日本臨床細胞学会雑誌
Online ISSN : 1882-7233
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62 巻, 2 号
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原著
  • ―当施設での運用―
    土屋 幸子, 梅澤 敬, 廣岡 信一, 三宅 美佐代, 鷹橋 浩幸, 佐藤 峻, 津田 明奈, 山田 恭輔, 上田 和, 岡本 愛光
    2023 年 62 巻 2 号 p. 91-97
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

    目的:腟断端細胞診の品質向上を目的に,口腔内細胞採取器具であるオーセレックスブラシRTと BD SurePathTM(SP)法を用い検体適否を検討した.

    方法:2014 年 3 月~2019 年 9 月の 5 年 7 ヵ月間に実施された 6260 例の腟断端細胞診を対象とした.オーセレックスブラシRTを用いて検体を採取し,先端を専用の SP バイアルに回収後,SP 法で標本を作製しベセスダシステムで評価した.本研究は慈恵医大倫理委員会の承認を得た〔31-346(9925)〕.

    成績:SP 法の内訳は,NILM(5909 例:94.4%),ASC-US(101 例:1.6%),ASC-H(16 例:0.3%),AGC(14 例:0.2%),LSIL(140 例:2.2%),HSIL(43 例:0.7%),malignant(31 例:0.5%),検体不適正(6 例:0.1%)であった.検体不適正は全例とも細胞数過少であった.生検は 23 例(0.4%)に施行され,SP 法と組織診との一致率は 60.9%であった.

    結論:オーセレックスブラシRTと SP 法は検体採取・回収量の向上に寄与し,検体不適正が少なく腟断端細胞診の品質を一定にできるツールである.

症例
  • 清水 香織, 細根 勝, 中村 恵子, 高橋 剛, 田尻 亮輔, 田村 浩一, 岸田 由起子
    2023 年 62 巻 2 号 p. 98-104
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

    背景:HHV8-negative common effusion lymphoma(HENCEL)は体腔液中で増殖する悪性リンパ腫で,WHO 分類における primary effusion lymphoma(PEL:原発性体腔液リンパ腫)とは区別すべき疾患である.今回肺癌治療中に HENCEL を発症した一剖検例を経験し,生前の胸水細胞像を塗抹標本と liquid-based cytology(LBC)標本で比較検討しえたので報告する.

    症例:80 歳代,男性.肺癌治療中に胸水貯留を認め,細胞診および全身検索で HENCEL と診断した.胸水細胞診では N/C 比の高い中型異型細胞に混在して多核の大型異型細胞や多分葉核細胞を認めた.

    LBC 標本では塗抹標本と比較して腫瘍細胞は小型化したが,核形不整像はより立体的に観察できた.剖検で肺腺癌に合併した HENCEL の診断を最終確認した.

    結論:胸水中に悪性リンパ腫を疑う細胞を認めた場合,HENCEL の可能性をも考慮し精査を進めることが重要である.LBC 法の併用では,塗抹標本のみでは観察が難しい有用な情報を得ることができ,HENCEL の診断精度の向上にも寄与しうるものと考えられた.

  • 水口 聖哉, 湊 宏, 黒川 綾子, 大西 博人, 新谷 慶幸, 吉谷 久子, 片柳 和義, 車谷 宏
    2023 年 62 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

    背景:Primary effusion lymphoma(PEL)は,明らかな腫瘤形成をせずに体腔内で増殖するまれな HHV-8 陽性の大細胞 B 細胞性リンパ腫である.一方,本邦で報告されている多くの体腔内リンパ腫は HHV-8 陰性を示し,PEL-like lymphoma(PEL-LL)などと呼ばれている.今回われわれは,多分葉核が目立つ異型細胞が胸水中に出現し,PEL-LL と考えられた一例を経験したので,細胞所見を中心に文献的考察を含めて報告する.

    症例:70 歳代,男性.呼吸困難を主訴として当院を受診し,胸部 CT にて左大量胸水がみられた.胸水細胞診では,多分葉核が目立つ N/C 比の高い異型細胞が孤在性に多数認められ,悪性リンパ腫と診断された.胸水セルブロックにおける検討や,画像的に明らかな腫瘤形成を認めないこと,血中 HHV-8 が陰性であることから,最終的に PEL-LL と考えられた.

