日本臨床細胞学会雑誌
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60 巻, 2 号
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依頼原稿
  • —精密医療 Precision Medicine における細胞診断の役割—
    田中 良太
    2021 年 60 巻 2 号 p. 75-85
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    わが国ではがん対策推進基本計画に基づいて, 遺伝子パネル検査の導入や精度管理体制の構築が課題となっている. その中で患者の治療に直接影響する医薬品の効果や副作用を, 投薬前に予測するためのコンパニオン診断は大変重要である. 一方, 液状化細胞診 (LBC) 検体はコンパニオン診断を前提として, 取り扱われた経緯がないのが現状である. そこでわれわれは LBC 検体を用いたコンパニオン診断の実行可能性について 2 つの検証実験を行った. 1 つ目は肺癌切除標本から腺癌 40 検体を対象として擦過材料を用いて検討した. サイトリッチTM レッド保存液で固定した後に EGFR/KRAS 遺伝子変異, その後 ALK/ROS1 融合遺伝子の解析を施行した. 2 つ目は実際の気管支鏡で用いた器具の洗浄液をサイトリッチTM レッド保存液で固定し, コバス EGFR 変異検出キット v2.0TM で解析した. LBC 検体での検出率は 40% (8/20) で, 同時に採取した FFPE 組織材料の 35% (7/20), 血漿材料の 20% (4/20) と比較して, LBC 固定後のセルブロックでは良好な結果であった. 今後 LBC 検体による効率的な細胞回収と検体処理を提示することは, コンパニオン診断の精度をさらに改善する一助になると考える. そして今後の精密医療の発展と効率化への関与が期待される.

原著
  • 小西 祥朝, 利部 徳子, 小野 巌, 石井 明, 根 裕人, 山谷 千晴, 阿部 諒
    2021 年 60 巻 2 号 p. 86-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    目的 : 癌性腹膜炎, 腹水貯留症例において治療方針決定のために原発臓器の推定は重要である. 今回, 腹水貯留を認め腹水細胞診およびセルブロック法により原発臓器を推定し, 治療方針を決定した症例について検討した.

    方法 : 2017 年 1 月から 2018 年 4 月までに癌性腹膜炎の診断で腹水を採取した 5 例を対象とした. 腹水細胞診陽性例ではセルブロックを作製して免疫組織化学的染色を行い, 原発巣を推定した. 各症例の治療方針, 治療方針決定までの日数, 予後などを検討した.

    成績 : 推定診断は卵巣癌 4 例, 大腸癌 1 例. 卵巣癌の 4 例中 3 例が化学療法を選択した. 大腸癌, 卵巣癌のそれぞれ 1 例が緩和医療を選択した. 当科初診から治療方針決定までの期間は 7〜13 日間 (平均約 10.6 日間) であった.

    結論 : 癌性腹膜炎, 腹水貯留症例において腹水セルブロック法は, 高齢者や試験開腹術が困難な進行症例では低侵襲かつ迅速に原発臓器を推定し, 適切な診療科へ早期に紹介できる有用な検査である.

  • 森村 豊, 羽野 健汰, 栗田 和香子, 寅磐 亮子, 神尾 淳子, 佐藤 哲, 植田 牧子, 加茂 矩士, 遠藤 雄大, 藤森 敬也
    2021 年 60 巻 2 号 p. 94-101
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    目的 : 子宮頸がん集団検診における AGC 例の追跡結果を調査し, AGC 判定の意義を明らかにする.

    方法 : 2011〜2016 年の子宮頸がん集団検診での AGC 判定例の組織診結果, 診断確定までの観察期間を調査した. AGC をベセスダ方式に則って EC, FN と EC, NOS や EM, NOS, 由来不明 FN と由来不明 NOS の 5 つに細分類し比較した.

    成績 : AGC は 232 例で頻度は 0.05%, 細胞診異常例の 5.4%を占めた. 要治療病変は 58 例 25%にみられた. EC 群 (EC, FN+EC, NOS) 111 例では CIN3 が 3 例, 浸潤扁平上皮癌 1 例, AIS 10 例, 浸潤性頸部腺癌 7 例が確認された. EM, NOS 103 例では内膜異型増殖症 1 例, 体癌 23 例, 卵巣癌 2 例が確認された. EC 群では 6.4 月と EM の 4.5 月に比して病変検出までの期間が長かった.

    結論 : AGC の判定に際しては, その由来や性状を記載することが, 患者の適切な管理のために重要である. EC や EM の記述で, 頸部や内膜の精査方法が示される. 特に EC 例では長期の経過観察が重要である.

  • 安倍 秀幸, 河原 明彦, 貞嶋 栄司, 田中 良太, 村田 和也, 髙瀬 頼妃呼, 牧野 諒央, 吉田 友子, 福満 千容, 篠田 由佳子 ...
    2021 年 60 巻 2 号 p. 102-109
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    目的 : 液状化検体細胞診 (LBC) を用いたセルブロック (CB) 法における核酸品質を解析するとともに LBC-CB の保管における核酸品質の影響についても調査した.

