日本臨床細胞学会雑誌
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52 巻, 6 号
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原著
  • —その有用性と形態的特徴—
    鈴木 彩菜, 廣川 満良, 高木 希, 延岡 由梨, 山尾 直輝, 隈 晴二, 宮内 昭
    2013 年 52 巻 6 号 p. 495-501
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : 甲状腺液状化細胞診 (LBC) の報告はいまだ少ない. 今回われわれは, 甲状腺 LBC の有用性やその細胞像を明らかにするために検討を行った.
    方法 : 2012 年 2∼5 月の 3 ヵ月間に, 甲状腺穿刺吸引細胞診が施行された 437 結節を対象とした. 通常塗抹標本作製後, 穿刺針洗浄液を用いて SurePath 法にて LBC 標本を作製し, 細胞像の比較や検体不適正率について検討した.
    成績 : CytoRichTM RED (CR-R) の固定液では背景成分の減少と細胞収縮がみられた. 一方, CytoRichTM BLUE (CR-B) では細胞収縮は少なかったが, 背景に蛋白成分や赤血球が残り, リンパ球の減少が顕著であった. LBC 標本は通常塗抹標本に比し, 細胞密度が高く, 良性細胞より悪性細胞の出現割合が高かった. 濾胞集塊周囲の淡明帯は腺腫様甲状腺腫にて, ジグザグな核縁は乳頭癌にて観察された. 検体不適正率は, 通常塗抹標本で 8.1%, LBC 標本で 5.3%, 両標本を併用した場合 2.2%であった.
    結論 : 今まで捨てられていた塗抹後の穿刺針を用いた LBC 標本の併用は検体不適正率の減少に有用であるが, その細胞所見は通常塗抹標本と異なる点に留意すべきである.
  • —標本不適正要因を除去する前処理工程の検討—
    土屋 幸子, 梅澤 敬, 芦川 智美, 福村 絢奈, 梅森 宮加, 野村 浩一, 池上 雅博, 山田 恭輔, 岡本 愛光, 落合 和徳
    2013 年 52 巻 6 号 p. 502-506
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : BD シュアパスTM液状処理細胞診システムは, 粘液, 血液, debris などを除去する前処理工程を標準化した標本作製システムである. BD シュアパスTMバイアルに粘液 (喀痰) を添加し, 前処理工程の性能を明らかにする.
    方法 : 表層型扁平上皮細胞数を 40 倍で 1 視野約 10 個に調整した BD シュアパスTMバイアルに 2000∼5000μl までの粘液を添加し, シュアパス標本を作製した. 標本は 40 倍で表層型扁平上皮細胞を 10 視野カウントし, 平均値を算出した. 粘液 5000μl 添加を行った前処理群と未処理群の各 100 データを用いて, マンホイットニーの U 検定を実施した.
    成績 : 表層型扁平上皮細胞の平均カウント数は, 粘液の添加なし (0μl) で 10.6 個, 2000μl 添加で 42.3 個, 3000μl 添加で 40.3 個, 4000μl 添加で 35.9 個, 5000μl 添加で 27.0 個, 前処理工程なしの 5000μl 添加で 5.0 個であった. 5000μl までは, 粘液が除去され, 扁平上皮細胞数が増加した. 5000μl 未処理群は, 処理群に比較し扁平上皮細胞数は統計学的に有意に減少した (p<0.001).
    結論 : BD シュアパスTM法に標準化された前処理工程は, 粘液による不適正標本の排除と診断上重要な細胞を回収し, 子宮頸部病変の検出向上に寄与する.
  • 蒲 貞行, 廣川 満良, 延岡 由梨, 樋口 観世子, 山尾 直輝, 鈴木 彩菜, 高木 希, 小島 勝, 宮内 昭
    2013 年 52 巻 6 号 p. 507-517
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : 甲状腺穿刺パパニコロウ標本で, 著しく形質細胞への分化を示す MALT リンパ腫 (MALT-EPCD) と橋本病の鑑別細胞像を検討した.
