 歳代,女性.画像検査で骨盤内に充実性腫瘤を認め,開腹腫瘍生検および捺印細胞診,腹水細胞診を施行.症例 2,60 歳代,女性.不正性器出血のため子宮内膜生検および細胞診を施行.細胞像は 2 例ともに淡明または好酸性で豊富な細胞質,明瞭な核小体,核内細胞質偽封入体を有する腫瘍細胞が小血管を伴い,疎な結合性集塊または散在性に出現していたが,細胞形態,核異型度に差異を認めた.組織標本では 2 例ともに淡明な腫瘍細胞が血管に関連して増生し,免疫組織化学染色では HMB-45,Melan A に陽性を示し,PEComa と診断された.症例 1 は腫瘍死,症例 2 は診断後 3 年時点で経過観察中である.

    結論:PEComa はあらゆる臓器に発生し,種々の細胞診検体として遭遇しうる腫瘍である.淡明な腫瘍細胞を認めた場合,PEComa を鑑別疾患に挙げ,免疫組織化学染色などを活用して診断することが重要である.

  • 山田 静佳, 林田 涼, 原川 政彦, 二村 聡
    2022 年 61 巻 5 号 p. 361-364
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    背景:原発性体腔液リンパ腫(primary effusion lymphoma:PEL)は体腔液中に発生し,明らかな腫瘤形成やリンパ節腫大を伴わない大細胞型 B 細胞リンパ腫であり,HHV8(human herpesvirus 8)感染を契機に発症する.一方,体腔液中に発生し,HHV8 感染がなく細胞形態的には大細胞型リンパ腫の像を示すが,自然消退する一群がある.現在,この一群は PEL-like lymphoma として PEL とは明確に区別されている.今回,われわれは臨床病理学的に HHV8 陰性 PEL-like lymphoma が疑われた 1 例を経験したので報告する.

    症例:70 歳代,男性.息切れを主訴に受診.精査の結果,高度の心囊液貯留が指摘され,心囊ドレナージを施行した.心囊液細胞診では多数の大型異型リンパ球が観察されたが,症状が劇的に改善したため,経過観察を行った.その後 1 年 8 ヵ月経過した現在,無再発である.

    結論:PEL の予後はきわめて悪いが,PEL like lymphoma は本例のように貯留液排液後に自然消退する.過度の治療を回避するためには HHV8 感染の有無等による両者の鑑別が必要かつ有意義である.

  • 南部 順一, 仲里 巌, 山村 育子
    2022 年 61 巻 5 号 p. 365-370
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/04
    ジャーナル フリー

    背景:原発性体腔液リンパ腫(PEL)は,主に human immunodeficiency virus(HIV)感染患者に生じるまれな B 細胞性リンパ腫である.今回われわれは HIV 陰性患者に生じた PEL の 1 例を経験したので報告する.

    症例:宮古諸島在住の 68 歳,男性.呼吸苦,右腰部痛で前医受診.CT にて右胸水の貯留を認めたため胸水細胞診が行われた.その結果,悪性リンパ腫の疑いとなり当院紹介.胸水中には核異型の強い異型細胞が多数みられた.セルブロックで異型細胞は CD20 陰性で,CD30,LANA-1 陽性を示していた.全身検索にて他の病変は指摘されず PEL の診断に至った.HIV 抗原抗体検査は陰性であった.

    結論:PEL は HIV 感染による免疫不全状態にある患者に発生することが多く,HIV 陰性患者にはまれな疾患である.Human herpesvirus type-8(HHV8)の感染率の高い地中海沿岸地域などでは正常免疫状態にある高齢者に発生する症例が報告されている.宮古諸島は HHV8 の感染率が高く,この地域で HIV 陰性の高齢者の体腔液中に大型の異型リンパ球を見た場合は PEL の可能性も十分に考慮すべきであると考える.

feedback
Top