生後 10 カ月の男児。初診の 3 カ月前から BCG 接種部位に角化性紅斑が出現し,次第に両内眼角,右側頚部,背部,陰部に紅斑が拡大したため当科を受診した。初診時,両内眼角,頚部,背部,陰部,左上腕の BCG 接種部位に角化性紅斑がみられた。特徴的な臨床像と背部の厚みのある角化性紅斑の病理組織学的所見より尋常性乾癬と診断し,アンテベート®軟膏の外用を開始したが,皮疹は悪化した。搔破行動などのケブネル現象の抑制のためザイザル®シロップの内服を開始したが改善なく,ボンアルファ®軟膏の併用も効果に乏しかった。初診から 3 カ月経過し,1 歳になった頃より急激に皮疹は改善し,その後軽度の紅斑は持続しているが悪化はなく経過している。本症例は,BCG 接種を契機に発症した尋常性乾癬と考えられた。小児の乾癬は疫学的に女児に多く,家族歴を有し,HLA-Cw6 の発現率が高いことが知られているが,自験例ではいずれも当てはまらなかった。乳児乾癬の治療においては成人と異なり選択肢が乏しく,外的刺激の回避も困難な場合が多い。乳児乾癬の特徴と治療方針について過去の報告をまとめ検討した。
38 歳,女性。20 年前から 1 週間程度持続する発熱を伴う腹痛を繰り返し認めていた。初診の 2 週間前から下痢が出現し,その後,膝・足・手関節痛と下肢に有痛性の皮疹が出現した。両手関節伸側と両膝から下腿にかけて有痛性紅斑を認め,臨床像,組織学的所見をあわせ結節性紅斑と診断した。11 年前に父・弟妹とともに遺伝子検査で家族性地中海熱(familial Mediterranean fever;FMF)と診断されており,関節症状を伴った結節性紅斑は FMF の発作の一症状と考え,コルヒチン内服を開始したところ症状は改善した。蕁麻疹や紅斑等の皮膚症状の原因として自己炎症性疾患は鑑別に挙げるべき疾患の一つである。 FMF において予後に影響を与えるアミロイドーシスの発症はコルヒチン投与により予防することができるため,早期に診断し治療介入を行うことが有用であると考える。
我々は女性の会陰部に生じた乳頭状汗腺腫(hidradenoma papilliferum)を 2 例経験した。症例 1:40歳,女性。会陰部左側に径 6 mm の小結節を認め,外科的に全切除した。病理組織検査にて乳頭状汗腺腫と診断した。症例 2:38 歳,女性。会陰部左側に 1 cm の淡紅色の有茎性腫瘍を認め,症例 1 同様,外科的に全切除した。病理組織検査にて乳頭状汗腺腫にて診断した。乳頭状汗腺腫は女性の外陰部~肛門部に好発し,従来,アポクリン腺由来の良性腫瘍といわれていた。しかし,最近では mammary-like anogenital gland(MLG)と呼ばれる会陰部~肛門周囲にみられる乳腺様組織からの発生を示唆する報告がある。MLG の円柱状細胞は正常なエクリン腺やアポクリン腺では認められないエストロゲン受容体(estrogen receptor:ER),プロゲステロン受容体(progesterone receptor:PgR)を発現している。我々の経験した乳頭状汗腺腫の2 例はいずれも円柱状細胞に ER,PgR の発現を認め,MLG からの発生が示唆された。
76 歳,女性。5 年前より関節リウマチ,膜性腎症に対してメトトレキサート(methotrexate:MTX)8 mg/week,プレドニゾロン7.5 mg/day を内服していた。初診の 6 カ 月前に両下腿に浸潤を触れる紅斑が出現した。外用薬による治療には反応せず,左下腿の紅斑は腫瘤を形成し,右下腿は潰瘍を形成した。 左下腿は,病理組織学的に真皮全層性に島状に CD20 陽性の大型異型リンパ球が増殖しており,diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)の像を呈していた。また,Epstein-Barr virus(EBV)-encoded small RNA 陽性,EBV-latent membrane protein 1 陽性から,EBV の感染を確認した。右下腿は T 細胞がオリゴクローナルに増殖していた。MTX の休薬により,いずれの病変も消退し,化学療法は不要であった。病理組織像と臨床経過から MTX 関連リンパ増殖性疾患(MTX-associated lymphoproliferative disorder:MTX-LPD),DLBCL と診断し,その後の再発はなく寛解を維持できている。MTX-LPD は MTX の休薬により自然消退することが知られているが,化学療法を必要とする症例があり,MTX を投与中の症例では注意が必要である。
81 歳,女性。明らかな外傷の既往なく,約 1 年前に左臀部の皮下結節を自覚した。急激に増大したため近医を受診し,全切除術を施行された。病理組織学的所見では,真皮深層から脂肪織にかけて小型類円形の腫瘍細胞が索状に増殖し,腫瘍巣を形成していた。核は大型で多数の核分裂像を伴っていた。免疫組織化学的所見では,腫瘍細胞は抗サイトケラチン 20 抗体,抗 chromogranin A 抗体に陽性であり,Merkel 細胞癌と診断され,当院当科へ紹介された。PET-CT による全身検索では明らかな悪性腫瘍は認めず,左臀部の拡大切除を施行した。6 カ 月後,左鼠径部リンパ節に腫脹が出現し,リンパ節生検にて Merkel 細胞癌のリンパ節転移と診断し,左鼠径リンパ節郭清を施行した。切除標本中のリンパ節には明らかな転移は認めず,後療法は施行せずに経過観察中である。Merkel 細胞癌の好発部位は主に露光部(顔面・四肢)とされ,臀部に生じた例は稀と考えられる。