    方法 : 隈病院で細胞診と組織診が実施された MALT-EPCD 7 例と橋本病 20 例を対象とした. 両病変の細胞診標本で形質細胞 (PC), 目立つ核小体を含む不整形核を有する小型∼中型の細胞 (ISN-PN 細胞) などの平均出現率, また PC と ISN-PN 細胞の平均出現率の和 ( [PC と ISN-PN 細胞の和] ), 山脈状集塊 (リンパ濾胞胚中心浸潤由来), LEL 集塊 (リンパ上皮性病変由来) などを検討した.
    成績 : MALT-EPCD での PC 平均出現率は 24%, ISN-PN 細胞は 9%, 山脈状集塊 29%および LEL 集塊 43%. 橋本病での PC は 3% (最高 18%), ISN-PN 細胞は 10%で, 山脈状集塊と LEL 集塊はみられなかった.
    [PC と ISN-PN 細胞の和] は, MALT-EPCD では平均 33%, PC 出現率が最低 (15%) の症例では 29%, 橋本病で PC 出現率が最高 (18%) の症例では 18%であった.
    結論 : 橋本病と鑑別するための MALT-EPCD の細胞像は PC 出現率≧15%, かつ [PC と ISN-PN 細胞の和] ≧30%であった. また, 山脈状集塊や LEL 集塊は MALT リンパ腫を示唆する所見と考えられた.
  • 阿部 彰子, 馬屋原 健司, 山本 阿紀子, 的田 真紀, 尾松 公平, 加藤 一喜, 古田 玲子, 荒井 祐司, 杉山 裕子, 竹島 信宏
    2013 年 52 巻 6 号 p. 518-525
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : 子宮頸癌に対して同時化学放射線療法 (CCRT) が広く行われている. しかし, 照射後の局所制御困難例もあり, 追加治療として根治的子宮全摘術が行われるようになってきた. このため, 局所腫瘍残存や局所再発症例の早期識別が重要である. そのための検査として細胞診, 組織診および画像診断について比較検討を行った.
    方法 : 2005 年から 6 年間に当院で初回治療として根治的 CCRT を施行した子宮頸癌Ib 期∼IVa 期症例中, 局所残存もしくは局所制御後再発をきたした 19 例中, 細胞診未施行の 5 例を除外し, 14 例を対象とし, 後方視的に検討した.
    成績 : 年齢中央値 43 歳 (32∼68 歳). 組織型は扁平上皮癌 5 例, 腺扁平上皮癌 5 例, 腺癌 4 例であった. 局所残存再燃症例の細胞診陽性率は 50% (7/14) であった. 細胞診陰性例では上皮細胞が経時的に減少し, 壊死組織および組織球が主体となっていた. 細胞診陽性例のなかには, MRI では病巣の描出を認めない症例も 2 例含まれていた.
    結論 : 子宮頸癌 CCRT 後の局所判定は, 手術療法が必要な症例の早期識別のため行い, 細胞診, 組織診, MRI の併用による総合的な判断が重要であると考えられた.
  • —従来法と液状検体 (ThinPrep) 法による比較検討—
    小林 孝子, 元井 信, 岡田 美恵子, 吉藤 彩子, 和田 栄津子, 今川 真由美, 桒田 浩子, 坂根 潤一, 倉岡 和矢 ...
    2013 年 52 巻 6 号 p. 526-534
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : 意義不明な異型扁平上皮細胞 (ASC-US) の認知度は, 本邦では必ずしも高くない. われわれは, その ASC-US の実態を明らかにしようと試みた.
    方法 : 多施設共同研究 (CCLBC) で得られた 11,039 検体中に見出された ASC-US について, 従来 (CP) 法と ThinPrep (TP) 法による比較を Split-sample 法にて行った. また, ASC-US 以上の陽性検体には Multiplex PCR 法でヒトパピローマウイルス (HPV) の型判定を行った.
    成績 : ASC-US は, CP 法 1.8%, TP 法 1.1%と前者に有意 (p<0.0001) に多く, 高度扁平上皮内病変以上は 4.1%, 5.1%と後者が有意 (p<0.001) に高頻度であった. ASC-US の細胞像は, CP 法は乾燥, 変性による核異型の質的不足であり, TP 法はクロマチンの淡明化による核所見の質的不足であった. ASC-US の HPV 陽性率は CP 法 50.5%, TP 法 48.8%で, 52 型が最も多く認められた.
