日本臨床細胞学会雑誌
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60 巻, 5 号
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原著
  • 白濱 幸生, 佐藤 勇一郎, 清山 和昭, 野口 裕史, 林 透, 肥後 貴史
    2021 年 60 巻 5 号 p. 253-259
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    目的 : 子宮内膜細胞診における Osaki Study Group 式判定 (OSG 式) の有用性を検証するため, また従来様式 (従来式) と OSG 式を比較検討した.

    方法 : 液状化検体細胞診 (SurePath 法) で作成し, 組織診断が確定した子宮内膜細胞診標本 221 例を用いた. 従来式で報告した 100 例と, OSG 式で報告した 121 例において, 組織学的に異型増殖症以上を陽性とし, その診断率を比較した. 次に従来式で過去に報告した 100 例を OSG 式で再評価した. さらに従来式と OSG 式での細胞診報告後に生検が施行された割合 (生検率) を比較した.

    成績 : OSG 式は従来式と比べ, 感度 (97.1% vs. 63.3%, p<0.01), 陰性的中率 (98.6% vs. 85.1, p<0.01) が有意に高かった. 過去の従来式報告症例を OSG 式で再評価したところ, 感度と陰性的中率は有意に上昇し, 診断精度の向上がみられた. また OSG 式で陰性, ATEC-US と報告した症例では, 従来式で陰性または疑陽性と報告した症例よりも有意に生検率が低かった.

    結論 : OSG 式では従来式に比べ診断率が向上し, 組織診断の必要性の判断にも有用と考えられた.

症例
  • 渋谷 英里子, 百村 麻衣, 西ケ谷 順子, 松本 浩範, 坂本 憲彦, 岸本 浩次, 下山田 博明, 柴原 純二, 小林 陽一
    2021 年 60 巻 5 号 p. 260-265
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    背景 : 基底細胞癌は頻度の高い皮膚癌であるが, 非露光部の外陰部の基底細胞癌はまれである. 今回, 皮膚科にて部分生検し基底細胞癌と診断され, 当院にて治療をした外陰部基底細胞癌の症例を経験したため, 細胞診所見を含め報告する.

    症例 : 82 歳, 女性, 外陰部腫瘤病変を自覚し, 皮膚科でのダーモスコピーと生検により基底細胞癌と診断された. 手術のため当科受診し, 同部位より擦過細胞診を施行した. 細胞所見は炎症性細胞を背景とし, 異型細胞が集簇または重積する集塊状に出現していた. 異型細胞の集塊には, 組織所見を反映した柵状配列がみられた.

    結論 : 基底細胞癌は転移することはまれで, 部分生検によって予後を悪化させる危険性はないとされている. ダーモスコピー所見や臨床所見から確定診断ができない場合, 生検により病理学的診断をすることが推奨される. 一方, 黒褐色調病変の鑑別となる悪性黒色腫は, 生検の施行において慎重な判断が必要となる. 基底細胞癌の診断において, 臨床的に強く疑われる場合には, 擦過細胞診は感度・特異度の高い検査であるとされている. 両者の鑑別のために, 臨床所見とともに擦過細胞診が安全かつ有用な診断手段である可能性が示唆された.

  • 津幡 裕美, 竹中 美千穂, 中野 万里子, 熊谷 泉那, 寺内 利恵, 山下 学, 塩谷 晃広, 黒瀬 望, 山田 壮亮, 野口 美樹
    2021 年 60 巻 5 号 p. 266-271
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    背景 : 顆粒細胞腫は Schwann 細胞由来と考えられている, 比較的まれな良性軟部腫瘍で, 全身諸臓器に発生する. 今回われわれは, 転移性乳癌との鑑別が困難であった腋窩部皮下に発生した顆粒細胞腫の 1 例を経験したので報告する.

    症例 : 52 歳, 女性. 47 歳時に右外上部 (C 区域) に発生した浸潤性乳管癌 (硬性型) に対し乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検, 術後放射線療法・内分泌療法を受けた. 5 年後, 右腋窩部に径 1.0 cm 大の腫瘤が出現し, 乳癌のリンパ節再発が疑われた. 穿刺吸引細胞診にて, 粗大で豊富な細胞質内顆粒を有した紡錘形細胞が, 少数出現していた. アポクリン化生細胞, アポクリン癌との鑑別が困難であったが, 針生検で, 皮下組織の顆粒細胞腫と最終診断された.

