日本臨床細胞学会雑誌
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61 巻, 6 号
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症例
  • 若原 孝子, 安達 純世, 花見 恭太, 子安 貴良, 梁 善光, 富居 一範, 山﨑 一人
    2022 年 61 巻 6 号 p. 385-392
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:子宮内膜脱分化癌は分化傾向の不明瞭な癌腫である未分化癌に低異型度の類内膜癌が混在するまれな腫瘍である.われわれは術前の子宮頸部細胞診にて未分化癌由来の細胞,内膜細胞診にて分化型腺癌と未分化癌由来の細胞を認めた子宮内膜脱分化癌の 1 例を経験したので報告する.

    症例:60 歳代,女性.画像検査にて子宮体底部を占拠する 8 cm 大の充実性腫瘤と骨盤リンパ節の腫大を認めた.子宮内膜細胞診,組織診より子宮体癌と診断され外科的切除が行われた.病理組織学的検査では分化型類内膜癌の成分と未分化異型細胞を認めた.免疫組織化学検査において未分化異型細胞は vimentin に強陽性を示し,おおよそは CK18,EMA に陰性であったがごく一部に強陽性を示し,子宮内膜脱分化癌と診断された.術後,骨盤内リンパ節,肝臓,肺に多発転移を認め,術後 55 日目に多臓器不全で死亡した.

    結論:脱分化癌はきわめて悪性度が高く,類内膜癌・G3 に比しても予後不良とされている.本例のように急激な転帰をたどる場合もあるため術前の細胞診断は重要な意味をもつ.内膜細胞診における脱分化癌の要点は,分化型類内膜癌と未分化癌の混在である.

  • 加藤 皓大, 永井 美佐子, 井上 正朗, 氏平 伸子, 堤 寛, 市川 亮子, 土森 有紗, 浦野 誠
    2022 年 61 巻 6 号 p. 393-399
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:Placental site trophoblastic tumor(PSTT)はまれな絨毛性疾患であり,細胞診標本で観察した報告はきわめて少ない.われわれは,内膜細胞診で PSTT が推定された 1 例を経験したので報告する.

    症例:30 歳代,女性.2 経妊 2 経産.1 年前に第 2 子を出産した.不正出血はない.初診 1 ヵ月前に腟口に異常を自覚.当院婦人科を受診時,腟壁にポリープ様病変を認め,結紮切除された.切除検体で栄養膜細胞を認めたため,絨毛性疾患が疑われた.尿中 hCG 値が軽度上昇し,MRI で子宮右前壁に径約 50 mm 大の腫瘤を認めた.

    内膜細胞診に,栄養膜細胞を疑う類円形細胞が孤在性に出現していた.細胞質に厚みがあり,しばしば二核細胞がみられた.クロマチンは微細で均一,核縁の肥厚や核小体は目立たなかった.壊死物質は認めなかった.免疫細胞化学で多くが hPL 陽性で,中間型栄養膜細胞と判定した.これらの所見から PSTT が疑われた.大学病院で子宮全摘出術が施行され,PSTT と最終診断された.

    結論:内膜細胞診に中間型栄養膜細胞の出現を認めたことが PSTT の診断の一助となった症例を経験した.

  • 篠田 由佳子, 内藤 嘉紀, 安倍 秀幸, 髙瀬 頼妃呼, 村田 和也, 牧野 諒央, 熊谷 天斗, 岡部 義信, 河原 明彦, 秋葉 純
    2022 年 61 巻 6 号 p. 400-406
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:膵原発腺扁平上皮癌(PASC)は,腺癌(AC)成分と扁平上皮癌(SCC)成分が混在する悪性腫瘍である.両成分は細胞診断で同時にみられることが少ないため,組織型推定に苦慮する.今回われわれは,液状化検体細胞診(LBC)で AC 成分と SCC 成分を確認しえた PASC を経験したので報告する.

    症例:60 歳代,男性.患者は食道癌の化学放射線療法中に,膵頭部腫瘤を指摘され,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)が施行された.圧挫標本において異常角化と多稜形細胞質を有する異型細胞が出現していた.一方,LBC では SCC 成分とともに AC 成分が確認された.SCC 成分は免疫細胞化学で p40 陽性を示し,PASC を推定した.摘出された病理組織において,腫瘍は明瞭な腺腔形成を示す AC 成分と大小不規則な胞巣状増殖を示す SCC 成分から構成されており,PASC と診断した.

