日本臨床細胞学会雑誌
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49 巻, 4 号
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原著
  • 平井 康夫, 古田 則行, 荒井 祐司, 星 利良, 池畑 浩一, 藤原 潔, 宇津木 久仁子, 杉山 裕子, 竹島 信宏, 滝澤 憲
    2010 年 49 巻 4 号 p. 237-241
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    目的 : 液状化検体細胞診 ThinPrep 法の子宮頸部病変検出能を前方視的に従来法と比較し, その有用性を明らかにすることを目的とした.
    方法 : 2007 年 5 月∼2008 年 3 月の期間に同意が得られた 8051 例を対象とした. 子宮頸部よりブラシで採取した細胞を直接塗抹しエタノール固定する従来法と, ブラシに付着した残りの細胞を保存液内にすすぎ出して回収する ThinPrep 法により標本作製した. 標本は染色後マッチドペア・盲検試験法により細胞判定し, 比較した.
    成績 : コルポスコープ診もしくは組織診で陰性だったのは 7498 例 (93.1%), 組織診で CIN2 以上の病変が確認されたのは 553 例 (6.9%) であった. CIN2 以上の病変を検出する感度は, 従来法が 71.3%, ThinPrep 法が 77.4%, 特異度は, 従来法が 99.0%, ThinPrep 法が 98.9%であった.
    結論 : ThinPrep 法は CIN2 以上の頸部病変の検出能が従来法よりも優れていることが示唆される, 有用性の高い液状化検体細胞診法である.
  • 町田 知久, 安田 政実, 清水 道生, 望月 紀英, 川井 健司, 伊藤 仁, 梶原 博, 中村 直哉, 長村 義之
    2010 年 49 巻 4 号 p. 242-247
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    目的 : 細胞診断における抗 Hepatocyte nuclear factor-1β (以下, HNF-1β) 抗体の有用性と限界を知ることを目的に, 体腔液中の腫瘍細胞における発現態度を免疫細胞化学的に検討した.
    方法 : 1) 卵巣明細胞腺癌捺印細胞診標本を用いて, 抗原賦活, 検出法, 発色剤について至適条件を決定した. 2) 83 例のさまざまな腫瘍の体腔液細胞診標本を材料に, HNF-1β発現の有無と陽性症例での発現細胞の割合 (出現率), 組織標本との整合性 (一致率) を検討した.
    成績 : 1) pH9.0 の抗原賦活液を用いて加熱処理を行い, ポリマー法で検出することにより短時間で安定した染色結果が得られた. 2) 卵巣明細胞腺癌 4/4 例, 卵巣漿液性腺癌 4/12 例, 子宮体部類内膜腺癌 2/4 例, 肺腺癌 4/15 例, 消化器系腺癌 4/27 例, 膀胱尿路上皮癌 2/2 例に発現を認めた. また, 出現率は卵巣明細胞腺癌で 46%, 肺腺癌で 44%と高率であった. 一致率は卵巣明細胞腺癌の 4 例全例で組織標本との整合性が得られたが, 他の陽性症例中の 6 例で組織との一致が確認できなかった.
    結論 : HNF-1βは卵巣明細胞腺癌の診断に有用なマーカーであるが, 他臓器の腫瘍細胞においても種々の程度に発現を認めることから, 診断に応用する場合には出現率および一致率に十分留意する必要がある.
  • 佐瀬 智子, 清水 禎彦, 瀬山 敦, 茅野 秀一, 新井 栄一, 廣瀬 隆則, 桜井 孝規, 村田 晋一, 安田 政実, 清水 道生
    2010 年 49 巻 4 号 p. 248-253
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    目的 : 甲状腺乳頭癌では, しばしば多核巨細胞が出現することが知られているが, 本邦での報告例は少なく, その診断的意義について検討した.
    方法 : 病理組織学的に乳頭癌と診断された 50 例の甲状腺穿刺吸引細胞診標本を用いた, また, 腺腫様甲状腺腫 15 例, 慢性甲状腺炎 10 例, 未分化癌 1 例を対照例とした.
