Cefteram pivoxil(CFTM-PI)細粒の高用量投与における有効性について検討するため,小児由来臨床分離株に対する抗菌活性及び高用量投与時のヒト血中濃度を再現したin vitro pharmacokinetic model(IVPM)における殺菌効果を類薬とともに検討した。加えて小児の腸内細菌叢の優勢菌種である嫌気性菌に対する抗菌活性を検討した。
2012~2015年に分離された小児由来臨床分離株の,セフェム系抗菌薬及びペニシリン系抗菌薬に対する感受性を測定したところ,Streptococcus pneumoniae 50株に対するMIC90は,cefditoren(CDTR)が0.5 μg/mL, CFTM及びcefcapene(CFPN)が1 μg/mL, clavulanic acid/amoxicillin(CVA/AMPC, 1 : 14)が2 μg/mL, cefdinir(CFDN)が8 μg/mLであった。Haemophilus influenzae 49株に対するMIC90は,CDTRが0.5 μg/mL, CFTMが1 μg/mL, CFPNが2 μg/mL, CFDNが8 μg/mL, CVA/AMPCが16 μg/mLであった。Streptococcus pyogenes 32株に対するMIC90 は,CFTM及びCDTRが0.0078 μg/mL, CFPN, CFDN及びCVA/AMPCが0.0156 μg/mLであった。いずれの菌種も過去の国内感受性報告と比較して概ね経年的変化は認められなかった。
小児由来臨床分離S. pneumoniae 4株に対するCFTM及びCDTRの殺菌効果を,培地中にヒト血清アルブミンを添加し,6 mg/kg, 1日3回経口投与時のヒト血中濃度を再現したIVPMを用いて検討した。CFTM及びCDTRいずれの投与モデルでも培養開始6時間後までに生菌数は3 Log10以上減少し,同等の殺菌効果が認められた。
小児腸内細菌叢の優勢菌である嫌気性菌Bacteroides及びBifidobacteriumに対するCFTMのMIC rangeは1~256 μg/mLと概ね高く,下痢の発現頻度が低い要因の一つであると推測された。
以上,CFTM-PI高用量投与は,小児呼吸器感染症に対する有用性が期待された。
2015年から2016年に分離された口腔連鎖球菌60株に対するgarenoxacin及び各種経口抗菌薬の抗菌活性を測定した。Streptococcus anginosus group(SAG)30株に対する各種抗菌薬のMIC90 は,garenoxacin(GRNX)が0.12 μg/mLと最も低く,次いで,moxifloxacin(MFLX),clavulanic acid/amoxicillin(CVA/AMPC)及びsultamicillin(SBTPC)が0.25 μg/mL, levofloxacin(LVFX)が1 μg/mL, azithromycin(AZM)が>16 μg/mLであった。SAG以外の口腔連鎖球菌30株に対する各種抗菌薬のMIC90は,GRNXが0.12 μg/mLと最も低く,次いで,MFLXが0.25 μg/mL, CVA/AMPC及びSBTPCが1 μg/mL, LVFXが2 μg/mL, AZMが>16 μg/mLであった。
キノロン系抗菌薬のGRNX, LVFX及びMFLXにつき,モンテカルロシミュレーションを用いてMIC値に対する常用投与量におけるfree area under the curve(fAUC,f:非蛋白結合率)の比がターゲット値を達成する確率を算出したところ,有効性のターゲット値であるfAUC/MIC=30を達成する確率は,GRNXで97.0%, MFLXで95.9%, LVFXで66.9%であり,GRNXが最も高かった。
2013年に分離されたSAG 14株に対する各種キノロン系抗菌薬のMIC及びmutant prevention concentration(MPC)を測定したところ,GRNXのMIC90 及びMPC90 は,それぞれ0.125 μg/mL及び0.25 μg/mLであり,LVFX及びMFLXより低い値を示した。MIC90とMPC90の間の濃度域であるmutant selection window(MSW)を比較すると,GRNXが最も狭かった。また,LVFX及びMFLXのMPC/MIC比は1~4に分布していたのに対し,GRNXでは1~2であった。
