日本臨床細胞学会雑誌
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61 巻, 4 号
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依頼原稿
  • ―その効果と日本の現状 2021 年度版―
    藤井 多久磨
    2022 年 61 巻 4 号 p. 227-237
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    子宮頸がんはアジア,アフリカに多いことから,これらの地域においてヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの普及が第一に望まれる.HPV ワクチンは HPV 感染率の減少,コンジローマの減少,CIN2+の減少の報告を踏まえ,浸潤がんの減少が報告された.接種率の上昇とともに集団免疫効果の報告もみられた.世界では 3 回接種から 2 回接種へとシフトし,1 回接種の検証も始まっている.一方,わが国においては定期接種となったものの,その直後に積極的勧奨の中止が宣言された.HPV ワクチンの認知度が接種世代に低いことも問題で,今後のさらなる啓発活動が求められる.

原著
  • ―組織学的悪性度とミラノシステム診断カテゴリーとの相関について―
    亀山 由歌子, 加藤 拓, 松本 敬, 浮ケ谷 匡恭, 山本 泰, 中村 雅之, 末光 正昌, 久山 佳代
    2022 年 61 巻 4 号 p. 238-242
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:唾液腺原発粘表皮癌は唾液腺悪性腫瘍の中で最も頻度が高いが,組織学的悪性度により細胞形態が異なり細胞診断が難しいものの一つである.今回われわれは粘表皮癌の細胞診細胞所見と組織の悪性度,ミラノシステム診断カテゴリーとの相関について解析を行い,後方視的にミラノシステムの有用性について検討した.

    方法:1983~2019 年に日本大学松戸歯学部付属病院にて頭頸部外科,口腔外科を受診し穿刺吸引細胞診または術中捺印細胞診を行い,病理組織学的に唾液腺原発粘表皮癌と診断された 18 例を対象とした.

    成績:18 例の平均年齢は 43.4 歳(19~73 歳)であったが,低,中,高悪性度例はそれぞれ 39.2 歳,46.3 歳,63.5 歳と悪性度が高くなるに従い年齢も上がった.18 例中 11 例は粘表皮癌,3 例は粘表皮癌疑いと診断され,その細胞像はいずれも中間細胞集塊中に粘液産生細胞が散在してみられる特徴的所見を示した.悪性度別にミラノシステム診断を行うと,高悪性度例は「高悪性」に,中悪性度例は「悪性」と「SUMP」に,低悪性度例は「低悪性」,「悪性」,「悪性疑い」,「AUS」に判定された.

    結論:粘表皮癌の細胞診断にミラノシステムを用いることは組織学的悪性度評価に有用であった.

  • 田中 義成, 川﨑 辰彦, 安武 諒, 梅澤 由美恵, 井関 充及
    2022 年 61 巻 4 号 p. 243-250
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:尿細胞診標本作製法の標準化を図り「診断精度」の客観的な評価を得ることを目的に,標本作製法の違いによる当院における「診断精度」の検討を行った.

    方法:過去 2 年間の検体を引きガラス法(W 法),サイトスピン法(CS 法),BD サイトリッチ法(CR 法)で比較検討した.感度は組織診で悪性が確認された検体,特異度は組織診で良性が確認された検体と臨床的陰性を含む検体,悪性リスクの解析は「泌尿器細胞診報告様式 2015」に基づき全尿検体を用いた.

    成績:CS 法,CR 法の感度は 90%以上と W 法の 65%と比べ高感度を示した.組織診で良性が確認された検体を用いた特異度では CS 法と比べ CR 法で低くなった.臨床的陰性検体を含めると 3 法とも 95%以上となり有意差はなかった.尿細胞診陰性判定検体中の悪性リスクは全尿検体群で 5%以下,悪性判定検体中の有組織診断尿検体群では 80%以上と全尿検体群の 60%より相対リスクは高かった.

    結論:CS 法と CR 法では W 法と比べ診断精度が向上した.CR 法など操作手順が厳格な方法を用いた検体標本作製法を用いることにより,「診断精度」の客観的な評価が可能となり尿細胞診断の向上につながると考えられる.

調査報告
  • ―アンケート調査から―
    須藤 一久, 諏訪 朋子, 小山 芳徳
    2022 年 61 巻 4 号 p. 251-256
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:千葉県内の協力施設による尿細胞診標本作製法を調査し,LBC 法の有用性について比較検討を行い,現状と利点と問題点を明らかにした.

