日本臨床細胞学会雑誌
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50 巻, 5 号
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原著
  • —膵炎症性病変との比較—
    山口 知彦, 河原 明彦, 内藤 嘉紀, 多比良 朋希, 安倍 秀幸, 吉田 友子, 石田 祐介, 岡部 義信, 矢野 博久, 鹿毛 政義
    2011 年 50 巻 5 号 p. 255-260
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/29
    ジャーナル フリー
    目的 : 小型核を主体とする膵癌に着目し, その細胞学的特徴と炎症性病変との差異について検討した.
    方法 : 対象は組織学的または細胞学的に膵癌と診断した 27 例で, 対照に 12 例の炎症性病変を用いた. 膵管ブラシ洗浄標本中のリンパ球, 膵癌細胞および炎症性病変の膵管上皮細胞の核面積を計測した. リンパ球の平均核面積 3 倍以下の小型核を主体とする膵癌症例を選択し, 炎症性病変との細胞学的所見を比較した.
    成績 : 核面積解析において, リンパ球平均核面積 3 倍以下の小型核を主体とする膵癌は 13 例 (48.1%) で, 炎症性病変は 11 例 (91.7%) であった. 小型核を主体とする膵癌と炎症性病変の膵管上皮細胞の平均核面積は 39.2μm2と 29.1μm2であり, 小型核を主体とする膵癌と炎症性病変は統計学的に有意差を認めた (P<0.05). 小型核を主体とし悪性判定が困難であった膵癌は背景壊死, 核不整, 核大小不同および核溝を多く認め, これらの所見は炎症性病変に出現する頻度が低かった.
    結論 : 小型核を主体とする膵癌の診断には, 壊死背景と核所見が重要であり, 炎症性病変との鑑別点を認識しておくことで, 正確な膵癌診断が成し遂げられると思われた.
  • —構造異型および構成細胞の観察を中心に—
    松井 成明, 梶原 博, 涌井 架奈子, 伊藤 仁, 北村 隆司, 光谷 俊幸, 村上 優, 佐藤 慎吉, 安田 政実, 中村 直哉
    2011 年 50 巻 5 号 p. 261-269
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/29
    ジャーナル フリー
    目的 : 類内膜腺癌 (以下, G1) および各段階にある子宮内膜増殖症について細胞構築および構成細胞それぞれの観点から従来の報告にある細胞所見と比較検討を行った.
    方法 : 2000∼2007 年までに生検組織, 細胞診が同時期に実施され, いずれも類内膜腺癌および子宮内膜増殖症と診断された 69 例 (類内膜腺癌 G1 (EA : endometrioid adenocarcinoma) 35 例 ; 複雑型異型増殖症 (AEH : atypical endometrial hyperplasia)10 例 ; 複雑型増殖症 (EH-C : endometrial hyperplasia, complex)11 例 ; 単純型増殖症 (EH-S : endometrial hyperplasia, simple) 13 例) を対象とした. これらを用い細胞集団の出現パターンおよび細胞配列, 扁平上皮化生細胞, 背景と好中球の取込み像, 子宮内膜間質細胞の各因子について検討した.
    成績 : 1) EH-S, EH-C にみられる過分岐腺管, 拡張腺管の出現率に相違はない, 2) AEH では腺管過密集団の出現, 3) EA は腺管過密集団に加え, 樹枝状集団の出現が特徴としてあげられた. さらに, 各因子の検討からは特に EA, AEH における顕著な変化として, 1) 扁平上皮化生細胞の高い頻度での出現, 2) 背景, 腫瘍細胞およびその周囲にある好中球の出現があげられた.
    結論 : 子宮内膜細胞診においては各段階にある子宮内膜増殖症や類内膜腺癌に特徴となる異型腺管の出現と重複する異型腺管の頻度を総合的に判定することが必要と考えられた. また, 細胞集団の出現パターン以外の所見として扁平上皮化生細胞, 背景および腫瘍細胞に取り込まれた好中球の出現は EA, AEH を推定するうえで注目すべき所見と考えられた.
  • 小畠 勝己, 竹下 盛重, 松本 慎二, 神原 豊, 大神 明子, 鍋島 一樹, 西山 尚子, 鵜池 直邦, 宮久 禎, 中島 豊
    2011 年 50 巻 5 号 p. 270-278
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/29
    ジャーナル フリー
    目的 : 乳腺原発悪性リンパ腫 (primary breast malignant lymphoma, 以下 PBML) の細胞組織学的特徴と免疫細胞形質を明らかにした.
