日本臨床細胞学会雑誌
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59 巻, 6 号
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総説
  • 坂本 穆彦
    2020 年 59 巻 6 号 p. 263-268
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
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    細胞診報告様式はパパニコロウ分類が広く用いられていたが, 判定の客観性が問題視されたことなどから, 国際的には 3 段階分類 (陰性・疑陽性・陽性) が主流となった. この時点での報告様式は全臓器に共通する内容であった. 他方, わが国に目を向けると, 国際細胞学会が公にパパニコロウ分類を廃止した後も, 子宮頸部では同分類に準拠した日母分類が用いられる時代が続いた. しかしながら, 子宮頸部細胞診ベセスダシステム 1988 以降, 国際的には新しい流れが生じた. すなわち, 臓器ごとに独自の判定区分が作成されるようになった. 甲状腺, 尿, 唾液腺が子宮頸部に続いた. これらの国際動向とわが国の対応を俯瞰しつつ, 細胞診が諸臓器の 「癌 (腫瘍) 取扱い規約」 にどのように取り入れられてきたかにつき概説する. 「癌取扱い規約」 は, 診療に直接関係している臨床系学術団体と, 必要に応じて日本病理学会が編集に加わって刊行されてきた. ここには癌診療にかかわる用語・定義の国内統一基準が記されている. 細胞診報告様式は各 「癌取扱い規約」 に記載されることにより, 真の意味での国内標準となる. 本稿はその理想に近づくための論考の一助となることを目指している.

症例
  • 谷川 輝美, 的田 眞紀, 野村 秀高, 岡本 三四郎, 金尾 祐之, 杉山 裕子, 高澤 豊, 竹島 信宏
    2020 年 59 巻 6 号 p. 269-272
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    背景 : 扁平上皮分化を伴う類内膜癌では, 悪性の扁平上皮分化を伴うこともある. 今回, 子宮体部の扁平上皮癌が疑われたが, 術前の内膜細胞診で著明な扁平上皮分化を伴った子宮体部類内膜癌と診断しえた症例の細胞像・病理像および臨床像を検討した.

    症例 : 52 歳, 未経産. 前医での子宮内膜細胞診は陽性, 内膜組織診は扁平上皮癌であり子宮体部原発の扁平上皮癌が疑われ当院へ紹介された. 当院での細胞診では多数の扁平上皮細胞と不規則重積を示す腺系を疑う悪性細胞集塊が認められたため, 扁平上皮への分化を伴う類内膜癌が疑われた. MRI 検査では子宮体部に腫瘍を認め, PET-CT 検査では多発リンパ節転移が疑われた. 子宮体癌の診断で手術が行われた. 摘出子宮の病理診断は, 扁平上皮分化を伴う類内膜癌 (grade 2) で, 大部分は角化を伴う扁平上皮癌成分からなり, ごく一部に腺癌成分が認められた. 多発リンパ節転移を認め, 扁平上皮癌成分が転移していた. 術後 8 ヵ月目に多発リンパ節転移で再発した.

    結論 : 今回, 著明な扁平上皮分化を伴った子宮体部類内膜癌を経験した. 扁平上皮癌成分がリンパ節へ転移しており, 早期に再発し予後不良であった.

  • ―A case report and literature review―
    Kyoko KISA, Kenta KAJIO, Masako ONISHI, Sigekatsu OYAMA, Kayo UEDA, Ku ...
    2020 年 59 巻 6 号 p. 273-278
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    背景 : 肺テューモレットは気管支上皮外の神経内分泌細胞の増殖性病変である. 本疾患は, 気管支拡張症などの病的肺で多くみられ, 切除肺, 剖検肺に偶然発見されることが多いが, 細胞診標本に本疾患が疑われる所見が出現することは非常にまれである.

    症例 : 70 歳代, 女性. 血痰を主訴に当院を受診され, 胸部 CT にて右中葉結節影が認められた. 肺癌が疑われたため右中葉切除術が施行され, 切除肺割面の病変部より捺印細胞診が施行された. 細胞学的所見は, 背景は清明で, 類円形~紡錘形の小型異型細胞の小集塊が散見された. 細胞集塊における細胞間の結合性は低く, 異型細胞は N/C 比が非常に大きく, クロマチンは細顆粒状に軽度増量して認められ, 核小体は目立たなかった. 病理組織学的所見は, 背景肺に気管支拡張症が認められ, 末梢気道・小血管周囲には, 均一な小型核と淡明な胞体を有した細胞が, 線維性間質を伴って小集塊を形成して増殖して認められた. 免疫組織化学的評価と併せ, 最終的に肺テューモレットと診断した.

    結論 : 肺テューモレットは, 定型カルチノイド腫瘍と同様の形態を示し, 細胞学的にこれらを鑑別することは困難である. その細胞診判断に際しては, 背景肺の状態や出現細胞数などを踏まえた総合的な判断が必要である.

