日本臨床細胞学会雑誌
Online ISSN : 1882-7233
Print ISSN : 0387-1193
ISSN-L : 0387-1193
60 巻, 6 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • ―高度病変の潜在性 (第 2 報)―
    笹 秀典, 松浦 寛子, 髙﨑 和樹, 中山 美咲, 島﨑 英幸, 高野 政志
    2021 年 60 巻 6 号 p. 311-316
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    目的 : 異型腺細胞 (AGC) は, 上皮内腺癌 (AIS) や浸潤腺癌の可能性を視野に入れた区分であるが, 判定基準が曖昧で臨床的取り扱いが難しい場合がある. 当院の AGC 症例の検討から高度病変の潜在性について検討した.

    方法 : 2009~2019 年の 11 年間に AGC で紹介された 66 例 (平均年齢 44.2 歳) を対象とした. 細胞診と組織診の結果やその後の経過を後方視的に検討した.

    成績 : 66 例中, 細胞診再検で AGC の判定は 27 例, AIS 3 例, HSIL 8 例, AGC+HSIL 11 例, ASC-H 以上の判定は 52 例 (79%) であった. コルポスコープ下生検では CIN2 や AIS 以上の高度病変は 30 例 (45%) にみられたが, 細胞診より有意に低率であった. 円錐切除は 40 例に行い, 高度病変は 36 例 (90%) であった. 細胞診が ASC-H 以上であった 52 例中, 生検が陰性または生検なしの 17 例のうち 10 例に円錐切除施行し, 腺癌 1 例, AIS 3 例, CIN3 4 例の計 8 例に高度病変が存在した. 扁平上皮病変と腺系病変の併存は 7 例 (17.5%) にみられた. ヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 検査は 27 例に行い 13 例が陽性でうち 9 例が高度病変であった.

    結論 : AGC 例では, 生検では腺系異常組織の検出が困難な場合が多く, CIN2 や AIS 以上の高度病変が潜在する割合が 66 例中 37 例 (56.1%) であった. HPV 陽性率は低いが陽性であれば, より積極的に円錐切除を考慮すべきと考えられた.

症例
  • 新原 菜香, 内畠 由加里, 尾田 三世, 石田 克成, 清水 智美, 楾 清美, 關 義長, 有廣 光司
    2021 年 60 巻 6 号 p. 317-323
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    背景 : 分泌癌は唾液腺癌の約 10%を占める, 低悪性度の腫瘍である.

    症例 : 40 歳代, 男性で, 約 3 年前より右耳前部に腫瘤が出現した. MRI 検査では右耳下腺に最大径 4 cm 大の多房性腫瘤を指摘された. 腫瘤の穿刺吸引細胞診パパニコロウ染色標本では, 背景に粘液, 出血およびヘモジデリンを貪食した泡沫状組織球を認めた. これらに混在し微小濾胞状や乳頭状, 小型のシート状集塊を認めた. それらの細胞では核は中型で偏在し, 明瞭な核小体と核クロマチンの軽度増量を伴った. ギムザ染色標本では一部の腫瘍細胞の胞体には異染性を示す分泌物を認めた. 組織学的に腫瘤は囊胞内に小型類円形腺管, 胞巣状ないし乳頭状に増殖する腫瘍であった. 免疫組織化学的に腫瘍細胞は Vimentin, GATA3, S-100, Mammaglobin, CK7 が陽性であり, 分泌癌と診断された. サンガー法によるダイレクトシーケンス解析でETV6-NTRK3融合遺伝子が検出された.

    結論 : 唾液腺腫瘤の細胞診では, 乳頭状および微小濾胞状腫瘍の場合は, 推定診断の一つとして分泌癌を挙げることが重要である.

  • 伊藤 知美, 古市 和美, 森 正樹, 八田 聡美, 米元 菜採, 山口 愛奈, 樋口 翔平, 今村 好章
    2021 年 60 巻 6 号 p. 324-330
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    背景 : 甲状腺内胸腺癌 intrathyroid thymic carcinoma (以下 ITTC) は甲状腺悪性腫瘍の 0.083%とまれな腫瘍である. 今回われわれは甲状腺左葉下極に発生し, 乳頭癌 papillary carcinoma (以下 PC) と合併した ITTC の 1 例を経験したため報告する.

    症例 : 60 歳代, 男性. 嚥下困難を主訴に前医を受診. 甲状腺左葉上極と下極に 2 個の腫瘤を指摘されたため, 手術目的に当院紹介受診となった. Calcitonin と CEA が高値であり, 髄様癌疑いで甲状腺全摘出術が施行された. 術中に迅速組織検査が行われ, 腫瘍割面からの捺印細胞診も同時に行った.

