日本臨床細胞学会雑誌
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55 巻, 2 号
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症例
  • 那須 篤子, 市村 浩一, 畠 榮, 柳井 広之, 藤田 勝, 濵田 香菜, 田中 健大, 吉野 正
    2016 年 55 巻 2 号 p. 89-93
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 前眼房水に浸潤した節外性 NK/T 細胞リンパ腫, 鼻型 (extranodal NK/T cell lymphoma, nasal type, 以下 ENKL) の 1 例を経験したので細胞所見を中心に報告する.
    症例 : 50 歳代, 男性. 発熱, 食思不振, 全身倦怠感を主訴として他院を受診. 肝生検にて, ENKL, Stage ⅣB と診断され, 当院を紹介受診. その後, 左前眼房の混濁があり, 前眼房水の細胞診が施行された. 検体量が少量なため Cyto Rich®を用いて液状化検体細胞診 (liquid based cytology, 以下 LBC 法) で標本を作製した. 標本には長く伸びた核を有し, 核の切れ込みなどの異型を示すリンパ球様細胞が多く認められた. また細胞質の一方が突起様に伸びた hand mirror 様の形態を呈した細胞も観察された. 肝生検, 骨髄 clot section の免疫組織化学的検索で CD3ε, CD56 が陽性, ISH で EBER が陽性であり, 前眼房水検体の免疫細胞化学的検索でも同様の結果であったため ENKL の浸潤と診断した.
    結論 : ENKL の細胞は細胞診形態で Hand mirror cell として出現することがある. ENKL の診断は, 免疫染色とあわせて総合的に判断することが必要であり, LBC 法はそのために有効であった.
  • 星 利良, 元井 紀子, 古田 則行, 小松 京子, 栁谷 典子, 杉山 裕子, 石川 雄一, 宝来 威
    2016 年 55 巻 2 号 p. 94-99
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 肺動脈肉腫はまれな疾患で, 術前に確定診断が得られにくく, その細胞学的特徴は明確にされていない.
    症例 : 50 歳代, 男性. 持続する咳嗽を主訴に当院受診. 画像上, 左下葉に結節があり, 原発性肺腫瘍の疑いにて左下葉切除術および縦隔リンパ節郭清が施行された. 摘出材料の捺印細胞診標本では, 小型単調な腫瘍細胞が上皮様結合を有する細胞集塊として認められた. 腫瘍細胞は多辺形が主体で, 厚みのある細胞質を有し, 核は類円形で, 一部に核偏在性が認められた. また, 細胞質内および核内空胞が目立った. 腺癌を疑ったものの, 核異型に乏しく反応性増殖細胞と考えた. 組織学的には紡錘形の腫瘍細胞が肺動脈内から周囲組織, リンパ節に浸潤増殖した肺動脈肉腫と診断された.
    結論 : 本症例での肺動脈肉腫の捺印細胞所見は, 比較的異型に乏しい上皮様異型細胞に細胞質内および核内空胞が見出されることが特徴的であると考えられた.
  • 長山 大輔, 内藤 嘉紀, 塚本 孝久, 伊藤 園江, 中山 正道, 木村 芳三, 西田 直代, 檜垣 浩一
    2016 年 55 巻 2 号 p. 100-106
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    背景 : Signet ring cell 様細胞の出現を伴う膵管内乳頭粘液性腫瘍 (intraductal papillary mucinous neoplasm : IPMN) の 1 例を経験し, その腫瘍捺印細胞診を用いて特徴的な細胞所見について検討したので報告する.
    症例 : 63 歳, 女性. 8 年前に分枝膵管型 IPMN が指摘され経過観察中であったが, 囊胞径の増大と主膵管の拡張を認めたため, 膵体尾部切除術を施行した. 腫瘍捺印細胞診では炎症および少量の粘液を背景に, 顕著な粘液含有を伴う signet ring cell 様細胞が疎結合性ないし孤立散在性に認められた. 病理組織所見においても, 絨毛状増殖成分の近傍に signet ring cell 様細胞がみられた. 病理診断は intraductal papillary mucinous carcinoma と判断し, MUC2 染色に陽性であることから intestinal type と診断した.
    結論 : Signet ring cell 様細胞の出現は IPMN の intestinal type と gastric type を想定した細胞診断を進める必要があり, MUC 染色を加えることで組織亜型にまで言及することが可能となる.
  • 安倍 秀幸, 河原 明彦, 杉田 保雄, 山口 知彦, 多比良 朋希, 高瀬 頼妃呼, 谷川 健, 鹿毛 政義
    2016 年 55 巻 2 号 p. 107-111
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 中間型松果体実質腫瘍の発生はまれで, 細胞学に関連した報告は少ない. 今回, われわれは中間型松果体実質腫瘍と診断された症例を経験したので, その細胞像と組織学的所見をあわせて報告する.
    症例 : 60 歳代, 女性. 頭痛を主訴に当院に精査加療を目的として入院した. MRI にて松果体部に 2 cm 大の腫瘍が認められ, 腫瘍摘出術が施行された. 圧挫細胞診標本において神経基質を背景に腫瘍細胞は結合性の緩やかな集塊で出現し, 異型性は乏しかった. 核クロマチンは, 神経内分泌腫瘍にみられるような粗顆粒状から顆粒状を呈していた. 免疫細胞化学において Ki67 標識率は 5%であった. 組織学的に腫瘍は充実性に増生し, 均一な類円形核を呈した腫瘍細胞が認められた. 明らかな壊死や核分裂像はみられなかったが, 細胞密度の増加が一部に認められた. 免疫組織化学では腫瘍細胞はシナプトフィジン陽性で, Ki67 標識率が 4%であった.