以上,モンテカルロシミュレーションを用いた有効性評価において高いターゲット値の達成確率を示したこと,低いMPC値及び狭いMSWを示したことから,GRNXは有効性及び耐性菌出現抑制の点から,口腔連鎖球菌を原因菌とする感染症に対して有用な薬剤であることが示唆された。
【目的】抗methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)薬であるダプトマイシン(DAP)の個々の使用症例において,DAPの長期投与により原因菌が耐性化したという報告がある。しかし,主に各医療施設や地域における抗菌薬使用量の指標であるantimicrobial use density(AUD),抗菌薬の投与日数を評価する指標であるdays of therapy(DOT)および1日用量を評価するAUD/DOT比と,DAPの薬剤感受性を調査した報告は十分になされていない。そのため,当院におけるDAPの使用量と薬剤感受性の推移の関係を調査した。
【方法】平成26年9月から平成28年1月までに当院へ入院した患者を対象にして,DAPの使用動向をAUD, DOTおよびAUD/DOTを用いて評価した。また,DAPに対するグラム陽性菌の薬剤感受性について1ヶ月ごとに集計した。そして,使用薬剤など患者情報を収集して,DAP耐性菌の検出を認めた群の特徴を調査した。なお,グラム陽性菌に対するDAPのminimum inhibitory concentration(MIC)を測定した。
【結果】調査期間中にMICを測定したグラム陽性菌は136株であった(Enterococcus sp.; 16株,Staphylococcus sp.; 120株)。DAPに耐性の菌が検出された患者は12名(8.8%)で,DAPに感受性のある菌が検出された患者は124名(91.2%)であった。DAPのAUD, DOTおよびAUD/DOTとDAPに対するグラム陽性菌の感受性との相関を評価した結果,AUD, DOTおよびAUD/DOTとグラム陽性菌の耐性率との相関係数はそれぞれr=0.37, r=0.23およびr=0.44であり,DAPの使用量と薬剤耐性率に相関性は認められなかった。また,DAP投与前にバンコマイシン(VCM)を使用した患者の割合は,耐性菌が検出された患者で,DAPに感受性のある菌が検出された患者よりも有意に高い割合を占めていた(50.0%(6/12)versus 16.9%(21/124),p=0.01)。
【考察】DAPの耐性率は,薬剤の開発当時よりも上昇していたことから,他の抗菌薬と同様に,DAPの全体の使用量はその耐性率に関与することは推測される。しかし,今回の調査結果では,当院の抗菌薬の使用量・使用日数のデータは,患者から検出されたグラム陽性菌のDAPの耐性率と強い相関が認められなかった一方で,VCMの前投与の有無がDAP耐性菌の検出に関与することが示唆された。そのため,抗菌薬の投与歴など個々の患者背景などの抗菌薬使用量以外の交絡因子も考慮する必要があると考えられた。
世界で薬剤耐性に対して抗菌薬適正使用(AS)が推進されている。
今回,病院・職種連携AS(IIPAS)を開始し,アウトカムとして,Pseudomonas aeruginosaの感受性,抗菌薬使用密度(AUD)と血液培養密度を用いた。
対象は地域4施設における2012~2016年の延べ入院数2,150,827名とした。方法は各病院で多職種チームがIIPASを行い,4病院が統一方式でP. aeruginosaに対する90 percentile最小発育阻止濃度(MIC90, 22剤)とAUDを求め,血液培養密度=(総セット数/延べ入院数)×1000とした。
その結果,P. aeruginosaのMIC90は,4病院平均44.3%の抗菌薬が経年低下した。MIC90 >64 μg/mlとAUD >10(88 percentileの整数)の抗菌薬数は各々,A病院で1剤と1剤,B病院で5剤と2剤,C病院で3剤と1剤,D病院で14剤と4剤であった。血液培養密度は4病院とも上昇した。
考察として,AUD高値の抗菌薬が多かった病院ではMIC90が高いが,P. aeruginosaは感性を戻した。これと血液培養密度が増加したことは関連する可能性がある。
我が国で発見された抗生物質の中で最も早く世界で繁用されたカナマイシン(Kanamycin;KM)は,1957年に国立予防衛生研究所(予研)抗生物質部長の梅澤濱夫博士の研究グループによりThe Journal of Antibiotics(JA誌)に報告された。今年は,KM発見の最初の報告がJA誌に掲載されてから60周年を迎えた記念の年であるので,本資料では「カナマイシンとJA誌」と題して梅澤博士のJA誌に対する貢献を紹介する。