日本臨床細胞学会雑誌
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58 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 中西 昂弘, 佐藤 元, 糸山 雅子, 中村 純子, 鳥居 良貴, 渡邊 隆弘, 中込 奈美, 井出 良浩, 松田 育雄, 廣田 誠一
    2019 年 58 巻 6 号 p. 231-240
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 : 体腔液検体を用いて, SurePath 法による Liquid based cytology (LBC) 標本と通常の引きガラス法による塗抹標本の細胞像の比較検討を行い, LBC 法が体腔液細胞診へ応用できるかを検討した.

    方法 : 対象として胸水 721 例, 胸腔洗浄液 251 例, 腹水 519 例, 腹腔洗浄液 229 例, 心囊液 39 例の計 1759 例を用いた. 検体を遠心後, まずバフィーコート部分から引きガラス法を用いて塗抹標本を作製し, 残余検体が得られた場合に CytoRich Red 保存液を添加して 30 分以上細胞固定した後, SurePath 法にて LBC 標本を作製した.

    成績 : LBC 標本では, 塗抹標本に比べて清明な背景が得られ, 細胞変性が少なく, 腫瘍細胞の出現率が高かった. また, 狭い範囲に細胞が均一に分布することから, 塗抹標本よりも鏡検範囲が縮小された. さらに, LBC 標本では腫瘍細胞の立体構造がより保たれ, 塗抹標本と同様, 基本的には良好な免疫細胞化学の結果が得られた.

    結論 : LBC 標本は細胞形態や出現様式が塗抹標本とは異なるため, 判定には習熟が必要であるが, LBC 法を体腔液検体に応用することは有用と考えられた.

  • —Invasive ductal carcinoma, solid type との比較を中心に—
    大久保 美沙, 松井 成明, 遠藤 浩之, 森下 明博, 内山 瞳, 山近 大輔, 井野元 智恵, 梶原 博
    2019 年 58 巻 6 号 p. 241-248
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 : 細胞学的にみた乳腺 solid papillary carcinoma (SPC) の組織型推定に有用となる所見について, invasive ductal carcinoma, solid type (STC) と比較検討を行った.

    方法 : 組織学的に SPC と診断された 11 例および STC と診断された 16 例の穿刺吸引細胞診標本を用いた. これらをもとに, ①背景および出現パターン, ②核所見, ③細胞質内粘液, ④核・細胞面積および N/C 比の比較検討を行った.

    成績 : SPC 群では, 背景粘液, 充実性細胞集団, 裸血管間質, 散在性細胞が高頻度に認められた. 構成細胞は核形不整, 大小不同に乏しい類円形核, 小型核小体, 細胞質内粘液を有していた. 一方, STC 群では, 充実性細胞集団, 散在性細胞が高頻度に認められた. 構成細胞は, 核形不整, 大小不同が目立ち, 比較的大型の核小体を有し, N/C 比は高い傾向にあった. 両群の比較からは①背景粘液, ②裸血管間質, ③細胞質内粘液, ④N/C 比, ⑤1.5 μm以上の核小体に有意差を認めた.

    結論 : SPC は STC と重複した細胞所見を示すが, 背景粘液, 裸血管間質, 細胞質内粘液を指摘することが重要である. さらに SPC は STC に比してより細胞異型が軽度であることも所見の一つとして挙げられた.

  • —トリノ基準は低分化癌の細胞診断に影響を及ぼすか?—
    丸田 淳子, 伊藤 有紀子, 山本 加菜, 横山 繁生, 内野 眞也
    2019 年 58 巻 6 号 p. 249-255
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 : 甲状腺の新 WHO 分類 (第 4 版) で用いられている低分化癌の組織診断基準 (トリノ基準) が, 細胞診断に及ぼす影響について検討した.

    方法 : 過去に低分化癌と診断されていた 48 例をトリノ基準に則って再診断した. 甲状腺細胞診ベセスダシステムにおいて細胞診検体が適正であった低分化癌 17 例と, 充実性 (solid)・索状 (trabecular)・島状 (insular) の増殖パターン (以下, STI パターン) を示す非低分化癌 (乳頭癌 15 例と濾胞癌 4 例) に診断が修正された 19 例を対象とし, 両群における細胞採取量, 背景, 細胞の出現パターン, 細胞・核所見を細胞学的に比較検討した. 特に, トリノ基準に必須条件として加わった 3 所見 “入り組んだ核, 核分裂像, 壊死” に注目した.

    成績 : 富細胞性, コロイドの欠如, STI パターン, 不規則な重積性, 疎な結合性, N/C 比の高い細胞は両群に共通して観察され, さらに, 低分化癌では濃染核を有する均一な小型類円型細胞の出現が有意に高頻度であった. 必須 3 所見は, 1 個の核分裂像が 1 例にみられたのみであった.

    結論 : 今回の検討で頻度の高かった低分化癌の細胞所見は新 WHO 分類刊行以前から指摘されており, 新たに必須条件に加わった 3 所見の出現頻度は非常に低かった. 以上のことより, 新 WHO 分類が低分化癌の細胞診断に及ぼす影響は限定的と考えられた.

調査報告
  • 古旗 淳, 荒木 邦夫, 大石 徹郎, 加勢 宏明, 片山 博徳, 河野 裕夫, 川本 雅司, 九島 巳樹, 小松 京子, 関根 浄治, 竹 ...
    2019 年 58 巻 6 号 p. 256-265
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 : 本調査報告の目的は, 平成 10 年度に行われた全国実態調査 (細胞診鏡検例数や細胞検査士数, 等) の追跡調査として実施されてきた定点観測の意義を明らかにすることである.