    結論 : 中間型松果体実質腫瘍の特徴的細胞所見は, 背景の神経基質と粗顆粒状の核クロマチンであった. その正確な診断には, 特徴的細胞所見を念頭に置くとともに Ki67 標識率を確認することが重要である.
  • —形態的特徴と鑑別診断を中心に—
    那須 篤子, 畠 榮, 藤田 勝, 山内 豊子, 中村 聡子, 田中 健大, 市村 浩一, 柳井 広之
    2016 年 55 巻 2 号 p. 112-116
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 耳下腺に発生した mammary analogue secretory carcinoma (以下 MASC) の 1 例を経験したので細胞像を中心に報告する.
    症例 : 60 歳代, 男性. 左耳前部の腫脹を主訴に他院を受診. 超音波検査にて左耳下腺内に約 3 cm の腫瘍を認め, 穿刺吸引細胞診を施行, 悪性判定となり, 手術目的で当院紹介受診となった. 穿刺吸引細胞診では, 乳頭状構造を示す細胞集塊やライトグリーン淡染性で豊富な細胞質を有する細胞が疎な結合性を呈し散見された. これらの細胞の核は偏在し, 一部の細胞では細胞質内小腺腔 (intracytoplasmic lumina, 以下 ICL) を認めた. ICL や腺腔内の貯留物質は, パパニコロウ染色では淡い桃色を呈し, Hema-color®染色では, 異染性を呈した. 細胞学的には, 腺房細胞癌や低悪性度篩状囊胞腺癌, 腺癌の鑑別が困難であった.
    結論 : 腺房細胞癌や低悪性度篩状囊胞腺癌, 腺癌の鑑別が困難であったが, MASC というまれな組織型と診断された. 腺房細胞癌様の細胞が認められた場合は, 鑑別診断の一つとして MASC を念頭に置くことが肝要であると考えられた.
  • 今村 彰吾, 小田澤 由貴, 小田 顕子, 宮久 禎, 西山 尚子, 田口 健一, 西山 憲一
    2016 年 55 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 洗浄胸水中に腫瘍細胞が出現し, 小細胞癌との鑑別に苦慮した胸腺原発非定型的カルチノイドの 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 60 歳代, 男性. 検診胸部 X 線で異常陰影を指摘され, 他院 CT 検査で縦隔腫瘍疑いとなり当院紹介受診となった. 開胸時胸水はなく肉眼的に明らかな播種はなかったが, 胸腔内播種確認のため洗浄胸水細胞診が提出された. 裸核様の細胞が重積性で結合の強い大小の立体集塊や, 平面的で結合の弱い集塊が認められた. 個々の細胞は小型で大小不同があり核形不整, 核クロマチンは粗顆粒状であった. 細胞診断は小細胞癌と他の神経内分泌腫瘍との鑑別に苦慮した. 病理組織学的には小型の異型細胞の増殖がみられた. 壊死像や, 10 高倍率視野で 3~5 個の核分裂像も認めた. 免疫組織化学的に上皮系, 神経系のマーカーが陽性となり最終病理診断は非定型的カルチノイドとされた.
    結論 : 洗浄胸水にみられる腫瘍細胞が小細胞癌との鑑別に苦慮する際には, 集塊の出現様式や核クロマチンパターンを詳細に観察することが重要である.
  • 重田 昌吾, 徳永 英樹, 辻 圭太, 岡本 聡, 新倉 仁, 伊藤 潔, 渡辺 みか, 八重樫 伸生
    2016 年 55 巻 2 号 p. 123-128
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    背景 : まれな卵巣腫瘍であるセルトリ・ライディッヒ細胞腫の多くは片側卵巣に限局する症例であり, 腹水細胞診陽性例の報告はわずかである. 腹水細胞診陽性であった進行セルトリ・ライディッヒ細胞腫の 1 例を経験したので細胞診所見を含め報告する.
    症例 : 症例は 58 歳, 女性. 下腹部痛および腹部膨満感を主訴に受診, 腹膜播種を伴う進行卵巣癌が疑われた. 両側付属器切除, 大網部分切除のみが行われた. 病理組織学的検索の結果, 異所性成分を伴うセルトリ・ライディッヒ細胞腫と診断された. 腹水細胞中にも異型の強いセルトリ細胞様腫瘍細胞および異所性成分由来の細胞が観察されたが, ライディッヒ細胞は明らかではなかった. 術後ブレオマイシン, エトポシド, シスプラチン併用療法およびパクリタキセル単剤で全身化学療法が行われたが, いずれも奏功せず, 初回治療から約 11 ヵ月で永眠された.
    結論 : 細胞診において異型セルトリ細胞と上皮性悪性腫瘍細胞の鑑別は時に困難である. セルトリ細胞の存在に加え, 異所性成分由来の細胞や retiform 様構造に着目して診断にあたることが重要である. また, 細胞診においても免疫染色の所見が有用と考えられた.
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