    結論 : 大型で顆粒状の細胞質が特徴的な顆粒細胞腫は, 全身どの臓器にも発生しうることから, 鑑別診断の一つとして知っておくべきである. 本例は, 外科的手技や放射線照射に伴う外傷が顆粒細胞腫の発症に関与した可能性もある.

  • 吉田 章子, 馬野 真次, 竹村 しづき, 森谷 鈴子, 九嶋 亮治
    2021 年 60 巻 5 号 p. 272-278
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    背景 : 硬化性類上皮線維肉腫 (SEF) と低悪性度線維粘液性肉腫 (LGFMS) の hybrid 腫瘍を経験した.

    症例 : 50 歳代, 男性. 右腋窩に自覚していた腫瘤が増大傾向を示したため当院を紹介受診, 腫瘤摘出術が施行された. 切除標本割面の擦過細胞診では Giemsa 染色で異染性を示す粘液様物質を背景に, 紡錘形・類円形核の異型細胞が粘液様無構造物質を取り囲むように出現していた. 集塊内の細胞密度は高くなく, 核分裂像も認められなかった. 特徴的な細胞所見を捉えられず組織型の推定にはいたらなかったが, 良性あるいは低悪性度の間葉系腫瘍を考えた. 組織診では異型の乏しい核と微細な長い好酸性線維性細胞質をもつ長紡錘形細胞が束状に増殖し, それらは粗密配列を示していた. また, 硬化した膠原線維を背景に類円形細胞が上皮様に増殖する領域もみられた. 免疫組織化学染色は MUC4 陽性で, “hybrid” SEF/LGFMS と診断された.

    結論 : LGFMS の細胞像の報告例は少ないが, 本例では組織像を反映した細胞像が得られた. また Giemsa 染色での観察が優れており, 軟部腫瘍においても Giemsa 染色を併用することは有用であると考える.

  • 鶴野 由華, 木村 芳三, 塚本 孝久, 長山 大輔, 大田 桂子, 塩賀 太郎, 杉田 保雄, 檜垣 浩一
    2021 年 60 巻 5 号 p. 279-283
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    背景 : 壊死を伴う唾液腺多形腺腫はまれであり, 細胞診にて悪性腫瘍と誤診されやすい腫瘍の一つである. 今回われわれは梗塞様壊死を伴った顎下腺多形腺腫の 1 例を経験したので, その細胞像を中心に文献的考察を加え報告する.

    症例 : 40 歳代, 男性. 左顎下部のしこりを触知し, 徐々に増大, 圧痛を認めた. 超音波検査にて悪性が疑われ, 続いて穿刺吸引細胞診 (FNA) が施行された. FNA では多量の壊死物質や炎症細胞とともに, 多数の大型異型細胞や裸核細胞, 多核細胞が出現し, 明らかな粘液腫様間質は認められず, 悪性腫瘍も否定できなかった. 治療と診断の目的で左顎下腺全摘出術が施行された. 腫瘍は約 13 mm 大で, 腫瘍中心部に広範な凝固壊死と膿瘍形成を認め, 周囲に硝子様変性を示す器質化巣や線維性結合組織が認められた. 辺縁の一部に上皮様ないし筋上皮様細胞が索状, 小胞巣状, 腺管状などを呈し増殖しており, 梗塞様の著明な壊死および器質化巣を伴った多形腺腫と診断した.

    結論 : 本例は, 壊死物質や反応性異型を伴う多数の組織球や線維芽細胞が出現し, 悪性腫瘍を否定できなかった. 梗塞性変化による細胞像を理解し, 慎重に良・悪性の診断を行う必要があると考える.