    下極の腫瘤の前医穿刺吸引細胞診および術中捺印細胞診においては, 炎症性背景に重積した大型集塊や核小体の目立つ異型細胞が多数みられた. 免疫細胞化学的染色では CK5/6, CD5, c-kit, p63 が陽性, thyroglobulin, TTF-1, PAX8, calcitonin は陰性であった. 切除材料では, リンパ形質細胞を背景に腫瘍細胞の島状配列がみられ, 一部で扁平上皮への分化を示した. 免疫組織化学的染色結果は上記とほぼ同様であり, ITTC と診断した. 上極の腫瘤は PC であった. なお, 背景の甲状腺組織には反応性 C 細胞過形成を認めた.

    結論 : ITTC と PC が甲状腺両葉に発生した報告はあるが, 本例のように同一葉内に発生した例はない.

  • 秋丸 琥甫, 玉川 英史, 小竹 晃生, 松本 光司
    2021 年 60 巻 6 号 p. 331-336
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    背景 : 固形癌に由来する髄膜癌腫症 (以下 : MC) の原因として消化器癌は比較的まれである. 今回, 臨床的に髄膜炎を疑い髄液細胞診を施行することにより MC を推定しえた胃癌 2 例を経験したので報告する.

    症例 : 症例 1 は 60 歳代, 男性. 進行胃癌の診断にて胃切除術および術後化学療法が追加されたが, 7ヵ月後に脊椎骨転移が認められ頭痛と歩行障害が出現し, 髄膜炎の併発を疑い髄液細胞診が行われた. 腺癌を疑わせる異型細胞を認め MC が推定されたが, 8 日後に全身状態悪化により死亡した. 症例 2 は 80 歳代, 男性で早期胃癌の診断にて胃切徐術が施行されたが, 3 年後に残胃に早期癌が出現し内視鏡切除が行われた. 6ヵ月後に自宅で転倒し全身脱力状態となり入院, 1 週間後に昏睡状態となり髄膜炎が疑われ髄液細胞診が行われた. 印環細胞様の異型細胞が認められ, MC が推定されたが, 全身状態の悪化により 10 日後に死亡した.

    結論 : 胃癌に由来する MC はまれであるが, 低分化腺癌や印環細胞癌症例は進行例, 早期例ともに出現する可能性があり, 術後に髄膜刺激症状が認められた場合は, 本症を考慮した髄液細胞診を行うことにより, 早期に診断することが重要と考えられた.

  • 三宅 智也, 福島 好美, 松岡 裕大, 和田 剛信, 堤 寛, 由谷 親夫
    2021 年 60 巻 6 号 p. 337-343
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    背景 : メルケル細胞癌 (Merkel cell carcinoma, 以下 MCC) は皮膚における神経内分泌腫瘍の一つである. 今回, 舌に発生し原発部の自然退縮を認めた MCC を経験したので報告する.

    症例 : 40 歳代, 男性. 右側舌縁部に硬結節を自覚し当院に紹介された. しかし受診時は消失しその後潰瘍を伴い硬結節が再燃, 舌生検にて異型細胞が観察された. それらは神経内分泌系マーカーに陽性を示し神経内分泌腫瘍と診断された. その後右側舌切除術・頸部リンパ節郭清がなされ, リンパ節にて捺印細胞診を行った. 壊死性背景, N/C 比の高い小型類円形から紡錘形異型細胞が上皮様集塊を形成し, 裸核様細胞も多く散見された. クロマチンはゴマ塩状であった. 舌においては確認されず自然退縮が考えられた. 原発部の自然退縮を示した MCC と診断がなされ, 現在まで再発を認めない.

    結論 : MCC は時に自然退縮をする場合がある. 転移性小細胞癌や神経内分泌腫瘍の転移, 悪性リンパ腫との類似点も多く, 形態的鑑別は困難であり免疫染色や電子顕微鏡学的検査にて総合的に判断する必要がある.

  • 八田 聡美, 古市 和美, 森 正樹, 米元 菜採, 伊藤 知美, 山口 愛奈, 樋口 翔平, 今村 好章
    2021 年 60 巻 6 号 p. 344-352
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    背景 : 肉腫様型浸潤性尿路上皮癌は膀胱癌の 0.6%を占めるとされているが, 尿管癌ではさらにまれである. 今回, 術前尿細胞診で肉腫成分が出現していた右尿管原発肉腫様型浸潤性尿路上皮癌について報告する.