    方法 : PBML13 例の捺印標本について細胞像を検討し, 免疫組織学的, 臨床的特徴を加えた.
    成績 : 全例 B 細胞性であり, 10 例はびまん性大細胞 B リンパ腫 (diffuse large B cell lymphoma, 以下 DLBCL) であった. CB (centroblastic) 型は 6 例で, 多数の大型核を有し, 明瞭な核小体が認められた. CB/B (centroblastic/Burkitt) 型は 1 例で, 中∼大型細胞で, 核小体が目立たなく, Giemsa 染色では好塩基性細胞質と打ち抜き空胞が認められた. Mixed (pleomorphic mixed) 型は 3 例で, 出現大型細胞は少数で核は多形性を示した. MALT (mucosa-associated lymphoid tissue) 型は 3 例で, 核は中型で凝集クロマチンを示し形質細胞に類似していた. 免疫組織学的に DLBCL の全例 MUM-1 が陽性, 内 2 例にて CD10 が共発現した. MUM-1 の反応は, CB 型で強く, Mixed 型は弱陽性を示した. DLBCL は, MIB-1 抗体に 60∼90%陽性, MALT 型は 10∼30%の陽性率を示した. 臨床的に平均年齢は 64.4 歳, DLBCL10 例の 5 年生存率は 65%であり, CB 型の 2 例のみ腫瘍死した.
    結論 : PBML は大細胞型が多く, 特徴的な 3 亜型が認められた. 免疫形質では DLBCL の 8 例が非胚中心型細胞の性格を有し, CB 型は MUM-1 の強発現がみられた. MALT リンパ腫例も少数みられた. PBML の捺印標本細胞診断上, 詳細な特徴を知ることは, 乳房腫瘤性病変を鑑別するうえで重要と考えた.
症例
  • 土田 秀, 小島 勝, 田端 里美, 神山 晴美, 中里 宜正, 飯島 美砂, 杉原 志朗, 正和 信英
    2011 年 50 巻 5 号 p. 279-282
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/29
    ジャーナル フリー
    背景 : B 細胞性小細胞性リンパ腫のような低悪性度 B リンパ腫の腫瘍細胞の一部に Epstein-Barr virus (EBV) が感染することで, ホジキンリンパ腫との複合リンパ腫類似の組織像を呈することが知られている. 今回, ホジキンリンパ腫類似の細胞所見を呈した, 甲状腺の濾胞辺縁帯 B 細胞リンパ腫の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 83 歳, 女性. 前頸部腫脹を主訴に当センターを紹介受診. 当院 Computed Tomography で甲状腺右葉を中心に縦隔に及ぶ巨大な腫瘍が認められた. 摘出された頸部リンパ節の捺印標本では, 溶血性背景に大小のリンパ球, 類上皮細胞に加え核小体の明瞭な 2 核細胞や大型の異型細胞が認められた. 組織標本では小型リンパ球, 核腫大した組織球, 類上皮細胞を背景に単球様 B 細胞がシート状に増殖し, 巨細胞も散見された. In situ hybridization 法で EBV-encoded small RNA が Reed-Sternberg (RS) 細胞類似の巨細胞を含む多くの腫瘍細胞で陽性を示した.
    結論 : 本症例のように低悪性度 B リンパ腫の腫瘍細胞の一部に EBV が感染することで, ホジキンリンパ腫に出現する RS 細胞類似の細胞を伴う症例が存在すると思われる.
