日本臨床細胞学会雑誌
Online ISSN : 1882-7233
Print ISSN : 0387-1193
ISSN-L : 0387-1193
50 巻, 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • 竹原 和宏, 中村 紘子, 川上 洋介, 西脇 森衛, 戸田 環, 西村 俊直, 藤本 貴美子, 倉岡 和矢, 谷山 清己
    2011 年 50 巻 3 号 p. 147-151
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    目的 : 子宮頸部細胞診中に異常所見のあった症例の HPV Typing を行い, 特に HPV 16, 18, 52, 58 型について検討した.
    方法 : Thin Prep 法を用いた子宮頸部細胞診を 4522 例に行い, 異常所見が認められた症例についてマルチプレックス PCR 法 (PapiPlexTM) で HPV Typing を行った.
    成績 : 4522 例中 ASC-US (atypical squamous cells of undetermined significance) 以上が認められた症例は 541 例であった. HPV は 346 例で検出され, HPV 陽性例の平均年齢は 38.3 歳, LSIL (low-grade squamous intraepithelial lesion) の 63.6%, HSIL (high-grade squamous intraepithelial lesion) の 83.1%が陽性であった. HPV 52, 16, 58 型の順に高頻度に検出され, 陽性率は 16 型 17.4%, 18 型 4.6%, 52 型 18.7%, 58 型 13.7%であった. HPV 16 型は 20∼40 歳代に検出のピークを認め, 50 歳代以降は減少傾向にあったが, HPV 52, 58 型では 20 歳代からの立ち上がりは緩やかでも 50 歳代以降も HSIL 以上の病変ともにある程度の割合で持続的に認められる傾向にあった.
    結論 : わが国では子宮頸癌細胞診に HPV DNA 検査を併用する場合, HPV 16, 18 型にくわえ HPV 52, 58 型にも注意を払う必要がある.
  • 松井 成明, 梶原 博, 涌井 架奈子, 伊藤 仁, 森下 明博, 北村 隆司, 村上 優, 佐藤 慎吉, 安田 政実, 中村 直哉
    2011 年 50 巻 3 号 p. 152-157
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    目的 : 子宮頸部腺系病変の細胞診による診断精度は必ずしも高いとはいえない. 特に早期の病変を指摘することは容易でない. われわれは, 子宮頸部腺系病変に対して epithelial specific antigen (以下, ESA) を酵素抗体法により実施し, その有用性を検証した.
    方法 : 細胞診および組織診が同時期に実施された頸部腺癌, 20 例 ; 上皮内腺癌, 10 例 ; 上皮内癌, 11 例 ; 浸潤性扁平上皮癌, 20 例の計 61 例を対象とした. HE 染色標本および Papanicolaou 染色脱色標本を用いて ESA を酵素抗体間接法にて染色した. 判定に際しては, 各症例の ESA 陽性細胞を半定量的に評価した.
    成績 : 組織学的にみた正常細胞の ESA 発現は, 扁平上皮細胞では陰性または基底細胞の一部に, 頸管円柱上皮細胞は陰性または basolateral membrane への発現を示していた. 一方, 細胞学的には, 正常扁平上皮細胞, 扁平上皮化生細胞, 頸管円柱上皮細胞のそれぞれが陰性または細胞質へわずかな発現を示していた. 組織型別発現率については, 組織, 細胞標本のいずれも子宮頸部腺癌 (endocervical adenocarcinoma, EA), 上皮内腺癌 (adenocarcinoma in situ, AIS) で発現の増加をみた. また, 扁平上皮系病変では上皮内癌 (carcinoma in situ, CIS), 扁平上皮癌 (invasive squamous cell carcinoma, SCC) のいずれも低値を示していた.
    結論 : 子宮頸部細胞診における ESA の応用は, 腺系細胞に限局した発現を示す. したがって浸潤性腺癌はもとより早期頸部上皮内病変である CIS と AIS の鑑別に有用な情報を与えることが示唆された.
  • 高野 浩邦, 河西 十九三, 早田 篤子, 立花 美津子, 石塚 康夫, 茂木 真, 小竹 譲, 生水 真紀夫, 佐々木 寛, 田中 忠夫
    2011 年 50 巻 3 号 p. 158-162
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    目的 : 子宮頸がん検診にベセスダシステム 2001 を導入し, 不適正検体の頻度の実際とその推移について検討を行った.
    方法 : 2009 年 4 月から千葉県柏市の子宮頸がん検診にベセスダシステム 2001 を導入した. 2009 年 4 月∼2010 年 1 月までの 10 ヵ月間に個別検診で採取された検体 11090 例, および 2009 年 11 月∼2010 年 1 月までの 3 ヵ月間に数人の医師によって行われた車検診による集団検診で採取された 4424 例の検体について不適正率を調査した. その結果をベセスダシステム 2001 が導入される以前の 2008 年 1 年間の個別検診のデータと比較検討した. すべての検体はちば県民保健予防財団にて診断し, 個別検診については 1 ヵ月ごとに不適正率を各施設に報告した.