  • 水口 聖哉, 湊 宏, 黒川 綾子, 大西 博人, 新谷 慶幸, 吉谷 久子, 二ッ谷 千鶴, 片柳 和義, 車谷 宏
    2021 年 60 巻 5 号 p. 284-288
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    背景 : 浸潤性小葉癌は細胞質内に粘液を有し, 印環細胞の像を呈することがあり, その転移は胃癌との鑑別が問題となることがある. 今回われわれは, 腹水中に印環細胞が出現した浸潤性小葉癌の 1 例を報告する.

    症例 : 50 歳代, 女性. 4 年前に他院にて乳癌の手術歴あり. 腹部膨満感を主訴として当院を受診し, 内視鏡および腹部 CT により 4 型胃癌, 腹水貯留, 癌性腹膜炎が疑われた. 審査腹腔鏡が施行され, 術中に腹水と大網が採取された. 腹水細胞診では, 単一を主体とする粘液空胞を有する印環細胞が散見された. 異型細胞は線状配列を示し, N/C 比が高く小型均一であった. ライトグリーン好性の細胞質を有し, 微細クロマチン増量, 腫大した核小体を有し, 低分化腺癌と診断された. 大網にも低分化腺癌の転移を認め, 免疫染色では estrogen receptor (ER) と GATA binding protein 3 (GATA-3) が陽性で, epithelial-cadherin (E-cadherin) は陰性であった. 他院の乳癌手術標本は大網の組織像と類似しており, 浸潤性小葉癌の転移と診断された.

    結論 : 腹水細胞診において, 出現細胞に線状配列がみられたり, 多形性に乏しく, 小型で単空胞細胞が主体であったりした場合には, 浸潤性小葉癌の転移の可能性を考え, 臨床所見を確認する契機になりうるものと考えられる.

  • 本間 聖也, 九十九 葉子, 梅澤 敬, 大内 和真, 日下部 民美, 及川 実夏, 山崎 悦夫, 坂本 穆彦
    2021 年 60 巻 5 号 p. 289-294
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    背景 : 血管筋脂肪腫 (angiomyolipoma : AML) は血管, 平滑筋および脂肪細胞の 3 成分からなる良性腫瘍で, 主に腎臓に好発する. 本論文では, 発生のまれな肝臓原発血管筋脂肪腫の 2 例における細胞学的所見を中心に報告する.

    症例 : (症例 1) 40 歳代, 女性. 穿刺吸引細胞診 (fine needle aspiration cytology, 以下 : FNAC) 所見では裸核様, 奇怪な核をもち, 核小体の明瞭な大型異型細胞と血管様構造を示す紡錘形細胞が散見され, 悪性腫瘍との鑑別が困難であった. 組織学的には大型異型核をもつ巨細胞と脂肪細胞で構成される腫瘍であった. (症例 2) 60 歳代, 女性. FNAC 所見では明瞭な核小体をもつ大型異型細胞, 脂肪細胞および紡錘形細胞が混在して出現していた. 組織学的にも脂肪細胞や血管および多形性に富む大型細胞からなる病変を認めた. 2 例でみられた大型異型細胞は, 免疫染色にてα-SMA, Desmin 陽性であり, 平滑筋由来が示唆された. 加えてメラノサイトマーカーである HMB45 にも陽性を示し, AML と診断された.

    結論 : AML は悪性との鑑別を要する良性腫瘍である. 肝腫瘍の FNAC で本例にみられたような大型異型細胞と多彩な細胞所見を認めた場合には, AML の可能性を否定できない. 肝臓細胞診のピットフォールの一つとして認識していくべきであろう.

短報
  • 山口 直則, 松居 由香, 藤原 郁也, 岸本 光夫
    2021 年 60 巻 5 号 p. 295-297
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    Herein, we report the case of an elderly male patient who was diagnosed as having invasive micropapillary carcinoma (IMPC) of the breast, focusing on the findings of cytology and X-chromosome analysis. The patient presented with a localized solid nodule in the right subareolar region. Cytology revealed cell clusters showing an inside-out pattern in a clean background. The margins of the cell clusters were partially fluffy or showed a microvilli-like pattern. Histologically, the tumor was a combination of invasive ductal carcinoma and IMPC. FISH assay revealed an increase in the number of X chromosomes in 32% of the tumor cells.

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