    結論:AC 成分と SCC 成分の細胞学的特徴を把握することは,PASC の組織型推定に重要である.また,細胞回収に優れた LBC の併用は EUS-FNA の診断に役立ち,免疫細胞化学は非角化型 SCC 成分の確認に有効である.

  • 中嶋 愛海, 羽原 幸輝, 神田 真規, 佐々木 健司, 米原 修治
    2022 年 61 巻 6 号 p. 407-412
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:乳腺分泌癌は特殊型乳癌に分類されており,全乳癌の 0.1%以下を占めるにすぎないきわめてまれな悪性腫瘍である.ここでは,乳腺分泌癌の穿刺吸引細胞診の 1 例を提示する.

    症例:60 歳代,女性で右胸部痛を主訴として来院した.穿刺吸引細胞診では,背景に上皮性の粘液と思われる赤紫色の物質とライトグリーン好性で脂肪滴を含む物質を認めた.細胞量は豊富であり,小集塊状から散在性を示す二相性の欠如した小型多角形細胞が血管とともに出現していた.一部の細胞間や細胞質内には球状の粘液様物質を入れた粘液小球状構造(mucous globular structure:MGS)が観察された.細胞質は広く顆粒状でときに大小の空胞をもち,核の異型は軽度であった.

    結論:乳腺分泌癌と他の腫瘍との鑑別は,細胞外の物質の有無やその性状および細胞配列の所見が最も有用であると考えられた.

  • 小山 逸, 松本 慎二, 林 博之, 角谷 優子, 髙橋 祥子, 秋吉 梨江, 西中村 恵輔, 辻 雅子, 大石 朋子, 鍋島 一樹
    2022 年 61 巻 6 号 p. 413-418
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:成人発生の膀胱原発横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma:RMS)は全膀胱腫瘍の 0.5%以下とまれである.今回われわれは,尿細胞診にみられた膀胱原発 RMS の一例を報告する.

    症例:70 歳代,男性.肉眼的血尿のため受診.CT で膀胱外へ突出する腫瘍性病変を認め,診断確定目的に尿細胞診と経尿道的膀胱腫瘍切除術が施行された.尿細胞診では壊死性および炎症性背景に多数の異型細胞を認めた.異型細胞はほぼ孤立散在性に出現し,一部に鋳型状配列もみられた.細胞診断学的に高異型度尿路上皮癌,小細胞癌,悪性リンパ腫などを疑った.再提出された尿検体で作製したセルブロック標本による免疫細胞化学にて異型細胞は desmin,myogenin,synaptophysin に陽性,GATA3 および p63 に陰性であった.生検組織では N/C の高い異型細胞の密なシート状増殖を認め,セルブロック標本と同様の免疫形質を示したため膀胱原発 RMS と診断した.

    結論:成人発生 RMS はまれで鑑別すべき腫瘍は多い.尿細胞診においてもセルブロック標本を用いた免疫細胞化学を併用することで精度の高い細胞診断を可能とする.

  • 神田 真規, 中嶋 愛海, 羽原 幸輝, 佐々木 健司, 米原 修治
    2022 年 61 巻 6 号 p. 419-423
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:今回われわれは術前尿細胞診にてリンパ腫様型/形質細胞腫型尿路上皮癌(PUC)と誤診した腎門部発生のびまん性大細胞型悪性リンパ腫(DLBCL)を経験したので,細胞所見を中心に報告する.

    症例:60 歳代,男性.腎門部腫瘤の精査・治療目的で当院泌尿器科を紹介受診された.術前自然尿細胞診では,変性した細胞や炎症細胞と混在して小型異型細胞を散在性に認めた.細胞質は薄く,核は中心性からやや偏在性を示し,クロマチンは濃縮状から微細顆粒状に増量していた.核にくびれをもつ細胞もみられた.また形質細胞様異型細胞も散見されたため,PUC と診断した.摘出腎の病理組織像では,尿路上皮下に類円形核をもつ腫瘍細胞がびまん性に増殖していた.腫瘍細胞の N/C 比は高く,単核で類円形,核型不整や一部にくびれをもつ細胞を認めた.単個で目立つ核小体をもち,腫瘍細胞間にはリンパ球,形質細胞が混在していた.以上の組織所見と免疫染色結果より DLBCL と診断した.

