目的:2019 年 12 月に中華人民共和国にて初めて確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが本邦の細胞診業務に与えた影響を,公益社団法人日本臨床細胞学会(以下,日本臨床細胞学会)に提出された認定施設年報を基にして検討した.
方法:日本臨床細胞学会の認定施設年報としてすでに公開済みの全国調査報告書から,新型コロナ感染症が蔓延する前の 2019 年と蔓延後にあたる 2020 年について,所在地および施設の区分別に,細胞診検体数,関連学会および研修会への参加人数を比較検討した.
成績:検体数に関しては,施設区分別では検診機関において減少が目立ち,材料別では呼吸器,子宮頸部のがん検診検体数,乳腺と甲状腺の検体数が減少していた.関連学会および研修会への参加人数は総数で減少がみられたが,それには地域差があり,2020 年のほうが参加人数の多い地域もあった.
結論:新型コロナ感染症により検診受診者が減少している.また,生涯研修への参加が減少した地域もあった.今後の動向を注視する必要がある.
背景:放線菌症は主に嫌気性グラム陽性桿菌Actinomyces israelliによる慢性化膿性肉芽腫性感染症であり,子宮内避妊器具(intrauterine device:IUD)の長期留置と関連が示唆されている.今回画像上は子宮体癌が疑われたが細胞診で子宮放線菌症を診断し,菌叢解析で別の起因菌が示唆された 1 例を経験した.
症例:50 歳代,女性.下腹部痛で前医受診,MRI 検査で子宮内に直腸浸潤を伴う軟部影を認め,子宮体癌の直腸浸潤疑いで当院へ紹介された.細胞診(Papanicolaou 染色)で灰青色の菌塊の細胞像を認め,悪性所見は認めなかった.子宮放線菌症と診断し,6 ヵ月間の抗菌薬加療を行った.後方視的検証として子宮内腔洗浄液の菌叢解析を行い,Actinomyces mediterraneaが確認された.
結論:IUD 長期留置例で細胞診は,子宮放線菌症の診断に臨床的有用ではあるが,菌叢解析により新たにActinomyces mediterraneaが起因菌となる可能性が示唆された.放線菌症のさらなる病態解明につながることが期待される.
背景:多くの印環細胞が出現し,腺癌との鑑別が問題となった中皮腫の一例について報告する.細胞学的な検討では鑑別が問題となる細胞と比較し,加えて印環細胞の文献的考察と遺伝子変異について検討した.
症例:65 歳,男性.アスベスト曝露歴あり.PET-CT で胸膜中皮腫が疑われ,胸水穿刺吸引細胞診が施行された.多くの細胞は空胞状細胞質を示すことから腺癌との鑑別が問題となったが,核所見や微絨毛所見,メタクロマジーを示した細胞が混在することから中皮腫を推定した.同時に作製したセルブロックから免疫組織化学染色を施行し,中皮腫と診断した.
結論:腺癌細胞と中皮腫でみられた印環細胞に形態的な違いがみられた.検討と文献的考察よりメタクロマジーを示した印環細胞は中皮腫の特徴と考えられた.また,周囲の中皮腫細胞と遺伝子変異を比較した結果,印環細胞も同様の遺伝子変異を起こしていることが示された.
背景:糞尿は腸管―尿路間に瘻孔が形成された際に認められる所見の一つであり,結腸膀胱瘻では気尿と並んで頻度の高い所見である.今回われわれは,尿細胞診で便成分が検出された結腸膀胱瘻を 3 例経験したため,尿検査の有用性に関する文献的考察を加えて報告する.
症例:症例 1 は 60 歳代,男性.気尿などを主訴に受診し,尿細胞診で便成分と異型細胞を認めた.各種検査により S 状結腸癌に伴う S 状結腸膀胱廔と診断された.症例 2 は 60 歳代,男性.排尿時痛などを主訴に前医を受診した際,尿沈渣で便成分の混入を認め,当院を紹介受診.検査の結果,直腸癌に伴う直腸膀胱瘻と診断された.症例 3 は 50 歳代,男性.排尿時痛などを主訴に前医を受診し,S 状結腸膀胱瘻の疑いで当院を紹介受診.S 状結腸憩室炎に伴う結腸膀胱瘻と診断された.3 例とも外科的切除が施行された.
結論:尿検査で便成分が検出された場合,結腸膀胱瘻の可能性を考慮すべきである.尿検査は侵襲性がない上に,瘻孔診断の一助となる可能性があり,積極的に施行すべきと考える.尿細胞診で糞尿が疑われた場合は,異型細胞の有無を確認するため,より注意深い検鏡が必要である.
背景:甲状腺好酸性細胞型濾胞癌は比較的まれな癌である.今回われわれは,術前と 5 年前の穿刺吸引細胞像の経時的変化から,腫瘍発育過程を推定することができた好酸性細胞型濾胞癌の 1 例を経験したので報告する.
症例:30 歳代,男性.手術の 5 年前に前頸部腫瘤を訴え来院した.超音波検査で甲状腺両葉に腫瘤が認められた.穿刺吸引細胞診で右葉は良性,左葉は好酸性細胞型濾胞腺腫あるいは腺腫様甲状腺腫が疑われ,経過観察となった.その後,左葉の腫瘤が増大したため左葉切除術が行われ,好酸性細胞型濾胞癌と診断された.
結論:好酸性細胞型濾胞癌では病変の増大に伴い,核異型の高度化・多核化や濾胞構造の減少が生じると考えられた.