    結論 : ASC-US の細胞判定では, 定義をよく理解し, CP 法と TP 法で観察所見に差異があることに留意することが肝要である.
  • 加勢 宏明, 井上 清香, 鈴木 久美子, 五十嵐 俊彦
    2013 年 52 巻 6 号 p. 535-539
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : ASC-H 症例の細胞像と組織診結果を検討する.
    方法 : 2 年 6 ヵ月間での当院の ASC-H 症例を検討した.
    成績 : (1) 子宮頸部検体 8874 件中 ASC は 255 件 (2.9%) であり, このうち ASC-H は 57 件 (22.7%) であった. (2) 組織診結果がえられた 54 件中 32 件 (52.3%) で中等度異形成以上の病変が確認された. この 54 件中 36 件で異型化生集塊がみられ, うち 21 件 (58.3%) で中等度異形成以上の病変が確認された. 同様に細胞像確認困難な萎縮シート状集塊は 26 件中 17 件 (65.4%), 孤在異型細胞は, 15 件中 10 件 (66.7%), 頸管腺増生様集塊は 10 件中 6 件 (60.0%), 多層化集塊は 24 件中 17 件 (70.8%) で中等度異形成以上の病変がみられた. (3) 細胞像確認困難な萎縮集塊は, 閉経後症例では 44.4%で中等度異形成以上の病変がみられたが, 閉経前症例では 76.5%と高率であった. (4) 妊娠中採取 5 件全件で中等度異形成以上であった.
    結論 : ASC-H での多層化集塊の存在, 閉経前症例での細胞像確認困難な萎縮集塊の出現には注意が必要である.
  • 河野 美江, 小海 志津子, 岩成 治
    2013 年 52 巻 6 号 p. 540-544
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : 20 代女性の子宮頸がん検診受診率向上を目的として携帯メルマガによる継続的性教育介入を行い, 子宮頸がん検診受診・HPV ワクチン接種行動を追跡した. ランダム化比較試験により介入効果を検討した.
    方法 : 20 代女性に, 本研究について説明し登録のあった 389 名を対象とした. 携帯メールを用いたランダム割り付け無記名アンケート登録システムにより無作為に対象を 2 群に分け, 普通教育群 192 名と強化教育群 197 名に割り付けた. 普通教育群は講演後 1 ヵ月から 3 ヵ月ごと, 強化教育群は毎月, 1 年間メルマガによる性教育プログラムを送付し, 翌日に頸がん検診受診・ワクチン接種についてメールアンケートを行った.
    成績 : 普通教育群 : 強化教育群で, メールアンケートの回答率は 33.3% : 35.5%, メルマガ送付 1 年以内の頸がん検診受診率は 9.4% : 11.4%, ワクチン接種率は 9.4% : 11.4%であった.
    結論 : 性教育介入後, 普通教育群, 強化教育群において頸がん検診受診率, ワクチン接種率に有意差はなかった. 携帯メールを用いた登録回答システムの運用方法が確立され, 今後さまざまな教育介入効果の評価へ幅広く応用可能と考えられた.
  • 立花 美津子, 河西 十九三, 黒川 祐子, 大木 洋子, 早田 篤子, 藤澤 武彦, 錦見 恭子, 三橋 暁, 生水 真紀夫
    2013 年 52 巻 6 号 p. 545-551
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    目的 : 子宮頸がん集団検診における, 細胞診・HPV-DNA 検査 (以下, HPV テストとする) 併用検診の有効性を明らかにすることを目的とした.
    方法 : 併用検診を行った 2,733 人 (A 町 B 村) を対象として Sure Path 法にて LBC 標本を作製し, 残りの細胞懸濁液を用い HPV テストを行った. 要精検率と CIN2 以上の発見率を従来法および LBC のみ (C 市) のそれらと比較検討した.
    成績 : LBC 法により不適正標本はなくなった. 要精検者数は A 町で 21 例 (1.8%), B 村で 36 例 (2.3%), C 市は 81 例 (2.5%) であった. CIN2 以上の病変は, A 町で 6 例 (0.5%), B 村で 9 例 (0.6%) であり C 市では 22 例 (0.7%) であった. 要精検率および CIN2 以上の発見率は従来法と比較して上昇した. 細胞診 NILM で HPV テスト陽性例 95 例を鏡検し直すと, 5 例が ASC-US となり要精検率が 2.1%から 2.3%と上昇したが有意差はなかった.