    結論:通常の DLBCL において多分葉核が目立つことはまれであるため,多分葉核が目立つ異型を伴ったリンパ球様細胞が体腔液中にみられたときには,PEL や PEL-LL の可能性を考慮する必要があると考えられた.

  • 伊藤 沙織, 松山 篤二, 山田 博, 稲葉 千枝, 工藤 雅美, 松下 敦子, 塩谷 聡子, 西山 康之, 中野 龍治
    2023 年 62 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

    背景:破骨細胞様巨細胞(osteoclast-like giant cell:OGC)の出現を伴う乳癌は 0.5~1.2%とまれである.われわれは,細胞診検体に多数の OGC が出現した浸潤性乳管癌の 1 例を経験したので報告する.

    症例:30 歳代,女性.右乳腺 BD 領域に 3 cm 大の腫瘤を自覚し受診した.穿刺吸引細胞診で悪性と診断され,手術が施行された.細胞診では,結合性の強い重積集塊や孤在性の腫瘍細胞とともに,多数の多核巨細胞を認めた.腫瘍細胞の核は比較的小型ながら核形は軽度に不整で,核クロマチンは増量し,結合性が低下していた.多核巨細胞はライトグリーン好性の豊富な細胞質に,クロマチンの淡い数 10 個の核を有していた.組織学的に腫瘍細胞は充実胞巣状,篩状に増殖し,CD68 陽性の OGC が混在していた.充実型浸潤性乳管癌と診断し,免疫染色にてホルモンレセプター陽性,HER2 陰性であった.

    結論:乳腺細胞診ではまれながら間葉系腫瘍や種々の組織型の乳癌に OGC が出現する可能性があり,その多くは luminal 乳癌である.OGC にとらわれることなく,それ以外の細胞に基づいて細胞診断を進める必要がある.

  • 佐々木 健司, 中嶋 愛海, 羽原 幸輝, 神田 真規, 米原 修治
    2023 年 62 巻 2 号 p. 116-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

    背景:異型脂肪腫様腫瘍/高分化脂肪肉腫は脂肪細胞への分化を示す中間群腫瘍である.ここでは,左上頸部の皮下に発生した異型脂肪腫様腫瘍について穿刺吸引細胞所見を中心に報告する.

    症例:40 歳代後半,男性.左上頸部腫脹の精査を目的として当院耳鼻咽喉科に紹介された.穿刺吸引細胞診では,核の腫大や多形性を示す脂肪細胞と間質細胞よりなっており,異型脂肪芽細胞や二核細胞を見出した.また,異型間質細胞に接して肥満細胞が出現していた.細胞種類の同定や異型脂肪芽細胞の把握はパパニコロウ染色標本よりギムザ染色標本のほうが容易であった.抗 MDM2 抗体を用いた免疫細胞化学的染色では異型細胞に部分的に陽性所見を示した.病理組織学的にも異型脂肪腫様腫瘍と診断された.

    結論:脂肪性腫瘍の穿刺吸引細胞診では,ギムザ染色標本が診断に有用であると考える.

短報
  • 高橋 弥冴, 本間 聖也, 瀬戸口 知里, 九十九 葉子, 坂本 穆彦
    2023 年 62 巻 2 号 p. 122-125
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/08
    ジャーナル フリー

    背景:甲状腺未分化癌の発生頻度は数%程度と低く,同一の細胞診スライドに未分化癌と転化前の癌が共存してみられることはさらにまれである.本稿では乳頭癌から未分化癌への転化を同一の細胞診スライドで診断できた症例について報告する.

    症例:84 歳,女性.甲状腺穿刺吸引細胞診を施行し BD サイトリッチTM法により標本を作製した.同一標本中に乳頭癌と未分化癌の 2 つの所見を認め,乳頭癌の未分化転化と判定した.

    結論:同一の細胞診スライドに乳頭癌と未分化癌の成分が出現する例は文献的にも報告はない.乳頭癌と同時に出現する未分化癌成分を見落とさず,スライド全体を入念に観察すべきことを示す教訓的な症例である.

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