    症例 : 67 歳, 男性. 肉眼的血尿を主訴に近医を受診したところ, CT で右尿管に結節影を指摘され, 精査加療目的に当院受診となった. 尿細胞診で集塊状あるいは孤在性の異型細胞を認め, 陽性と判定されたため, 右腎尿管摘出術が施行された. 手術材料では尿路上皮癌成分とともに肉腫様成分を認め, 右尿管原発肉腫様型浸潤性尿路上皮癌と診断された. 細胞診における集塊状・孤在性異型細胞および組織診における尿路上皮癌成分と肉腫様成分のいずれも免疫染色で GATA3 と p63 が陽性であった.

    結論 : 肉腫様型浸潤性尿路上皮癌は尿路上皮癌の中でも予後不良な一群であり, 正確な病理診断が求められる. 尿細胞診で異型の強い孤在性の細胞を多数認めた際には GATA3 と p63 の染色を行い, 肉腫様型浸潤性尿路上皮癌の可能性を考えることが肝要である.

  • 大島 康裕, 山本 宗平, 杉山 宗平, 牧 明日加, 酒井 優
    2021 年 60 巻 6 号 p. 353-358
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    背景 : 肝 fibrolamellar carcinoma (FLC) は, 本邦では極めてまれな肝原発悪性腫瘍であり, 細胞像に関する報告は少ない. 今回われわれは, 急激な経過を辿った FLC 症例を経験し, その経過中に施行された頸部リンパ節穿刺吸引検体にて FLC の転移を推定しうる細胞所見を観察しえたので報告する.

    症例 : 37 歳, 女性, 遷延する咳嗽を主訴に当院を受診した. CT にて最大 7.5 cm までの多発肝腫瘤と頸胸部多発リンパ節腫大が指摘された. 頸部リンパ節からの穿刺吸引細胞診の結果に基づいて治療が計画されたが, 呼吸循環動態の急激な悪化により受診後 20 日で死亡した. 頸部リンパ節穿刺検体では, 核小体明瞭な腫大核と豊富な好酸性顆粒状胞体を有する大型多角形細胞が細胞接着に乏しい集塊として認められた. 胞体内には pale body が散見され, 一部胆汁産生や胞体内腺腔が認められた. 免疫染色では Arginase-1, CK7, CD68 に陽性を示した. 血清肝炎ウイルスマーカーはすべて陰性であり, 肝 FLC の転移が強く示唆された. 病理解剖にて肝 FLC の全身転移と肺の癌性リンパ管症が確認された.

    結論 : FLC を特徴づける細胞像は, 転移巣の穿刺吸引検体においても保持されており, 臨床背景と免疫染色を合わせることで, その診断推定は十分に可能と考えられた.

  • 軽部 晃平, 平井 秀明, 本多 将吾, 田崎 晃一朗, 三宅 真司, 長尾 俊孝
    2021 年 60 巻 6 号 p. 359-364
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    背景 : 類上皮型神経鞘腫は神経鞘腫の特殊な組織亜型であり, その唾液腺発生は極めてまれである. 今回, 耳下腺に発生した類上皮型神経鞘腫の 1 例を報告する.

    症例 : 50 歳代, 男性. 1 年前より左耳下腺腫脹を認め, 穿刺吸引細胞診にて多形腺腫や筋上皮腫が疑われたため, 左耳下腺浅葉切除術が施行された. 腫瘍捺印細胞診では, 異型性に乏しい類円形~紡錘形核, 細顆粒状のクロマチン, 小型明瞭な核小体, および淡明~顆粒状の細胞質を有する腫瘍細胞が流れ様に配列する比較的結合性の保たれた集塊として出現していた. 組織学的に, 腫瘍は境界明瞭で, 類円形~紡錘形細胞の索状, 小胞巣状, 孤立性, シート状構造を示す増殖からなり, 粘液腫様や線維性の間質を伴っていた. 壊死や核分裂像はみられなかった. 免疫組織化学的に, 腫瘍細胞は S-100 蛋白陽性, 上皮・筋上皮マーカーは陰性, Ki-67 標識率は 1%未満であった. 以上の所見から, 類上皮型神経鞘腫と診断された.

    結論 : 唾液腺腫瘍の細胞診で異型性に乏しい類円形~紡錘形細胞からなる比較的結合性の保たれた集塊がみられたときには, 多形腺腫や筋上皮腫以外にもまれながら類上皮型神経鞘腫を念頭においた推定診断が必要と考えられた.

feedback
Top