    成績 : 多核巨細胞は乳頭癌 50 例中 21 例にみられ, 大きく 2 種類のものが認められた. 細胞質が厚く, ライトグリーン好染で, 多数の核を有する多核巨細胞と, 細胞質が泡沫状の多核巨細胞の 2 種類であった. 組織像における免疫染色では, いずれの多核巨細胞も CD68 が陽性であった. 乳頭癌症例では 21 例で細胞質が重厚な多核巨細胞がみられ, そのうち 7 例では細胞質が泡沫状の多核巨細胞も認められた. 対照例では, 腺腫様甲状腺腫 15 例中 4 例, 慢性甲状腺炎 10 例中 2 例で, 細胞質が重厚な多核巨細胞ではなく, 泡沫状の多核巨細胞が認められた. また, 未分化癌の 1 例では, 細胞質が泡沫状ではなく, 重厚な多核巨細胞がみられた.
    結論 : 乳頭癌症例の 42%において多核巨細胞が認められ, 細胞質が重厚なものと泡沫状の 2 種類の巨細胞が確認された. 細胞質が重厚な多核巨細胞は, 多核巨細胞の出現を認めた乳頭癌全例でみられ, 対照例の良性腫瘍では認められなかった. 細胞質が重厚な多核巨細胞を認めた場合は, 乳頭癌を念頭に置き, 出現細胞の核所見に注意を払う必要があると考えられた.
症例
  • 設楽 保江, 庄野 幸恵, 岩田 忠成, 福澤 龍二, 森川 征彦
    2010 年 49 巻 4 号 p. 254-261
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    背景 : 非常にまれな小児副腎皮質癌の 5 例について検討した.
    症例 : 症例は 4 歳女児, 2 歳男児, 4 歳女児, 9 歳女児, 7 歳女児. いずれもステロイド産生腫瘍で, 4 例で男性化徴候あるいはクッシング症状がみられた. 摘出腫瘍はそれぞれ 430 g, 65 g, 33 g, 52 g, 72 g, 割面は充実性で黄金色から赤褐色を呈し, 1 例で出血壊死,嚢胞形成がみられた.
    捺印細胞所見 (4 例) は, ライトグリーンに濃染し, 核の偏在した好酸性顆粒を有する類円形の細胞が多数出現していた. 核クロマチンの増量, 核形不整, 核小体の著明化, N/C 比の増大などの異型性を認めた. 多核細胞や核濃縮細胞, 核内空胞もみられた. 異型が強く多形性に富む例や, 空胞状細胞の目立つ例があった. 組織所見も同様で, 核に大小不同, クロマチンの増量がある好酸性の腫瘍細胞が充実性に増殖していた. 免疫染色はサイトケラチン, ビメンチン, 神経内分泌抗原などが染まり, 症例により陽性所見が異なった. 電顕で副腎皮質由来の腫瘍細胞であることを確認した.
    結論 : 5 例の肉眼所見, 組織所見, 各種免疫染色結果は, 統一性はあるもののさまざまで, 診断には注意を必要とする. 細胞診としては, N/C 比の高い細胞の存在に注意する必要がある.
  • —細胞診および病理組織学的観察—
    橘 知佐, 円山 英昭, 山本 彰, 石田 正之, 戸井 慎, 弘井 誠
    2010 年 49 巻 4 号 p. 262-267
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    背景 : 肺原発の淡明細胞癌は肺癌取扱い規約 (第 6 版) および WHO の肺癌分類 (2004) では扁平上皮癌, 腺癌, 大細胞癌のそれぞれ特殊型として分類されており, いずれもきわめてまれである. 今回, 淡明細胞腺癌が優勢な混合型腺癌の 1 例を, 気管支擦過細胞診, transbronchial lung biopsy (TBLB) および切除肺組織標本で鏡検, 考察したので報告する.
    症例 : 80 歳, 女性. 2008 年 4 月頃より咳嗽が続き, 右肺上葉に 2.5 cm 大の結節状陰影を胸部 X 線写真および CT で認め, 2008 年 10 月当院紹介受診. 気管支鏡検査が施行され, 気管支擦過細胞診, TBLB より低分化腺癌を認めた. 右肺上葉切除術が施行され, 摘出肺標本で淡明細胞腺癌優勢の肺原発混合型腺癌と診断した.