    結論 : 併用検診において要精検率および CIN2 以上の検出率が上昇したのは, LBC による細胞診の精度向上が考えられ, HPV テストの効果については今後の検討が必要であることが示唆された.
症例
  • 吉良 佳那, 高橋 保, 宮嵜 恵利子, 高橋 明日香, 大原 栄二, 戸井 慎, 松本 学, 弘井 誠
    2013 年 52 巻 6 号 p. 552-556
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : バルトリン腺原発の粘液癌は極めてまれで, これまで細胞所見の報告はない. 今回, 外陰部擦過細胞診で粘液癌を推定できた 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 82 歳, 女性. 以前よりバルトリン腺嚢胞を指摘されるも放置していた. 今回, 不正性器出血を認め近医を受診し, 左腟前庭部に易出血性の腫瘤を指摘された. 外陰部擦過細胞診では, 多量の粘液を背景に印環細胞型の腫瘍細胞が孤在性あるいは集塊状に多数出現しており, 粘液癌を推定診断した. 組織学的には印環細胞が粘液湖に浮遊する粘液癌の像がみられ, 一部では本来のバルトリン腺との連続性を認めた. 免疫組織学的に CK20, CK7, CDX2, ER, CA125 陽性, GCDFP-15 陰性であった. 本腫瘍は, 組織所見・免疫染色所見から既往の大腸癌・乳房 Paget 病の転移や外陰部異所性乳腺組織由来の粘液癌と鑑別可能であった.
    結論 : 本例の細胞像は粘液癌として特徴的であり, 多量の粘液を背景に印環細胞型腺癌細胞を認めた場合は本組織型の推定診断が可能である. バルトリン腺癌は臨床的に膿瘍や嚢胞として放置され, 診断や治療が遅れることが多いと指摘されており, 本腫瘍の早期診断には積極的な細胞診の活用が有用と考えられる.
  • 紺谷 佳代, 田中 浩彦, 鳥谷部 邦明, 岩見 州一郎, 谷口 晴記
    2013 年 52 巻 6 号 p. 557-561
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : 子宮頸部細胞診にて癌を疑い組織診で異常所見が得られない場合, その判断と対応に苦慮する. 今回われわれは子宮頸部細胞診にて腺癌 (明細胞腺癌) を疑い精査したが, 頸部組織診上異常はなく子宮全摘標本にて確定診断された症例を経験した.
    症例 : 69 歳, 女性. 子宮内膜細胞診異常にて近医より紹介された. 繰り返す子宮頸部細胞診で腺癌を考える異型細胞を認めた. 子宮内膜および頸管掻爬では組織学的に悪性所見は確認できず, 画像上も明らかな腫瘤像を認めなかったが, その後も繰り返し細胞診で腺癌を考える像を認めたため, 子宮および卵巣の悪性腫瘍の可能性を考慮し, 腹式単純子宮全摘術および両側付属器切除術を施行した. 摘出子宮において, 子宮頸部に微小浸潤子宮頸部明細胞腺癌を認め, IA1 期に相当した. Human papillomavirus (HPV) タイピング解析では, 解析したすべての型において陰性であった.
    結論 : 子宮頸部腺上皮の初期病変の診断においては, 狙い組織診より細胞診のほうが有用なことがある. また HPV 検査は腺癌においてもスクリーニングとして有用であるが, 検査法によっては検出できない例もあることに留意すべきである.
  • 牧野 浩充, 高橋 真紀, 齋藤 邦倫, 鈴木 博義
    2013 年 52 巻 6 号 p. 562-567
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : 子宮頸部腺系病変は最近増加傾向にあるが, 自然史が充分に解明されていないこと, 細胞採取や診断の難しさもあり, 扁平上皮系病変に比べて早期発見が難しいという問題がある.