    方法 : 平成 12 年度から平成 26 年度まで, 北海道, 宮城県, 熊本県に固定し, 地域別および施設別に部位別鏡検例数, 細胞検査士数および細胞診専門医数をアンケート調査し, 回答結果を集計した.

    成績 : 総鏡検例数は観測当初と比べ最終的に 9.8%増加し, 特に登録衛生検査所での増加が目立った. 部位別では婦人科件数が増加し, 呼吸器件数は大幅に減少した. 総細胞検査士数は 23.7%増加し, 非常勤の比率が上昇した. 1 人当たりの 1 日の平均鏡検例数は 15.4 件から 13.6 件へと減少したが, 施設間格差が大きかった. 総細胞診専門医数は 14.6%増加したが, 常勤・臨床医数は減少していた. 細胞検査士数と細胞診専門医数の比率では施設間格差が大きかった.

    結論 : 婦人科や呼吸器の鏡検例数の推移は厚生労働省によるがん検診受診率の動向と同調しており, がん検診において細胞診は重要な役割を担っていることが推定された. 一方, 鏡検施設や細胞診従事者に関する多くの課題も明らかとなった.

症例
  • 玉城 真太, 笹栗 毅和, 安部 拓也, 西山 純司, 立岩 友美, 豊嶋 憲子, 奥薗 学
    2019 年 58 巻 6 号 p. 266-271
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    背景 : 濾胞樹状細胞肉腫 (follicular dendritic cell sarcoma, 以下 FDCS) は, リンパ濾胞内に存在する濾胞樹状細胞が腫瘍性増殖を示したものである. まれな腫瘍であることから, その細胞学的な診断は難しい. 今回, リンパ節に発生した FDCS の 1 例を経験したので, その細胞学的所見を中心として報告する.

    症例 : 60 歳代, 女性. 左頸部腫瘤が認められ, 当院紹介受診した. 穿刺吸引細胞診では, 結合性に乏しい細胞境界不明瞭な異型細胞が集塊状に出現していた. 細胞質は豊富で空胞状であり, 核は類円形〜楕円形で核膜は薄く, 繊細なクロマチンと大型明瞭な核小体を有していた. 低分化癌を疑ったが組織型の推定は困難であった. 組織学的にはリンパ節内において, 上皮様細胞が充実胞巣状に増殖する像や紡錘形細胞が束状, 渦巻き状に増殖する像を認め, 小型リンパ球が介在していた. CD21 陽性などの免疫組織化学染色の結果と併せ, 頸部リンパ節原発の FDCS と診断された.

    結論 : 本例で認めた細胞学的特徴は FDCS を推定するうえで有用な所見と考えられた.

  • 小作 大賢, 小松 宏彰, 澤田 真由美, 下雅意 るり, 佐藤 慎也, 桑本 聡史, 堀江 靖, 大石 徹郎
    2019 年 58 巻 6 号 p. 272-278
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    背景 : 子宮頸部細胞診で大細胞神経内分泌癌 (large cell neuroendocrine carcinoma : LCNEC) と推定した子宮頸癌 2 例について報告する.

    症例 : 症例 1 : 47 歳. 半年間の性器出血のため受診. 子宮頸部に長径 50 mmの腫瘤を認めた. 頸部細胞診では, 粗顆粒状クロマチンと比較的明瞭な核小体を有する異型細胞が辺縁に柵状配列を示す細胞集塊を形成していた. 免疫細胞化学で synaptophysin (SyN) 陽性であり, LCNEC を推定した. 組織診の結果, 子宮頸癌 IB2 期 LCNEC と診断し, 術前化学療法後に広汎性子宮全摘出術を施行した. 症例 2 : 36 歳. 性器出血が持続するため受診. 子宮頸部に長径 45 mmの腫瘤を認めた. 頸部細胞診では, 核は類円形で, 粗顆粒状クロマチンと比較的明瞭な核小体を有する異型細胞が緩い結合性を示す集塊を形成して出現していた. 免疫細胞化学で SyN 陽性であり, LCNEC を推定した. 組織診で子宮頸癌 IIB 期 LCNEC と確定し, 同時化学放射線療法を施行した.

    結論 : 頸部細胞診で特徴的な細胞所見を捉え, 免疫染色を追加することで, 本例を LCNEC と推定することが可能であった.

  • 夏目 愛子, 裴 有安, 中 昂一, 松尾 梢恵, 富田 健一郎, 武村 民子, 熊坂 利夫
    2019 年 58 巻 6 号 p. 279-283
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    背景 : 形質細胞様型尿路上皮癌 (plasmacytoid urothelial carcinoma, 以下 PUC) は尿路上皮癌のまれな亜型であり細胞診断が難しい. 当院において経験した膀胱原発 PUC の 1 例を報告する.

    症例 : 80 歳代, 女性. 血尿, 排尿時痛のため当院受診. 膀胱鏡にて膀胱粘膜浮腫と尿道狭窄, CT にて膀胱壁の肥厚をそれぞれ認めた. 細胞診にて軽度の核腫大とクロマチン増加を伴う異型細胞を認めたが, 腫瘍か否か鑑別困難なため判定は 「異型細胞」 であり, その後の手術検体の組織診にて PUC と確定診断された. 組織診断を受け細胞診検体を再鏡検した結果, 異型細胞の N/C 比は背景の尿路上皮細胞のそれよりも高いと推測された. そこで PUC (本例) の細胞, 良性尿路上皮細胞, および通常型尿路上皮癌細胞の三者の N/C 比をそれぞれ比較した結果, PUC の細胞は通常型尿路上皮癌よりも N/C 比が低い一方, 良性尿路上皮細胞よりは N/C 比が高かった (p<0.001).

    結論 : 細胞診検体にて PUC を疑う異型細胞が認められた場合, N/C 比の測定が診断に有用であると考えられた.

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