蜂窩織炎/丹毒の臨床経過および諸検査値の推移の予測を目的として統計的検討を行った。若年者では男性の割合が,高齢者では女性の割合が高かった。未治療期間の CRP 値はその期間が長い症例ほど高値になり,白血球数(WBC 数)と体温は逆に低値になる傾向があった。発症早期に治療を開始した症例では CRP 値はいったんピークを示して低下する傾向があり,WBC 数と体温は発症時期に関わらず治療開始後早期に低下する傾向を示した。CRP が 2 mg/dl 以下に低下するまでには治療開始から 8.8±6.0 日を要し,WBC 数と体温が正常化するまでには各々 4.9±5.9 日,5.7±5.5 日を要した。最高 CRP 値および WBC 数と,それらの低下までの期間には有意かつ強い正の相関があった。最高 CRP 値が高いと治療期間も延長し,プロカルシトニン値も CRP 値の低下までの期間に強く影響した。抗炎症剤の継続投与は最高体温を軽度低下させたがその他の検査値推移には影響しなかった。治療期間,病変面積および CRP,WBC 数,体温の最高値や,低下に要した日数が全体の分布から高値に逸脱した症例(逸脱例)は,それら以外の症例(通常例)よりも高齢でプロカルシトニン値が高い傾向があり,敗血症に至った症例が多かった。一方,検査値が正常範囲内で推移した症例(正常値例)は通常例と比較して有意差のある臨床的項目はなかったが,全体の 1/4 を占めていた。
本講座の前編(Vol. 80-2)では,非症候性の遺伝性毛髪疾患について解説した。後編では,症候性の群に焦点を絞って紹介する。症候性の場合,さまざまな多臓器症状の 1 症状として毛髪異常が認められる。驚くべきことに,少なくとも 200 種類以上の症候群で何らかの毛髪症状を呈しうることが知られている1)。
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン 2016 年版(ガイドライン)に強調されているように,アトピー性皮膚炎患者の治療において,アドヒアランスの向上は重要な要因の一つである。ローション製剤の優れた使用感に注目し,軟膏製剤からローション製剤への切り替えが治療のアドヒアランス向上に寄与すると考えた。今回我々は,躯幹四肢に対する外用薬を,ベリーストロングクラスのステロイド外用薬の軟膏製剤から同クラスのベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルローション製剤に切り替えた症例において,8 週間経過観察し,その有効性と安全性,薬剤の使用感とアドヒアランスを検討した。皮膚重症度 Severity Scoring of Atopic Dermatitis (SCORAD) index,Thymus and Activation-Regulated Chemokine(TARC),かゆみの Visual Analogue Scale(VAS),睡眠不足の指数,Dermatology Life Quality Index(DLQI)はローション製剤への切り替えにより有意に改善した。また,患者へのアンケート結果から,ローション製剤の使用感に対する高い評価が確認でき,ローション製剤はアドヒアランスの向上に寄与していることが推察された。本研究結果から,ローション製剤への切り替えは,アトピー性皮膚炎の躯幹四肢の治療において,有用な選択肢となり得ると考えた。
Dr. Gilliet is Professor of Dermatology and Chairman of the Department of Dermatology at the Lausanne University in Switzerland. Over the past 15 years Dr. Gilliet's laboratory has focused on translational research studying inflammatory skin diseases. In particular, Dr. Gilliet's lab has discovered mechanisms how dendritic cells initiate and drive inflammation in skin diseases including psoriasis and lupus based the complex formation of self-DNA with antimicrobial peptides. These studies provided a paradigm shift in the understanding on how sterile inflammation is regulated at the site of disease.