    結論 : 気管支擦過細胞診, TBLB では低分化腺癌と診断したが, 摘出した肺腫瘍組織では 90%以上の領域が淡明細胞腺癌像を示した. 細胞質の淡明化の原因として細胞の水腫様変性が最も考えられ, 気管支鏡検査で採取される細胞診材料や TBLB では, 淡明細胞腺癌細胞が水腫様変性のためアーテファクトが生じやすく, 細胞診では細胞膜が破綻し, 裸核状の癌細胞を多数認め, TBLB においても淡明細胞腺癌に特徴的な所見が得られにくくなることが考えられる.
  • 橘 充弘, 橋本 裕美, 大石 直樹, 曽根 玉恵, 植野 辰雄
    2010 年 49 巻 4 号 p. 268-272
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    背景 : 乳腺原発印環細胞癌はまれな腫瘍である. われわれは乳腺原発純粋型印環細胞癌 (乳管型) の 1 例についての, 細胞形態学的検査, 免疫組織化学的検査, 超微形態学的検査結果を報告する.
    症例 : 70 歳, 女性. 左乳腺腫瘤を触知し, 当院に来院. 病変は BD 領域にあり, 穿刺吸引細胞診にて印環細胞を認めた. 左乳腺切除術が施行された. 病理組織所見・免疫組織化学および電子顕微鏡的所見により, 本腫瘍が乳管癌由来の乳腺原発純粋型印環細胞癌であることが示唆された.
    結論 : 乳腺原発印環細胞癌はまれな疾患で, いままでに本邦の文献では約 100 例の症例報告に限られている. さらに, われわれの症例はそのなかでも微少浸潤癌症例で, 初めての報告例である. 穿刺吸引細胞診は印環細胞癌の細胞の同定に, 簡便で有用な方法の一つである.
特集 <細胞診はどこまで組織所見を捉えられるか—細胞像から組織構造を掴む—>
  • 弓納持 勉, 則松 良明
    2010 年 49 巻 4 号 p. 273
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
  • 津田 祥子, 北村 隆司, 伊達 由子, 瀧本 雅文, 九島 巳樹
    2010 年 49 巻 4 号 p. 274-282
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    乳腺穿刺吸引細胞診断が容易でない要因としては, 良・悪性病変の組織形態が多彩で, 悪性病変と良性病変とで同じような組織構造がみられること, 異型の少ない乳癌例の存在などがあげられる. したがって, 類似した細胞像を呈する良・悪性病変の組織学的差異, 異型に乏しい乳癌の組織学的特徴を理解しておくことが重要である. また, 穿刺吸引細胞診は局所の組織像を反映したものであるため画像所見も参考にすると, より正確な診断を導くことが可能となる.
    乳腺穿刺吸引細胞診断を行ううえで重要なことは, 個々の細胞異型の観察のみならず, 背景や細胞の出現パターンに注目することである.
    背景所見は, 乳管内に由来するものと, 間質に由来するものに分けられ, 組織構築を考えるうえでの補助所見として有用である. 後者のうち円形裸核細胞と粘液腫様間質結合織は良性に多い所見といえる.
    上皮細胞の出現パターンを, シート状, 管状, くさび状, 散在性, 大型集塊と大別することで, 増殖形態を整理して考えることができる. 低乳頭型非浸潤癌では, シート状で細胞異型が乏しくても, 低乳頭状突出像やクレーター様構造といった特定の構造異型に注目することで推定診断が可能となる.
  • —細胞診はどこまで組織所見を捉えられるか—
    羽場 礼次, 串田 吉生, 門田 球一, 香月 奈穂美, 林 俊哲, 大通 清美, 河野 幸治
    2010 年 49 巻 4 号 p. 283-289
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    目的 : 胆汁細胞診での良悪性の鑑別における細胞学的な特徴を明らかにし, 細胞像からの組織構築推定の可能性について検討した.
    方法 : 1999∼2008 年の胆汁細胞診 414 例, 検査回数 1627 回中の疑陽性例 45 例において, 不規則重積, 核の配列不整, 細胞集塊の凹凸不整, 核の腫大, 核形不整, クロマチンの異常, 核の大小不同, 著明な核小体, 壊死背景, 多彩な細胞集塊の有無について検討を行った. また, 胆管癌で手術された 26 例を用いて, 組織型, 粘膜面での組織パターン (高円柱状, 融合状, 小型集塊状の 3 型), 細胞集塊の出現様式 (大型集塊, 小型集塊, 大型集塊・孤在混合, 小型集塊・孤在混合, 孤在の 5 型), 異型度 (低異型度癌と高異型度癌) について比較検討した.
