日本臨床細胞学会雑誌
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62 巻, 6 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 寺尾 友伽, 大澤 幸希光, 岩下 玄基, 小田嶋 広和, 大西 崇文, 岡田 仁克, 服部 学
    2023 年 62 巻 6 号 p. 279-286
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/18
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    目的:SurePathTM は採取した細胞を効率よく回収できるとされているが,異常細胞がどの程度採取できていれば標本からの異常細胞の検出が可能であるかは明らかではない.本検討では,一定数の正常細胞に対して異常細胞数を調整し,作製した標本から異常細胞の検出が可能となる閾値を検討した.

    方法:正常細胞として重層扁平上皮細胞,異常細胞としてヒト子宮頸癌由来培養細胞株 HeLa を用いた.検体サンプルを,正常細胞 50 万個に対し HeLa 5000 個,500 個,50 個,5 個の条件で作製し,標本を作製した.これを 3 回行った.

    成績:検体サンプル内に混合した HeLa が 5000 個の条件では平均 57.3 個,500 個の条件では平均 4.7 個の HeLa が検出された.50 個の条件では 3 枚の標本のうち 1 枚でのみ HeLa を検出した.5 個の条件では標本から HeLa は検出されなかった.

    結論:標本上で HeLa を検出するためには,検体サンプルに 500 個以上の HeLa が含まれている必要があることが示唆された.

症例
  • 窪田 恵美, 北薗 育美, 岩切 かおり, 切田 ゆかり, 田崎 貴嗣, 東 美智代, 簗詰 伸太郎, 小林 裕明, 谷本 昭英
    2023 年 62 巻 6 号 p. 287-292
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/18
    ジャーナル フリー

    背景:子宮頸部原発明細胞癌はまれであり,液状化検体細胞診(liquid-based cytology:LBC)の細胞像の報告はほとんどない.われわれは,LBC 標本で診断しえた子宮頸部明細胞癌の 1 例を経験したので,塗抹標本所見との異同および他の腺癌との鑑別点について検討し報告する.

    症例:70 歳代,女性.約 1 年前より持続する性器出血があり,子宮頸部のポリープ状腫瘍を指摘された.擦過細胞診および組織診で明細胞癌と診断された.LBC 標本では,異型細胞が重積性のある集塊状や孤立性に認められ,腺腔構造や乳頭状構造および hobnail 状の核の突出も認めた.異型細胞の核は軽度の腫大を示す類円形を呈しており,大型で明瞭な核小体を認め,細胞質は豊富で,淡く微細顆粒状を呈していた.

    結論:LBC 標本においても,塗抹標本と同様に明細胞癌の特徴とされる,大型で明瞭な核小体および豊富な細胞質を有する異型細胞を認め,LBC 標本で明細胞癌の診断を行う際にも重要な細胞所見である.

  • ―栄養膜細胞への分化を伴う尿路上皮癌細胞の細胞像を中心に―
    花見 恭太, 安達 純世, 豊永 安洋, 石田 康生, 山﨑 一人
    2023 年 62 巻 6 号 p. 293-299
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/18
    ジャーナル フリー

    背景:膀胱尿路上皮癌のうち,栄養膜細胞への分化を伴う亜型は診断時に進行癌のことが多く予後不良とされている.今回われわれは浸潤性膀胱癌手術症例 54 例の細胞診・病理組織検体を再検討する機会に,栄養膜細胞への分化を伴う浸潤性尿路上皮癌の 1 例を認めたので,その性状について報告する.

    症例:82 歳,女性.膀胱炎症状を主訴に来院,超音波検査にて膀胱前壁に腫瘍を認めた.尿細胞診では不規則乳頭状の異型尿路上皮集塊と,豊かなレース状の細胞質と粗造なクロマチンの増量を示す単核細胞や多核・核の過分葉を示す多形細胞を孤在性に認めた.TURBT 標本,膀胱全摘標本においては表層側に通常型の浸潤性尿路上皮癌,深部においては広く栄養膜細胞への分化を示す成分がみられ,固有筋層への浸潤と脈管侵襲を認めた.免疫染色においては多核・核の過分葉を示す細胞や多形を示す単核細胞などが HSD3B1 に陽性を示した.術後 3 年で多臓器に転移をきたし永眠された.

    結論:栄養膜細胞への分化を伴う浸潤性尿路上皮癌を早期に診断するうえで尿細胞診の果たすべき役割は大きい.確実な推定診断には特異性の高いマーカーを用いた免疫染色が有用と考える.

  • 赤路(梶尾) 悠, 栗田 智子, 田尻 亮祐, 原田 大史, 植田 多恵子, 吉野 潔, 岡 春子, 寺戸 信芳, 名和田 彩, 松浦 祐介
    2023 年 62 巻 6 号 p. 300-306
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/18
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    背景:肝細胞癌の卵巣転移はきわめてまれである.腫瘍捺印細胞診が特徴的であった肝細胞癌からの転移性片側卵巣腫瘍について報告する.

    症例:60 歳代,女性.9 年前に肝硬変を発症し,6 年後に肝細胞癌へ進行し手術が施行された.術後 1 年半で多発肝内再発を認め肝動脈化学塞栓術が施行された.再発治療後 2 年の胸腹部 CT 検査で 63×56 mm 大の左原発性卵巣腫瘍が疑われ,診断目的に腹腔鏡下両側付属器摘出術を施行した.左卵巣腫瘍は黄褐色調で脆く血管新生に富んでいた.腫瘍捺印細胞診ではきれいな背景の中に,腫瘍細胞は索状および孤在性,一部重積性に出現していた.好酸性の豊富な細胞質を有し,核の大小不同,クロマチンの増量を伴い,腫大した明瞭な核小体が認められた.腫瘍細胞質内には胆汁を確認し,肝細胞由来を示唆する所見であった.組織診では異型を伴う腫瘍細胞が索状に増殖し,豊富な好酸性細胞質や胆汁を認めることから肝細胞類似の組織であった.また免疫組織化学染色では散在性に hepatocyte paraffin 1 が陽性であり,肝細胞癌からの転移性左卵巣腫瘍と診断した.

    結論:腫瘍捺印細胞診で肝細胞類似の腫瘍細胞が胆汁色素を含んだ特徴的な所見を示し,肝細胞癌からの転移性卵巣腫瘍を経験した.

  • 深田 知也, 高柳 悠希, 野崎 祐子, 小田井 学, 三好 真由美, 田中 幸, 菅野 天裕, 大谷 恭子, 稲葉 真由美
    2023 年 62 巻 6 号 p. 307-310
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/18
    ジャーナル フリー

    背景:膵悪性腫瘍において内分泌腫瘍と外分泌腫瘍が重複する症例はまれである.ここで提示する症例は,超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration cytology:以下,EUS-FNAC)にて重複腫瘍と術前診断しえた 1 例である.

    症例:70 歳代,男性.腹部の違和感を訴え,当院を受診した.超音波内視鏡検査にて膵頭部に 18 mm 大,膵尾部に 7 mm 大の低エコー腫瘤を認めた.EUS-FNAC を施行し,膵頭部腫瘍,膵尾部腫瘍に対しそれぞれ腺癌,神経内分泌腫瘍もしくは腺房細胞癌疑いと診断した.その後,膵全摘術を施行しそれぞれ中~高分化型腺癌,神経内分泌腫瘍と診断した.

    結論:正確な細胞診断は外科的術式選択の一助になりうる.1 つの病変にとらわれず,腫瘍が混在,重複して存在することを念頭に置いて慎重に検査や診断することが重要であると考える.

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