    成績 : ベセスダシステム 2001 導入以前の個別検診における不適正率は 0.11%であったのに対して, 導入後の個別検診における不適正率は 10 ヵ月間で 1.36%であり, 月別には 6.25%から 0.40%へ時間の経過とともに低下した. また車検診による集団検診では不適正率は 0.07%であった.
    結論 : 不適正検体の報告を各施設に頻回に行うこと, また, 少人数の医師が集中して細胞診の検体採取を行うことが, 不適正率の低下に寄与することが示唆された.
  • 林 諭史, 横山 恵, 石川 文秋, 山崎 知文, 立野 正敏, 小林 博也
    2011 年 50 巻 3 号 p. 163-168
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    目的 : まれな乳腺髄様癌 (medullary carcinoma : MC) の臨床病理細胞学的特徴について明らかにする.
    方法 : 当院で経験した typical MC 6 例の臨床像, 組織像, 細胞像を検討した. typical MC の診断は Ridolfi らの診断基準に従った. 非定型的髄様癌は除外した.
    成績 : typical MC の乳房温存率は 83.3%であった. 局所再発例, 遠隔転移例は認めなかった. 細胞診上は, 大型で異型の強い細胞が, リンパ形質細胞を背景に重積集塊を形成しており, 組織型の推定は容易であった. 免疫組織化学的検索により, 腫瘍内外に浸潤しているリンパ球の大部分は活性化した CD4 陽性 T 細胞と CD8 陽性 T 細胞であった.
    結論 : typical MC は予後良好であり, 治療方針を決定する際, 細胞診で組織型を推定することは有意義であると考えられた.
  • 矢野 哲也, 井下 尚子, 大橋 健一
    2011 年 50 巻 3 号 p. 169-175
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    目的 : 下垂体腫瘍に対し捺印細胞診を行い, 腺腫細胞の特徴を明らかにし, 術中迅速診断に有用であるか検討を行った.
    方法 : 下垂体腺腫摘出 94 例から術中迅速組織診検体を用いて捺印標本を作製し, その組織像と比較検討した.
    成績 : 下垂体腺腫 86 例 (91.5%) で下垂体腺腫の確認が可能であった. また, 組織亜型分類では, fibrous body や分泌顆粒などの特徴的な細胞内構造物に加え, 細胞形状, 細胞結合性, 核の位置などの細胞所見を総合的に捉えることによって, 3 群 (GH-PRL-TSH 群, ACTH 群, FSH-LH/ナルセル群) に分類可能であった.
    結論 : 下垂体腺腫の捺印細胞診は, 腺腫細胞の特徴を十分に捉えることが可能であり, 迅速診断のみならず組織診断を補完する有用な手法と考えられた.
症例
  • 森村 豊, 有我 こずえ, 佐藤 陽子, 原田 仁稔, 渡辺 尚文, 西山 浩, 添田 周, 藤森 敬也
    2011 年 50 巻 3 号 p. 176-180
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    背景 : 子宮内膜上皮内癌 (Endometrial intraepithelial carcinoma, EIC) は, 漿液性腺癌の上皮内型である. 子宮内膜の肥厚や筋層浸潤を伴わず, 画像診断が困難で, 細胞診断が重要である. 術前細胞診では腺癌と診断したが EIC の確定にいたらず, 摘出病変で内膜に広範に進展するが, 間質浸潤を伴わない EIC 病変を呈した漿液性腺癌の 1 例を報告する.
    症例 : 58 歳, 女性. 閉経後性器出血で受診した. 超音波, MRI では内膜は肥厚していなかったが, 内膜細胞診, 組織診で子宮体癌と診断された. 内膜細胞診では, 小型, 乳頭状の小集塊がわずかにみられ, その核は大小不同や不整形が目立った. 背景に壊死や, 正常や増殖症を示唆する内膜を欠いていた. 子宮全摘と骨盤リンパ節郭清が行われ, 子宮内膜に広汎な漿液性腺癌がみられたが間質筋層浸潤はみられず EIC と診断された. 卵管進展を伴っており T3aN0M0 の診断で paclitaxel と carboplatin の化学療法を 6 コース行い, 診断より 16 ヵ月後無病生存中である.
    結論 : EIC 様病変を見逃さないためには, 性器出血がある場合, 子宮内膜の肥厚がみられなくても積極的に内膜細胞診を行うことが重要である. また, EIC の特徴的な所見を把握して診断する必要がある.