    結論:腎盂原発のリンパ腫は非常にまれな腫瘍で,細胞診での鑑別には苦慮するが,異型細胞の集塊状出現や核のくびれの有無,異型細胞径の多形性に着目することにより推定は可能であると考えた.

  • 飯野 知美, 佐々木 栄司, 小島 朋子, 坂上 聡志, 福成 信博, 根本 哲生, 亀山 香織
    2022 年 61 巻 6 号 p. 424-430
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
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    背景:今回,われわれは頸部発生し甲状腺への直接浸潤を認めた脱分化型脂肪肉腫の 1 例を経験したので報告する.

    症例:60 歳代,男性.嗄声を主訴とし近医を受診し,甲状腺腫瘍が疑われ当院への紹介受診となった.画像検査で甲状腺左葉下極背面に甲状腺癌を疑う結節を認め,気管や食道壁への浸潤が疑われた.穿刺吸引細胞診では,紡錘形細胞からなる結合性の強い束状集塊と裸核様の細胞の出現がみられた.核形は紡錘形に加え大型類円形核など多彩性を認めた.核クロマチンは繊細で核小体は目立たず,非上皮性悪性腫瘍が考えられた.その後,甲状腺左葉切除および周囲組織の合併切除,頸部リンパ節郭清が施行された.組織学的には,核腫大した桿状核を有する紡錘形細胞が渦巻き状や束状に錯綜して増生しており,核異型は顕著で核分裂像も観察された.周囲の脂肪細胞にも異型がみられ,免疫染色で MDM2 と CDK4 が陽性であったことから,甲状腺外の軟部組織に発生した脱分化型脂肪肉腫と診断した.

    結論:甲状腺とその周囲組織に紡錘形細胞からなる腫瘍を認め,非上皮性腫瘍の可能性が示唆される際には,脂肪肉腫も鑑別の一つとして考える必要がある.

  • 平田 幸也, 樋口 佳代子, 長尾 俊孝, 瑞慶覧 陽子, 金城 貴夫, 和田 直樹
    2022 年 61 巻 6 号 p. 431-437
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:導管内癌は予後の良いまれな唾液腺腫瘍であり細胞像の報告例は少ない.

    症例:70 歳代,男性.10 数年前より左耳下部に小さなふくらみを自覚し,1 年ほど前より腫瘤の増大傾向がみられた.MRI では左耳下腺に 50 mm 大の多房囊胞性腫瘤が認められたため,穿刺吸引細胞診が施行された.細胞診標本では,リンパ球,好中球,ヘモジデリンを貪食したマクロファージを背景に,軽度の重積性を示す腫瘍細胞からなる上皮性集塊がみられた.腫瘍細胞の核は比較的小型で異型に乏しく,クロマチンは細顆粒状で小型核小体が 1~2 個認められた.細胞質はライトグリーン好性~空胞状で,一部の腫瘍細胞は分泌物をいれた細胞質内小腺腔や黄褐色調顆粒を有していた.細胞所見から低悪性度の腫瘍性病変が疑われたため,判定は唾液腺細胞診ミラノシステムにおける「悪性の疑い,低悪性」とし,鑑別には分泌癌や囊胞腺癌を挙げた.

    結論:導管内癌は細胞像では正確な組織型の推定は困難であるが,予後良好な経過を示すことから,術前に低悪性度腫瘍と判定することが重要である.

短報
  • 金室 俊子, 種田 積子, 野並 裕司, 山本 智子, 長嶋 洋治
    2022 年 61 巻 6 号 p. 438-441
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/29
    ジャーナル フリー

    背景:顆粒細胞腫は Schwann 細胞由来の腫瘍で,肺での発生はまれである.

    症例:41 歳,女性.右肺上葉の結節影に対し気管支鏡検査を施行し,右 B2の完全閉塞がみられた.術前細胞診では確定診断が得られず,画像上癌も疑われ,右肺上葉切除が施行された.術中捺印細胞診では,小型の円形核とライトグリーン好性顆粒状細胞質を有する異型に乏しい細胞がみられ,顆粒細胞腫が推定された.摘出手術検体では腫瘍細胞は S-100 陽性で,他臓器に腫瘍性病変もなく,肺の顆粒細胞腫と診断された.

    結論:細胞像は NET G1,肝細胞癌や嫌色素性腎細胞癌の転移などが鑑別にあがるが,細胞の特徴に留意することで診断可能と思われる.

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