  • 仲村 佳世子, 北野 正文, 藤本 正数, 坂下 裕美, 弓場 吉哲
    2011 年 50 巻 5 号 p. 283-288
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/29
    ジャーナル フリー
    背景 : 成人の第 3 脳室に発生した chordoid glioma (脊索腫型膠細胞腫) の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 50 歳代, 女性. 突然の頭痛, 嘔吐を主訴とし前医を受診. CT 及び MRI にて第 3 脳室より側脳室に伸展する腫瘍性病変と続発性水頭症を認め当院を紹介された. 腫瘍捺印細胞診標本において腫瘍細胞は, 緩やかに結合するシート状の上皮様細胞と一部に単離細胞を認めた. 細胞質はライトグリーン好染性で, 泡沫状. 細胞境界は不明瞭で, 形状は, 多稜形もしくは類円形, 核は偏在傾向を示すものが多く, 小型核小体を有していた. 核異型は目立たず, 2 核細胞や, 核内細胞質封入体もみられ, 上皮様結合を示す細胞間にリンパ球を認めた. 組織学的には, 粘液様基質を豊富に認め, 腫瘍細胞は, 線維に区分され, コード状ないしリボン状に増生していた. 間質内に形質細胞の浸潤が目立ち, ラッセル小体の出現もみられた. 免疫染色では, GFAP, CD34, vimentin に陽性, EMA は陰性であった.
    結論 : chordoid glioma は細胞形態上, chordoma (脊索腫) や chordoid meningioma (脊索腫型髄膜腫) に類似するが, chordoid glioma の特徴を知れば, 診断により近づけると考えた.
  • 松本 一仁, 濱中 貴久子, 池崎 福治, 四釜 育与
    2011 年 50 巻 5 号 p. 289-294
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/29
    ジャーナル フリー
    背景 : 多彩な核形態を示した腫瘤形成性 Bence Jones 型骨髄腫の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 61 歳, 男性. 胸部痛, 腰痛, 坐骨部痛を主訴に当院を受診. X 線像にて左恥骨, 脊椎骨, 肋骨など多発性に骨融解性病変を認めた. 入院後, 左恥骨腫瘍の切開生検術を施行, 捺印細胞診ならびに生検所見にて骨髄腫が疑われ, 免疫組織化学的所見より BJP (λ) 型骨髄腫と診断された. 精査のため内科に転科. 胸骨骨髄穿刺では多彩な核形態を示す形質細胞の出現を認め, 尿・血清の免疫電気泳動検査にて BJP (λ) 型の M bow が認められた. 本例では恥骨腫瘍捺印細胞診ならびに骨髄穿刺塗抹所見ともに, 多くの腫瘍細胞の核に不規則な切れ込み, 弯入, 過分葉など形態異常が目立ち, 大型細胞や 2 核∼多核細胞もしばしばみられ, 多形性が高度であった.
    結論 : 骨髄腫でも形質細胞が高度の多形性を示す症例はまれであり, 貴重な症例と考えられた. このような症例では Papanicolaou 染色のみではときに診断が困難であり, 診断の確定には May-Giemsa 染色の併用や免疫組織化学的検索が有用と思われた.
  • 土屋 恭子, 山本 陽一朗, 松原 美幸, 柳原 恵子, 飯田 信也, 芳賀 駿介, 内藤 善哉, 津川 浩一郎
    2011 年 50 巻 5 号 p. 295-300
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/29
    ジャーナル フリー
    背景 : 乳腺原発の血管肉腫 (angiosarcoma ; AS) は乳癌を含む悪性腫瘍の 0.1%以下の頻度で, 非常にまれな疾患である. 今回われわれは, 痛みを伴い急速増大した乳腺 AS の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 40 歳, 女性. 1 年半前に右乳房の腫瘤を自覚. 最近 2∼3 ヵ月で腫瘤の急速増大と痛みを認めたため受診. 来院時, 右 AC 領域に約 7 cm 大の楕円形で弾性硬の腫瘤を触知し, 穿刺細胞診, 針生検が施行された. 細胞診では多量の血液中に大型の細胞集塊が認められた. 集塊を構成する細胞は紡錘形∼類円形を示し, 網目状の配列や腔の形成がみられ, 一部では印環細胞様構造も確認された. 針生検では異型細胞は CD31 (+), CD34 (+), Factor VIII (+) を示し, 血管内皮の性質を示すことが確認されたため, AS と診断した. 摘出された腫瘤は暗赤色, 72×55 mm 大で内部に出血を伴っており, 組織像は針生検と同様であり, 電顕所見も AS を支持する結果を得た.
    結論 : 通常, 痛みを伴うことなく急速に増大するといわれる AS であるが, 本症例のように出血を転機にして痛みを伴いながら急速に増大することがある. またまれな腫瘍であるが悪性度のきわめて高い腫瘍であることから, 本症例のような定型像を参考に細胞診断を行うことが重要であると考える.
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