    症例 : 31 歳, 女性. 子宮頸がん検診で扁平上皮系の異型細胞を指摘され経過観察を開始した. 経過観察中に腺系の異型細胞を認め手術治療を施行したところ, 上皮内癌を伴った頸部浸潤性腺癌と診断された. 細胞診の再検討では, 扁平上皮系, 腺系および両者の所見を併せ持つ異型細胞集塊の存在があった. さらに病理組織および免疫組織化学所見の検討でも, 上皮内癌の腺侵襲部分に扁平上皮系と腺系の両方の性格を併せ持つ中間的な異型細胞の存在が推察された. また, 腺系の異型細胞が深部にのみ認められ, さらに増殖能が高い腫瘍であることがわかった. これらが, 頸部腺癌の早期発見が難しかった要因と考えられた.
    結論 : 扁平上皮系の細胞診異常で経過観察中の場合, 出現細胞に扁平上皮系と腺系の両者の所見を併せ持つ異型細胞集塊がないかなど, 腺系の異型細胞の存在を念頭に置くことが大切だと思われた.
  • 片倉 真輝帆, 添田 周, 田崎 和洋, 古川 茂宜, 渡辺 尚文, 西山 浩, 森村 豊, 藤森 敬也
    2013 年 52 巻 6 号 p. 568-572
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : 子宮体部原発の扁平上皮癌はまれで, 進行癌で診断されることが多い. 今回, 子宮内膜細胞診で扁平上皮由来の異型細胞が継続し, 子宮体部原発扁平上皮癌の診断にいたった症例を経験したので報告する.
    症例 : 72 歳, 女性. 帯下の増加を主訴に来院. 子宮頸部細胞診, 子宮内膜細胞診で軽度の扁平上皮由来異型細胞を認めた. 子宮頸部組織診では明らかな異常を認めず, 頸管内の掻爬で軽度異形成と診断された. 画像所見上も異常を認めず, 定期的に経過観察をされていたが, 扁平上皮由来の異型が高度になったため円錐切除術を施行された. 円錐切除標本には異型を認めず, 内膜細胞診に扁平上皮由来の異型細胞が継続して出現していたため, 子宮摘出術を施行された. 既存子宮内膜の桑実様扁平上皮化生領域と連続する扁平上皮癌を認めた.
    結論 : 子宮内膜細胞診で扁平上皮由来の異型細胞を認めた場合, 子宮体部由来の扁平上皮癌も考慮することが必要である.
  • 隅蔵 智子, 保地 讓, 福島 裕子, 井上 健, 笠井 真理, 市村 友季, 川村 直樹
    2013 年 52 巻 6 号 p. 573-578
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : われわれは, 子宮筋腫と子宮平滑筋肉腫の鑑別診断目的に経子宮頸管的針生検を行っている. 今回, 針生検標本の捺印細胞診が診断に有用であった症例を経験したので, その細胞像を報告する.
    症例 : 59 歳, 女性. 血尿を主訴に当院泌尿器科受診. 腹部 CT にて約 10 cm 大の変性子宮筋腫が疑われ当科紹介となった. MRI, FDG-PET で子宮肉腫を否定できなかったため経子宮頸管的針生検を行った. 核異型を伴う紡錘形細胞の増生がみられ, 核分裂指数 5, 凝固壊死は認めなかったが, 子宮平滑筋肉腫が強く疑われた. 捺印細胞診では, 壊死性背景に, 核クロマチン増量した紡錘形異型細胞が散在性に多数出現し, 核分裂像もみられ, 子宮平滑筋肉腫を疑う所見であった. 単純子宮全摘出術, 両側付属器摘出術を施行し, 摘出標本の病理組織より子宮平滑筋肉腫 stageIb 期と診断した.
    結論 : 針生検は子宮筋層病変の診断に有用な検査法ではあるが, 異常の程度の最も強い病変部を採取できるとは限らないため過小評価になりやすい. 捺印細胞診を併用するとプレパラートへの「出現細胞数の多寡」という新規情報が加わり, 有用な鑑別所見となる可能性が示唆された.