  • 山本 阿紀子, 小松 京子, 百村 麻衣, 平野 和彦, 寺戸 雄一, 藤原 正親, 坂本 穆彦
    2011 年 50 巻 3 号 p. 181-185
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    背景 : 子宮頸部細胞診において卵巣癌由来の細胞も出現することは知られている. 子宮頸がん検診にて異常を指摘されるも子宮に悪性所見を認めず, 画像上も有意な所見がなかったために, 診断に苦慮した卵巣癌の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 55 歳の 2 経産婦. 近医で施行された子宮頸部細胞診にて異常を指摘され来院した. 子宮腟・頸部および内膜細胞診にて, 比較的きれいな背景に, 集塊を形成する腺癌細胞が多数みられた. また石灰化小体が散見された. 細胞診所見からは, 漿液性腺癌が推定された. しかし, 画像検査にて両側卵巣・卵管や, 腸管, 乳房に腫瘍性病変を認めなかった. 腹腔内病変の存在が否定できないため, 試験開腹術が施行された. 開腹時, 肉眼的に両側卵巣は正常大であったが, 腹腔内に播種病変を認めた. 摘出検体標本による病理診断で卵巣原発乳頭状漿液性腺癌 (正常大卵巣癌症候群) と診断された.
    結論 : 本例は正常大卵巣癌症候群を呈した卵巣癌で, 比較的まれな症例である. 子宮頸部細胞診にて腺癌を認めるものの, 子宮内病変を認めず, 画像上卵巣腫大など腹腔内腫瘍性病変も認めない場合, 正常大卵巣癌症候群の可能性を考慮する必要がある.
  • 安倍 秀幸, 河原 明彦, 杉田 保雄, 山口 知彦, 真田 咲子, 矢野 博久, 鹿毛 政義
    2011 年 50 巻 3 号 p. 186-190
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    背景 : 脳室上衣下巨細胞性星細胞腫 (subependymal giant cell astrocytoma : SEGA) は, 良性の脳室内腫瘍であり, 結節性硬化症患者に発生することが知られている. 今回われわれは, 結節性硬化症患者に随伴してみられた SEGA を経験したので圧挫細胞診所見を中心に報告する.
    症例 : 10 歳代, 男性. 生後 1 歳未満に近医で結節性硬化症と診断され経過観察をしていた. 約 9 年後に水頭症と左側脳室腫瘍を指摘され, 脳腫瘍摘出術が施行された. 圧挫細胞診標本において腫瘍細胞は, 細長い毛様状の細胞質を有する紡錘形細胞と境界明瞭で大型円形の核偏在性を示す肥絆細胞様細胞がみられた. 組織標本では, 腫瘍は肥絆細胞様細胞と毛様状の細胞質を有した細胞の増殖からなっていた. 免疫組織化学にて一部の肥絆細胞様細胞に (glial fibrillary acidic protein : GFAP) および neurofilament の発現を認めた. また, MIB-1 index は 1%未満であり SEGA と診断した.
    結論 : SEGA は特徴的な臨床病理学的所見を呈する. そのため, 細胞診においても臨床情報を踏まえ肥絆細胞様細胞および紡錘形を呈する strap cell を確認することにより推定可能である.
  • 槙尾 幸絵, 寺邑 弘, 長嶋 洋治, 池田 仁
    2011 年 50 巻 3 号 p. 191-196
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/30
    ジャーナル フリー
    背景 : 尿細胞診で腎悪性腫瘍を疑うも, 画像上同定できず原発不明癌のまま全身転移をきたし, 剖検により診断しえた腎集合管癌の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 74 歳, 男性. 深部静脈血栓症で加療中, 坐骨神経痛を主訴に整形外科を受診. MRI で多発骨転移, 尿細胞診で悪性が疑われ精査するも画像上原発巣の特定にはいたらなかった. その後全身状態が悪化し, 左胸水の細胞診でも悪性細胞を認めたが, 生前には原発巣の特定ができず, 剖検により非腫瘤形成性の腎集合管癌と診断された. 尿細胞診では小型で N/C 比がきわめて高い異型細胞が孤立性に出現しており, 核小体の腫大やクロマチンの増量を伴うことから悪性を強く疑った. 全身状態悪化後の左胸水にも裸核状の異型細胞を孤立性および小集塊で認め, 核偏在性で胞体に PAS 強陽性の粘液をみることから, 分化の低い腺癌由来を推定したが, 細胞像のみからの原発巣推定は困難であった.
    結論 : 非腫瘤形成性の腎集合管癌はまれと考えられるが, 尿細胞診で尿路上皮癌と異なる悪性所見を認めた場合は鑑別診断として念頭におく必要がある.
feedback
Top