    方法 : 2020 年 1 月から 3 月までの期間で, 体腔液細胞診で肺癌および卵巣癌と悪性診断された 19 例を対象に LBC-CB の核酸品質を解析した. また, 2016 年から 2019 年の期間で LBC-CB 保管における核酸品質の影響について調査した.

    成績 : LBC 検体から作製した CB 標本の細胞形態は良好であり, LBC-CB 切片表面の面積は DNA 量に関連性を認めた (r=0.808). また, 対象期間の検体において, DNA integrity number (DIN) 値が解析可能であった症例は 16 例 (84.2%) みられ, DNA の品質は比較的よく保たれていた. これらの症例において検体受取後から LBC-CB 作製までの検体保存日数と DIN 値に明らかな関連性はみられなかったが (r=−0.176), LBC-CB は長期保管により DNA の品質低下を及ぼすことが明らかとなった (p<0.001).

    結論 : LBC-CB の核酸品質は良好であるため, 十分な DNA 量の確保によりさまざまな遺伝子検査への応用が期待できると考える.

症例
  • 青木 章乃, 櫛谷 桂, 佐々木 健司, 神田 真規, 武島 幸男
    2021 年 60 巻 2 号 p. 110-116
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    背景 : 乳腺化生癌はまれな乳腺悪性腫瘍である. ここで提示する症例は多彩な像を示した乳腺化生癌の穿刺吸引細胞診の 1 例である.

    症例 : 70 歳代, 女性. 人間ドックにて左乳房 C 領域に腫瘤を指摘された. 穿刺吸引細胞診では, 採取細胞量は豊富であり, 上皮性結合を示す異型多角形細胞と異型紡錘形細胞を認め, 両者間には移行像がみられた. また, 硝子様物質に取り囲まれた異型細胞集団もみられた. 免疫細胞化学的所見も考慮し化生癌を推定した. 病理組織学的には, 腫瘍は扁平上皮癌を主体とし, 一部に紡錘細胞癌の成分を伴う混合型化生癌であった.

    結論 : 本腫瘍の診断には, 免疫細胞化学的検査の併用が有用であると考える.

  • 長尾 瑞歩, 御舩 華奈, 辰島 純二, 入江 愛子, 堀江 靖, 大朏 祐治, 周防 加奈, 皆川 幸久
    2021 年 60 巻 2 号 p. 117-121
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    背景 : 卵巣悪性腫瘍は, 経卵管的な腫瘍細胞の迷入により子宮内膜細胞診で異常を示すことが知られているが, 境界悪性腫瘍での報告はまれである.

    症例 : 50 歳代. 前医で内膜細胞診陽性のため, 精査目的に当院を紹介受診した. 内膜細胞診では, シート状の正常萎縮内膜細胞集塊に混じて砂粒体を伴う N/C 比の高い比較的大型の異型細胞からなる小集塊をわずかに認め, 漿液性癌を疑った. しかし画像検査および子宮鏡下内膜組織検査では明らかな異常を指摘できなかった. 早期の子宮付属器腫瘍を疑い, 腹腔鏡下手術を施行した. 摘出した両側付属器に肉眼的異常は認めず, 全割による標本作製を行ったが当初の標本では明らかな腫瘍成分は見出せなかった. 術中, ダグラス窩に認められた少量の腹水の細胞診標本には内膜細胞診で認められたものと類似の異型細胞像を認め, 腺癌の存在を推定した. さらなる原発巣の検索を行ったが, 腫瘍性病変は指摘できなかった. そのためブロック標本の深切りによる再評価を行ったところ, 微小病変ながら砂粒体を伴う卵巣表層の漿液性境界悪性腫瘍を認めた.

    結論 : 子宮内膜細胞診が契機となり, 卵巣微小漿液性境界悪性腫瘍の発見に至ったまれな 1 例を経験した.

  • 中澤 久美子, 大森 真紀子, 望月 直子, 花井 佑樹, 笠井 一希, 中村 海斗, 田中 薫, 大石 直輝, 望月 邦夫, 近藤 哲夫
    2021 年 60 巻 2 号 p. 122-128
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    背景 : 尿細胞診で胃型形質を示す腺癌が認められたまれな症例を経験したので報告する.

    症例 : 患者は 40 歳代, 女性. 膀胱腫瘍による尿管閉塞から急性腎不全となり救急搬送された. MRI で膀胱腫瘍と重複子宮, 重複腟, 片側腟閉鎖, 片側腎欠損 (OHVIRA 症候群) が認められた. 尿細胞診像は, 壊死物を含む炎症性背景に, 桃色から橙黄色調の粘液を含む異型細胞集団および細胞境界明瞭な明るい細胞質を示す立方状細胞集団がみられた. 核異型は軽度で微細クロマチンの増量を認め腺癌と診断した. 膀胱組織生検では, 尿路上皮癌成分を認めず, 鋸歯状の異型腺管が増殖, 浸潤していた. 免疫染色で M-GGMC-1 (HIK1083) と MUC6 が一部に陽性を示し, 胃型形質を示す腺癌と診断された.

    結論 : 尿中に細胞境界明瞭な明るい細胞質を示す核異型の乏しい腺癌が認められた場合には, 胃型腺癌も鑑別に挙げて臨床所見と併せ総合的な診断を行うことが重要である.

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