  • 木下 勇一, 鷹巣 晃昌, 圦 貴司, 鈴木 麻友香, 南雲 サチ子, 螺良 愛郎, 四方 伸明
    2013 年 52 巻 6 号 p. 579-582
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : 子宮体部原発異所性癌肉腫は比較的まれであり, 胸水中に同腫瘍細胞をみることも極めてまれである. 今回, われわれは手術 6 ヵ月後の胸水細胞診にて横紋筋肉腫成分を認めた子宮体部原発異所性癌肉腫の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 69 歳, 女性. 1 経妊, 1 経産. 不整性器出血を自覚し来院, 子宮体部内膜擦過細胞診でクロマチンの増量と核形不整を呈する異型細胞を多数認めた. 核密度の高い配列不整な集塊として, あるいは腫大核小体を有する核偏在性の異型細胞を孤立散在性に認めた. その後, 生検および手術が施行され, 横紋筋肉腫を肉腫成分とする子宮体部原発異所性癌肉腫と診断された. 術後約 6 ヵ月後に貯留した胸水からは子宮内膜擦過細胞診標本に出現していた核偏在性の異型細胞のみが観察された. 細胞診標本と同時に作製したセルブロックで実施した免疫組織化学的染色では myoD1 などの筋原性マーカーが陽性となり, 横紋筋肉腫成分の転移と診断された.
    結論 : 本例を通じて細胞診断上, 臨床情報の十分な把握とセルブロック作製の重要性が再認識された.
  • 佐藤 香織, 平戸 純子, 小山 徹也, 福田 利夫
    2013 年 52 巻 6 号 p. 583-588
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : スエヒロタケ (Schizophyllum commune, S. commune) は, 朽ち木などで頻繁にみられるキノコ (真正担子菌) の一種である. キノコは真菌の仲間だが, ヒトに感染・定着するキノコはまれである. S. commune によるアレルギー性気管支肺真菌症の 1 例を報告する.
    症例 : 48 歳, 女性. 約 2 週間前より発熱・胸痛, 右肺中葉の肺炎, B4気管支腔を閉塞する粘液栓を認めた. 血液検査では CRP 12.58 mg/dl, IgE 5442.6 IU/ml と高値であり, 閉塞性肺炎の原因検索のため気管支鏡下生検・気管支ブラシ細胞診が行われた. 組織細胞学的に, 粘液, 好酸球および Charcot-Leyden 結晶が認められる背景に, アスペルギルスと比較し, 細く平滑で分岐の形状が異なる菌糸が認められた. また, 菌糸の隔壁部にコブ状のふくらみが散見され, S. commune に特有のかすがい結合 (clamp connection) を認めた.
    結論 : S. commune の菌糸はアスペルギルスに酷似し, 鑑別は容易でない. しかし, 細胞診では特徴的なかすがい結合が観察しやすいため, 本菌感染症を疑い次なる精査に繋がると考えられた.
  • 長山 大輔, 塚本 孝久, 内藤 嘉紀, 伊藤 園江, 大田 喜孝, 西田 直代, 檜垣 浩一
    2013 年 52 巻 6 号 p. 589-594
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : まれに嚢胞成分が少なく充実性増殖形態が主体の solid-pseudopapillary neoplasm of the pancreas (solid-growth type SPN ; sSPN) が経験されることがある. その細胞像の特徴を把握することは, 今後症例数が多くなると予想される膵腫瘍細胞診で重要であるが, 細胞形態学的特徴を報告した論文は少ない. そのため, 今回, われわれは sSPN の細胞形態学的評価とともに, 膵内分泌腫瘍 (pancreatic neuroendocrine tumor ; PNET) との細胞形態学的, 免疫細胞化学的比較検討を行った.
    症例 : 16 歳・女性. 膵尾部に嚢胞形成を伴わない石灰化を伴った腫瘤性病変を認め, 膵尾部切除となった. 捺印細胞像は, 出血性背景に腫瘍細胞は孤立散在性または結合性の弱い細胞小集団として出現していたが, 明瞭な偽乳頭状パターンは捉えられなかった. 肉眼所見は, 充実成分からなる腫瘍性病変で, 病理所見は充実性シート状増殖形態で, 偽乳頭増殖構築は目立たなかった. PNET との細胞形態学的比較では, 核所見に着目したところ, sSPN は「均一な大きさで切れ込みを有し, クロマチンパターンは微細顆粒状」, PNET は「大小不同で切れ込みはなく, クロマチンパターンは salt-and-pepper 状」の違いがみられ, 免疫細胞化学染色では, sSPN は vimentin (+), CD10 (+), synaptophysin (−), chromogranin A (−) となり, PNET と明確な違いがみられた.