    成績 : 腺癌例では, 核の配列不整, 核形不整, 核の大小不同が高頻度にみられたが, 良性例では細胞集塊の凹凸不整, クロマチンの異常, 壊死背景, 多彩な細胞集塊の出現はみられなかった. 細胞診標本上, 大型集塊や小型集塊が主体であれば高円柱状, 孤在が主体であれば小型, 大型集塊・孤在混合, 小型集塊・孤在混合では高円柱状, 融合, 小型の出現様式を認めた. しかし, 低異型度癌や高異型度癌それぞれに特徴的な出現様式や細胞学的な特徴はみられなかった.
    結論 : 胆汁細胞診で良悪性の鑑別を行うためには, 細胞集塊, 個々の細胞, 背景所見を総合的に評価しなければならないが, 細胞像のみから組織構築を推定することは困難であった.
  • —腎盂尿管カテーテル尿について—
    三村 明弘, 高水 竜一, 古田 美知子, 谷川 直人, 佐久間 貴彦, 川野 潔, 大橋 博嗣
    2010 年 49 巻 4 号 p. 290-296
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    腎盂・尿管癌から採取された腎盂尿管カテーテル尿の細胞像, 細胞所見から組織像を推測するための手段として, セルブロック法を用い, その有用な所見について検討をした. 腎盂・尿管癌例の 67%にセルブロックおよびマウントクイックセルブロック法が適用でき, 細胞診で観察した細胞像をそのまま組織像にし, 観察することが可能であった. 細胞像とセルブロック像を対比することで, 細胞像と組織像の相互の関連を理解しやすくなり精度の向上が望めると思われた.
  • —細胞像から組織構築を掴む—
    及川 洋恵, 則松 良明, 鷲尾 尚子, 板橋 育子, 藤原 しのぶ, 石黒 典子, 田勢 亨, 東岩井 久, 佐藤 信二, 伊藤 潔
    2010 年 49 巻 4 号 p. 297-305
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    子宮内膜細胞診は組織診に比べ侵襲が少なく簡便な検査法であるが, その正診率は必ずしも高いとはいえない. その理由として, 子宮内膜増殖症や高分化型類内膜腺癌は細胞異型を示さないか, または乏しいため細胞異型を主体とした判定基準では診断が困難であること, また, 内膜腺上皮や間質細胞はホルモン環境の影響を受けることや, 化生変化が加わることもあるため多彩な細胞像を呈することなどがあげられる. 細胞診断の精度向上のためには, 組織学的特徴を把握し, それらを反映すると考えられる細胞集塊の構築を重要視して判定することが必要である.
短報
  • 宮井 由美, 羽場 礼次, 串田 吉生, 門田 球一, 林 俊哲
    2010 年 49 巻 4 号 p. 306-307
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    We report a case of primary granular cell tumor of the breast. A 40s female seen for an upper inner-quadrant right-breast mass was found in preoperative fine-needle aspiration cytology (FNAC) to have clustered or disassociated tumor cells with abundant granular cytoplasm and small oval nuclei. Cell boundaries were ill-defined. Extracellular granular materials were seen in the background. Histologically, we diagnosed granular cell tumor of the breast. Clinically, granular cell tumors mimic breast carcinoma, and pathologists should bear this in mind in FNAC to avoid a misdiagnosis of breast carcinoma.
  • 岩永 彩, 豊岡 辰明, 宮園 正之, 田場 充, 内藤 愼二
    2010 年 49 巻 4 号 p. 308-309
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    We report the case of aneurysmal bone cyst (ABC) of the vertebrae in a 11-year-old girl. Radiographic results suggested ABC or osteosarcoma. Intraoperative pathological examination showed slit-like spaces separated by cellular and collagenous fibrous tissue including some osteoclast-like giant cells and numerous fibroblastic cells, with bone and osteoid tissue present. Imprint cytology showed some atypia-free osteoclast-like giant and fibroblastic cells against a bloody background, diagnosed as aneurysmal bone cyst. Although we consider ABC, giant cell reparative granuloma, conventional giant cell bone tumor, and osteosarcoma included in the differential diagnosis, cytological findings were useful in diagnosis, especially distinguishing between benign cells and malignancy.
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