    方法:県内 20 協力施設(内訳は,一般病院 8 施設,大学病院 6 施設,公的病院 4 施設,がん専門病院 1 施設,検査センターが 1 施設)に対し,尿細胞診標本作製法の現状調査・LBC 法に対しての意見を MS-Word ファイルにて作成し,記述式にて回答後 E-mail にて回収,こちらで設定した項目に分け調査した.

    成績:現状はどの施設においても「スライドグラスから剥離が少なく,判定をおこなうための細胞を回収し塗抹する方法」を重視し実施していた.各施設が考える LBC 法の利点としては「均一で豊富な標本作製可能」であり欠点としては「コストがかかる」が多くみられた.

    結論:一県単位ではあるが尿細胞診標本作製と LBC 法についてのアンケート調査を行い報告した.尿細胞診作製法では,集細胞効率が高く作製者の技量の差がなく質的再現性のよい方法が望まれる.「コストがかかる」という欠点があるが LBC 法が検体処理・標本作製の標準化,細胞判定の標準化を確立していくために,今後推奨法となっていくべきと考える.

症例
  • 坂中 都子, 新井 ゆう子, 市川 良太, 河野 圭子, 西田 正人, 須藤 麻実, 諌山 瑞紀
    2022 年 61 巻 4 号 p. 257-262
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    背景:今回,子宮頸部細胞診の AGC(atypical glandular cells)が契機となり,無症状ながら卵管癌と診断しえたまれな症例を経験したので報告する.

    症例:毎年子宮がん検診を受けている女性で,66 歳のときにはじめて子宮頸部細胞診異常 AGC を指摘された.コルポスコピーでは UCF,子宮頸部細胞診の再検査では NILM,子宮内膜細胞診は疑陽性(suspicious),HPV 検査は陰性であった.超音波検査では子宮内膜の軽度肥厚を認めるものの付属器腫瘤や腹水貯留は認めなかった.子宮内膜全面掻爬でも異常はなかったが,3 ヵ月後の細胞診でも異常(子宮頸部 AGC,子宮内膜疑陽性(suspicious))がみられた.腺系の腫瘍マーカーは基準値内で,MRI 検査では悪性所見は認めず,腹腔鏡手術で腹腔内観察を行ったところ卵管采,後腹膜に乳頭状腫瘤が確認され卵管癌の診断に至った.

    結論:検診での HPV 単独検査の導入も検討されているが,改めて,細胞診診断の多彩な疾患を診断できる点から,細胞診の有用性が示唆された.

  • 村松 邦昭, 橘 充弘, 田中 四郎, 大石 直樹, 廣田 賢良, 栗田 佑希, 堤 寛
    2022 年 61 巻 4 号 p. 263-270
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    背景:筋上皮癌は筋上皮腫の悪性型とみなされるまれな唾液腺腫瘍であり,その細胞像の報告は少ない.今回われわれは,組織診断で明細胞型筋上皮癌と診断された 1 例を経験したので報告する.

    症例:70 歳代,男性.患者は左側上顎歯肉部の急速な腫脹を主訴に当院口腔外科を受診.MRI 検査では 53×44×30 mm 大の腫瘤が認められた.臨床的に悪性が疑われ,口腔擦過細胞診および生検が施行された.擦過細胞診では,楕円形~短紡錘形細胞からなる腫瘍細胞が集塊状に出現し,腫瘍細胞の境界は不明瞭で,裸核様細胞がしばしば認められた.生検組織では,グリコーゲンに富む小型明調細胞が筋上皮系マーカーに陽性で,筋上皮細胞への分化を示す腫瘍とみなされた.臨床像,小壊死の存在と Ki-67 標識率 12%より,明細胞型筋上皮癌と最終診断した.腫瘍は重粒子線治療でいったんは消失したが,2 年後に再発した.

    結論:口腔擦過細胞診において,筋上皮癌の細胞型推定に難渋することが多い.小型裸核様異型細胞や小型短紡錘形細胞が単調に出現し,明確に扁平上皮癌を否定できる場合には,明細胞型筋上皮癌を含めた腫瘍性筋上皮細胞を伴う唾液腺腫瘍を念頭におく必要がある.