  • 村上 拓也, 有廣 光司, 石田 克成, 丸橋 由加里, 金子 佳恵, 尾田 三世, 武島 幸男, 城間 紀之
    2020 年 59 巻 6 号 p. 279-285
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
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    背景 : 血管周囲類上皮細胞腫瘍 perivascular epithelioid cell tumor (PEComa) は全身諸臓器に発生するまれな腫瘍である. 今回肺癌に合併した PEComa の 1 例を報告する.

    症例 : 60 歳代, 女性. 健康診断の胸部 X 線検査により両肺に多発性腫瘍を指摘された. 穿刺吸引細胞診により右肺腫瘍は腺癌と推定されたが, 術中迅速組織診で左肺腫瘍は肺癌が否定されたため部分切除された. 左肺腫瘍の捺印細胞診では異型が乏しく境界不明瞭な異型細胞集塊を散在性に認めた. この異型細胞は淡明ないし好酸性の豊富な胞体をもち, 核クロマチンは微細顆粒状で, 核小体は小型好酸性であった. 一部の核には核内細胞質偽封入体を認めた. 肉眼的に左肺下葉腫瘍は 1.0×1.0×0.7 cm 大で灰白色充実性であり, 組織学的には充実性胞巣状を示す境界明瞭な腫瘍であった. 組織化学的に腫瘍細胞は PAS 反応陽性, 免疫組織化学的に腫瘍細胞の約 30%に HMB45 および MelanA の発現を示したため, PEComa (淡明細胞腫) と診断された.

    結論 : PEComa は偶然発見される例が多く, 肺癌例では転移巣と過大評価しないことが肝要である.

  • 立石 愛美, 島津 宏樹, 岩瀬 大輔, 倉澤 佳奈, 高城 理香, 西尾 祥邦, 佐々木 志保, 藤中 浩樹, 隅蔵 智子, 伏見 博彰
    2020 年 59 巻 6 号 p. 286-290
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    背景 : 子宮体部原発扁平上皮癌はまれである. 今回, われわれは子宮頸部細胞診にて子宮体部原発扁平上皮癌の症例を経験したので, 文献的考察を加えて報告する.

    症例 : 50 歳代, 女性, 2 経妊, 2 経産, 47 歳閉経. 10 年前より月経不順を自覚. 他院の子宮頸部細胞診にて異常を指摘され, 診断治療目的で当センター紹介受診. HPV-DNA 検査は陰性であった. 子宮頸部細胞診では atypical squamous cells cannot exclude high grade squamous intraepithelial lesion (ASC-H) と判定し, 内膜組織診では多くの異型扁平上皮細胞が乳頭状集塊形成性や散在性に観察され, 高度異形成を伴う扁平上皮化生と判断した. 診断を確定するために腹腔鏡下単純子宮全摘+両側付属器摘出術が施行され, 子宮体部原発扁平上皮癌と最終診断された. この結果を踏まえ, 頸部細胞診標本を再検討したところ, 特徴的な以下の 4 所見が認められた : 1) 扁平上皮系異型細胞, 2) 異常角化細胞, 3) 無核角化物, 4) 紡錘形細胞.

    結論 : 子宮頸部細胞診で上記の 4 所見がみられ, 子宮頸部に病変を認めない場合は, 子宮体部原発の扁平上皮癌を念頭にいれた検索が必要である.

  • 木下 史暁, 杉谷 拓海, 近藤 妙子, 松岡 拓也, 中川 美弥, 田上 圭二, 神尾 多喜浩
    2020 年 59 巻 6 号 p. 291-298
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    背景 : 高度なメラニン色素沈着を示した血管周囲類上皮細胞腫瘍は, pigmented perivascular epithelioid cell tumor (pigmented PEComa) として腎臓や肝臓などで報告されているが, 非常にまれな腫瘍である. 今回われわれは高度なメラニン色素沈着を示した後腹膜原発の血管周囲類上皮細胞腫瘍の 1 例を経験したので報告する.

    症例 : 40 歳代, 女性. 検診で肝腫瘍を疑われたが, MRI で後腹膜腫瘍疑いとなり, 超音波内視鏡下穿刺吸引法による細胞診検体採取と生検が施行された. 細胞診上, 類円形, 紡錘形など多彩な像を呈する腫瘍細胞が出現しており, 顆粒状核クロマチンの増量と明瞭な核小体を認めた. 細胞質に多数の褐色顆粒を有しており, メラニン顆粒と思われた. パラガングリオーマや PEComa, 悪性黒色腫の転移が鑑別に挙がった. 組織学的に大小の毛細血管が増生し, 著明なメラニン顆粒を有する腫瘍細胞が胞巣状に増殖していた. 免疫染色では腫瘍細胞が HMB-45 陽性, α平滑筋アクチンと S-100 蛋白は陰性であった. 細胞異型は目立ったが, 核分裂像はみられず, MIB-1 陽性細胞も 1%未満であり, pigmented PEComa と診断された.

