労働安全衛生法が施行されて 50 年が経過した . 近年化学物質による休業 4 日以上の労働災害は年間 500 件超で推移しており , がんなど重篤な災害も起きている . また職業性疾病の多くは従来の特別規則対 象外の物質に起因しており , 新たな対策が検討されてきた . そこで厚生労働省は特別規則等で定められた 措置を実行していれば良しとされる「法令順守型」から , 事業者自らがリスクを評価して対策を講じる 「自律的な管理」へと舵を切った .2024 年 4 月から全ての改正法令が施行され , これへの対応は事業者の みならず労働者 , 関係機関等において急務である . ここではこの「自律的な管理」について , その背景 , 現状 , 今後について概説する .
適切な安全管理の実現のために , 現実環境における人間のパフォーマンスを適切に把握することは重要 である . 本稿ではパフォーマンスの把握のためのアプローチ方法として認知タスク分析に着目し , 解説す る . また , 認知タスク分析を医療に適用した事例についても簡単に紹介する .
「危険物取扱者」とは, 消防法 1) の規定により, 一定数量以上の「危険物」を貯蔵し, 又は取扱う化学 工場 ,ガソリンスタンド, 石油貯蔵タンクなどの危険物施設において,その危険物を取り扱うことができ る者をいうが, 当該取扱者になるためには, 危険物取扱者試験を受けて合格し, 危険物取扱者免状を取得 等しなければならない. この試験については, 現在 , 唯一の指定試験機関である( 一財 ) 消防試験研究センター( 以下 ,「当セ ンター」という.) が, 全国で統一的にこれを実施しているところである. 当センターは今年 , 創立 40 周年を迎えることとなった.これまで, 危険物取扱者試験等の実施に加え, これらの資格に関する免状の作成事務や資格者の資質向上に資するための事業などを展開してきたところ である. この機会に, 当センターが行っている業務のうち危険物取扱者試験の概要とその試験をとりまく昨今の 状況について説明をすることとしたい.
平成時代に起きた重大事故を検証し , リスクアセスメント (RA) の 3 つの課題と提言をまとめた . 課題は ,① 配管更新などで従来と同等 (RIK) と判断しても事故に至ったことへの対策 ,② 非常に稀な確 率でしか起きないと想定される致命的事故への備え ,③ 重大事故防止に重点を置いたリスクベースの安全 マネジメントである . 提言は ,① RA を実施し対策を講じたとしても , 事故が起こりえることへの備えが必要である .② RA 評価体制を , これまでのステップ 1 「人で防ぐ」 , ステップ 2 「仕組みで防ぐ」に , ステップ 3 として「点 検・評価」を加える . すなわち , 安全を確保するための最後の砦として , 「点検・評価」を組み込む .③ 化学プラントの安全を担保するには ,RA における「 PDCA(Plan,Do,Check,Action) 」 の CA(RA 実 施後の「点検・評価」 ) を強化する必要がある .
リアルタイムモニタに測定ジグを組み合わせることにより化学防護手袋 ( 以降 , 手袋と呼ぶ ) の簡易透 過測定が可能であることが示されている 1) . そこで , この簡易透過測定と従来から手袋の評価方法である JIS T8030 との実験条件と結果の比較 , および考察を行い , より適切に手袋を選定できる評価方法につい て検討を行った . 手袋と溶剤の組合せは , 手袋メーカが標準破過点検出時間 , 耐透過性クラスを公開して いる一般的に多く用いられているものを用いた . 手袋メーカ公開の耐透過性クラスと簡易測定の透過開始 時間からの耐透過性クラスを比較すると透過が早い溶剤は一致したが , 透過が遅くなると簡易測定での耐 透過性クラスは低くなった . 皮膚感作性 , 発がん性 , 毒性が高い物質は , リアルタイムモニタによる簡易 測定の透過開始時間を使用可能時間とすると , より安全に手袋を使用できると考えられた .
先行研究は労働災害防止対策を対象とした費用便益分析(CBA)が有用であることを示しているが,CBAは日本企業では普及していない.そこで本研究はCBAの実施を促進するための戦略策定を目的として日本の製造業127社を対象にアンケート調査を実施した.調査の結果,CBAが十分に理解されていないこと,分析を実施するための時間や人的資源が不足していることがCBA実施の阻害要因として見出された.CBAの実施を促進するには企業に対して経済分析の基本的な考え方を説明しCBAに対する意識の向上を図る必要がある.CBAの実施を支援するツールや,安全が生産性や利益に与えるプラスの効果を定量化する手法の開発も企業によるCBA実施を促進すると期待される.さらに企業規模や業種特性に応じて分析手法をカスタマイズすることも有効と考えられる.
多種多様な構成要素からなる複雑システムは , 相互に接続され多様なサービスを提供している . そこで 起こる想定外の創発的事故の多くは , 機械故障といったものだけでなく , 人や組織の過誤的行動やソフト ウェアのバグを含んだ複数要因で引き起こされる . このような複雑システムの事故原因分析と再発防止策 を考える方法論として , システム理論に基づく事故モデル STAMP とそれに基づく分析法 CAST が提案さ れた . 本稿では ,CAST 分析時に得られた知見に基づき CAST の課題とその解決案を示し ,CAST を再構 築して , 解決策を CAST と同等な分析法にまとめる . 次に , 再構築した CAST による実際の事故分析を 通して CAST の有用性を検討し , システムの機能と安全の構造を抽象的・階層的に可視化し , 体系的な 事故の再発防止策の検討に CAST が役立つことを示す .
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律第四十一条には「有害性情報の報告等」とのサブタイト ルが付されている . この条項は 2000 ~ 2020 年代の幾度かの改正で改めて付与された . ご多聞に漏れず改 正の原動力となった Event が存在した . 民間企業である A 社が 30 有余年の歳月に亘って自社の主力事業で将来の期待の星であった「構造単位 に E を含む化学物質 E 関連物質」について , 一般市民の血液中から検出されることを明らかにし , 将来 予測される Risk の問題を米国 EPA に提起した . 日本の E 社は ,A 社の動きに同調し ,A 社と共同し EPA へ共同提起するに至った . その後 , 化学物質 E 関連物質の問題は , 米国での SNUR の発動 , 国際的に OECD の化学物質規制 ,POPs 条約の適用へと 展開し , 未だ現在 , 顕在化した個別な個々の問題の解決がすすめられている . この Event に E 社として関与した筆者が , 法の条項成立のその前夜について論考を加えた .