  • 大塚 聡代, 海野 洋一, 平原 花梨, 白石 達見, 横山 綾, 茅野 伴子, 原田 直, 野呂 昌弘
    2022 年 61 巻 4 号 p. 271-277
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
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    背景:女性で多量の腹水貯留と骨盤内腫瘤を認める場合,卵巣癌などの婦人科癌を疑われることが多い.腹水に腺癌細胞がみられても,細胞診のみでは原発臓器の診断は困難なこともある.今回,腹水貯留と骨盤内腫瘤があり,婦人科に紹介され,腹水セルブロック法によって大腸癌を疑い,下部消化管内視鏡検査で進行大腸癌が判明した症例を 2 例経験した.

    症例:症例 1:71 歳,女性.腹部膨満感があり,前医を受診.腹水と腹膜播種を認め,当科紹介受診.腹水細胞診で腺癌を認め,セルブロック法で免疫組織化学を行い,CDX2,CK20 陽性だった.下部消化管内視鏡で虫垂癌の診断となった.症例 2:72 歳,女性.腹部膨満感があり,他院を受診.腹水,腹膜播種を認め,当科紹介受診.腹水から腺癌細胞を認めた.セルブロック法による免疫組織化学で CDX2,CK20 陽性だった.下部消化管内視鏡検査で,盲腸癌と診断した.

    結論:癌性腹膜炎患者で,早期に原発臓器を確定し,治療方針を決定するために,腹水細胞診にセルブロック法を併用することが非常に有用と考えられた.

  • ―Microcyts, a useful cytological finding for differentiating between microcystic stromal tumor and other sex cord-stromal tumors―
    Yuko MIYASATO, Akiko TONOOKA, Rin YAMADA, Nobuaki FUNATA, Natsuko SAKU ...
    2022 年 61 巻 4 号 p. 278-285
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    背景:卵巣微小囊胞間質性腫瘍(microcystic stromal tumor of the ovary:MCST)は,2009 年に提唱された性索間質性腫瘍の概念である.Wnt/β-catenin 経路の異常調節によるものと考えられ,組織学的には微小囊胞,細胞成分,線維性間質の 3 つの成分から構成される.しかし,その細胞学的所見についてはいまだ知見が少なく知られていない.今回細胞像から MCST を推定しえた 1 例を報告する.

    症例:62 歳,1 経妊 1 経産の女性.左卵巣腫瘍に対して両側付属器切除が施行された.腫瘍は,30 mm 大の赤褐色で囊胞成分と充実成分が混在していた.捺印細胞像としては,多数の小囊胞構造を伴う細胞集塊が採取された.核は類円形で大小不同を示すが,N/C 比は低くクロマチンが顆粒状で均等に分布し,小さい核小体を 1 個~数個有する細胞も認められた.組織学的にも大小の囊胞を形成しており,免疫組織化学的検索結果を併せて MCST と診断した.

    結論:MCST の細胞学的な特徴は多数の微小囊胞を伴う細胞集塊であり,この点が他の組織型との鑑別に有用で,組織型の推定の一助になると考えられた.

  • 鳴井 千景, 坂本 優, 福島 蒼太, 馬屋原 健司, 岩屋 啓一, 岡本 愛光
    2022 年 61 巻 4 号 p. 286-292
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

    背景:頸管狭窄により術前組織学的診断不能も,卵管内容液の術中迅速細胞診陽性を根拠に広汎子宮全摘術を施行しえた,子宮体部と卵管に表層進展した子宮頸癌症例を報告する.

    症例:50 歳代,1 経産,6 年前に閉経,2 年前に子宮頸部異形成に対し子宮頸部円錐切除術施行.5 ヵ月前より腹部膨満と腹痛が出現,画像検査で子宮および両側卵管留水腫と子宮頸部腫瘤あり,血清 SCC 高値を認めた.子宮口は完全閉鎖し術前の病理学的診断困難だった.術中所見で手拳大の子宮と鶏卵大の両側卵管留水腫を認め,卵管内容液の術中迅速細胞診で扁平上皮癌細胞を強く疑う壊死性細胞を認めた.子宮頸癌ⅠB 期と診断し,子宮傍結合織と腟壁の一部を含めて子宮と両側付属器を摘出した.摘出子宮の迅速病理診断で頸管型扁平上皮癌を確認した後に骨盤リンパ節郭清を行い,広汎子宮全摘術を完遂した.手術標本では扁平上皮癌が頸管上皮,体内膜および両側卵管上皮を置換して広範に分布していた.

    結論:子宮頸癌では術式決定のため術前の病理学的診断は必須だが,術前の病理学的診断が困難でも,十分な臨床所見の検討と術中迅速病理診断を組み合わせることにより根治性の高い一期的な治療が可能と考える.

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