    結論 : 核所見, 特に「クロマチンパターン」に着目し, 「vimentin, CD10, synaptophysin, chromogranin A」の免疫細胞化学染色を併用することで診断の向上につながると考えられる.
  • 佐々木 陽介, 北村 隆司, 増永 敦子, 楯 玄秀, 本間 まゆみ, 矢持 淑子, 光谷 俊幸, 瀧本 雅文
    2013 年 52 巻 6 号 p. 595-601
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    背景 : 多形腺腫 (PA) は唾液腺腫瘍のなかで最も発生頻度が高い. その多彩な細胞像とは異なり, 粘液腫様間質に乏しく多数の樹枝状集塊を認め, 腫瘍細胞には核溝, 核内封入体がみられたことから診断に苦慮した PA の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 40 歳代, 女性. 左顎下部に腫瘤を自覚し当院受診. 頸部エコーでは同部に 17.4 mm×13.5 mm の境界明瞭な腫瘤を認めた. 細胞診標本では, 多稜形, 類円形細胞から構成された樹枝状構造を示す大型細胞集塊を多数認め, 一部の細胞に核内細胞質封入体が観察された. 摘出した腫瘍の大部分は充実性で, 辺縁部に粘液腫様間質を認めた. 中心部付近に形質細胞様細胞, 多稜形細胞の集簇がみられ, 核内封入体や大型核を有する bizarre cells を認めた. 一部には血管を中心とした硝子様間質成分と, その周囲で上皮様の筋上皮細胞が増殖する領域がみられた. 明らかな被膜外浸潤は認められず, PA と診断した.
    結論 : 唾液腺穿刺吸引細胞診では同一の腫瘍でもその採取部位によって細胞像が大きく異なる場合がある. 組織推定が困難な細胞像に遭遇した際は, PA を鑑別疾患の一つとしてあげ, 判定することが重要と考えられた.
短報
  • 中田 聡子, 津幡 裕美, 黒瀬 望, 湊 宏, 野島 孝之
    2013 年 52 巻 6 号 p. 602-603
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    Chordoma is a rare low-grade malignant neoplasm, commonly found in the sacrococcygeal region and clivus of adults. The tumor is extremely rare in children. A case of chordoma diagnosed by nasopharyngeal biopsy in a 5 year-old-boy is reported. During surgery for the clinical diagnosis of adenoid hyperplasia, specimens were submitted for frozen section diagnosis. Imprint cytology showed typical physaliphorous cells occurring in clusters. A postoperative MRI revealed a lobulated tumor measuring 6 cm in size extending from the clivus to the nasopharynx, visualized as a hyperintensity. Cytology is useful for the diagnosis of chordoma, especially in very rare cases like this one.
  • 岩本 望, 石田 光明, 吉田 桂子, 岩井 宗男, 岡部 英俊
    2013 年 52 巻 6 号 p. 604-605
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    We report a case of pilomatricoma diagnosed in a 3-year-old girl. Fine-needle aspiration smear of the cheek nodule revealed uniform tightly packed aggregates of basaloid cells with a high nuclear/cytoplasmic ratio and round nuclei containing nucleoli. Histopathological study of the resected tumor confirmed the diagnosis of pilomatricoma.
    Cytodiagnosis of pilomatricoma may be difficult because of the presence of basaloid cells, which can be misdiagnosed as carcinoma. However, the absence of nuclear pleomorphism and coarse chromatin, and the presence of tight aggregates of basaloid cells may allow ruling out of the presence of malignancy.
  • 居鶴 一彦, 夛田 耕一, 矢矧 みどり, 山川 光徳, 前田 邦彦
    2013 年 52 巻 6 号 p. 606-607
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/15
    ジャーナル フリー
    Manson’s sparganosis, which can affect any of various sites of the body, was recognized as a breast mass in a 66-year-old woman. The infection manifested as a breast mass measuring 13 mm in diameter detected by ultrasonography and mammography. Breast cancer was suspected initially and the microbe was detected by fine needle aspiration. Hematological and immunoserological examinations revealed no significant abnormalities. Since this disease is generally transmitted by the intake of unboiled water or raw meats, including of snakes, chickens, etc., the dietary history is useful for the diagnosis. In our patient reported here, the route of infection could not be ascertained, because she gave no history of drinking unboiled water or consuming raw meat.
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