    結論 : PEComa の細胞学的特徴を認識し, 細胞質にメラニン顆粒を有する腫瘍では鑑別診断として挙げることが重要である.

  • 前花 知果, 山田 有紀, 杉本 澄美玲, 内山 智子, 川口 龍二, 大林 千穂, 小林 浩
    2020 年 59 巻 6 号 p. 299-304
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
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    背景 : 子宮内膜細胞診は子宮体癌のスクリーニングとして行われている検査である. 卵巣癌の有用なスクリーニング法は確立されていないが, 子宮内膜細胞診で卵巣由来の腫瘍細胞を指摘される例がみられる.

    症例 : 症例 1 : 58 歳, 女性. 子宮内膜細胞診が悪性であり子宮体癌の疑いで当科を受診した. 組織診や画像検査で悪性を疑う所見はなかったが細胞診の結果との乖離があり, 手術を施行した. 最終診断は左卵巣漿液性境界悪性腫瘍であった. 症例 2 : 51 歳, 女性. 持続する咳嗽と動悸を主訴に前医を受診し, 画像と生検結果より悪性胸膜中皮腫の診断で加療を受けた. 組織診の再検討で婦人科腫瘍が疑われ当科へ紹介となった. 子宮内膜細胞診が悪性であり, 手術を施行した. 肉眼的には病変を指摘できなかったが, 病理検査で左の卵管采と両側卵巣表面に腫瘍細胞を認め, 卵巣高異型度漿液性癌 Stage ⅣB と診断した.

    結論 : 画像検査で診断にいたらなかったものの子宮内膜細胞診が診断の契機となった卵巣悪性腫瘍の 2 例を経験した. 細胞診で腫瘍性背景を伴わない集塊状の腫瘍細胞を認めた場合は, 子宮外病変の可能性も念頭において治療にあたるべきである.

  • 古清水 千咲, 大兼政 良育, 寺内 利恵, 中野 万里子, 山下 学, 水谷 謙一, 塩谷 晃広, 黒瀬 望, 山田 壮亮
    2020 年 59 巻 6 号 p. 305-310
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
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    背景 : 唾液腺原発の扁平上皮癌はきわめてまれで, 予後は非常に悪い. 今回われわれは, 粘表皮癌との鑑別に苦慮した, 細胞質内空胞の形成を伴う, 右顎下腺原発の扁平上皮癌の 1 例を経験したので, 細胞学的所見を中心に報告する.

    症例 : 65 歳, 男性. 1 ヵ月前から右顎下部の腫脹を自覚し当院を受診した. 穿刺吸引細胞診にて, ライトグリーン濃染性の細胞質を有した細胞と, オレンジ G 好性の細胞質をもつ角化細胞がみられ, 扁平上皮癌と診断されたが, 細胞質内空胞を有する細胞が少数認められ, 粘表皮癌との鑑別に苦慮した. 組織学的に腫瘍は, 中~低分化型扁平上皮癌で, 粘液産生像はなかった. 戻し電顕にて, 拡張した小胞体が観察され, 細胞質内空胞との関連性が示唆された.

    結論 : 扁平上皮癌細胞では, 時に細胞質内空胞がみられる場合がある. 粘液産生細胞と見誤らないことが肝要である.

  • ―GIST, 平滑筋腫との細胞像の比較検討―
    奥山 力也, 和泉 智子, 佐藤 和美, 荒井 政和, 香田 弘知, 増田 芳雄, 橋本 浩次, 森川 鉄平, 堀内 啓
    2020 年 59 巻 6 号 p. 311-317
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
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    背景 : 胃神経鞘腫は全胃腫瘍の 0.2%を占める粘膜下腫瘍で, GIST (gastrointestinal stromal tumor) や平滑筋腫との臨床的な鑑別診断が困難である. われわれは EUS-FNA (endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration) を施行した 2 例の胃神経鞘腫をもとに, 細胞学的な特徴や他の胃粘膜下腫瘍との鑑別点について報告する.

    症例 : 50 歳代と 70 歳代の女性. ともに 15 mm 大の胃粘膜下腫瘍を経過観察し, 増大傾向を示したため EUS-FNA が施行され, 細胞診とセルブロック標本による組織診を行った. 細胞診ではリンパ球に富む背景の中に紡錘形細胞集塊を認めた. 組織診では淡好酸性の胞体を有する紡錘形細胞が増生していた. 免疫組織化学で S-100 が陽性であり, 胃神経鞘腫と診断された. 手術検体でも同様の組織像で, 神経鞘腫と確定された.

    結論 : 細胞診のみでは胃神経鞘腫の確定診断は難しいものの, 腫瘍細胞の核が楕円形で細胞束が短く, 集塊からの核突出および背景に核線を伴う多数のリンパ球の出現を指摘することで, EUS-FNA 材料による組織型推定が可能である.

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